交通公園の自転車が乗れるようになった娘。自分のがほしいという
娘が自転車をほしがる
娘が自転車にハマった。児童交通公園の自転車を練習してようやく乗れるようになった。今度は自分のがほしいという。
子供用自転車は2万円くらいする。2~3年でサイズも合わなくなるし、当分は移動でなく遊び用だ。乗りたくなったらまた交通公園に行くのがいいと思う。
それでも彼女は5歳の誕生日プレゼントは黄色の自転車がほしいという。黄色を好む子は父親が好きなのだと友人にきいた。
わかった、作ってやろう。真っ黄っ黄なやつを作ってやろう。
かつて娘にダンボールでリカちゃん人形を作った。増え続けて今でもたのしんでいる。またこれをやるか
自転車なんて作れるのだろうか
ぼくは以前娘にダンボールでリカちゃん人形を作ってやったことがある。こまかい作業はけっこう得意なのだ。
しかし今度は自転車だ。人が乗るので家具のような強度が必要だしその上走る。チェーンの構造からしてもうわけがわからない。
キャスター付きのイスじゃだめなのか。彼女にきいてみよう。黄色のイスでどうだろう。
ホームセンターに来た。入り口では自転車が売っている。素通りして奥のDIYコーナーに
ホームセンターで素材から探そう
作るといってもいったい何で作ればいいのか。とりあえずホームセンターにきた。
そもそも自転車は何でできてるのか。鉄のボディとゴムのタイヤだ。ボディは直線が多いので木でなんとかするとして問題はタイヤだ。
タイヤくらいの大きさの丸っこいものを探したが砥石しかない。砥石を二つ平行にならべて上からゴムを巻くような……娘よ、砥石でいいかな。
でかい円盤状のものは砥石しかなかった。砥石か……。砥石の自転車に乗る娘か……
大きなホームセンターに
砥石もいいけどもっとタイヤっぽいものがあるんじゃないか。
翌日大きめのホームセンターに来た。ここにも砥石がある。よし、保険として砥石はキープしたとして新しいのを探そう。砥石が保険になるような状況はじめてだ。人生まだいろいろあるな。
娘よ、腹筋ローラーでいいかな
第一候補が砥石から腹筋ローラーに
早速発見したのは腹筋ローラー。これはいい。よりタイヤっぽい。ついでキャスターを発見。これもいいが、少し小さいしもっとタイヤっぽいものないかな……そう思って探しているとこれはというものを見つけた。
そう、タイヤである。
手押し車(ネコ車)のタイヤが売られてた。これだ!!
手押し車のタイヤをゲットした
売り場の中でタイヤが光り輝いていた。タイヤ、なんていいものなんだ。砥石とちがって空気も入るし体重をかけながら回すことができる(ベアリングがいらない)。至高の逸品だ。
手作り要素はへるが今回は出来上がりを優先させよう。このタイヤに乗る仕組みを考えよう。
フレームは塩ビ管いってみるか
塩ビ管でいってみるか
次にボディの素材だ。加工しやすさで木材か。しかし木でやると接合部が弱そうだ。もう少し強そうなものないか。
そういえば自転車のフレームは鉄の筒だ。筒だから軽くて強度がある。となると塩ビ管はどうだろう。ホームセンターの塩ビ管は接合部も売っているし、かなり硬い。加工もしやすそう。よしこれだ。
娘よ、おまえの自転車は塩ビ管だ。いざというときは雨どいにもなるぞ。
ホームセンター併設のハンバーガー店で設計図を考える。合計5時間いた。
ホームセンターの蛍の光をきいた
手押し車のタイヤと塩ビ管でどうやって作るか、ホームセンターの中で考える。午後3時にホームセンターに来たはずなのに午後8時の蛍の光をきいた。
自転車とはなにか、要素を書き出す。チェーンはむり、ブレーキいらない。三輪車のようにタイヤを直接まわすタイプの自転車になった。
