香川県の西の方、詫間駅からバスが出てる
車で行くかそこに住もう
たこ判は小前というお店が発祥といわれている。今では香川県の各地で食べられるそうだがとにかくそこが有名のようだ。
場所は香川県の西側、三豊市の仁尾という町にある。詫間駅からバスが出てるはずだが、この日は休日でバスも休みだった。
「お客さん、折りたたみ自転車持ってるなら行けると思いますよ」
とバス会社の人に言われた。地図を見たら山っぽくてあきらめていたが行ってみることにした。案の定、山だった。
大判焼きの型で焼いたたこ焼きのために山越え
一日が長い地域にきた
ふくらはぎが悲鳴を上げる。はたして大判焼き一枚に山を越える意味はあるのだろうか。中にキャビアがパンパンにつまっていたとしてもないと思う。
山を越えると田んぼに、しばらくすると町になった。帰りのタクシー(※つらくて乗った)では「昔は製塩業で今はソーラー発電、ここらへんは雨が降らんけん。西側は海やろ、夏は夜8時くらいまで明るうて晩飯食っててもまだ明るいけんのう」といっていた。
夜は8時からか。ヨーロッパの話をきいてるようだ。
ここがたこ判を出す小前。パーマ美容液との文字が見える。左側もよく見ると小前美容室と書いてある。実際に奥は美容室になってるらしい
中は年季入りすぎた店構え
基本が100円。トッピングが20~50円。たこ焼き200円……この辺りの物価が低いのだろうか。
一個焼くのに30分かかる100円のたこ判
たこ判は一個100円。前は80円でずっとやってきたらしい。創業者の名物おばあちゃんが「生きている限り値段は変えない」とテレビ番組で宣言してしまい、最近になってさすがに20円上げたという情報がネットにあった。
注文は紙に書いて提出。人気No.ワンと書いてあった卵たこ判120円と唐突にメニューにあったチリビーフン300円を。たこ判は焼きあがるまで30分くらいかかるらしい。そんなものを100円で売っていいのかという気もする。
日曜だったので店の子どもたちが手伝っていた。度を過ぎたアットホームさ
日曜の昼、にぎわっている
お客さんがひっきりなしに来る。「○○ですけど…」と名乗ってがさっと大きな袋を持って帰る。電話で注文してるパターンが多いようだ。
店では小学生の男の子がお手伝いをしている。そのお兄ちゃんが計算の指導をしている。図抜けたアットホームさ。ひとんち感バリバリである。
店内。奥は美容室になっている。大きな冷蔵庫と山と積まれた食材。ガラスケースにはお菓子や人形が飾られている。なぞだ。
年季入りすぎた背景。こういうアート作品みたいだ
具材があふれて大判焼きの型の1.5~2倍くらいの高さになっている
卵たこ判。これで120円。女性なら一食分になるだろう
中をはしで割った。キャベツが多い。お好み焼きみたいだ。
おわー、当たりました。取材でおいしいものに当たるパターン
たこ焼きでもお好み焼きでもない味
このたこ判がうまかった。大阪のたこ焼きは出汁をきかせまくるがそれ方面ではないもっと素朴な味。
「この辺のたこ焼きは生地にキャベツが入ってるんですよー」とたこ判を焼くお孫さんにきいてはいたが、このキャベツがいい。もちっとした生地を歯がつき破ると30分じっくり焼かれた中のキャベツがふっかふか。
となるとふんわり系お好み焼きが近いかとなるが、それともちがう。もっと素朴な味。小さなタコがぽろぽろ入ってるような。
B級グルメをうたうものは観光協会主導になってるケースが多いが、本当に土着化してるやつはうまい。
近所の中学生が大判焼きで焼いてくれといってはじまったらしい
名物おばあちゃんは引退
この小前には名物おばあちゃんがいたらしい。3代目のお孫さんがいうにはもう引退して「今91歳で家で寝てるんです。体調いいときは店先にもちょいちょい出てくるんですけどねー」とのこと。
