衝撃の黒歴史
先日、デイリーポータルZ編集部が使っている倉庫の棚がモノであふれ出したため、大掃除をした。
いらないものはゴミとして捨て、巨大なものは産廃として処理するという。
そのタイミングで出てきたのがこのでかい箱だった。
DELLの箱
Zくんあたま(青)
これは……
10年前僕が高校の文化祭でモテようとして作った青いZくんである。その様子はウェブマスターの林さんが記事にしてもらった(「
かぶりものでモテたい」)。 まだあったのか。
ZくんはデイリーポータルZのマスコットキャラ
うかつに触ると変な記憶が出てきそうで、脳の扉を抑えこむのが大変だ。
近頃物忘れが多くなって前よりだいぶ生きやすくなってきたと思っていたところなのに。
ひゃー…
いろいろ思い出してやばい
モテたかどうかの結果は「話題化には成功したものの、誘引率自体は低めでした」とだけ記しておこう。
あの文化祭の自体はよかったとしても、その後のちょっとした悪夢が蘇ったのでべべべっと段ボールのフタを閉じる。見ていられない。いわゆる黒歴史だ。
だが、このままにしておいて産廃として処理するのも忍びない。保管する場所はないが一度自宅に送ることにした。
10年後の青いZくん
数日後、家に箱が届いた。落ち着いた気持ちで改めて青いZくんを取り出す。
はあ…コレ…はぁ。
イベントなどでたまに引っ張りだされたりすることはあったのだが、あえて近づきはしなかった。思い出深く、刺激が強いからだ。
そして久しぶりの対面。どうなっているのか?
なんか出てる
ニットでできた…脳?
古い市松人形の髪の毛がいつの間にか伸びている…という話は聞いたことがあるが、かぶりものの口からピンクのニットが出てくるとは…なんとファンシーなことだ。
その他の部分はどうだろう。
頬の部分はでろでろにやわらかくなっている
テープは剥がれまくっている
触らずに見ているだけならまあまあいい状態にも思えるのだが、よく見てみると骨組みはグラグラしているし布も剥がれかけている。
青いZくんは10年経っておばあちゃんみたくなっていた。泣ける。
これはもうかぶりものとして使い物にはならないかもしれない。
匂いを嗅いでみる
ぼくの記憶では、この青いZくんはかぶると視界がゼロになり、外界の音も聞こえづらくなる。あるのは匂いだけだ。
記憶を蘇らせるきっかけといえば、プルーストの小説ではマドレーヌの味だったが、僕の場合はかぶりものの匂いなのかもしれない。失われた時を求めて嗅いでみる。
口からテープが出ちゃってるところすみません
甘い紙の匂いがする
ボール紙の匂いなんだけどどことなく甘い。うん、確かにこんなだった。懐かしくはあるものの、とくに記憶がぶわっと刺激されて次ページ以降めちゃくちゃ長い小説が始まる、という感じではない。
じゃあ、かぶってみるか。
失礼します
思い出の呼吸困難
……。
最初の感想は「息ができない」だ。
頭をホールドするための内部構造(筒状になっている)が、ぴったりサイズ過ぎて口と鼻が抑えられてしまっている。ゆえにゆっくりと死ぬ。
顔も赤くなる
いや、確かにこの苦しさは懐かしい。高校生のときもそうだった。当時の自分はよくもまあこんなものをかぶって一日過ごしてたものだと思う。モテへの意思だろうか。
苦しいが、もう触れることもできなくなるのだ。記念に頑張って遊ぼう。
気合を入れて上着を脱ぎました
直後、このブランコせいで死ぬほど具合悪くなった
楽しげな写真を撮ろう!と調子に乗ってブランコに乗ったら即座にすごく具合が悪くなった(もともとブランコが苦手)。
処分だな
主に繋ぎ目が壊れている
心は決まった。処分の方法は未定だが、ひとまず解体していこう。
解体するついでに、どんな不具合があったのか調べる。リバースエンジニアリングというやつだ。この反省を後世に伝えたい。
まずは骨と皮に分ける。
改めて見ると、目が左右間違って張ってあるな
接着はされていなかったのでつるんと綺麗に剥けた。
それぞれどうなっているか見てみる。
骨組みはズレてるし
粗い手縫いだったので糸が切れてしまっている
頭蓋骨は歪んだりズレたりして、皮は糸がほつれてしまっている。全体的に繋ぎ目が弱っているのがネックで、紙や布の素材自体は問題がなかった。ちょっと意外だ。
さらに頭蓋骨の球体を開けてみると…。
頭蓋骨の中身はこうなってます。……なんで養生テープなんだ?
頭蓋骨はなぜか全て養生テープで貼られている。綺麗ではあるが、これでは接着が甘くなるはずだ。ガムテープだったらもっと強度が得られるのに。
2004年
10年後。喉から毛が生えるようになりました。
こういうことをやっていると、悲しくなってきますな。
でもなあ、あっても使い道ないし…。えぇい!いってしまえ!
ごめんなさい…
いってしまいました
河川敷に来た。青いZくんだったものと共に。
冬の太陽は眩しい
休日の河川敷は子供連れの家族で賑わっていた。日差しは暖かく、まるで天国のようだった。
だれも悪くない…そう、だれも悪くないんだ
ガサガサッ。
物音がして振り向くとそこには見慣れた姿が…。
帰ってきた青いZくん
帰ってきたぜ!
というのは茶番で、青いZくんは生きていた。というか補修してより頑丈になって帰ってきた。
やっぱり解体している途中で踏ん切りがつかなくなってしまった。解体して盛大に焚き火でもしようかと考えていたのだが。
思えば、高校生が作った工作よりも大人になった今の方がうまく作れるだろう。今だからできることがあるはずだ。
頑丈になったのだと言います
プラスチックの球体の弱いところを補強した。口の部分と赤道?の部分。
筒を緩くし(そんなにピッタリである必要なかった)、息ができるように呼吸穴も増やす
ガムテープを使おう。見た目はちょっと危険な感じに。
布はできればミシンで縫ったほうがいい
目もビニール布じゃなくて伸びるやわらかい布にした
という感じで二晩かけて補修した。
肌にハリが出て若返った。頑丈になったし、かぶり心地もいい。最高だ。リインフォースドZくん、もしくはZZくんとでも言おうか。
息ができる!
押してもへこまない!
直しても今後見せ場はない
強度をチェックするだけで喜怒哀楽になるのがかぶりもののすごいところである。これがあったらモテるのではないかと考えるのもうなずける。
やっぱり補修してよかった。
頑丈になった黒歴史
黒歴史とは、封印された戦いの歴史である。
歴史は、残されてこそはじめて意味があるのではないか。そう思い、黒歴史っぽい甘酸っぱさ漂う青いZくんだが、10年ごしに頑丈にしてみた。この戦いの記録が後世に受け継がれて、よき未来につながったら幸いである。
ゆるキャラもメジャーになったのでもしかしたら今作ったほうがモテるかもしれないよ。
(基本的なかぶりものの作り方はこの記事に書いてあるので上記のポイントに注意してやってみて欲しい(「
かぶりものの作り方」)。僕もこれを読んで作りました。)