特集 2014年10月14日

地元のふざけた祭りに行く

ふざけて練り歩く祭りがある
ふざけて練り歩く祭りがある
地元のお祭りといえば同級生の女の子が大人っぽく見えたり神輿をかつぐ不良の先輩がかっこよかったり色々淡い気持ちになるものである。

だが地元の祭りがふざけ祭りだったらどうだろう。ふざけて練り歩いて最終的に神輿ごと池に突っ込んでいく先輩。はたしてかっこいいだろうか。

わが町のふざけ祭りを見てきた。

※この記事はイーアイデムとのコラボ企画
じもwww:地元ルネサンス 仕事ルネサンス
との連動企画です。
動画を作ったり明日のアーというコントの舞台をしたりもします。プープーテレビにも登場。2006年より参加。(動画インタビュー)

前の記事:この町の住民の8割がUFOを見たというのは本当なのか

> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

香川県は雨がふらなくて川も少ないのでため池が多いらしい
香川県は雨がふらなくて川も少ないのでため池が多いらしい

高松の農村部の祭り

香川県高松市の浅野地区。田畑とため池が広がるのどかな場所である。

香川県の方言でふざけたりおどけたりすることを「ひょうげる」といい「ひょうげ祭り」なる祭りがここであるのだ。
テントに「ひょうげ」と。「ふざけ」と書いてあるようなものだ
テントに「ひょうげ」と。「ふざけ」と書いてあるようなものだ

とりあえずうどんだ

午前10時半。祭りの開始まで二時間以上あるが、祭りの本部に人がぞくぞく集まっていた。

「今年も来てくれたんか」
「何年生になったんかいのう」

この祭りはふざけた格好で昔の行列を再現するものである。何の役柄を演じるのか各々受付で確認しては中で着替えていく。

取材なんですがと告げると担当が今いないのでうどんでも食べて待っていてくれという。

うどん! その地域性!
みんなうどんを食っているのである。ここは香川
みんなうどんを食っているのである。ここは香川

やはりうどん食うんだな

時刻は午前10時半、辺りを見るとみんなうどんを食べている。これは何ごはんなんだ、なんでうどんをふるまってるんだ。

衝撃をうけていると「取材というのはどこから来なさった? 東京? 花の都東京から!?」と驚かれた。

花の都、東京。いきなりうどんを食うことになると、ずいぶん遠くに来たものだと思わせられる。
ひょうげうどんは200円。ふざけたうどんではなく本場のさぬきうどんである
ひょうげうどんは200円。ふざけたうどんではなく本場のさぬきうどんである

うどん接待

ひょうげ祭り保存会会長の植松さんがやってきたのでどうしてうどんを売ってるんですかときくと「お手伝いしてもらっとるからのう。お接待やな」という。

うどん接待。ぼくらが思ってるよりもずっと香川県の人はうどんを食う。食うし食わせる。なので単純に考えて2倍は消費してる。

「今は衣装は地元の婦人会、道具は老人会が作ってくれとるけんの」

この祭り、実はなくなろうとしていた。それを色々な人が支えてどうにか残したのだそうだ。
シュロでできた馬。竹などでできた神輿。天気もよくてお囃子がきもちいい
シュロでできた馬。竹などでできた神輿。天気もよくてお囃子がきもちいい

存在が危ぶまれるふざけ

保存会の植松さんは生まれたときからこの辺りに住んでいて昔から祭りに参加してきた。

「子供のころは今みたいなちゃんとした裃やなかった。しゅろの皮とか麻の袋とか、ああいうんに穴あけてそのままかぶっとったの」

しかしその後、団地ができたり新しい人がふえるにつれ「あの祭りは農家のもの」という認識になってきたそうだ。

そうするとふしぎなことに今度は農家側もだんだんやらなくなった。
紙の陣羽織にハスの葉の傘、腰には里芋の茎の刀をさす
紙の陣羽織にハスの葉の傘、腰には里芋の茎の刀をさす
人手が足りないので祭りの範囲を浅野地区全体に、それでも足りないので保存会を立ち上げ、高松市の祭りになったのだそうだ。

