本当にここでオマールエビが釣れるのだろうか
目的の釣り堀がある富里市は、潮風なんてまったく感じられない千葉県の内陸部。海から遠い場所だとわかってはいたのだが、本当にこんな場所でオマールエビが釣れるのかと不安になる。
細い田舎道をしばらく走ると、カーナビが目的地に着いたことを教えてくれたのだが、どうも様子がおかしい。
オマールエビどころか、釣り堀っぽくすらないぞ。
さすがにここじゃないだろうとは思いつつ、建物の横に小さな看板があったので一応確認してみると、どうやらここで間違いないようだ。
野良麦が生える先にある『海釣りハウス』の看板。なんだろう、この心がざわつくような違和感は。
なんだか騙されている感がすごいぜ。
ふと見上げれば、成田空港から飛び立った飛行機がビューン。
予想以上に予想外の場所だったが、とにかくここが目的地の釣り堀のようだ。
オマールエビ釣りは夜釣りなので、集合時間は午後6時。釣り堀なのに夜釣りというのも謎である。
どんな竿が相応しいのかわからなかったので、とりあえずたくさん持ってきて弁慶気分。
活魚問屋のノウハウを集結した結果の海水魚釣り堀
恐る恐る建物の中に入ると、中央部分が細長いプールになっていた。なるほど、ここは確かに釣り堀のようだ。
でもこの釣り堀は、淡水ではなく海水で、泳いでいるのはコイではなくオマールエビなのである。やっぱりピンとこないぞ。
昼間はマダイ、シマアジ、イシダイなどの高級魚が釣れるそうです。
なんでもオーナーさんは生簀料理屋に納品する活きた魚介類や釣り堀用のコイなどを扱う問屋に勤めており、その会社は水槽や生簀を作る部署もあったので、それらのノウハウを組み合わせた海の魚の釣り堀をどうしてもやってみたくなり、きっとできる、やればできるさ、客がくるかはわからないけれどと、会社を独立したのだそうだ。
こちらは店長を務めるオーナーの息子さん。
業者に頼めば億の単位で掛かってしまう初期投資を抑えるために、牛舎だったこの建物をDIY精神で改造し、5年前に海の魚が釣れる釣り堀としてオープン。
すると魚だけでなくイセエビも釣りたいという声が多く寄せられたため、ならばと夜釣りでのイセエビ釣りをスタートさせ、より安定供給可能なオマールエビも始めたというのがここまでの流れらしい。
この話をオーナーさんから聞けただけでも、ここまで来てよかったなと思える逸話だ。この地に民話として後世に残してほしい。
オマールエビ釣りのシステムについて
予約した人が集まったところで、注意事項などの説明があり、釣り座をクジ引きで決める。
釣りをするのは午後6時半から9時半までで、途中で1回またクジを引いての席替えがあるそうだ。
この日の参加者は家族連れが多かったです。
オマールエビ釣りは予約制の釣り放題で、何匹釣っても6,500円(女性子供は5,500円)。オマールエビの食べ放題に6500円は払えないが、釣り放題なら払っても惜しくはない。
もちろん釣り堀なので、釣り放題といっても無限に釣れる訳ではない。投入されるオマールエビの量は1人当たり2匹で、最初と席替えタイムに分けて投入されるのだ。
オマールエビが潜んでいるのは、中央の深くなっている部分の底。
エサは食いがいいオキアミ(100円)と、持ちがいいアオイソメ(200円)。
今日は12人なので、放たれるオマールエビは24匹。それを参加者全員が早い者勝ちで奪い合うのである。
そのため、周りの人がたくさん釣れば釣るほど、自分の釣れるチャンスは減るという、弱肉強食の世界。
全財産を掛けるギャンブルマンガにありそうなこのルール、なんだか燃えるじゃないですか。
もしなにも釣れなかった場合は、クジでなにか当たるみたいです。
また今までに釣れ残ったオマールエビがそのまま水槽に残っていることもあるし、昼間のターゲットであるタイなどの魚もそのままだ。たまに開催されるイセエビ釣りの残りがいるかもしれない。
もしそれらが釣れた場合は、追加料金なしで持ち帰っていいという夢のある設定がたまらない。
予想以上に夜釣りでした
定刻の午後6時半に電気が消され、オマールエビ釣りがスタート。もちろん夜釣りであることはわかっていたのだが、これが思っていたよりも本気の夜釣りなのである。
室内にあるほとんどのライトを消しての釣りなので、びっくりするくらい何も見えない。でもこの暗さがワクワク感を増幅させる。
そういえば私は夜釣りが大好きだったんだということを、久しぶりに暗闇の中で竿を出して思い出した。
デジカメの夜景モードで撮影。肉眼だとほぼ真っ暗です。
店長の選曲であろう B'z や yui などの J-POP が流れる中、暗闇で竿先の光だけを見つめるという、現実からかなり乖離した世界。
「指先で送るキミへのメッセージ」ではなく、「竿先が送る僕へのメッセージ」を静かに待つ。
これが貸し竿にセットされている標準の仕掛け。ハリはカエシのないものを使う。
ウキは使わずに、竿先に光るやつを付けて、それでアタリをとるのだ。
竿は手に持たないで、置いておくのがいいらしい。
こんな感じで竿先の光をじっと見つめる訳です。
自然界での釣りとは違って、思いっきり人工的な空間なのだが、真っ暗で景色が見えないので、明るかった時の釣り堀っぽさは感じない。
もはやこの時間のこの場所は、釣り堀を超えた何かであるとすら言えよう。
なんといきなり釣れてしまった!
