座禅体験が目当てで訪れたお寺
徳川家康とゆかりがある、という前情報は仕入れていたものの、トイレの事は全く知らずに向かった可睡斎。
静岡のバスツアーに参加していて、その行程のひとつとして寄ったお寺だった。せっかくなので本題のトイレの前に少しお寺についても紹介したい。
歴史は古く、多くの僧侶が修行するという「可睡斎(かすいさい)」
最初の門をくぐりさらに階段を登っていくと、広々とした境内が現われ、なんとか堂とか奥の院とか庭園だとかが広がる、それはそれは立派なお寺。火防の神をまつっている秋葉信仰の総本山でもある。
いかにも荘厳、といったつくりのお寺見学に心が躍る。ここでおこなう予定の座禅体験が楽しみである。
可睡斎の受付。500円でお寺内を見学できる
中に入ると本堂に通され、「可睡斎」というお寺としては変わった名前の由来を教わった。(その前も「東陽軒」というラーメン屋みたいな変わった名前だったそうだが)
それは家康と、当時の和尚さんの仲良し関係にあったのだそうだ。
「可睡斎」は居眠り和尚さんのエピソードからその名がついた
家康の前で寝ちゃった和尚
可睡斎は家康が幼いころ、戦乱から身をかくしお世話になった所でもあった。
のちに家康が出世し、昔のお礼にと訪れた席でハプニングがおこる。家康がいる前で、なんと和尚さんが居眠りをしてしまったのだ。それを見た家康は、怒るどころかその安心しきっている姿を家族のようにみて喜び「和尚、睡(ねむ)る可(べ)し」と許したことから可睡和尚という愛称がつけられ、お寺の名前も変わったのだという。
立派なお寺にそんなホッコリしたエピソードがあったとはおもしろい。
こちらの牡丹の絵は20年かけて描かれたそうだ
ダイナミックで繊細なタッチ
ツアー参加のため駆け足で周ったが、山口玲紀さんという人が40年かけて一人で描いたという四季折々の襖絵が見ごたえがあった。
近くで見ると鳥や龍の目が意外とかわいい。
胸がキュンとなる可愛い龍の表情
庭園もきれい。ジックリ見ていたいがツアーなので足早に進む。
そして問題のトイレにもちょっとだけ立ち寄った。いやいや・・・これはほんとにジックリみたいぞ!
お寺の方に順を追って案内してもらったのだけど、ツアーということもあって眺める時間は短い。集団行動なので仕方の無いことだ。なのだけど、このトイレばかりはもっと見たいと興奮した。だってなかなか来れる機会はないのだ。
しかし、次はいよいよ座禅の時間なのである。
座禅について説明中。しかし私はもう一度トイレを見に行きたくてソワソワ
座禅を抜けてトイレを見に行く事にした。自由時間が無いのでトイレを見るなら今しかないのだ
可行トイレ
心を無にする座禅体験は本当に楽しみにしていた。日々悩み事が多くてその必要性があると思っていたし歴史のあるお寺での体験は貴重である。
しかし私の心はいまトイレに奪われている。いま座禅しても、トイレのことしか頭に浮かばないだろう。煩悩のきわみだ。ガイドさんに相談し、みんなが座禅を組んでいる10分間だけトイレに行って良いと許可を得た。急いでむかった。
トイレの神様はべっぴんか
私は先程チラッと見てしまったが、まだ見たことの無い人はトイレの神様をどのように想像するだろうか。
もったいぶるようだが、ここで『トイレの神様』という曲の中にでてきたおばあちゃんの言葉を思い出し、トイレの神様のイメージを膨らませておきたい。
「♪トイレにはそれはそれはキレイな女神様がいるんやで。だから毎日キレイにしたら女神様みたいにべっぴんさんになれるんやで♪」
さて、はたしておばあちゃんの言うとおり、トイレの神様はべっぴんなのだろうか。
人がいない。今が撮影のチャンスだ
読めないけど神様の名前
先程は気づかなかったが、よくみたらトイレの前には神様の名前が書かれてある。しかも「日本一の東司(トイレ)」の表記。なにが日本一かというと、中に安置されているその神様の像が日本一大きいということらしい。
いざ、中に入ろう。
これが日本一の神様がいるトイレ!