「若い人やないと神輿もつとまらんから友達に声かけてもろたりして集まってもらっとる」

そこまでしてやっと「ふざけてねり歩く」ことができるのだ。
裸馬に乗せられた兵六。裸というかモールが。モール馬。
裸馬に乗せられた兵六。裸というかモールが。モール馬。

ふざけにもかなしい背景があった

この祭りの行列にはいわれがある。

もともと水に困っていたこの土地にため池を作った兵六という人物がいた。だがこれを「兵六は高松城を水攻めにしようとしている」と殿様に告げ口をした者がいた。兵六は裸馬にのせられて徳島の方へ追放されることになった。

兵六をしたう農家の人々がこの追放された行列を再現してたたえているのだという。なんと、ふざけにも悲しい背景があったのだ。
馬や神輿を見ているとこのひょうきんなメイクのお父さんがやってくる。
馬や神輿を見ているとこのひょうきんなメイクのお父さんがやってくる。
「祭りの由来についてはどうかのう、裸馬とかは盛っとる部分もあるやろの。それにここでどうこうしても高松城までだいぶあるけんの」

と植松さんはいう。祭りのパンフレットにもこの辺には地蔵盆に野菜や家庭用品で人形を作る風習があったとある。

つまり元々ふざけがあって兵六の話が追加されたような気もする。やはりみんなふざけたいのだ。
そして撮影をしているとカゴに寄付金を入れてくれという。たしかにそれは良いことだが、アジアに旅行に来たみたいだ
そして撮影をしているとカゴに寄付金を入れてくれという。たしかにそれは良いことだが、アジアに旅行に来たみたいだ

ふざけで人が死んだこともある

行列まで時間があったので昼ごはんを食べる。店ではおばあさんがテレビを見ていた。

「ひょうげ祭り見に来たんか。気ぃつけないかん。あれは危ないからの、神輿が。酒のんであばれるけん。それで昔は死んだ人もいたけんの」

おばあさんによると事故で死人が出たこともあるのだそうだ。生死をかけたふざけが今はじまる。
おおお、きた。ふざけた人たちがやってきた
おおお、きた。ふざけた人たちがやってきた

「ひょうげ祭り」だけじゃないぞ。


地元の魅力満載です

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資材の包装紙で作られたであろう服。全員頭が悪そうに見えるこの愛らしさ
資材の包装紙で作られたであろう服。全員頭が悪そうに見えるこの愛らしさ
いい、この見た目、本当にいい
いい、この見た目、本当にいい
頭に葉っぱ乗っちゃってるもんな~
頭に葉っぱ乗っちゃってるもんな~

ひょうきんな人たち、歩く

ようやくお祭りがはじまった。

百人近くになるだろうか、兵六を囲む子供の行列につづいて天狗をはじめとしたユーモラスな一団の行列がつづく。

シュロやらハスの葉やらで作った手作りの侍の姿。今はちゃんとしていると植松さんは言っていたが、今でもなかなか。伝統のちゃんとしてなさである。

もう、こんな伝統とユーモラスの組み合わせをおじいちゃんカメラマンたちがほっとくわけない。行列を囲んで狂ったようにシャッターを切る。

天狗が面をかぶったらカシャカシャ! 天狗が面を外したらカシャカシャ! うんうん。みんなきっとあのおっさんにチャージ料払ってきたのだろう。思う存分撮るといいよ。
子どもたちが兵六を追放する!
子どもたちが兵六を追放する!
道のわきには近隣の人や出演者の知り合いが集まってきていて声援が飛んだりする。

軽トラの荷台に乗った女の子が父親に「なんで買ってないの、ノンアルのチューハイ」と文句を言っている。背伸びだ。あの飲み物どのタイミングで飲むのかと思ったがこういうときか。