この店の近くに中学校がある。「そこの中学の子が学校帰りによくここに来ててね『大判焼きの方で焼いてみて。おいしかったらぼくらも宣伝するけんー』って注文したらしいんですよ」こうしてたこ判は生まれたらしい。
彼らがたこ焼きの型の方で大判焼きを焼いてといったら私達もここに来ることはなかった。ANAは中学生の選択に感謝すべきだろう。
お店にかざられてたたこ判を生んだおばあちゃんテレビ出演の写真
地元の人にしても安い
「小前ねえ、どういうんかなあ、一番最初のころは安かったんや」とタクシーの運転手がいっていた。地元の人にしても安いのだ。
「たこやき150円やったんやあ。仮に4箱くらい注文するやろう。取りに行くんやなあ。そしたら5箱ある。全部あのおばあちゃんなあ」安いだけじゃなくて名物おばあちゃんのサービスがすごかったらしい。
お店にいる間、お孫さんはひっきりなしに焼き続けていた。……でもこれってもしかして、一日中マシーンのように焼き続けるのだろうか。
チリビーフン300円。おばあちゃんが台湾にいた時に食べた味を再現したものだそうだ
これ一日焼き続ける羽目になってないですか?
後ほど二代目である今のお店のご主人になんでこんなことになってるのかをきいた。
「一番よく出るのは日曜で卵たこ判だけで一日500個出る日もあるんや。焼くのに30分かかるからみんな電話で。30個、40個と出たりするけん。先に焼いとるんです。
休みの日にみんな買うてくれるけん、店の休みは月2回。二週目と四週目の月曜日。休みが少ないのは、そら(※その名物おばあちゃんに)働くよう働くように育てられたからのう(笑)」
30分かかるものを一日500個焼いてるのである。そりゃもう家族総動員である。おばあちゃんがはじめたことだが今はその家族がみんなでやっている。
つぶみかんジュースが売っていた。容赦ない甘み。なつかしい
なぜこんなことになっているのか
しかもこのたこ判、この辺は物価が安いのかなくらいに思っていたがちがった。
「そりゃご飯やのうてこういうのは副食やけん。あんまり高うしたらお客さんも食べんようになる。32~3年前に中学生がよう来てくれて、その子らがお小遣いで買いやすいような値段のままにしとるからの。
美容室は今でもやってます。たこ判が有名になってしもたけど気に入ってくれてる人はずっと来てくれる。今はたこ判8に美容室2くらいなもんやけんど、昔は美容室8にたこ判2くらい。
そらもうなんちゅうか、商売しよういう気やなかった。それこそお客さんがよろこんでくれたら、いう気でやっとりましたなあ。
今でも喜んでもらえたらいう気でやってます。その方が仕事しがいもあるいうかのう」
壁には来店記念のうちわがびっしりと貼られている
B級グルメ最強クラスは人情ベースになってくる
店の壁には全国各地からのうちわが飾ってある。おいしくて安い、店のおばあちゃんのキャラクターがいい、と感激してみんな書いていくのだろう。
実際ものすごい。B級グルメという言葉が持ち上がったがもう横綱級に安いしうまい。そしてそれは喜んでもらいたいからだった。このクラスになると強さの由来はもう人情ベースになってくる。
この店には、東京から飛んで来てたこ判買ってとんぼ返りしていったお客さんの逸話が残ったりしている。一人のおばあちゃんが近所の中学生を喜ばせようとしてたのであるが、いつの間にかそんなことになったようだ。今でもそのおばあちゃんの思いを周りのご家族が残している。山ひとつくらい越えてしかるべきだった。
ううう、うおお、おばあちゃん…(※お待たせしました、本稿タイトルの「泣きました」部分です)う、ぶっ、ぶひっ、ぶひっ、ううう…会ったことないけど、おばあちゃん、ありがとう!ぶひーっ。
置いてあるマンガが少女マンガばかりなのは美容室だからか