下高井戸駅ちかくにあるおれたちのさか本そば。広すぎる店内、多すぎるメニュー
さか本そばのなぞ、おさらい
・メニューが多すぎる
壁一面にかかげられたメニューにはうどんそばを中心に丼や定食、鍋や中華料理まである。さか本そば、さか本鍋、さか本丼などのオリジナルメニューもある。
・店が広すぎる
「広いので休憩にお使いください」と入り口に書いてあるほど広い。何もなくても入っていいのである。座敷もあるしこたつやテレビも3つずつくらいある。
・店の人なのかそれとも常連なのか?
寡黙な店のご主人とは別に、巨人帽をかぶったおっちゃんが働いている。よく私服で働いてるのであの人は常連ではないかと思っている。若い大男がこの巨人帽のおっちゃんの肩を揉んでるのを見た。謎が深まる。
・おばちゃんが奥の部屋から何人も出てくる
奥には小部屋まであって、何か会合が行われていたりする。おばあさんが寝ているという噂もある。
世の中のありとあらゆる乗り物が集合した店内
ふりかけが置いてあったり
味とかじゃない、その存在が良い
これらのなぞ以上にさか本そばの魅力は訪れてみて初めてわかるものである。
で、味は?と思う方もいるだろう。しかしウマいかマズいかだけで店を評価するのはさびしいことだ。さか本は味とかじゃなくてただ「ある」ことが重要なのだ。
たとえばラーメン二郎ファンは毎日訪れないといけないかもしれない。だがさか本ファンはたまに行って「お、あるな」「さか本に来てるな」と思うことが重要なのだ。
「ある」というより「あられます」「おわします」と言ったほうがいいかもしれない。
サラダ定食はポテトサラダとごはん。ふりかけが大活躍だ
さか本丼のインパクト
そんなさか本ではやはりここでしか食べられないメニューを食べるとお参り感がたかまる。
なかでも
さか本丼はとくにインパクトが強い。
カツと海老天と開花丼の豚肉が一緒に玉子とじされたアイデアメニューだ。
肉も海老も天ぷらもフライも煮付けも玉子とじも…もうここにはなんでもある。秦の始皇帝が来たらたぶんさか本丼を頼むだろう。
ところでさか本丼を検索してると今っぽいバイラルメディア※が出てきた。まさかそんな、他のブログの写真を転載までして広めるような丼だったとは…
参考
複数の丼物が合体!「坂本丼」がちょっと豪華でおいしそう!――Spotlight
※すでにインターネット上にあるものを引用して広めるWebメディア
これが下高井戸のさか本丼900円。カツ丼、エビ天、開花丼(他店では親子丼)がたまごとじで一緒になっている。色々な味で飽きなくていいなと思われるかもしれないが、最終的には何くってるのかわからなくなる。それがたまらなく好きだ。
テレビに出てきたさか本丼
このように妙に愛らしいさか本そばであるが、先日テレビを見てた家人から連絡が入った。八幡山にさか本丼があるぞ、と。
八幡山駅 さか本そば店 - ぶらり途中下車の旅 | 放送内容
!!?と思ってその後番組のHPを見てみるとたしかに。
八幡山にもさか本そばがあってさか本丼がある。なんてこった。
なんだこのパラレルワールドは。
まさかと思って「さか本 そば」で検索してみると出るわ出るわ、
さか本そばは東京神奈川に20店以上出てくる。ぐわーっ、なんなんださか本そば!
こんなにあるのかさか本そば! なんてこった、関東はもうさか本そばに支配されてるといってもいい
どうなっているんださか本そば。オンリーワンの店ではなかったのか。
街のそば屋が巨大チェーンだったとは……さか本のトップは「さっき会った男、あれが総理大臣じゃよ」とか言ってるのだろうか。私たちはさか本に支配されていたのだ。恐ろしい。
とりあえず他のさか本そばに行ってみよう。下高井戸から京王線で30分弱、武蔵野台駅にむかってみた。
他の店でもさか本丼はやってるんだろうか? 京王線に乗って府中市に入る
駅前にある。のれんはちがうがたしかにさか本だ
一見ふつうのそば屋なんだけど、メニューに中華があったり…そしてさか本丼もある!
