こんなのずるいに決まってる
あの「チーズがどろ~り」の瞬間を写真に収めようとガストにやってきた。
長年「ハンバーグから溢れ出ていいのは肉汁のみ」と頑なに信じ続けてきた私が、まさかこれほどまでに興奮させられるとは…と若干の悔しさを感じないでもない。
が、それも致し方なかろう。だって相手はチーズですよ。それが「どろ~り」ですよ。どう考えたって、ビジュアル的に最強じゃないですか。
たとえば、宮沢りえは化粧などせずとも美しいに決まっているが、そんな彼女がメイクをしたら…という話ですよ。最強に決まってるだろ、そんなの。
(興奮してるので、例えに自信はありません)
はち切れんばかりに膨らみまくった煩悩にナイフを…
とめどなく溢れ出るチーズという名のマグマよ! 嗚呼!
たまらん。もう好きにしてくれ。どこへでも連れてってくれ。
これが溶けないチーズだったら、こうまで興奮することはなかったろう。
いやらしいほど肉に絡み付き、さらに覆い被さろうとするチーズ。擬人化するなら…と考えただけで身震いするレベルの主張の強さである。おそろしい。
とろけるスライスを用意
さておき、家でこれを試してみるとして、どのチーズがいいのだろう。しばし悩んだ末、選択したのはこちら。
手に入りやすく、形も自在にできるのが選んだ理由
チーズはたんまり買ってきた。
さて、なにからチーズを溢れ出してやろうか…と、最初に手にしたのはトマトだった。
●チーズ イン トマト
たまたま家にあったという理由も大きい
トマトといえばチーズ。この組み合わせは鉄板だ。王道すぎて意外性はゼロだが、それだけにトップバッターとしては最適といえよう。
種の部分をくりぬき、ちぎったチーズを入れてオーブンでじわじわ焼いてみた。
うーん…。
プチトマトということもあり、チーズが少量すぎたのが敗因だろう。こちらが期待するような「どろ~ん」は見られなかった。
通常大のトマトの中をくりぬいてチーズをパンパンに詰めればよかったのだろうが、気付くのが遅すぎた。
とはいえ味は期待通り。これはいい。ハーブをかけるなどして気を利かせたら、さらにおいしくなりそうだ。
●チーズ イン おにぎり
次は、どうしてもやってみたかった組み合わせを試してみたい。
皆さん想像したことはないですか。熱々の焼きおにぎりを頬張ったら、中からチーズがどろ~んと出るところを…。
そんな夢のおにぎりをこさえてみた。
ごはんが熱いままではチーズが溶けるため、すこし冷めてからチーズイン。
テフロンのフライパンでじわじわ焼いていきます。もう期待で胸がパンパン。
最後にジュワーッと醤油をかけて出来上がり。
バター醤油ごはんのおいしさは万人が知るところだが、ならばチーズ醤油ごはんとて、その賞賛を受けてしかるべきと思うのだ。
同じ乳製品なのに、バターばっかりごはんと絡みやがってずるいじゃないか。こっちは焦げ目付きだぞ。そして、とろけてるんだぞ。
どうだ!
どうだ! と言ったわりに、思ったほどの「どろ~ん」は見られず。
期待した流出チーズはなかったものの、もう夢中で食べた。途中で「…ハッ。写真!」と慌てて撮影したくらい夢中だった。
チーズ醤油ごはん、これ熱々のうちなら、たまらんうまさです。バター醤油ごはん好きならやってみる価値大。おすすめです。(翌日、また作ったくらい)
●チーズ イン いか飯
さすがにどうかと思うのだ。思うのだが、これ以上ない意外性に抗うことは出来なかった。
いか飯といえば、日本土着の味の極北ともいうべき存在ではないだろうか。もしこの組み合わせがおいしかったとしたら事件だろう。
起きて欲しいぞ、事件。
もち米ではなく、普通の米を使いました。
途中でロール状にしたチーズを入れて、
汁に投入、圧力鍋で炊いていきます。
ぷっくり膨らんだいか飯。さあ入刀だ。
中からの湯気でレンズ曇りまくり
あれ…?
