カンガルーのほうが多い
カンガルーって、オス同士がボクシングしてるようなイメージがあるけど、ふれあいに行って蹴られたり殴られたりしないだろうか? そんな不安を胸に抱えつつ、動物園に向かう。
折尾駅で列車を乗り換え、二島駅からさらにバスで20分ほど。響灘緑地公園の中にある「ひびき動物ワールド」のカンガルー広場を目指す。
響灘の寒風吹きすさぶなか、小雪も舞い始めた。端的にいうと寒い。
寒い
こごえながら広すぎる公園内を抜け、カンガルー広場までやってきた。
ぼく以外にお客さんがいない
カンガルー広場入場料300円を支払い、中に入る。
園内はちょっとした広場にカンガルーが放し飼いにされており、カンガルーたちは思い思いのかっこうでくつろいでいる。
ホントにカンガルーだらけだ。
カンガルーだらけ!
小屋の辺りに固まっている
寒いためか、カンガルーは小屋の周りや壁面に寄り添うように分散して固まっていたのだが、少なくとも、この公園に入ってからここに来るまで出会った人間(職員7~8人、客1人)よりも、ここのカンガルーの方が多い。
実はかわいい
「ふれあえる」というふれこみなので、さっそくカンガルーにさわってみたい。おずおずと近寄り、カンガルーのせなかをなでなでしてみる。
やわらかーい(あたりまえ)
カンガルー。おとなしいし、さわられてもぜんぜん嫌がらない。毛も思いのほかやわらかく、あったかい。
ケンケン吠える犬よりもよっぽどこっちのほうがいい。
あれ? よく見ると、かわいい……
か、かわいい!
いままで、動物園のカンガルーは檻ごしか、離れてしか見たことなかったため、こんなに愛らしい顔つきをしてるとは不覚にも気づかなかった。
そうか、カンガルーってかわいかったのか。これはもっと一般に周知されてしかるべき事実だ。
こんなに近づいても嫌がらない
天気が悪いとケンカする
しかし、カンガルーといえば、なぜかボクシングのイメージがある。立ち上がってケンカする姿が、ボクシングしてるように見えるからだ。
ここのカンガルーはボクシングしないだろうか? と思っていたら、折よく後ろでボクシングがはじまった。
なにコラ、タココラ!
お互いのゆるいパンチが炸裂
これがかの有名なカンガルーのボクシング……。でも、じゃれてるようにしかみえない。
近くに飼育員さんがいたので、話を聞いてみた。
――これがあの有名なカンガルーのボクシング……ですか?
「そうですね。天気が悪かったり、気温が低かったりすると、機嫌が悪くなってよくケンカするんですよ」
――じゃれてるんじゃなくて、ケンカしてるんですよねこれ?
「ええ、オスはこうやって群れの中での順位を決めてるんです。彼らの中には飼育員も含めて序列があるんですよ」
――え? 飼育員にも序列あるんですか?
「あります、飼育員でも順位が低いひとはナメられてて、カンガルーが言うこと聞いてくれなかったりしますね」
飼育員も含めての順位があるのか!
すべてのカンガルーに名前がついている
この「ひびき動物ワールド」にはカンガルーの他に、ワラビー、ワラルー、ウォンバットなどの有袋類が約250頭が飼育されており、なかでもカンガルーは110頭を数える。
――もしかしてこれ全部に名前ついてるんですか?
「ついてますよ、一応ICチップで管理してますけど、近づいて顔みたらわかります」
110頭全部顔が違う(らしい)
――すみません……全部同じように見えます
「いや、一頭ずつ全部顔つきちがいますよ。すごい飼育員になると10数メートル離れててもちゃんと名前言い当てられるぐらいですから、体つき、毛並み、顔色みんなちがいます」
――顔色?
「具合の良し悪しがわかるんですよ、体調がいいとか悪いとか」
カンガルーにも顔色がある。近頃、人の名前や顔でさえ覚えられなくなったぼくにとっては信じがたい話だ。
生まれた時期がわかりやすいように五十音順で名付ける
カラスにいたずらされて耳が欠けてしまった子カンガルー、おのれ、カラスめー!