たしかにここはさか本そばだ
武蔵野台駅前にあるさか本そばはふつうのそば屋だ。座敷もない。休憩に使えとも書いてない。
しかし隣のテーブルを見ると中華そばを食べている。メニューも多く、そしてさか本丼もある。
やはりここはさか本そばなのだ。髪が人工芝のように真緑のおばあちゃんがそばをたべていた。この辺りにもさか本イズムを感じる。
これが武蔵野台駅前さか本のさか本丼1100円。200円ほど高い
さか本丼がたしかにここにもある
さか本丼はカツとエビ天と開花丼でなく親子丼だった。味も少し違う。濃い目のつゆでガツンとくる。これはこれでウマい。
いやウマいとかマズいとかじゃない。くってるな、さか本丼をくってるなという感じだ。そしてたべすすめるうちに(……これ今何くってるのかな)とわからなくなる味の迷子感。まぎれもない、たしかにこれはさか本丼だ。
なんということだ。つつじヶ丘あたりで電車ごとパラレルワールドに突っ込んだのか。ここも下高井戸さか本そばと同じ店だ!
食べてみてもやっぱりさか本丼だ。下高井戸にくらべて濃い目の味だ
のれん分けシステムのさか本そば
お店のおかみさんに話をきいてみた。
「お父さん(お店のご主人)がね、下高井戸で修行してのれんもらってきたのね。下高井戸っていっても今の人のお父さんの代。
八幡山の店も下高井戸から。国領にもさか本そばがあるけどあそこは八幡山から出てる。一番最初は下高井戸じゃない?
店のメニューはだいたいみんなおんなじだね。中身はどこもちがってるだろうけどね」
なんとさか本そば下高井戸がオリジナルでのれん分けしてコピーがたくさん生まれたのか。あのさか本に!? そんなカリスマ性はあまり感じないんだけどな…
調布市国領のさか本そば「きそば」ののれんは下高井戸と同じだ
きれいな店内。祝日の午後7時、お客さんもけっこう入ってる。そしてそば打ちの部屋があるぞ、さか本そばがそんな店だなんて…
手打ちのさか本そば現る
武蔵野台と下高井戸の間にある調布市国領のさか本そばに来た。メニューを見ると中華料理もさか本丼もある。やはりさか本そばだここは。
しかし目の前には手打ちそばの部屋がある。手打ち……そんな本格的なさか本そばがあったなんて。
しかし定食の多さ、中華の多さ、そしてさか本丼、これはさか本そばのそれだ
手打ちそばを出すさか本のさか本丼、ウマそうだ…
まさか、美味いさか本丼現る
さか本丼がウマい。縁起物とか土産物のようなものだったはずのさか本丼がである。この店、手打ちそばを出すだけあってカツの豚も親子丼の鳥もいいものを使ってる。味付けも上品な味だ。すばらしい。だがはたしてこれがさか本そばなのだろうか。おれの知ってるさか本そばではないぞこれは。
話をきいてみるとやはり系列だという。手打ちそばかどうかは店をやってくうえで重要なところだがグループとして特にしばりもないようだ。
さか本そばは多い。中には味で勝負するさか本そばもあるのだ。
正真正銘ウマい…これは本当にさか本丼なのかな
おしゃれなさか本そばも現る
味の良い国領につづき今度は大田区大岡山のさか本そばへ。
ここもおれたちのさか本そばと関係あるという話はあるのだが「そば縁肆(えにし)さか本」という店になっている。縁肆ってなんだろう。検索しても出てこない。こんな意識の高いさか本そばはじめてだ。
大岡山のさか本そば。意識の高いさか本そばだ
間接照明がふんだんにつかわれてカウンター、座敷もある。おしゃれだ
そばとジャズと間接照明のさか本そばがある!
一歩足を踏み入れるとそのおしゃれさにおどろく。店内はジャズが流れて気の利いた日本酒が揃えてあってそして間接照明がいたるところに。このはたらくお父さんたちの理想の第二の人生感たるや。
まさかそばとジャズと間接照明のさか本そばがあったなんて。さか本そば、その奥深き世界。
さか本丼はないのでカツ丼を。うまい。小鉢がついている。飲める店なんだろう
おれたちのさか本そばと関係あるらしいが…
お店の人に下高井戸さか本そばと関係ありますか?ときいてみると、伝言ゲームで「親戚です」という答えが帰ってきた。繁盛していて相当忙しそうだ。親戚という答えも(店としては関係ないよ)という印象をうける。
その後検索したらアド街ック天国の大岡山の回が出てきた。そしてアド街のサイトに書いてあったのだが…
『かつて蕎麦屋だったこちらは、先代が考案した“
地方の若者を修行させ暖簾分けをする”という独特の求人方法により、関東近郊に「さか本」と名乗る店舗が
およそ70軒あります。今や
大岡山の本店は、2000年に蕎麦を中心としたダイニングへとモダンにリニューアル(略)』
参考
そば縁肆 さか本|2009年5月23日|出没!アド街ック天国
70店舗! 思ってたより3倍くらいある。
そして下高井戸でなくここが本店なのだろうか。さか本そばの謎は深まる……
下高井戸から北東に3~4km、方南町にもさか本そばがある。中はふつうの街のそば屋だ
これはちがうさか本だ
下高井戸から今度は東側に少し行って方南町さか本そばに。だが店の看板も雰囲気もどこにもさか本らしさはないし、さか本丼もなかった。
ここはそもそもさか本そばなんだろうか?
