沖縄の磯には有毒生物がいっぱい!
12月上旬、僕は沖縄へ出張していた。せっかく暖かい沖縄まで来たのだから、ちょっと外遊びでもということで、仕事の合間に現地の友人らと連れ立って夜の海辺へと繰り出した。「イザリ」という遊びをするためだ。
沖縄には磯遊びに適した遠浅の海辺がたくさんある。
夜、ライト片手に遠浅の海を練り歩く「イザリ」は沖縄ではそこそこポピュラーな遊漁。
「イザリ」とはライトと網を手に干潮の磯を練り歩いて生き物を捕まえる遊漁のことである。遠浅の海が多い沖縄ならではの遊びと言えよう。
本命のターゲットは背ビレに強い毒があるこのオニダルマオコゼという魚。だが、残念ながら今回は発見できず。
沖縄に限った事ではないが、夜の磯というのは危険が多い。特に、毒のある生物が意外と多いので、その地域の自然に詳しい人に同行して臨むべきである。
実は、今回の狙いもオニダルマオコゼという有毒魚だったりする。
これまた有毒のオニヒトデ。サンゴを食べる。
オニダルマオコゼを探して海中を照らしていると、次から次にその他の有毒生物が姿を現す。
オニヒトデ、ガンガゼの一種、ミノカサゴ、フグ、アイゴ、ドクウツボ…。沖縄の磯は毒のparadise!
キリンミノという魚。綺麗なのでつい捕まえてみたくなるが、背ビレに毒があるので注意。
毒針を持つウニの仲間。僕自身、イザリ中に刺された経験あり。ヂガヂガしたいやらしい痛みで、非常にテンションが下がる。
ヒョウモンダコ、現る
冬でもなお豊かな沖縄の海。有毒生物たちを撮影しながら歩いていると、奇妙な物体を発見。先端のとがった白い貝のようなものが砂底を動いている。よく見ると数本の脚を動かしてヨチヨチ歩いているようだ。遠目に見た瞬間は「ヤドカリかな」と思ったが、近づいて目を凝らすと心臓が高鳴った。
うおっ。何だこの派手なやつ。
白い貝殻のようなものと、脚のようなものには小さな青い斑点が並んでいる。これはヤドカリじゃない。ヒョウモンダコだ!
!ヒョウモンダコだっ!!
そう思った瞬間、こちらの殺気を感じ取ったのか、タコはスッと体を伸ばし、泳ぎ去ろうとした。こうなると見間違えようもない。とがった頭以外はすっかりタコらしいシルエットだ。
しかも、小さかった斑点は輪状に大きく広がっている。オオマルモンダコというヒョウモンダコ属の中でも南西諸島に多産する種類だ。
とりあえず捕獲だ!
沖縄の磯には何度も通っているが、ヒョウモンダコを見たのは始めてだ。地元の友人らも珍しいと言っている。
興奮のあまり震える手で、慎重に網に収めた。
※ヒョウモンダコに噛まれると命に関わる重篤な症状を引き起こします。決して安易に触らないでください。
本来の狙いであったオコゼは見つからなかったが、代わりに自身初の獲物となるヒョウモンダコをゲットできた。歓喜のあまり、深夜の海で雄叫びをあげてしまった。
体色が変わりまくる
落ち着いている状態の体色は薄めだが
いざ捕獲してみると、面白いことに気づく。このヒョウモンダコ、網の中でめまぐるしく体色が変わるのだ。
興奮すると青い輪のような模様が鮮やかになる。「俺には猛毒があるんだからな!」と外敵を威嚇しているのだろう。
さらに棒で小突くなどして刺激すると、全体が黄色みを帯びて一層派手に。これは綺麗だ。
どうやら、刺激を受けて興奮するほど毒々しく鮮やかに、落ち着くと薄く地味な色合いになるらしい。見ていて飽きない。面白い。
しかも、身体はおちょこに収まってしまうほど小さく、ペットにしたくなるほどかわいい。まあ、いくら可愛くてもこれから食っちゃうんだけどね。
実はすごく小さい。飼いたくなるほどかわいいが、危険であることに変わりはない。
調理は慎重に!!
一旦、さっと加熱して締めてやる。生かしたまま下ごしらえをするのは怖すぎるからだ。
フグと同じ毒を持っているんだから、きっとフグと同じく美味いはず…。ということで調理、試食を行うわけだが、とにもかくにも危険な要素を徹底的に除去しなければならない。
とりあえず、危険なくちばしを取り除く。
まず、生きている状態で下手に触って噛みつかれるのが一番マズい。一旦、完全に絶命させてから、脚の中央にあるくちばしを取り除く。これでとりあえず毒を注入される心配は無くなった。
くちばしも非常に小さい。だが、この小ささがかえって恐怖を煽る。
だが、まだ安心はできない。テトロドトキシンは加熱しても分解されないので、成分が含まれる部位である唾液腺自体を完全に除く必要があるのだ。
口の周辺を切り開いて危険な唾液腺を取り除こう。
というわけで唾液腺を摘出すべく包丁を入れてみるが、素人目にはいったいどれが何の器官なのか判別できない。
いずれにしろ内臓はすべて取り去るのだから、どうあれ唾液腺も一緒に外されるはず…なのだがやっぱり恐ろしい!
唾液腺…って、どれだ?
というわけで、大事を取って唾液腺を含む内臓の詰まっていた頭部は思い切って捨ててしまうことに。もったいない気もするが、ここはぐっと我慢。
わかんないから、大事を取って脚だけ食べよう。
脚だけにして、入念に洗ってさえやれば限りなく安心ではある。が、親指の爪ほどしかない頭部を失っただけでも、見た目のボリュームはかなり減ってしまった。寂しい。
スタンダードに醤油、酒、みりん、砂糖で煮る。
調理法についてだが、あまりに素材の量が少ないので、今回はせいぜい一品しか作れない。考えた末、イイダコでのレシピを参考に煮つけを作ってみることにした。
味は!すごく!…普通。
ヒョウモンダコの煮つけ。まあ、少なくともマズくはなさそうだ。
材料が小さいだけに、ヒョウモンダコの煮つけはあっという間に完成してしまった。
しっかり残った青い斑紋が何かを主張している気もするが、とりあえずマズそうには見えない。個人的には。
ただし、やっぱり小さい!小皿に盛ってもこのボリューム感。
いよいよ口に運ぶ時が来た。万全を期して調理したのでので、悪名高きヒョウモンダコと言えどあまり抵抗は無い。
ただでも小さなタコだったが、加熱してさらに縮んでしまったので、もはや切り分ける必要も余地も無い。豪快に一口で頬張る。
思い切って一口で、いただきます!
うわ、普通…。
…結論から言うと「ごく普通の小さいタコの煮つけ」である。それ以外に評しようが無い。ただただ、普通。ごくごく、普通。ひたすら、普通。
決してマズくは無いのだが、別段おいしくも無い。これならリスクを冒して食べる必要はまったく無いだろう。
もう二度と食べない
そんなわけで、ヒョウモンダコはフグと同じ毒を持っていても、フグのように素晴らしくおいしいわけではないことが今回の挑戦で判明した。たとえまた彼らを磯で見かけたとしても、二度と食べることはあるまい。
残念だが、同時にちょっとほっとしたような気もする。もしおいしかったら、いずれまたこの危なっかしい料理を作りたい欲求に駆られてしまっていたかもしれないから。
イザリ中に友人が綺麗なホラガイの殻を拾ったのでお土産に持ち帰ろうとしたら、中には先客の大きなヤドカリがいた。残念。