かと思えば軽くシャドーボクシングをしている男の子を見た。こっちも背伸びだ。

やはりふざけていても地元の祭りだ。ふわ~っとした空気が充満している。
ふざけた神官がやってきた。お参りに行ってこんな人出てきたら泣く!
ふざけた神官がやってきた。お参りに行ってこんな人出てきたら泣く!
のどかさとふざけ。妙に癒やし効果のある集団だ
のどかさとふざけ。妙に癒やし効果のある集団だ
ふざけた神輿はすごいぞ。ふざけてるからかたむきまくるのだ
ふざけた神輿はすごいぞ。ふざけてるからかたむきまくるのだ

あばれ神輿ならぬふざけ神輿出た

行列の一番後方は神輿である。ひょうげ祭りといってもただ歩くだけなのでひょうげ要素は衣装によるところが大きい。しかしこの神輿は別である。神輿の担ぎ方がふざけているのだ。

奇声を上げたりくだを巻いたり、かと思えばいきなり走りだしたり。あのおばあちゃんが言ってた神輿が危ないというのはこれだ。

一体どうなることか。見ていてハラハラする。
神輿のリーダー格。ビール片手に七色のアフロ。かと思えば胸に平和のメッセージが入っている。高度なふざけである
神輿のリーダー格。ビール片手に七色のアフロ。かと思えば胸に平和のメッセージが入っている。高度なふざけである

まだまだ続くひょうげ祭り。その他の祭りはこちら


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ふざけを使命としてもっている神輿だ。角度もたえずガタガタである。
ふざけを使命としてもっている神輿だ。角度もたえずガタガタである。
いきなりダッシュ。疲れるだろうな……
いきなりダッシュ。疲れるだろうな……

ふざけているから遅い

避難訓練のときにふざけるなと口を酸っぱくして言われなかっただろうか。ふざけると人は遅いのである。

このふざけ神輿。ものすごく遅い。いきなり走りだしたりするから速さはもっているのだが、たえずどこかにちょっかいをかけてて遅い。

ふざけるとやっぱり人は遅い、先生は間違ってなかったのだと感心した。
建築中の家の前で施主の名前を叫び突っ込もうとする神輿
建築中の家の前で施主の名前を叫び突っ込もうとする神輿
ルートから外れ、行列をやりすごそうとするタクシーを追いかけ回す神輿
ルートから外れ、行列をやりすごそうとするタクシーを追いかけ回す神輿

ふざけすぎると怒られる

建築中の家の前で施主の名前を大声で叫び突っ込む素振りをしたり、ルートから外れてタクシーを追いかけまわしたり。

地元の女の子はこの中に憧れの先輩とかいるのだろうか。いてもおかしくはない。ただ、やってることの意味が理解されにくいだけだ。

最終的には保存会の会長さんに怒られていた。(怒るのアリなのか…)とぼくらも神輿の担ぎ手たちもみんな驚いた。
「コラ! やりすぎじゃお前ら!」会長に怒られる。(……怒るのアリなのか!)神輿側に衝撃が走る
「コラ! やりすぎじゃお前ら!」会長に怒られる。(……怒るのアリなのか!)神輿側に衝撃が走る
警察にちょっかい出す神輿。ちょっかい出す意味がわからない
警察にちょっかい出す神輿。ちょっかい出す意味がわからない
そしてコケる
そしてコケる
遠くから見ていたい集団ではある
遠くから見ていたい集団ではある
ゴールのため池周辺は屋台が出ていてにぎやかだ。地元の子たちは行列にあまり興味がなくこっちに多くたむろしている
ゴールのため池周辺は屋台が出ていてにぎやかだ。地元の子たちは行列にあまり興味がなくこっちに多くたむろしている
当たり前だったら申し訳ないですが、ハンバーグがくじに。肉のくじだ!
当たり前だったら申し訳ないですが、ハンバーグがくじに。肉のくじだ!
くじを引くと肉が当たる
くじを引くと肉が当たる
これ何枚も食うのか
これ何枚も食うのか
これがゴールのため池。子どもたちが石を投げている。今投げる必要があるのかと思うが彼らは投げる。
これがゴールのため池。子どもたちが石を投げている。今投げる必要があるのかと思うが彼らは投げる。

