記念すべき猛吹雪のオーナー日
10日ほど前から日程調整していた一日オーナーの日。
その日を迎えてみると、地元の人も驚くほどの大雪が降っていた。「ここ何日かはずっと晴れていて雪もほとんどなかったのだけど」、と地元の人から何度も聞いた。よりによって…なんて日だ!
初めての秋田、大雪です。
次はどこだか分からないくらいの大雪
東京なら交通が完全に麻痺しそうな大雪。しかし、この大雪でもお構いなしで運行するのが、秋田内陸線の特徴の一つでもある。
レールさえよく見えない。が、どんなに猛吹雪だろうが運行する、それが秋田内陸線
今回オーナーになった列車の始発は、秋田内陸線の本社が置かれ、東北の駅100選にも選ばれている「阿仁合(あにあい)」駅。路線のちょうど真ん中らへんにある。
列車は9:23に出発し、約1時間かけて南の終点・角館へ。その後、また北に向けて折り返すことになっている。
本社のある阿仁合駅の待合室にいた宣伝隊長の「じゅうべえ」くん。
だいぶ見た目がかわる気ぐるみ、じゅうべえくんとくまモン。マタギ文化のある地域に熊集合。
オーナーは無料で乗れる
オーナーになると特典がいくつかあって、ひとつはオーナー号に無料で乗車できるということ。
私は始発で角館まで乗ることにした。普通この区間を乗ったら急行で1600円のところ、オーナーなのでタダである。
これがオーナーの優待乗車証
駅舎からみたホームの景色。あ、あれがもしかして・・・!
1万円は除雪費用にあてる
それにしてもほんとに凄い雪である。そもそもこのオーナーが支払う1万円は、除雪にかかる助成金集めなのだそう。雪国ならではの苦労とアイデアだ。
駅舎からの眺めはまるで水墨画のようだった。その中に空のように爽やかな青色をした1両列車が停まっていた。
あれが私の「小堺丸子号」だ!
はしゃぐオーナー
だって自分の名前がついているのだ!
内陸線は虹色の7種類のカラーがあるそうなのだが、今回乗る列車は青。はからずも私の好きな色じゃないか。
これは記念や宣伝にいい
2つ目の特典は列車の運転台の前に自分が好きな名前(メッセージ)をつけることができるということ。個人名でもいいし、会社名でもいいし、犬の誕生日祝い号でも、お寿司が大好きだ号でもなんでもつけられる。
雪で隠れてしまう冬季以外は、本来は車両のヘッドマーク部分につけてもらえる。
これが本当に嬉しい。ちょっとお高めの寿司屋に入ってみたら「今日は半額だよ!」と言われた時くらい嬉しい。
ロゴマークまで!
名前を何にするのか事前に依頼しておくのだけど、今回は当サイト名と自分の名前をつけてもらうようお願いしていた。
するとご丁寧に調べてくれたようで、デイリーポータルZのロゴマークも入れてくれていた。感動!
ロゴまで入れてくれてる! あと、フォントが可愛らしい。よく見るとこれ切符の形?
ちなみにこちらが冬以外のときにつけるヘッドマーク。今回は車内に飾られていた。
小堺丸子号に乗り込むお客さん。どうぞどうぞ、とちょっと得意げに見守る。
出発時刻が近づき、列車に乗り込むお客さんたち。年配の方が多かった。
秋田内陸線は学校に通う学生や、車の運転をしない高齢の方、それと旅行者が主な乗客なのだ。
車移動の多い地域なうえ、鉄道と並んで国道が走っているため、じっさい地元の人が普段使っているかといえばそうでもないそう。
今回乗る列車もそうだが、1両あれば済んでしまうくらいの乗車率である。
意外と人がいるなと思ったらお見送りだった。
いよいよ出発。全く関係ない人達なのに自分も見送ってもらってる気分。
自分入れて10人くらいの乗客数だった
今回は女性のアテンダントさんも一緒に乗車してくれた。
アテンダントさんは車窓からの眺めをより楽しむために、列車が通過する地域の情報や撮影ポイントをマイクを通して丁寧に教えてくれる、秋田内陸線のお楽しみの一つである。
(※アテンダントさんは急行列車に乗務しています)
今日アテンドしてくれるのは武田さん。すごくいい声。
特別に車内アナウンス!
