昨年末の秋田はよく雪がふったそうだ。食べ放題である
子供は自由に実験できない
大阪育ちで雪に縁のない人生を送ってきたが、妻の実家が秋田にあり毎年雪にまみれることになった。そこで思い出したのがあの昔話だ。
唐辛子を持って雪の世界に出られるチャンスなんて子供にはそうそうない。……スキー合宿にスキーの代わりにペペロンチーノの用意持っていくとかか? そんなの親となった今の自分でも許しがたい。おれはゲレンデでパスタ作る人間に育てたおぼえはないと。
一方、大人は自由だ。スーパーで柿と唐辛子を買ってすぐ外に出られる。お義父さんが車を出してくれてお義母さんが「何に使うの?」と訊いてくるのを沈黙で耐えられたら、あとはぼくらの自由時間だ。
スーパーで買った富有柿。うまそうだ。外でなければ。
どれくらい耐寒できるか時間をはかる。タイムをちぢめるために薄着になった。長袖の下着をまくって半袖に。あたりまえだけど寒い
薄着になって耐寒タイムアタック
実験は「柿くってるのと唐辛子くってるのではどちらが長い間雪の中にいられるか?」をはかることにした。
ストップウォッチを押すのも自分だしほぼ主観によるペラペラの実験である。しかしいいのだ、かねてからの疑問なので自分の感覚として勝者がわかればそれでいい。
時間も下手に着込んで長引いて風邪でもひいてはいかんなと思い薄着になった(※のちに風邪をひく伏線はここです)。長袖の下着をまくって半袖一枚に。
柿にかぶりつく。冷たいが甘い。この甘さがカロリーに変わっていくのだと信じたい。
柿のタイムアタックスタート
さあ、まずは柿だ。柿商人の気分になって柿をたべよう。ああ、おれには柿があってよかったなあ……と。外はこんなに寒いけどおれには柿があるんだもんなあ(※この辺りは意志の強さが必要)。
かぶりつく。歯が冷たさに当たる。しかし雪よりはましだ。柿でよかったなあ。
なによりうまい。「新型iPadの動きはサクサクのぬるぬるだね~」とかいわれるが、柿もそうだ。サクサクだしぬるぬるだ。新型のIT機器はだいたい柿っぽい。モグモグ。柿でよかった。
それにしても寒いなあ。
くぅーっ、寒い…
寒いのはずっと寒い
なぜ唐辛子vs柿なのかというと、柿がからだを冷やすものといわれてたからだそうだ。
処刑される前の石田三成が「体にわるいから柿はいらない」といった話もそう。冷えるから。昔の人は柿を冷えピタくらいに思ってたんじゃないか。
冷えるかといわれたらたしかに熱くなる要素はない。しかし栄養価は高いしこのカロリーの燃焼は期待できそうだ。昔話のように一晩勝負ならこっちが有利だろう。
ところでいつとけるのかなこの雪は。そろそろ監督からオッケーが出て秋田の雪がいっせいにとけたりしないのかな。
体のはしっこから感覚がだんだんうすれていく。寒さに身悶えはじめる。
さむーっ! 体が耐えかねてきたのか勝手に動きはじめる。手の先から感覚がうすれていく
ギブ!してから家までそこそこある。走る
タイムは……20分もいってないのか
タイムは18分43秒
寒さに耐えかねてギブアップ。家に入ってメガネ、カメラ、スマートフォンとすべてを一瞬でくもらせて時間を確認。見えない。よし、メガネをふいて見えた、18分43秒。
雪の中薄着でいると18分くらいが人間のがまんの限界だということにしよう。19分以降は超人である。
体感として柿による冷えはたしかにあった。ボリュームがあって水分があるのでじんわり冷える。冷えるというかさびしい気持ちになる。いや、さびしい気持ちになるのは実験そのものに対してなのかもしれない。
柿は冷えるがまあこんなものだろうというか、水を飲んだり雪を食べるよりは全然ましという印象。ただ外が寒かった。
石油ストーブを菩提樹と呼ぶことにした
お料理・漬物・そのへんの雪に!!