どろーんの「ど」の字もない。米が膨らみまくっており、チーズが流出する隙間さえないのであった。いかの大きさに比べてチーズの量が少なく、米が多すぎたのが敗因であろう。
チーズがどろ~んとする為には若干のスペースが必要なのかもしれない。
ここまでおいしくない物を食べたのも久しぶり。
●チーズ イン おいなりさん
おにぎりでの喜びが忘れられず、なかなか米から離れられずにいる。
そこでおいなりさんだ。言うまでもないが、酢飯だ。
中にはもちろんチーズを入れて、そして焼きました。
ギョッとするかもしれないが、酢飯とチーズは意外に相性がいい。チーズ入りの太巻きが存在するくらいだから、あながち奇天烈な組み合わせではないはずであるが、さて…。
チーズが溶けてはいるが、期待の「どろ~ん」は、ここでも出ず。
甘辛い揚げの部分と酢飯にチーズが絡み、これまで食べたことのない味覚なのだが、決してイヤじゃない。うん。これけっこうイケるぞ。
「ワインにも合うおいなりさん」という、わかったようなことを書きたくなる組み合わせとなった。
●チーズ イン ちくわ
さすがに米はもういいだろう。そろそろ心の底から「うまいっ!」と叫びたくなるものが食べたくなってきた。
ならばこれしかない。臆面もないのは承知のうえで、どうか試させてほしい。
ええ、いわゆる「チーちく」ですね。
普通のちくわじゃ穴が小さすぎて、チーズどろ~んは無理だと判断、おでんに使うような大きいものを買ってきた。
ちくわの切れっ端を両穴に詰め、チーズの流出を阻止するという工夫もした。
これで万全のはず。
これを磯辺揚げよろしく天ぷらにしてやろう、という魂胆なのだが、ちょうど「お好み焼きの粉」が少し残っていたので、これを水で溶いたものを衣にして揚げることにした。
お好み焼きの粉って、けっこう膨らむんですね。
揚げたことで、ひと回り以上大きくなった。この代用揚げ衣、天ぷらではあり得ないほどのバリバリ具合である。そして揚げ色がきつい。
でも味は保証されている。お好み焼きの粉にはいろんなダシが入っているのだ。おいしくないわけがない。
入れたチーズの量がそれほど多くないこともあり「どろ~ん」にはそれほど期待せずに包丁を入れると…
控えめながら、チーズのどろ~ん出た!
出た出た出た! これこれこれ!
さらには衣がザクザクで、ちくわは香ばしく揚がっていて、中からは溶けたチーズが流出して…
素晴らしすぎて言葉もない。つくづく、ちくわって偉大な食べ物ですよ!
やっぱり揚げ物は裏切らない!
ただでさえおいしいチーちくだ。それが揚がったことで、おいしさのレベルが一気にジャンプアップした形となった。
もしや揚げればいいのか。思ったようにチーズが流出してくれなかったのは、加熱が足りてなかった可能性はあるまいか。
ならば心ゆくまで揚げるまでよ。
●チーズ イン かぼちゃ
チーズフォンデュの例を出すまでもなく、およそ野菜ならなんでも溶けたチーズと合うことだろう。
じゃがいもを使ったチーズインコロッケなんて、考えただけで顔がニヤける。そんなもん、うまいに決まってますわな。
「どの野菜でもいいのなら…」と、今回はかぼちゃ(残り物)で包んでみることにした。
レンジで柔らかく加熱したら、少し冷まして
中にチーズ一枚分を畳んで収納、
形を整えてからパン粉を付けて、
油で揚げたら出来上がり。
いわゆるカボチャコロッケだ。あつあつだ。
さて、中はどういうことになっているのだろう? と、箸を入れて「ギャー!」となった。
これ! このビジュアルを期待してたっちゅーの! ちゅーの!
たまらない。これはガストのハンバーグに引けを取らないチーズ流出っぷりであろう。
これはいい。いい以外に感想がない。
これからは家でチーズインをするときは油で揚げるとしよう。
やっと満足。しかもうまいわ。
主食となる米、そしておかずときて、次はデザートといこうではないか。
●チーズ イン どら焼き
不安ですか。ええ、私も少し不安です。
でも生クリームやバターといった乳製品が、あんことタッグを組んで成功している例はごまんとある。
だったらチーズだって…と思った私を責めますか。あなた責めますか。
奮発してデパ地下で購入した、由緒あるどら焼き。
チーズを入れ易い和菓子はどれか考えながらデパ地下を散策した結果、選ばれたのがどら焼きなのだ。
買った時には気付かなかったが、このどら焼き、上下の皮がぴっちり閉じるタイプのものだった。
これはいい。チーズの流出が防げる。
手で開けようとしても無理なほど、ぴっちり閉じてます。
しょうがないので、包丁でそーっと上下を分離。
粒あんの上にチーズをてんこ盛りに乗せ、
形を元通りにしたら、厚みがすごいことに。
よく火が通るように、今回はフライパンで焼くときにフタをすることにした。
「チーズがどろ~んとしてくれよ」と、じっくりと時間をかけて焼いたところ…
焦げた。
まあいい。これくらいの焦げはおいしさのうちだ。たいして影響はないだろう。
さて、中のチーズはどうなったかな…? と、どら焼きをパカッと手で割ったところ、またしてもギャーッと大きな声が出た。
すばらしい! ワンダホー! マーベラス! ブリリアントーッ!
見た目ばかりじゃない。チーズの塩っけがあんこの甘さとよく合って、ものすごく食べやすい。
なんだこれは。どうしてこれを商品化しないのか。
もしや…と思い「チーズ どら焼き」で検索したところ、山のように商品やレシピが見つかった。そうですか。そうですよね。
騒いだことが急に恥ずかしくなってきました。
チーズは偉大だ
とろけるチーズには、人の心を沸き立たせる何かがある。
「食材がチーズまみれになることの何がそんなに嬉しいのだ」と、ふと我に返りつつも「ほとんどの場合、チーズが加わることでおいしさが増した」ということは、本能的に既にそれを知っていた可能性はあるまいか。
つまり遺伝子のレベルでチーズをありがたがっているのかもしれず、さらにそれが溶けるということは火が重要なファクターとなるわけで、これまた人類には欠かせない存在であり、心が勝手に浮き立つのも無理はない。
そして私はまとめの段階でなぜこうも壮大な推論を展開しているのか、さっぱりわけがわからないまま終わりにしたい。