乗車後も特典があって、なんと運転手さんがヘッドマークに書かれたメッセージを車内アナウンスしてくれる。
今回はアテンダントさんが乗車するとのことで、いつものメッセージに加えて特別メッセージも読み上げてくれることに。これもなかなか経験できることじゃないぞ。
・・・といっても、なにを読んでもらおうか。堂々と自分の名前を列車につけてしまった手前、自分の名前を売り込んでおくべきだろうか。
しつこいぐらいにオーナーアピール
読んでいただいたのは以下のメッセージ。ここまで長いのは初めてだったようだ。
『このたびは、デイリーポータルZ 小堺丸子号にご乗車いただき誠にありがとうございます。 本日こちらの列車のオーナーになりました小堺丸子です。
キャプテン翼の作者が生まれたまちでもある東京のしたまち、葛飾区四つ木からやってまいりました。
名前の前についております「デイリーポータルZ」という毎日更新の読み物サイトでライターをしております。この秋田の内陸線と角館の様子をレポートする予定ですのでぜひごらんいただけると幸いです。
デイリーポータルZの小堺丸子、デイリーポータルZの小堺丸子。できれば今すぐ検索していただき、秋田内陸線の旅とともにお楽しみください。』
自分の名前が出るたびに超照れる。
事前にメッセージを作ったときは深く考えていなかったが、実際に良い声で読まれるとこれが大変恥ずかしかった。
乗客の反応がきになる
サイト名がデイリーポータ「ブ」ル、と読まれていたけれど、そんなに違和感がないのであまり気にならなかった。
それより、オーナーとして気になるのは乗客の反応だ。
ヒュー!と口笛が鳴る、とかはなかった。
反応は特に無し
メッセージ内に「すぐに検索して」と入れてみたものの、スマホを取り出すどころか少しも動きを見せる人はいなかった。かなり自己満足の世界だったようだ。
しかししつこく自分の名前とサイト名を入れたおかげで、宣伝にはなったはずだ。しかもこのアナウンスは終点まで、計3回もしていただいた。
ずっと乗っている人の中には私の名前が刷り込まれてる人がいるに違いない。
車窓からの眺め
さて私のメッセージアナウンスが流れたあとは、武田さんによる観光情報を聞きながら車窓からの眺めを楽しむのみである。
オーナーとしては、秋田内陸線からの情景をしっかり目に焼き付けておきたい。
雪まみれの家、雪まみれの木、雪まみれの川、雪まみれの山、雪まみれの地面・・・とにかく雪まみれだ!
撮影スポットである鉄橋や、かたくりの花が一面に咲く地域、夏には田んぼアートが楽しめる景色があるらしいが、今日に至ってはもうなにを見ても雪。
ちょっと残念だけど、東京育ちの私にはなかなか見られない光景でありこれはこれで秋田らしくていいかもしれない。じっさい、雪の降らない台湾からこの豪雪や樹氷を見に来る観光客ツアーがたくさんいるのだとか。
豪雪風景というのもまた秋田の見どころなのだ。
座席シートには季節のイベント情報があった
アテンダントさんによる情報で楽しむ
アナウンスによると、この内陸線はかつて北を走る旧国鉄阿仁合線と、南を走る角館線の2つの線があったのを、27年前に繋げてできたものらしい。
その繋げられた区間はレールが新しいので、一気に加速する。途中までトコトコと走っていたのが、途中で加速していく様子が雪の流れる早さでよくわかって面白かった。
豪雪のなか運良く見られたのが、5697メートル続くトンネルの中の光景。トンネルが直線に走っているため4700メートル先まで遠くの穴が見られる。さらに前方の穴と、後ろの穴の両方が同時に見える地点が10秒間だけある。これはみどころ。
オリジナルグッズ販売
アテンダントの武田さんは、アナウンス以外にも途中で乗ってくるお客さんに整理券を配ったり、秋田内陸線周辺の観光チラシを配ったりと忙しそう。さらには車内販売が始まった。
商品が売れるとオーナー的にもなぜかうれしかった。
人気のバター餅や1300円もするプレミアム馬肉シチュー、水やお酒まですべて秋田の名産。特に通過するエリアの名産がそろう。
お菓子は個包装でも買えるので、旅のお供にピッタリ。内陸線オリジナルの生キャラメルサブレ、珍しいいぶりハタハタなどを買った
オリジナルグッズで人気なのは、春夏秋冬のクリアファイル。冬はプロカメラマンによるものだが、それ以外は運転手さんがここぞという所を撮影したのだそう。(1枚210円。4枚セットだと120円引き)
オリジナルワンカップ。飲めないのに浮かれてる勢いで買っちゃった
さて、こんな感じで1時間ちょっとのオーナー旅はあっという間に終わった。
景色は雪ばかりで、車内からの撮影は白飛びばかりだったけど、それもまた思い出になっていいじゃないか。ここまで雪で隠されると、他の季節にまた来てみたいという衝動にも駆られる。
3回めのオーナーメッセージを録画してる人を発見! 嬉しい。
内陸線はほかにも貸切列車や、沿線の駅に止まるたびに農家のお母さんたちが旬の料理を持ち込んでくる「ごっつお玉手箱列車」、自動車で来たお客さんの車を降りる駅まで配送するサービス(冬季以外)なんかもやっている。
今の時期なら、雪のモンスターと呼ばれる凄まじい樹氷が見られるところまで、秋田内陸線+乗り合いタクシー+ゴンドラがセットになったお得なパスチケットがおすすめだ(
こちら)。
最後は秋田内陸線のオーナーらしく、宣伝をしてしまった。オーナーになると一気にファンになってしまうのだ。
ご乗車ありがとうございました!
愛しい丸子号
合計20人ほどを乗せ、美しい雪に覆われた日本の原風景を走り抜けた丸子号。鉄道のことはあまり興味も知識もなかったけれど、自分の名前がついたらそれはもう愛おしかった。
車利用が多い地域のため乗車率はいいと言えず、苦戦している様子の秋田内陸線。このワンデーオーナー号で少しでも応援できて、しかもこれだけいい思い出になるならみんな一度はなってみたらいいと思う。オーナーになるっていいなあ。
あとで記念写真もいただいた。そしてこの歴代のオーナーマークはちゃんと保管するそうだ。嬉しい。
取材協力:秋田内陸縦貫鉄道株式会社、秋田内陸活性化本部、秋田県(ワンデーオーナー号の案内は
こちら)