砂糖水の起源へ
家でのどが渇いて甘いものを飲みたいけど、冷蔵庫が空……そんなとき、ささっと作れるのが砂糖水。便利である。
あるとき興が乗って砂糖水のレシピを作ったこともある。(
クックパッドのレシピはこちら)
水200mlに砂糖大さじ1を入れるだけ
そんな折、石垣島に行くことになった。
石垣島には生のさとうきびを絞ってそのままジュースとして飲める店があるらしい。砂糖水のプロトタイプとも言えるそれをぜひ飲んでみたい。
そして砂糖に何か足したらさとうきびジュースを再現できるのか調べよう。
黒糖には旬がある
というわけで石垣島へ。調査のつもりだが、概ね観光である。完全に観光にならないように気を引き締めて行きたい。
途中、那覇空港でこんなポスターを見つけた。
黒糖は今が旬で、島ごとに形が違うらしい
生成された白糖になると「今が旬」と言われてもピンとこないが、黒糖だと旬があるらしい。
自然のものなので旬があって欲しいという思いと、調味料なのに旬があってどうするんだという思いが交錯する。
要するにさとうきびが生えている季節だということで了解した。
砂糖メモ:さとうきびには旬がある
さとうきびをしぼるぞ
石垣島に到着。逸る気持ちを抑えつつ、生さとうきびジュースが飲める店に向かう。
この店は自分でさとうきびをしぼる体験ができるみたいである。頑丈そうなローラーを搭載した機械「きびきび君」で、さとうきびから生ジュースをつくるのだ。
石垣の手書き文字はほぼすべて味わいがあった
「きびきび君」のとなりにはさとうきびが何本もポリバケツに突き立てられていた。これがさとうきびか。
ゾンビが出たらこれで戦える
前日乗ったタクシーの運転手さんの話によれば、今年のさとうきびは台風の影響が少なかったので曲がらずに育ったそうだ。
たしかに武器になりそうなほどまっすぐだ。
砂糖メモ:南の島のドラクエがあったら初期装備はさとうきびに違いない
さとうきびをローラーに差すとギュルギュル引きこまれていく
何本も何本も絞ってこれくらいになった。
さとうきびがローラーに引き込まれる感覚が怖いけど楽しい。何本も絞ってようやく人数分のジュースが集まった。
果てしなくあまい
店のおばちゃんが氷を入れたカップに人数分分けてくれる。さあ飲むぞ。
興奮して飲んじゃったので飲みかけの写真になってしまった
一口飲む。甘い、とても甘い。
普段作って飲んでいる砂糖水の3倍くらい甘く、青臭い。力強いのにぼんやりしていてバスドラムだけのバンドのよう。これが砂糖水のオリジナル…。
砂糖メモ:さとうきびジュースはふつうの砂糖水より3倍濃い
シークヮーサーの汁を入れたら味が引き締まった
さとうきびジュースにはシークヮーサーの汁が入ったボトルも添えられており、それをチューっと垂らしたら味が引き締まった。さっきのバンドにギターが入って来た感じだ。
ちなみに店にはあしあと帳があり
さとうきびジュース最高!という声が多く見られた。生き返った人もいる。
さとうきびから絞ったとはいえ、みんな砂糖水を飲んで喜んでいる。これから作ろうとしているレシピにも社会的意義があるということだ。
砂糖メモ:さとうきびジュースで人は喜ぶ
別の店のさとうきびジュースも飲むぞ
他にもさとうきびジュースが飲めるおみやげ屋があったので立ち寄った。追加調査である。
すだれがめちゃくちゃでかい。
さとうきび&ドラゴンズ
この店はフルーツとさとうきびを混ぜたジュースが飲めるのが特徴。泡盛入りもあるようだ。
だが僕はストイックにストレートのものを頼んだ。
泡盛入りもあるのか
飲みながら、砂糖水に何を足せばこの味になるのだろうかと考えてあぐねていたのだがあんまりぴんとこない。
単なる甘みの他に、南国フルーツのようなまろやかな口当たりと、独特の青臭さがある。バナナと葉物野菜を混ぜればいけるだろうか……。
さとうきびを煮詰めると黒糖になるそうだ。黒糖は最後の手段にしよう。
真剣に飲めば飲むほどわからなくなってきた。
一方、同行していた林さんは泡盛入りのやつを飲んでいた
同行していた林さんは泡盛入りのさとうきびジュースを買っていた。
お店のおばちゃんは「これはおいしいよー。私は飲んだことないけど!」と言いながら、泡盛をカップの半分くらい注いでいた。泡盛のトワイスアップだ。
その後、奥にいたおじちゃんが「それは濃すぎるよ!」とジュースを足して薄めてくれていた。
砂糖メモ:さとうきびジュースと泡盛を1:1で割ると濃い
そのあとに船でやって来たドイツ人観光客の大群がって来るのだがこれはまた別の話だ。
砂糖メモ:船で来たドイツ人は日本円を持ってないからさとうきびジュースを飲めない
砂糖からさとうきびジュースを作ろう
というわけで家に帰ってきた。
ではこの思い出を元に、いつもの砂糖水にいろいろ足してさとうきびジュースっぽいものを作りたい。
まず、このような材料を用意してみた。
脳裏に病気のゴリラが浮かぶ
砂糖の甘さに加えて、南国フルーツのようなまったりした感じを出すためにバナナ、植物の青臭い感じを出すために青汁の粉を入れてミキサーにかける。
分量
・水 180ml
・バナナ 半分
・青汁の粉 3g
・砂糖 大さじ3(!)