メニューにさか本そばらしさはない。カツ丼を頼んでみたがつゆが少なくさか本丼の感じではない。カツ丼は街のそば屋の感じでウマかった。
これはちがうさか本グループだ
お店のお母さんにきいてみると「下高井戸? あっちは系列がちがいますね。さか本でもちがうんです。こっちはもともと信州の方なんです。下高井戸は中華系ではないですか?」という。
下高井戸は中華系? たしかに中華料理もやっている。そしてさか本グループ自体いくつかあるのか。さか本そばの謎は深まる
方南町からさらに北へ。新高円寺の手前あたりにもさか本そばはある。しかし残念ながらこの日はお休み
さか本丼もない。電話できいてみると下高井戸さか本そばと関係あるのかわからないとのこと。関係なさそうだな。
全くちがうさか本そばも存在する
ここからさらに北へ行った新高円寺のさか本そばも「下高井戸と関係あるのかはわからないですね」とのこと。三鷹にあるさか本そばも「うちは関係ないね。さか本ってたくさんあるからね」と言っていた。
どこからさか本そばでどこまでがさか本そばなのか。そして私は今なにをどうしたいのか。さあ、わからなくなってきました。
下高井戸からもっとも近く、テレビで紹介された八幡山さか本そばへ行こう
これはおれたちのさか本そばっぽいな
姉妹店といえる雰囲気、となりのさかもとそば
テレビにも出ていた八幡山のさか本そばに来た。下高井戸から一番近いのはここだ。ここなら詳しい話も知ってるだろう。店のお父さんに話をきいてみた。
――ここって下高井戸の…?
「ええ、おおもとは下高井戸であたしんとこは10番目の支店です。店は10店どころじゃなくまだあります。あたしは本店直属の支店。本店から大岡山と蒲田に支店ができて、そこからまた支店、つまり孫店がいっぱいある」
それで大岡山が本店を名乗っているのか。まず下高井戸。次に大きな支店として大岡山と蒲田。そこからどんどん支流ができてるわけだ。方南町の別のさか本そばにも行ってきたんですけどあれは…?
「下高井戸の社長が方南町で修行してその後下高井戸に店出したんですよ。そしたら15や16のときなもんでお前にはのれんくれないってすったもんだあったんです。方南町は方南町で別のグループなんですけど」
えーっ! なにげなく行った方南町がそもそもの店だって!?(だがこれは後に別の証言が出てくるので断言できない)
座敷にテレビにおじいさんによくわからない陳列。あ、これはまぎれもなくさか本そばだな
お孫さんの道楽というが、お客さんがどんどん持ってきちゃうらしい
さか本丼の始祖はここ。色々のって1000円だから出したくないらしい
さか本丼の起源はここだ
そしてさか本丼のオリジナルはここにあるようだ。
「さか本そばとかさか本丼はあたしが考えたんですよ。お互いのれん会でミーティングするでしょ。おれんとここんなのやってるよって伝わっていく。国領も武蔵野台も、烏山も…出してるかな(烏山は昔出してテ今やってないそうだ)。
カツ丼天丼のってこの値段でしょ。自分で作ったんですけどあんまり売りたくない(笑)。でも食材に何を使えっていうルールはないんです」
さか本そばにはさか本のれん会があって、そこで新メニューが伝わったりするそうだ。しかしこれってラーメン二郎ファンが交換しあうような情報ではないか。そしておれは今マニアになってないか。
店のマニアになるならせめてもっとメジャーなチェーンになればよかったという思いもある……
未曾有のごてごて感、そうだ、これがさか本丼だという味がする
コーヒーがついてくる。さか本の情け
そして下高井戸本店に
さあ最後は本丸、下高井戸本店にむかう。気づくといつものような足取りではない。たんまり情報をつめこんできた。特に
・世の中にはいろいろなさかもとそばがある
・下高井戸がさか本のれん会の本店であるらしい
という認識がある。少なからず敬意のようなものをはらむ。これが聖地巡礼か。
そして本店下高井戸である。おれたちのさか本そばは総本店だったのだ
巨人帽のおっちゃんが大将だった
