電話相談室にきいてみる
大きなチェーン店にはお客様相談室があるのでそこに電話をしてきいてみる。質問も条件をそろえるためにこれに決めた。
「他店にくらべてここのがおいしいと思うんですが……なんでおいしいんですか?」
今となってみれば、なんてあたまのわるい質問になってしまったんだろう。きかれた方も知らんがなとしか言いようがない。
すいません! あたまがわるいんです! すいません!
こだわってそうなハンバーガーから
とりあえずハンバーガーチェーン店あたりからきいてみる。はじめはモスバーガー。ポスターやCMなどからよくこだわってるイメージがある。
とはいえ何を言うかは大体想像がつく。チェーン店のホームページに書いてあるようなことだ。
「当店で、直火で、焼いています」と味の秘訣がおおっぴらに
おいしさの秘訣もりだくさん
店のポスターにはおいしさの秘訣が書いてあったしトレーにのった紙にも書いてある。「オーダーを受けてから」「ていねいにパティを焼く」「レタスは冷水に」などだ。電話できくとこの辺りを答えてくれるのだろう。
トレーの文面の最後には『「おいしくなれ」と心を込めてつくること』とある。おおっ、精神論である。こういうのを待っていた。根性で野球をやってた時代は終わりつつあるが、料理は今でもまごころで解決してほしい。
はたしてここまで答えてくれるのだろうか。精神論まで行き着くのだろうか。さあ、電話してきいてみよう。
最終的には精神論になる可能性もある
電話してみた
――あの、抽象的な質問で申し訳ないんですがいいですかね……
相談室「はい、おうかがいいたします」
――ここのハンバーガーがおいしいと思うんですよ
相談室「ありがとうございます」
――……なんでおいしいんですかね?
どうしてだろう。モスバーガーも大好きだしおいしさの秘訣も知りたいし、この流れ自体おかしくはないのだが、どうしてこうもあたまがわるそうなんだろう。
「…なんでこんなにおいしいんですかね」口に出すと感じるめくるめくあたまのわるさ
マクドナルドにもきいてみよう
モスバーガーからは「注文を受けてから作ること」「食材へのこだわり」「アメリカでは軽んじられてるパンもこだわること」などをスラスラスラ~っと一気に教えてもらった。さすがお客様相談室。精神論まではいかなかったが納得した。
さあ、これでモスバーガーのおいしさの秘訣は大ざっぱにつかんだ。この調子でいこう。次はマクドナルドあたりいってみようか。やっぱりビーフ100%あたりを答えるのだろうか?
マクドナルドにもきいてみよう。ところでモスバーガー340円に対しハンバーガーは100円である。価格が全然ちがうのでこだわるポイントもちがう
――マクドナルドのハンバーガーがおいしいと思うんですが、これって……なんでおいしいんですか?
「えーっと(笑)そういうことは大変うれしく思います」
ですよね、である。自分が食べているものにたいして疑問をもつとなんかあたまがわるそうですよね、である。
ちなみにおいしさの秘訣として答えられるのは100%ビーフだけとのこと。よっ、待ってました!と心のなかで唱えておいた。
「すいません、東秀さん、なんでおいしいんですか?」「ドミノ・ピザがおいしいと思うんですけど、なんでおいしいんですか?」
このあとは同じ調子で手当たり次第にきいてみた。笑われ、困惑され、感謝され、途中で(…これ、終わりがないぞ)と思ったときにちょうどお客様相談室のしまる5時になり全部で22店が集まった。
おいしさの秘訣、集まった。
これがおいしさの秘訣一覧。同じニュアンスのことは同色に
店でのおいしさの秘訣は食材より時間
できた、これがおいしさの秘訣一覧表だ。各店自慢の秘訣が並んでいる。だがよく見てみるとけっこう似たことを言ってるのに気づく。
たとえば「いい食材」を使用すること。契約農家だったり国産だったり程度のちがいはあれ食材がおいしさの秘訣である場合は多い。
しかしもっと多いのは「店で手作り」や「毎日お店に届く」といった時間に関することだった。ドミノ・ピザではおいしさの秘訣として「30分以内に届けること」の一点推しだった。たしかに冷めたピザではだめだということを小渕政権時に知ったが……それにしても潔い。