自転車とはなにか? 要素を書き出してみる。カッコでくるんだチェーンとブレーキは早くも断念。
買ってきた。6400円。タイヤと塩ビ管と木材と金具。
自転車って安い
材料を買い揃えた。6400円(のちにふくらむ)だった。既製品だと丈夫で安全で速くて2万円である。既製品はお得だ。
そこに気づいてしまったので、さあ動機を切り替えよう。問題は金じゃない。気持ちだ。手作りの塩ビ管のぬくもりだ。
ここで週末が終わったので制作は翌週末に。その間に誕生日がきた。自転車をやると告げた。
いよいよ制作。塩ビ管のいいところはのこぎりですぐ切れるところ
いよいよ制作、だが問題は山積み
いよいよ制作に入った。まず設計図を見直す。成功の香りのようなものがまったくしない。前に進むというよりは、ぬかるみをずぶずぶと敗走しているような気分。
設計図といってもサイズは決まってない。娘がふだん乗っているストライダというペダルのない自転車のような乗り物を並べて大体のサイズをはかる。
(……もうこれでいいんじゃないか、ストライダの色を塗り替えてプレゼントすればいいんじゃないか)
悪魔のささやきがきこえる。今魔女裁判にかけられたら即火炙りになる自信がある。
「待っていろ、ネジ!」ハンズを前にしたとき大体こんな気分
「こわれるからやめておいた方がいいですよ」
手押し車のタイヤに合う高ナットないかなと思い東急ハンズにきた。
店員さんにきいてみるとなんとそれは特殊なネジで在庫がないという。ふつうのネジを使うとこわれますよ、とのことだった。
しかしやるしかないのだ。構造を思いつかないし時間もない。
こわれるからやめろと言われてそれでもやるのは、なんとなくヒザに爆弾抱えたヒーローの必殺シュートっぽいなと思った。だがこの先にまってるのはただゴミを生む物語の可能性が高い。
これが自転車のボディ。一見スーパーマリオのボーナスステージのようだ。そして二度見してもその思いはかわらない
タイヤをとりつける部分は金具と木で自作。不安しかない
この構造だとタイヤが回らない…これ以外にも何度頭を抱えたことか
作業と絶望
塩ビ管を切ってボルトとナットでつないではめて……このサイズではだめだ、この構造ではだめだ。何度も頭をかかえてはぎりぎりのところで踏みとどまる。
たとえ全てがうまくできたとして塩ビ管でできた自転車なんだよな。ふと我に返ると、崖にむかって歩いていくような気分になった。
ペダルとタイヤ部分できた。一応ペダルの仕組みは満たした
手押し車のタイヤを家に入れるとくさい
一旦寝て翌朝、妻が「くさいくさい、部屋がくさい」と騒ぎだす。たしかにくさい。手押し車のタイヤがくさい。
手押し車のタイヤは家に入れるとくさい。何事もやってみないとわからないものだ。
引き続き制作に。今日妻と娘は自転車売り場を見にいくという。なんならその場で買ってくれと言っておいた。弱気だ。
フレームとタイヤを結ぶ大事な部分。精度の低さよ…
ホームセンター通いはつづく。制作費は9000円くらいになった
いよいよ完成間近
ホームセンターにて足りない金具を買い足していよいよ作業は大詰め。制作費は合計で9000円前後となった。
市販の自転車は安い。安くてこんなによくできているものはない。だれだチェーンを考えたのは、だれだ車軸をこんなに丈夫に作ったのは。あなたの乗ってるそのママチャリ、それ人類の叡智です。ロードバイクは現代のオーパーツです。
タイヤとフレームが結合した。完成が近い
ハンドルもつけた。ちゃんとタイヤが連動して回る
ハンドルつきの前輪とペダルつきの後輪ができた
この前後のフレームをつないだらようやく完成だが……
そこに娘が帰ってきた。「何それ!?」見つかった!