店のご主人っていますかと巨人帽のおっちゃんにきくと「なにか用かい?」とこたえる。おかしいなと思ってるとこの人が店の主人であることに気づく。もしぼくがアメリカ人ならここでFワードを使っていただろう。なんてこった、この人、常連じゃなかったのか。
巨人帽のお父さんの「うちはそういうのいいよ」というのを、ああだこうだとさか本熱を説き、なんとか取材に応じてもらった。
こういう交渉力はもっと世の中の役に立つここ一番で使えばよかったなと思う。
巨人帽のご主人。というかもうだれが店の主人なのかわからない
さか本の全貌
ご主人の助け舟と主に店のお母さんの話でさか本の全貌がおぼろげながらわかってきた。
お母さん「そうです、ここが本店。亡くなったおじいさんがもともと考えたんです。さか本そば。
おじいさんも他の店で働いて。方南町? おじいさんがはたらいてたお店はもうないと思うけどね。6年前に91で死んでその若い頃だからね。そこのご夫婦がなくなって名前だけいただいてって。うちは小林って名字です。」
お母さんがおじいさんと呼ぶのは親にあたる先代のことのようだ。そういやなんか写真飾ってあるなと思ってたらこれが関東のさか本そばの創始者だった。偉人だ。なんてこった、偉人じゃないか。
そしてさか本そばはできたときからさか本さんじゃなかった。こんなにあるのにさか本はどこにもないのだ(あるかもしれないけど)。
いろいろなものが飾られてるなと思っていたが店の創始者のお供えがビールケースの上にあった
さか本そばはさか本ビルである
――ここなんでこんなに広いんですか?
「おじいさん、すごく働き者だったからね。ただお仕事だけして、ビルも建てたりアパートも建てたりね。ここはおじいちゃんが2軒買って広くしたんです。真ん中のスペース? これ上がさか本ビルの階段になってるんです」
さか本そばはそば屋である前にさか本ビルだった。広いなとは思っていたが、縦にもガンガン伸びていったとは。2次元だと思っていたものが3次元だった静かな衝撃。
さか本そばはそば屋である前にさか本ビルだった
10年はたらくと店を持つシステムを考案した
――なんでこんなにさか本そばがあるんですか?
「みんなうちで10年働いて支店になってるからね。さか本がたくさんある。そういうのはおじいちゃんが最初に考えて。味とかメニューはやっぱりここで働いてたから同じになるんじゃないかなあ。中華? そう、中華も最初からあったと思うね。
大岡山は兄弟なのね。おじいさんの弟さん。大岡山の方も10年くらい働く(システムになってる)んじゃないかな」
10年働いたらのれんをもらえるシステムがあたってこんなに店があるのか。でも他の店にも起こりそうな話なのに、なぜさか本だけこんなに店があるのだろう。
シェイクスピアが陳腐に見えるのは、後につづくものがみんなシェイクスピアを真似したから。そんな話をTwitterで見た。もしかしたらさか本グループがシェイクスピア…なぞは尽きない。
開店直後、もう完全にミーティング感がある
本店下高井戸のさか本丼。グリーンピースが入っている。たべすすめてるとうずらが出てくる。これが最高なんだというわけではないが、掘り当てた感じはある。
味のいい店でなく、味のある店を残そう
お母さんはいう。
「昔からやってるからねえ、おじいさんが。あたしたちはもう後ついでるだけで。ねえ」
さか本が「ある」ということ。そんなわれわれの喜びは「ただ後をついでいる」というお母さんの発言にもあらわれている。ただ後をついで、ただそこにあるから偉いのだ。
味のいい店は残るかもしれないが、味のある店は代替わりでなくなってしまう。「広いので休憩にご利用ください」なんて店が他にあるだろうか。(ところでノマドワークの方々もここで仕事すれば消耗しないですむだろう。)
そんな一風変わった店は継ぐことによって時間が経ち、また味が出てくる。さか本そばの希少価値はこれからも高まっていく一方だ。
へんだなあと思っていたわが町のそば屋は関東の一大そば屋チェーンの総本山だった。なぞはまだまだ残る。これからもおれたちはさか本そばに行く(たまにな!)。
さか本丼をたべすすめるとほんとに何をくってるのかわからなくなる