「いいなぁ~」どころではなく年末の秋田、寒いです
鉱山で栄えた町に
食べに行ったのは昨年末の帰省時。小坂町は昔鉱山で栄えた町だそうだ。
昔は山の中にあるのに秋田県第二の都市で、水と電気はタダ、でかい芝居小屋があったりする。当時は「そこに理想郷を作ろうとしていた」と観光パンフレットにもあったように思う(※なくしたので確認できず)。
それはもうとんかつをラーメンに入れるくらいの活気だったのではないか。入れちゃえ、もイケイケの町が生んだ文化なのでは。
バスで1時間近く。地名に「雪」がつくところを抜けたり
遠いぞ
小坂町までは大館駅からバスが出ている。地元の高校生が大勢乗り込んできた。おっちゃん達のなまりはきついが、高校生のおしゃべりをきいてるとなまりがない。彼らはみんなイオンで降りていった。こういうところでなまりを落としてるのではないか。
バスは一時間乗る。地名に雪がつくような場所をどんどん行く。バスが雪に乗り上げるとバシャーンという聞いたことがない音がした。
一軒目、焼肉屋のかつらーめんに。後ろに見えるモスクみたいなものは町の保健センター
焼肉屋のかつらーめんに
かつらーめんは町おこしとして多くの店で提供されている。発端となった店の取材まで時間があったので、他の店のかつらーめんを食べにいった。
見つけたのは焼肉屋のかつらーめん。焼肉屋にはとんかつもラーメンもないだろうけど、どういうことなんだろう。
焼肉屋だが思ったよりも麺がある。あった、桃豚かつらーめんというらしい
地元の豚を入れればなんでもいい
店員さんに話をきくと、かつらーめんは地元の豚をつかえばラーメンはなんでもいいらしい。ルール型のB級グルメだ。味の自由度は高い。
じゃあそのかつらーめんをお願いしますといったら、たたらかつ麺とがんばるかつ麺があり、そこから塩、醤油、味噌があるらしい。合計6種類だ。おおお、自由を満喫しすぎだ、それは。
正解は6分の1。たぶんもう二度と来れない店だ。「すいません、どれをたべればいいですか?」思わずきいてしまった。
「すいません、どれをたべればいいですか」と泣きついてクッパスープの味噌味が出てきた。とんかつ、ラーメン、クッパ、味噌。かつらーめん、思ったより要素が多いぞ
ラーメンもいいが、とんかつがうまい。脂が甘い。でもとんかつをのせるのはなぜだろう? お得感は強いが…
ルールであるとんかつがうまい
かつらーめんはかつがうまい。桃豚という地元の豚が、脂が甘くてうまい。
ラーメンもいいがこれはあと5種類あるのでどれが最高かはわからない。おすすめしてもらったのは味噌味のクッパスープに麺を入れたラーメンである。(……クッパに麺を!?)とまずそこから驚かないといけないのでとんかつとラーメンの組み合わせが遠い。
そういえば今わたしは秋田県と青森県の境目の焼肉屋でクッパスープに味噌で味付けたものにラーメンととんかつを入れてたべている。ただの昼飯ではあるが、どうしてこんなことになったのだろうという気もする。
かつがうまいんですよ。なぜ一緒にたべるのかはわからないが
なぜらーめんにかつを入れるのだろうか
かつらーめんはたしかにうまかったが、なぜラーメンにとんかつを入れるのかはたべてもよくわからなかった。
かつもうまかった。ラーメンもうまかった。
ということはやはり(……じゃあ入れちゃえ!)なんだろうか。(鉱山の景気もいいし、ラーメンにとんかついっちゃえ!)なんだろうか。
小坂町の観光スポット小坂鉱山事務所。しめ縄が飾ってあった
「あれ? 年末でお休みなんじゃない?」「年末でお休みなのよ」「そうよそうよ」
すべてお休みで遭難しかける
やはり発祥の店に行くしかない。しかし訪問まで時間がある。観光でもするかと思ったものの、ディーゼルを運転できるレールパークも明治の芝居小屋康楽館も年末ですべて休みである。やばい。遭難する。
とんかつとラーメンだなんてへんだへんだと、へらへらしながら行くには年末の秋田は厳しい。唯一やってたカップがハートの喫茶店で時間をつぶした。非常にファンシーだった。
ファンシーな喫茶店一択であった
かつらーめんの発祥の店、奈良岡屋
かつらーめん発祥の店に
午後2時、腹が空かぬままかつらーめん発祥の店奈良岡屋に。日本料理と書いてある。なぜここがかつらーめん発祥なのだろう。
日本料理のお店。検索で評判を知ったが美味しい店らしい
30年前のお客さんの注文で