商人、こんなものを食っていたのか…自分の商売を呪っただろう
唐辛子に雪、スタート
ストーブの前でしっかりあたたまったら今度は唐辛子編である。唐辛子売りっぽく鷹の爪を買ってきた。
さてどうやってたべるのだろう。これ一本たべたら大変なことになるだろう。唐辛子を少しかじっては雪を食べる、これでいこう。
子供のころは(唐辛子がおかずで雪がごはんなんだな……)ととらえていた。もしそれがただしいならここにあるのは全てごはんである。
白銀の世界は白飯の世界。目にうつるすべてが主食。雪国ははたしてそんなわんぱく理想郷になるのか。さあ、ためしてみよう。
唐辛子をかじってそのへんの雪をたべる…
冷たいと辛いと不味いが混じった身体の動き
思った以上にうまくない
辛い、冷たい、不味い。3つ揃って唐辛子と雪が憲章っぽくなったところである。これは相当だぞ。
となりでは柿売りが柿くっているのである。おれがくってるのはなんだ。罰か。唐辛子売りの絶望が憑依してきたかのようにがっかりきた。自分の商売を、そしてこの世界を呪うようなダメさだ。
なんとかならないか。もうちょっとなんとかならないか。
辛さで満月の晩に大猿になった感じが出てきた
雪は第二層をくえ
試行錯誤してすこしわかった。表面の雪がとにかくまずいのだ。時間がたって氷になってホコリっぽい。なので雪をたべるなら表面から少し掘ってふわふわの層がよい。雪職人からの教えとして代々うけついでもらいたい。
唐辛子の辛さと雪の冷たさは改善しようがない。改善どころか唐辛子の辛さは後になるほど増すように感じる。
どんどん辛い。食物の罰ゲーム化がどんどん進む。
時間がたってきて伸びてきた辛さ。雪の冷たさとかどうでもよくなるくらい辛い
たしかにあたたまるのもわかるが…
辛さがひどい。グエーと怪鳥音を発したり、犬の舌のように外気にあてたりしはじめた。体も動きはじめる。むだに歩き出した。なぜ動いたのかわからないが足が前に進む。辛さで人は足を進める。
もしかしたらこれは唐辛子に体のコックピットをのっとられているような状態ではないか。唐辛子に支配された人間、それが今だ。
だがかなしいことにその分体はあたたまる。ほとんどは悶絶によるところなのに、体が動いてあたたまる。たとえばゾンビもなってる側は幸せだったりするのだろうか。
だけどこれ、めちゃめちゃに疲れる。体のカロリーを使ったあたたかさだ。
唐辛子による最大の効果、罰ゲーム性の高まりにより孤独がまぎれる
ショーシャンクの空に
へとへとになりギブアップ
たしかにあたたかい。だが猛烈に疲れる。
唐辛子の薬効としてのあたたかさはすでにテレビで知っていた。実験で唐辛子の風呂に入ったら雪の中でもおどろくほど長い間平気だったのだ。鉄腕ダッシュか何かで見た。
だが実際に感じたのはもっとがむしゃらなあたたかさだった。「辛い→動き回る→あたたかい」という図式である。でもこれって「痛い→動き回る→あたたかい」でも代替可能ではないか。唐辛子でなくてもムチでいいのではないか、ムチで。
体が疲れたので休む。冷えがやってくる。もう動きたくないという思いが先行してギブアップ。
写真にダイナミズム宿ってきた。人生がアート化する前に屋内に避難を
タイムはなんと……なんて書いてあるんだこれは
20分超え! 唐辛子の勝利!
タイムは22分13秒。いったん体が冷えてからなので後の実験のほうが不利かと思ったが唐辛子の勝利だった。
童話はある程度本当だ。たしかに体感でもあたたかった。そしてそれはマラソン大会みたいなあたたかさだった。
だがもうちょっとなんとかならないか、唐辛子売りのあの絶望は。もうちょっとましにしてあげられないのか。
ということでもう少したべやすくしてみた。
後世に唐辛子に雪レシピを伝えるべく、まずはふわふわの雪の層にたどりつくこと
そして写真だとわかりにくいですが、ガムシロップをかけます。劇的にたべやすくなります
唐辛子は一味が調整しやすいです。さあ雪のホットスイーツの完成
コンビニでコーヒー買って。雪と合います
お知らせです、雪がたべられるようになりました
唐辛子売りの昔話を今の現代に生かすべく、ガムシロップと一味をかけて雪をたべることにした。これがなかなかうまかった。
あそこの店はふわふわのかき氷、とかいうだろう。しかし雪にはかなわない。雪こそふわふわである。
そして雪を劇的にうまくするのはシロップだったし唐辛子もピリッと大人の味にしてくれる。銀世界が一面スイーツになる。
雪国育ちの妻にたべさせてみると意外にも好評価。スキー大会中の水分補給にたべることはあるが……シロップすごいとのこと。
さあ、これで食べ放題である。あとは好きにやっていただいてけっこう。
雪国育ちも「……うまい」できた、雪2.0
唐辛子入り雪はあたたまるけどわりとひどい目
昔話に書いてあることはあながち間違いでもなかった。唐辛子をかけた雪はたしかにあたたまる。しかしそれは舌の痛みや体の疲れと引き換えによるところが大きい。一晩勝負だと柿ではないかという気はいまだにする。
たとえあたたまったとしても唐辛子をかけた雪をくうひどさはずっとある。なのでもし雪をたべたい方はガムシロップをお忘れなきよう。
もちろんあたたまるといってもそれは比較的ということであって体はきっちり冷えたみたいで風邪をひいて正月はまるまる寝込んだ。あけましておめでとうございます。
これだけ遠いと裸になってもわからないなとシャツを脱いでみたが、やはり寒かった。風邪をひいた