110頭もいるカンガルーの名付けも、ただ適当に名づけているわけではなく、生まれた時期がわかるようにあいうえお順に名付けをしているという。
「順番もですが、例えば、月ちゃんの子供はムーンみたいに家族で関連のある名づけしてるんです」
よく、動物園で飼育している動物の名前がお菓子の名前だったり魚類の名前だったりすることがあるけれど、もしかしたらこういう理由かもしれない。
飼育員さんが「でっぱちゃん」と呼んでいた出っ歯の女の子
小型化している
おやつの時間だよー
しばらくすると、おやつの時間がやってきた。飼育員さんがおやつを持ってくると散らばっていたカンガルーがわらわら集まってきた。カンガルーのおやつは、干し草だ。
うわー
このどさくさに紛れてもうちょっとカンガルーとふれあってみたい。
はぁー、ほんとめんこい
カンガルー、干し草食べてる中に割って入っていってもまったく怒らないし、おとなしい。これだけ数がいても、思ったほど大きくないので威圧感はない。
耳打ちされてるみたいに撮れた
――カンガルーってそんなに大きくないんですね。
「ここのカンガルー、じつはほかの動物園のカンガルーに比べてすこし小型なんです。お客さんに言われて気がついたんですけど」
――それは、ここで繁殖しているうちに小型化していった?
「そうですね、おそらく環境……要するに本気でケンカしなくても生きていけるので、無理に体を大きくする必要がないというのと、あとは近親交配の影響ではないかと」
――最初何頭からスタートしたんですか?
「たしか、ここが開園したのが平成元年と聞いてますが、その頃は6頭から始まったんです」
6頭が110頭に増えた26年間で進む小型化。ガッツかなくても生きていけるぬるい環境が体を小さくさせたというのは興味深い。動物ってこういう感じで進化していくのだろうか?
袋は清潔
カンガルーといえば、やはり袋がどうなってるのか気になる。今、袋で子育て中のカンガルーに子供を見せてもらった。
子カンガルー、顔だけ見えるのがまたかわいい
――カンガルーの袋がくさいって話ありますけど、ホントですか?
「あー、テレビCMで言われはじめてから、よく聞かれるんですけど……そんなにくさくないとおもいますけどねえ」
――実際はそうでもない?
「もちろん動物のにおいはしますけど、カンガルーはきれい好きでちゃんと手入れしてるから、そこまでくさいとは思いませんよ。ただ、おばあちゃんのカンガルーはあんまり手入れしないからちょっとにおうかもしれませんけど」
においがくさいかどうかは主観によるところが大きいのに「くさい」と言い切ってしまう豆知識の自信はどこからくるのか? よくわからないが、実際はけっこう清潔らしい。
袋はこまめになめて手入れしている
おっぱいを飲ませ合うカンガルー
よく観察していると、他のカンガルーの袋に顔をつっこんでるカンガルーを見つけた。袋に頭を突っ込んでるカンガルーはどうみても大人。なにしてるんだ?
頭つっこまれてるよ?
――そこのカンガルー、他のカンガルーの袋に頭突っ込んでますけど、なにしてるんですか?
「あぁ、これ、おっぱい飲んでるんです、カンガルーのおっぱいは栄養があるから、他のメスや大人のカンガルーでもおっぱい飲むんです」
――えー!
「ただ、おっぱい飲ませてくれる子と飲ませてくれない子がいるんですよ、性格ですね」
っちでもおっぱい飲んでる!
性格ですねっていうか……たぶん、こういうのはカンガルーが生きていく上での知恵というか、習性なんだと思うけれど、無駄にドキドキしてしまうのはなぜだろう? 想像力がたくましい人なら鼻血のひとつやふたつは出そうな話だ。
ジャケ写っぽい写真撮れた
想像以上だった
カンガルーについて、そんなに思い入れもなく、いっぱいいたらインパクトある写真撮れるかなーと、軽い気持ちで訪れたところ、カンガルーの想像以上のかわいさにやられた。
オーストラリアでは野良カンガルーに餌付けしているところもあるというが、日本でいうところの猫の位置づけではないか? うらやましい限りだ。
せめて、これからは積極的に西濃運輸を使おうと思う。