きっかけは信玄餅
いささか取り乱してしまい申し訳ない、順を追って説明しよう。
きな粉好きのみなさんにとって山梨といえば信玄餅であることに間違いはないと思うのだけれど、信玄餅を食べるにあたり、ひとつ理解しておかなくてはいけないことがある。
これが信玄餅。
それは餅は言い訳にすぎない、ということだ。
つまり、である。
信玄餅を食べたことのある方はお分かりかと思うが、あれ、実はメインは餅ではなくきな粉と黒蜜ではないか。
信玄黒蜜きな粉、と言っていい。
つまりきな粉と黒蜜さえ食べられたら軸の部分はもはや餅でなくてもいいのではないだろうか。
今回はそれを確かめるため、餅に代わるいろいろな食材を用意し、それぞれにきな粉と黒蜜をかけて食べてみることにした。餅はわき役、という仮説を証明するのだ。
まずはこちらから
信玄マシュマロ
マシュマロである。キャンプで木の枝に刺して焼くあのキャンパー風情、かつては「へー!」って驚かれたけど、今はみんな知っているから気をつけろ。
現代アートっぽくなった。
見た目は現代アートっぽいが、なんとこれが非常に美味しいのだ。
マシュマロのじゅわっとした歯ごたえがきな粉と黒蜜の優しい甘さをうまく我々に届けてくれる。マシュマロの甘さ加減も黒蜜を邪魔することなく、実になんともちょうどいいのだ。
信玄うどん
次にうどんである。ピンときた方もいるかと思うが、そう、家にあったものからランダムに試している。
イカじゃないです。
なんとこれも非常に美味しかった。
うどんのほんのりとした塩気がきな粉と黒蜜に合わさって上品な味わいとなっている。歯ごたえも餅に近いため、違和感のかけらもない。逆に今までなかったのが不思議なくらいである。
信玄とうふ
一丁。
ここまで順調に来ていたのだけれど、ここでいったん立ち止まって考えたい。これは合わない。
豆腐のなめらかな口ごたえにきな粉の粉っぽさ、物質っぽさが溶け込まない。一緒に口に入れるときな粉だけが上あごの内側に張り付いて非常に不快。味どうこうというよりも食感的に合わない。
信玄たまご
いよいよ冷蔵庫の整理っぽくなってきた。今度はうずらの玉子である。ゆでてある。
見た目はなかなか可愛い。
しかし残念ながらこれも合わなかった。
きな粉の豆特有の香りが際立ち、玉子の生臭さを増徴させる。さらに黄身のぱさぱさした食感ときな粉の粉っぽさがかけあわされるのも個人的に辛かった。これはない。
猫はすべての匂いを嗅ぎにきたが。
ないね。
信玄寒天
気を取り直して寒天である。今回もっとも餅に近いポジションにいる食べ物だろう。期待できよう。
見た目もばっちり。
これは間違いない美味さだった。こういう食べ方が推奨されてもいいのでは、と思わされる。もしかしたら僕が知らないだけですでにきな粉黒蜜寒天みたいな食べ物ってあるのかもしれない。いわば鉄板というやつである。
信玄チーズ
そして問題のチーズである。正直言ってまったく期待していなかった。
美味いわけがないと思っていた。
見た目からしていまいちだし。
!!!
きな粉にチーズでブルーチーズ
ここでタイトルに戻るのだが、これがまさかのブルーチーズみたいな味なのだ。ブルーチーズというかゴルゴンゾーラというか、とにかくクセの強い青かびチーズといった印象。
思い出してほしい、そういえばきな粉って遠くの方でうっすらカビっぽい香りがしないか。実際は豆の香りなんだろうけど、どこかホコリっぽい、実家の納屋みたいな懐かしい香り。これがチーズの濃い塩気と、それに黒蜜の深い甘みと結びつくことで奇跡が起きたのだ。
これはワインでも飲みたくなる、ちょっとしたつまみである。
信じられないことが起きた。
要するにきな粉と黒蜜がうまい
結果としてチーズがブルーチーズっぽい味になる、という発見に全部持って行かれた感があるが、その前までの段階で判断すると、きな粉と黒蜜の組み合わせがマッチするのはやはり餅が一番、と言えるんじゃないかと思う。うどんとかマシュマロなんかもいい線いっていたが、信玄餅か信玄うどんか、って言われたらやはり餅を取るだろう。餅は言い訳、とか言って悪かった。これからも山梨に行くたびに僕たちは信玄餅にお世話になると思う。