「自転車だ!」そうだ、自転車だよ。黄色に塗れなかったけど君の自転車だ
「感動だ、かっこいい/ホームセンター感すごいな」二つの思いが交互にくる
すげえ、金田のバイクみたいだ
ついにできた。娘の第一声は「自転車だ!」であった。塩ビ管でできているのに……やった、成功だ(「塩ビ管だ!」といわれたらそれはそれで驚くが)。
見た目のことはなにも考えてなかったが、出来上がってみると意外とかっこよかった。AKIRAに出てくる金田のバイクみたいな雰囲気だ。それかホームセンターの資材置き場みたいだ。
似合ってる。カタログのようだよ。いや、ちょっと待て。やっぱりふびんだ。
はしゃぐ娘。ああ、うれしい。それめちゃめちゃ大変だったんだよ。だがもやもやもする。この気持ち、前も経験したことがある。ダンボールでリカちゃんを作ったときのそれだ。
喜んでくれてうれしいという気持ちと、こんなもので喜ぶなよというふびんな気持ち。両義的なこの思い、父の気持ちというのは子供の頃に思ってたよりも複雑だ。
お父さん、うれしいのと悲しいのとあります
自転車として乗れるはずだが…
ペダルを踏めば後輪がうごくはずだしハンドルで前輪の方向を変えられるはず。理論的には立派に自転車である。
さあ乗ってみよう。黄色にする時間はなかったけど、これはこれでかっこいいだろう。これが君の自転車だ。
もう最初っからすごい曲がり方をしている
前後が分断されるので手でバンバン叩いて直す新しいタイプの自転車。
その後もこまめに壊れ、娘は「これはおもちゃだ」と言いはじめる(なんてこというんだ!)。そして…
そうだと思っていたけど、むなしさがすごい
すぐ壊れた。塩ビ管自体が問題だったわけではなかった。力は接合部分に集中し、そこが弱かった。
もともと崖にむかって歩いていくような気持ちだったので案の定という思いもある。鳥人間コンテストというのがあるが、あれですぐに落下しながら「やっぱりなー!」と叫んでるパイロットはいるのだろうか。もしいたとしたらその気持ちだ。
ただ、わかっていてもむなしさはすごい。労力が少し大きかった。父親としても何もしてやれなかった。
まあ怪我がなくてよかったよかった。怪我させるようなもの作ったのはおれだけども。
さあ帰ろうと思ったが娘はとれたペダルを自転車のスタンドにして立てたいという。なんだそれは、そんなもの楽しいわけあるか。
こぐのをあきらめた娘がなにかを思いついた。ペダルを拾ってスタンドにしようという
立った。よく立ったな。
立ったことに大喜びする娘。待て、そんなにおもしろいのかそれは。自転車って乗ってたのしむものじゃないのか。
喜びすぎだ。それはそんなことのために作ったんじゃないんだぞ。だけどまあいいか。
最後に記念写真を撮る
自転車ってスゲーや……
普通の自転車を買うのがイヤで作ってみたが、終わってみれば普通の自転車ってスゴイという思いしかない。あんなよくできたものが20000円で売ってるのだ。部品代だけでもそれくらいいきそうなのに。
普通にあるものがスゴイ。目がくらむほどにスゴイ。でももしかしたらこれは彼女たちの見ている世界なのではないか。
あれスゲーこれスゲーと驚きにみちた世界。もう大体のことは知ってしまった今、あの世界にもどるためにはいったんアホになって自転車作りなおすしかないのではないか。
前にリカちゃんをダンボールで作ってから二年が経って娘は3歳前から5歳になった。
今日保育園に彼女を送って、そのままみんなと遊ぶ彼女を見てたら「行って!(早く)行って!」とせかされた。来たな、自意識。
行くけど、おれはやめんぞ。これからお前はどんどんいやがるのだろうが、自転車作ったりランドセル作ったりお前の見る世界をこっそりのぞいてやるからな。