一通りの撮影を終えて、とりあえずエサでもチェックしてみようかと竿先を上げてみると、なんといきなり重いじゃないですか。
まさかと思いつつリールを巻くと、間違いなく重い。しかも魚が引っ張る感じではなく、なにか固い物体を持ち上げている感じ。そしてビンビンという重量級のエビキックが伝わってきた!
うおー、まったく水中の様子が見えないけれど、これはオマールエビに間違いないだろう。今までに感じたことのない釣り味だ。
あとはこの獲物を水面まで引き上げて網ですくえばいいのだが、水槽が真っ暗なのでこれが一苦労。水面をライトで照らすのは禁止なので(エビが食わなくなると嫌う人もいるから)、うっすらと見える波紋だけを頼りに、その下へ網をすくい入れるのだが、これが外しまくって焦る。瞳孔よ、もっと開け!
うっかりすると網の枠でエビを叩き落としそうになるという緊張感の中、4回目のチャレンジでどうにか竿に掛かった重みを網の中へと移すことに成功!
よっしゃー!
オマールエビという生き物がどんな姿なのかよく知らなかったのだが、イメージ的に似ているイセエビと比べると、断然ザリガニの方が近いシルエットで驚く。
そしてザリガニっぽいのに、ばかでかい。これぞザリガニ界の大親分である。まったく現実感がなくて素晴らしい。
幼稚園児の頃に恐る恐る掴んだマッカチン(でかいアメリカザリガニ)の感覚を思い出す巨大なボディ。
輪ゴムで封印されたハサミを振り上げるオマールエビ。このポーズこそがまさにザリガニっぽい。
すごい、本当に釣れてしまったぞ、オマールエビが。
オマールエビ狙いの釣り堀なので釣れて当然なんだけれど、やっぱり暗闇からこんなのを釣り上げると、そりゃもう興奮してしまう訳ですよ。
ハサミが輪ゴムで固定されているので、挟まれる危険性の無さがちょっとつまらなくもあるのだが、やっぱり危ないんだろうな。
そしてまさかの連続ヒット!
この日はどうも運気が良かったようで、次の一匹もすぐに釣れてしまった。今度は竿先が小さく上下に動いたのを確認し、ドキドキしながら竿先を上げてしっかりと掛けてやった。
やっぱりこういう流れの方が、たまたま釣れていたよりも、自分の腕で釣ったという感じがして気分がいい。早くもこれで放流分の割り当てを確保した訳だ。
ハリが口ではなく脇の下に刺さっていた。この釣りではハリがどこに掛かっていてもOKだそうです。
エサを底にたらして竿先にアタリが出たら合わせるだけのシンプルな釣りなのだが、それでもオモリを何センチ浮かせて待つか悩んだり、どのタイミングで合わせるか迷ったりと、やってみると奥が深い。アタリがあってもハリに掛からないことが結構あるんですよ。
屋根も壁もある室内なので、風もないし雨の心配もない。もし落ちても全身が濡れる程度で死ぬことは無い。釣りに集中できるのもいい。
すぐに釣れたからという要因が強いのだろうけど、すごく楽しいぞ、この遊び。
こちらはじっくりと待って、しっかりとハリまで食わせた一匹。
オマールエビ以外も釣れました
オマールエビがポンポン釣れたのはいいのだが、そうなるとさらに欲が出てくるもので、できれば魚系も釣ってみたくなるのが人情。
狙って釣れるものではないのだが、モゾモゾっとしたアタリに合わせると、エビとは明らかに違う躍動感が伝わってきた。さっきから対岸側でタイがやたらと釣れていたようなので、こっちもタイかなと思いつつ網ですくったのだが、これがなんとクロソイだったのだ。
なぜおまえがここに!