「ここはもともと大衆食堂で私で3代目なんです。かつらーめんは2代目の頃に。私が高校生で30年くらい前ですね」
店主の奈良岡忠さんは語る。
「夏にお祭りがあるんですよ。制作に1ヶ月あるんですけど、若い人たちが夜食として食べに来てたんです。
ラーメンだけじゃ物足りなかったんでしょうね、あるお客さんがカツ丼とラーメンを一緒に食べたいといったんですね。そこでラーメンの上にカツ丼の具をそのままのっけたんです。
そこから裏メニューとしてずーっとあった。当時の方は今でもたべに来られますよ。それで今年かな、かつらーめんを使った町おこしをはじめたんですね」
なんとかつらーめんは、そのままズバリ"カツ丼とラーメン"なのだった。小学生が考える夢のメニューみたいなものが何十年もつづいたのだ。
食堂としてのメニュー。これ以外に日本料理も夜はある
これが発祥の店のかつらーめん。800円。
外が寒いのでラーメン人気もよくわかる。町おこしにもたくさん人が来たそうだ
途中でカツ丼味に変わる
「最初にスープを飲んでください。食べ終わる頃には卵とじから甘みが出てスープがちょっと変わるんです」
おお、そういうのミスター味っ子で読んだことある。あるお客の思いつきにしてはグルメマンガばりのギミックだ。
汁を飲んでみる。くわー、うまい。この辺りのラーメンに多い煮干し味だそうだ。外は寒かったのでしみる。
煮干し味は今東京でも人気ですねというとじゃあ弘前の高橋食堂がうまいですよといっていた。今ラーメンレポートなのに別の店をおすすめしているな。
煮干しだしのすっきりした味が
最終的にはカツ煮の味になってくる
うめ~
カツ丼の具がそのままのっている。とんかつは例によってうまい
料理人としてどうなんですか?
――奈良岡さんはかつて東京で板前してたんですよね。料理人としてかつらーめんはどうなんですか?
「昔からあったので違和感はなかったですね。料理としてみてもいいと思いますよ。これはこれで。
最初はすっきりとしたラーメンの味なんですけど、最後の方はまったりとしたおでん風というか甘めのだしに変わってる。ほんとにカツ丼とラーメンの間の味でしょ」
終盤、スープの味は甘くなった。カツ丼も煮干し味のラーメンも好きなので幸せな時間だった。やはりとんかつ入りラーメンというわけではなく、カツ丼とラーメンを合わせることの妙があるようだ。
「スープは昔からほとんど変わってない。今は隠し味に生ハム入れてるんです」変わりますか?「コクが出るっすね」550円のラーメンなのに…
第二のかつらーめんは生まれないのか?
――今、カツ丼の具をラーメンにのせてくれみたいなへんな注文はないんですか?
「ライスくれっていうのはありますよ。かつらーめん頼んでライスの上にそのカツを載せるんですね」
それはもうただのカツ丼とラーメンである。カツ丼とラーメンたべたい!という欲望から出発し、最終的にはそのままやってるという。ねじれた現象が起こってる。
「あとはかつらーめんに天ぷらのせてくれっていうのはありましたね。よっぽどくどいのが好きというか。それも今、天玉カツラーメンとして裏メニューとしてあるんですよ」
また新たな伝説ははじまっているみたいだ。カツ丼と天丼とラーメンたべたい。私たちの短絡的な欲望がまた新たな文化を生み落とす。
これでもかとバカでかいラーメン写真を載せすぎたのでバランスとるために大館駅のくつろぎコーナーも載せておきますね
これでもか!
ラーメンにかつ丼入れちゃってよ
「人が少ないからなんでもやらなくちゃと思って」と奈良岡さんは大衆食堂のメニューと板前として修行した日本料理の両方をやっている。
小坂町の鉱山はもう採掘はやってなくて最盛期3万人近くいた人口も6000人くらいだという。当時の町はすごかったのだろう。祭りも活気があったのだろう。
「入れちゃってよ、マスター。もうカツ丼をラーメンに入れちゃってよ」
スープに耳をすますとそのときの声がきこえるようだ。(ところでラーメンのスープに耳をすますと非常にバカらしい見た目になる)
今や鉱山は精錬技術をいかして携帯電話や自動車の触媒から金などを回収しているという。都市型鉱山だ。規模は小さくなっても活気はある。
「マスター、入れちゃってよ。カツ丼にラーメン入れたのにさあ、天ぷら入れちゃってよ」
こうしてまた新たなメニューが生まれていくのだろう。
奈良岡屋
住所: 〒017-0202 秋田県鹿角郡小坂町小坂鉱山栗平19-5
電話:0186-29-2040