これはほぼ完全にバナナジュースだ
いつもの砂糖水と比較する口当たりはさとうきびジュースを思わせた。しかし味は完全にバナナジュースであった。
通常の砂糖水は水200mlに対して砂糖大さじ1だが、今回はその3倍入れた。甘みに関してはこのくらいがリアルだ。
おみやげに買ってきたさとうきびで味をチェック。ぜんぜん違う。
成分はほぼ砂糖水なのはずだが、風味程度のバナナが加わるだけで出来上がりはバナナジュースなのだ。1本のバナナがあれば2杯のバナナジュースを作れる。錬金術である。しょうもないことでもやってみると何かしらの発見はある。
砂糖メモ:砂糖水にバナナをちょっと入れると、脳はそれをバナナジュースと認識する
青汁は青臭いというか苦いだけで何口か飲むと気にならなくなった。
青臭さを足す
青臭さを足そう
バナナジュースになるのをさけるためバナナの量を減らして、その分ブロッコリーとアスパラを足した。青汁はただ苦いだけだったので、ブロッコリーの青臭さとアスパラの繊維っぽさに期待する。
ちがう…
やっぱりちがう。どうにもさとうきびのコクが再現できない。
砂糖メモ:それにしても砂糖水をたくさん飲むと夜中でも元気が出てくる
黒糖でいい
そこで白糖を使うのを諦めて、黒糖で作りなおすことに。黒糖はさとうきびの汁を煮詰めて固めたものだ。信頼できる。
200mlの水に大さじ3の黒糖を加える。すると一瞬でいい感じのものができあがってしまった。最初からこれでよかったのか。
砂糖メモ:黒糖を水に溶かすと味はほぼさとうきびジュースになる
はじめからこれでよかった
味はだいたい生さとうきびジュースに近い。
ただ本物のさとうきびジュースにはフルーツジュースのような「重たさ」があるのだが、残念ながらそれは出ていない。
かと言って、バナナを入れるたらやはりバナナジュースになってしまった。これ以上どうすることもできないので諦めよう。反省して事態が良くなったことはない。
砂糖メモ:反省しても黒糖から完全なさとうきびジュースを作ることはできない。失われた命がかえってこないように……。
これが「さとうもち」
気を取り直して次ページでは砂糖に関連して、石垣島で見つけたお菓子「さとうもち」を紹介します。
石垣島さとうもちレポート
話は石垣島にもどる。
どうやら石垣の人はさとうが好きみたいだ。その証拠に砂糖てんぷら(沖縄でいうサーターアンダギー)がそこらじゅうにある。食べ物の名前の中にストレートに「砂糖」が入っているのは珍しい。
砂糖メモ:サーターアンダギーを石垣では砂糖てんぷらという
砂糖てんぷら。東京で食べるよりサクッとしていておいしかった。
そして、とある売店では「さとうもち」という見たことのない食べ物を見かけた。これも名前に「砂糖」が入っている。どんなものだろう。
すぐさま買った。
これが問題のさとうもち
地元の人に聞いたところ、めでたいときに食べるおかしだそうで、紅白まんじゅうとか桃の節句の菱餅みたいな位置づけらしい。
砂糖メモ:さとうもちはめでたい食べ物
2日前にあった八重島の行事・十六日祭(ご先祖様のお正月)用に売られていたものの売れ残りかもしれない。
原料はもち米(タイ米)と砂糖
手に持ってみると、ずっしりと重い。
なんとなく甘そうだが、実際はどんな味だろうか。かぶりついてみる。
これは…
笑えるほど味がしない
「さとうもち」というあからさまに甘そうな名前なのに、食べてみると味がしない。たくさん頬張れば確かに甘いかな、という程度だ。とにかく味がしない。
「味……しないね」
食感はもちもちして、よく伸びる大福の皮のよう。味がないので「もちもちした食感」という概念を食べているみたいだ。
砂糖メモ:さとうもちは概念
一方でこれはこれで分かるという意見もあった。あんこを入れる前に進化をやめてしまった薄らぼんやりしたお菓子があってもいいではないか、と。
「わかる、嫌いじゃない」
それにしても華やかでかわいらしい見た目と素朴すぎる味のギャップが笑いを誘う。はっきり「おいしい!」というわけではないのに食べていて楽しい。
この感じは塩味のあんこが入った大福「塩あんびん」に似ている。世界にはいくつ食べると笑える大福があるのか。(
こちら)
味はしないんだけどどんどんなくなっていく
青春
食べ始めは「豆のひとつでも入っていれば…」という思いもあったのだが、一通り食べ終わるとこれはこれでいい気がする。
楽しさのためにこのぼんやりした味で我慢したのではないか。その計算に感動さえ覚える。
砂糖メモ:大人は些細なことで感動しがち。
でもたくさん食べると重みが胃に来る
こうしていつの間にか食べ終えてしまったのであった。とても楽しかったです。
以上、石垣島の甘みの模様をお届けしました。
甘みいろいろ
果てしなく甘いさとうきびジュースから、これで砂糖を名乗るのかというほど味がしないさとうもちまで、砂糖の極端を感じた。砂糖だけでここまで幅があるのかという感想だ。
これからも、たまにめちゃくちゃ濃い砂糖水を作って飲んだり、めちゃくちゃ薄い砂糖水を作って飲んだりして甘みを楽しみたい。
石垣には泡盛ゼリーもあり、素材の味と食感に何らかのこだわりがあるのかなと思った