クロソイと言われてもピンとこないかもしれないが、岩礁帯とかに住む根魚であり、まさかここで釣れるとは思っていなかった魚だ。旅行先でたまたま幼なじみに遭遇した気分。
この意外な魚を釣り上げた時、一瞬自分が佐渡島の防波堤で夜釣りをしているような錯覚に陥った。いやいや、実はこの釣り堀が地下で本物の海につながっているのではと考え直し、この私もそんな子供っぽいことを思うんだと少し驚いた。
一応オーナーに確認したら、クロソイも少し放流されているらしい。夢を見させてくれてありがとう。
これこそマダイっぽい引きだなと思ったら、今度こそマダイだった。「エビでタイを釣る」ならぬ「エビとタイを釣る」を達成。
後半戦は隣に人形が置かれていて、見回りしているオーナーと間違えて、何度も話しかけそうになった。
そんなこんなで集中しっぱなしの3時間が終わり、オマールエビ4匹、マダイ1匹、クロソイ1匹という、素晴らしい戦績で無事終了。
はじめてのオマールエビ釣りにしては立派だが、たぶんビギナーズラックというやつだろう。エビギナーズ。
ちょっと釣りすぎたので、もし釣果ゼロの人がいたらおすそ分けしようかなとも思ったのだが、この日は1~4匹と、ゼロの人が一人もいなかった。席替え制度によってチャンスは平等ということなのだろう。
あー、楽しかった。
同行いただいた友人と勝利のオマールピース。ところで後ろの子は誰だろう。
こちらのお二人はマダイが連発したそうです。
この日は運転中の眠気覚ましに飲んだコンビニのコーヒーの影響もあり、なんだか明け方まで寝つけなかった。
ちょっと興奮しすぎたようだ。
オマールエビっておいしいんですね
新聞紙に包んで持ち帰ったオマールエビは、翌日になってもまだまだ元気だった。
寝て、起きて、あらためてオマールエビを見て、昨日のことは夢じゃなかったんだなとしみじみ思う。
これを俺が釣ったのか―。
このオマールエビはカナダなどで獲れた天然物。もちろん食用として輸入されたものなので、おいしくいただくことができる。
さすがに活きたオマールエビなんて料理した経験はないのだが、パスタ用の鍋がちょうどいい大きさだったので、特に難しいこともなく蒸し上がった。
「4匹はさすがに入らないな~」なんて性格悪くニヤニヤしながら、10分ちょっと蒸してみた。
こいつをそのまま手づかみでワシワシと食べるという、今までに経験のない贅沢を楽しませていただこう。
ソースはなにが正解なのかよくわからなかったが、バター、酒、醤油の同割りを煮立たせたものを適当に用意してみた。
たぶん人生で一度の贅沢だな。
オマールエビなんて結婚式の料理とかでちょこっと食べたことがあるくらいだったので、イメージ先行型のヴィジュアル系食材だと思っていたのだが、ブリンブリンの弾力とカニっぽい甘みがたまらないじゃないですか。大きなエビというよりも、エビ型のうまいカニという感じ。
自分で釣ったという味の上げ底もあるのだろうけれど、オマールエビってうまいんですね。
今まで食べたエビの中で、間違いなく一番のボリュームだ。
カニっぽい味ではあるんだけれど、私が今までで食べた食材の中で一番似ている味は、間違いなくウチダザリガニという外来種の大型ザリガニ(
こちらの記事参照)。
やっぱりこいつは味も見た目もザリガニ界の大親分という認識で間違いないのだろう。
私の人生において、オマールエビにかぶりつく日がくるとは思わなかったよ。
ツメの中にも身がギッシリで、ものすごく味が濃い。
脚の中にも意外と身が入っていたので、ありがたく全部いただく。
味噌もエビというよりカニミソの味で、活きていただけあって変なクセがない。これは日本酒だな。
二匹目は冷やしてから食べたのだが、その方がエキスや味噌が固まって食べやすいよ。
せっかくなのでオマールエビ料理を楽しもう
オマールエビは1匹蒸して食べれば十分満足する質と量なのだが、今回はなんと4匹もある。
そこでこんな機会でもなければ絶対に作らないであろうという料理をいくつか作ってみた。
まずはオマールエビフライである。
蒸したオマールエビの尻尾と爪の身に、衣をつけて揚げてみました。
食べ物は大きければいいというものではないと思うのだが、エビフライはやっぱり大きいとうれしい。俺はいま贅沢をしているんだという実感を感じられる一品。素晴らしい。
続いては、パスタ鍋に入らなかった一匹を、生のまま二つに割ってイセエビ気取りの味噌汁にしてみた。
どどーん。
これは確かにおいしいんだけれど、ダシが汁に出てしまってもったいないかなというのが正直なところか。身の味を楽しむのであれば、やっぱり蒸すのが一番かな。
味噌の詰まった胴体だけを使って、尻尾は入れないで別の料理で使えばよかった。いや、おいしいんですけどね。
そして最後はオマールエビの殻に、なんやかんや手間を掛けて作ったクリームソースのパスタ。
具にカニカマを入れればよかったと激しく後悔。
これは適当に自己流でやってみて、どこまでそれっぽくなるかなと試してみたのだが、オマールエビの殻のポテンシャルはまだまだ高いだろうという完成度となった。かなりおいしいんだけれど、まだ君の伸びしろはたっぷりとあるはずだ。
今度はちゃんとレシピを調べて、再挑戦してみなければならないな。ということで、これでまたオマールエビを釣りに行くための自分に対する口実ができた訳だ。
次はザリガニを食べてみたいかも
オマールエビ釣りといっても所詮は釣り堀なので、それほどの驚きはないかなと正直思っていたのだが、いざやってみると、これが予想以上に驚いたし、ときめいたし、メモリアルな一日となった。
オマールエビの美味しさにも驚いたのだが、そういえばまだザリガニを食べたことがないような気がするので、次は小さなオマールエビともいえるアメリカザリガニも食べてみようかなーなんて思ったりして。
同行してもらった大崎君は、アルフィーで言えば坂崎さんに似ている。