そして行列はゴールのため池に

二時間の行進を終え、ゴールであるため池に向かう。屋台が多く出店していて子供が多い。こちらは出発地点と全然ちがう雰囲気である。どこにでもある大きめの祭りだ。

ちがうのは一点。ここにふざけた人たちがやってくるのだ。
そこへ二時間の行進を終え、ふざけた面々がやってた。沿道は見物客でにぎわう
そこへ二時間の行進を終え、ふざけた面々がやってた。沿道は見物客でにぎわう

ふざけはいよいよ佳境へ。神輿ごと池につっこむぞ!


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祭りのクライマックス。池にむかって神官が祝詞をあげる。こんなキラキラした感動的な場面だが…
祭りのクライマックス。池にむかって神官が祝詞をあげる。こんなキラキラした感動的な場面だが…
見た目はこんなにダメそうだ
見た目はこんなにダメそうだ
ため池にひょうげ神輿もようやく到着。ふざけていると遅い
ため池にひょうげ神輿もようやく到着。ふざけていると遅い
「危ないですよ! 下がってください!」最後にもう一ふざけしておじいちゃんカメラマンたちが右往左往する
「危ないですよ! 下がってください!」最後にもう一ふざけしておじいちゃんカメラマンたちが右往左往する
そしてふざけきったあとはそのまま池に
そしてふざけきったあとはそのまま池に
なぜ神輿ごと池につっこむのだ
なぜ神輿ごと池につっこむのだ

神輿はふざけたまま池に突っ込んでいく

いよいよ祭りのクライマックス。神官が池に向かって祝詞を上げ、そこに神輿がやってくる。

会場は写真クラブのおじいちゃんたちが最前列をキープしてるのだが神輿はもうひとふざけをしてあっち行ったりこっち行ったりおじいちゃんたち大パニック。

もう、ずっと学級崩壊みたいな神輿である。二時間の間、本当に疲れたことだろう。そしてこのために祭りを残そうとした人たちがいて、大勢の地元の人が支えてきたのである。

なのになぜ池に神輿が入っていくのか。もしかしたらダチョウ倶楽部みたいな神様が乗っているのかもしれない。
リーダーのアフロが神輿に。伝説になった感じがある
リーダーのアフロが神輿に。伝説になった感じがある

少しふざけた感じの地元の祭り

池に突っ込んだ神輿の面々はそのまま池の中でザブザブやったあと、しばらくしてみんな笑顔で上がってきた。リーダー格の男性がやりきった顔でみんなと握手をしていた。

彼は「リーダー」と呼ばれていた。もともとの知り合いなら名前で呼んでいただろう。今日はじめて会った関係だと思われる。

そういった意味でこの祭りは私達がイメージする地元の祭りとちょっとちがうし、いやそもそも地元の祭りというもの自体がどこも今こんな感じなのかもしれない。絶えそうになってるところもあることだろう。

しかしやっぱりすごいのだ。

これは残さないといけないと思った人たちの気持ちがわかる。こんなふざけきった祭りはどこにもないし、最終的には池にザブーンである。

憧れの先輩がふざけたきったあと池に神輿ごと入っていったら女子生徒はどう思うだろう。そんな視点で祭りのクライマックスを見ていたが(かっこいいかどうかはわからないけど、先輩、やりきってるな……)という思いを抱くだろうと思った。

それは自慢していいことだろう。そんな先輩は全国探してもどこにもいない。ここの地元にしかいないのだから。
ひょうげ神輿の担ぎ手たちは握手をしていた。やりきったのだろう。彼らには彼らの感動があったのだ
ひょうげ神輿の担ぎ手たちは握手をしていた。やりきったのだろう。彼らには彼らの感動があったのだ

日本中のこんな祭りをめぐって暮らしたい。


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