もちろんチェーン店においてはということなのだろうが、せっかくなのでむりやりでも言わせてもらう。おいしさの秘訣は食材より時間だ。
「ご存知かと思いますがカーネルサンダースが創業時から…」ええ、知ってます知ってます、あの人ですよね
創業時から変わらぬ味 vs 日々のリニューアル
おいしさの秘訣として相反する概念もある。「創業時から変わらぬ味」と「日々のリニューアル」である。
ケンタッキーフライドチキンでは「ご存知かもしれませんが創業者のカーネルサンダースが作ったレシピを…」と教えていただいた。あのカーネルサンダース! しかもそのレシピは数人しか知らない秘密のレシピであるらしい。「変わらぬ味」も「有名人が作った」も「秘密」であることも全部おいしそうだ。
(ところで匿名の料理上手が作ったあけっぴろげのレシピがクックパッドだとすると、ケンタッキーのそれは正反対のものとなる。)
一方、創業時からの古いレシピが重宝されたかと思うと「お客様の声を反映し日々リニューアルに励んでいる」と答えるところも多い。これはどっちもおいしそうだ。
相反する概念でも通用している。おいしさの秘訣の決め手は「言い切ること」にありそうだ。
(…しまった、泣き出さんばかりに感謝されてしまった)
感謝と噴き出しは半々くらいの割合
お客様相談室というのはたいへんな仕事であるらしい。家電メーカーに勤めてた人によると、クレームがつらすぎて体こわす人続出だそうだ。そんな中、おいしいのはなぜかというこども電話相談室みたいな質問がうっかり一服の清涼剤となる場合がある。
「ありがとうございます。たいへん励みになります」文字にするとなんでもないが、感情がこめられるとすごいパワーを感じる。
このパワーに我にかえる。アナと雪の女王で真実の愛が氷の世界を救ったように、大いなる感謝がアホを真人間に戻す。こんなことしてる場合ではなかった。ピケティでも読むか。タレント本コーナーに行けばいいかな。
ところでその一方、思わず笑われてた方もたくさんいた。割合は半々くらいだ。
印象的だった回答は天丼てんや
なるほど、そんな秘訣があったのか…
どの店も概ねサイトに書いてあるこだわり以上のことは教えてくれないのだが、天丼のてんやはちがった。
担当者に電話をつないでくれたうえで「天ぷらは油の温度が命だから油の温度をコンピュータ制御して揚げている」「食材も揚げ時間に合わせたサイズでカットしている」とのこと。
サイト上では「オートフライヤーを使っている」でかんたんに済まされてる部分なのだが、担当者の実感がこめられてて非常に説得力があった。
大ざっぱに秘訣に迫るはずなのに、いきなり核心に近いところを教えてくれた。
王将は関西発だからかやっぱりユーモアがきいていた
そしてついに出た、料理は愛情
もっとも印象的だったのは餃子の王将のお客様相談室。22店のうち終盤だったのであるが…
お客様相談室「おいしさの秘訣ですか…まず、愛情かと思うんです(笑)」
ついに、ついにである。もしぼくが現実主義の冷徹なコックだったとしたらここで考えを改めて王将に弟子入りしていたことだろう。
料理は愛情。その一言がききたかった。
その後餃子の王将さんは詳しい人に代わり、この担当者の方が息継ぎもせずにこだわりを一気に述べていたのにもびっくりした。
おいしさの秘訣を知るとおいしくなる
どうしてお前は中華料理チェーンの東秀においしさの相談をしているのだと隣で電話をきいていた妻がいう。
たしかにどれだけ気軽に利用できるかがチェーン店のウリなのかもしれない。東秀の人の声色にも困惑が見えた。
だがみなさんが惜しみなく教えてくれたおかげでおいしさの秘訣が大ざっぱに分かった。今後自分が料理するときに生かそう。
おいしさとはまず出来たて、作りたてである。そしていい食材にこだわって、日々味の向上にとりくむ一方、創業時の味を守るものである。なによりおいしさの理由を自信をもって述べることも重要だ。
その後、色々知ったうえでハンバーガーを食べに行ったらおどろくほどうまかった。待てよ。おいしさの秘訣とは「おいしさの秘訣を知ること」にあったのかもしれない。
うまい。たしかにアメリカではないがしろにされていたパンがしっかりとうまい日本的な味だ。