神々しくも、便器と神様の像が一緒に並んで不思議な空間。床はピカピカできれい。お香がたかれており、高貴ないい香りがする。うちの芳香剤の香りとはまったく違うのだ
トイレの神様は怒っていた。仏の教えを素直に信じない人を慈悲の怒りで目覚めさせようとしているらしい。よく見ると手にドクロを乗せている。高村晴雲という人の作品。
べっぴんじゃないけど美しい
トイレのど真ん中にいたのは烏蒭沙摩明王(うすさまみょうおう)という炎の神様で、憤怒の表情を浮かべていた。「この世の一切の汚れを焼き尽くし、烈火で不浄を清浄とする力をもつ」とされる。要は汚いものを綺麗にしてくれる神様だ。
心身の汚れも綺麗にすることで、健康も守護してくれるらしい。
足元には象の顔をした「歓喜天」と呼ばれる神さまが。踏まれて喜んでいるように見える
この角度だとトイレとは思えない。赤いスリッパあるけど
お賽銭箱があるトイレってすごい
クイックルワイパーしたい
トイレ掃除はもっとも大切な修行の一つとされているためか、像も床もすべてピカピカに磨き上げられている。修行僧が毎朝きっちり掃除するそうだ。赤いスリッパが並べられているが、履かなくてもいいと思わされるほどの綺麗さ。
ゴミ箱などの不要なものは無く、クイックルワイパーしやすそうなトイレである。
誰でも使える
昭和12年の建築当初から水洗式だそうで、日本一古い水洗トイレとも言われているそうだ。当時は水洗トイレが珍しいと観光客が訪れ、70年たった今では、古いのに綺麗ということで客が訪れているそう。
観光客がたまに覗くなかで入るのは勇気がいるかもしれないが、男女兼用で誰でも入ることができるので、ここはチャンスを見計らって入っておきたいところだ。
一箇所だけ金色の個室を発見!
8個か9個あった個室のうち、1箇所だけ他より豪華なところを発見。
なんとなく個室の中を確認してみると、たまたま一箇所だけ金色の壁紙のところを発見した。ここだけ改修されずに残っているのだろう。明王さまの真後ろのトイレだ。
なぜか前面が鏡張りで、用を足すときに自分の顔が写る。入りながら、これはいったい何の意味があるのだろうかと珍しく考察してみたくなった。神様が近くにいると人は思慮深くなるのだ。
なんとなく金運がアップしそうな個室
個室の中にある鏡の意味
よく考えれば、人はトイレで色んな表情をしている。焦燥からはじまり苦悶、安堵、そして極楽の表情まで。
そういった普段見ることのできない自分の表情をしっかり見ておくことで心身のつながりを知り、トイレでその両方が浄化されていることを確認せよ、ということかもしれない。きっとそうだ。
(あとで鏡の意味を問い合わせたら、不明ですとの答えだったけど)
全方位、鏡
個室の中だけでなく、トイレの入り口から個室の扉の横、そして男性用便器の上まで、全方位に鏡が張られており、どこを向いていても神様の像が写るようになっていた。
これも何か意味がありそうだと思ったが、宗教的な意味があるというよりは、当時としては珍しい近代建築様式にあわせているのではという回答だった。
深読みしすぎてたかな。
とにかく鏡ばり。神様に見張られているようにも感じる。
男性用からは外の景色が見え、開放感がある
便器の形が独特。足を乗せる部分があった
オシャレ便器
あまり男性用の便器を見比べたことはないが、手桶を連想するような形でちょっとオシャレ。
前に立ってみると、窓からのぞく優しい日差しに大変な開放感を感じた。その日差しがまた後ろの鏡にうつり、部屋全体を広々と、そして神々しく見せていた。
神様がいるというだけでなく、このトイレ全体の造りが素敵なのだ。
最後は蓮華の水で手を清める。座禅はサボったが心身を浄化することができて満足
こんな感じで無事、神様のいる日本一のトイレを体験することができた。可睡斎では座禅以外にも滝行や、宿泊してお坊さんの日常が体験できたりするのだが、このトイレ体験も欠かせないだろう。
つい拝みたくなる感動的なトイレだった。機会があればぜひ訪れてほしいトイレである。
ちなみに普通の女性用トイレが目の前(5歩先くらい)にあります
神様の写真を貼ると成功者になれるかも
トイレ掃除を毎日すると成功者になれる、という話があるのを思い出した。ビートたけしも若い頃、30年以上毎日のようにトイレ掃除をしていたという。
トイレ掃除をすることは心を磨くことであり、謙虚さや感謝の気持ちをはぐくむことになるので結果的に成功する、ということらしい。
そうは言っても毎日はなかなか実行できないのだけど、実際に憤怒の表情をしている神様の像があると身が引き締まり綺麗に使わなければいけない気がした。健康祈願のため明王さまのお札をトイレに貼る風習があるらしいが、掃除を心掛ける意味にもなるだろう。私も今回撮った写真をトイレに貼ってみようと思う。いつか成功者になれるかもしれない。
このあとお寺にエスカレーターがあるのを見てまた驚く。