DAY1:まずどこにも売っていない
なんでもないところにプロジェクターで絵を写して、あたかも実物がそこにあるかのように見せるのだ。
今回、森永のチーズスティックとのコラボにこの最新技術を使おうと思う。チーズスティックは白い直方体(棒状)なので、プロジェクターで光を当てたら電車になるんじゃないかと思ったのだ。
こういう思いつきはたいてい失敗するか、うまくいくまでに恐ろしく試行錯誤が必要になるものなのだけれど、今回はそのどちらも経験したので順を追って報告したい。
なぜ実物を載せないかというと、売っていなかったからだ。
この話が決まってからというもの、スーパーやコンビニ、ドラッグストアなど、アイスを売っていそうなお店を手当たり次第にまわって探したのだけれど、チーズスティックは1つも見つけることができなかった。
森永の担当者にこの話をすると
「あー、確かにこの時期は売っていないかもしれないですねー。」
と。
しっとりと濃厚な大人のアイス、チーズスティックは秋冬がメインなのだ。つまりこれから生産が本格化する。加えてチーズスティックは好きな人はものすごく好きらしく、売られているのを見つけると買い占めちゃう人もいるのだとか。
理屈はわかる、でもそれでは記事が書けないだろう。森永の担当者になきついてなんとか送ってもらえることになった。
現物が届くまでにできるところから始めよう。
DAY2:紙粘土でモックを作る
だけど今はないから他で代用する。
チーズスティックは一度も見たことがないのだけれど、食べたことがあるという人のブログを読むとおおよその大きさがわかってきた。だいたい長さが13センチ前後、幅が3センチ前後のようだ。
ということはきっとこんな感じである。
ひとまずこれは置いておいて(紙粘土なので乾かす意味合いもある)、今度は投影する画像を撮りに行くことにした。
DAY3:電車の写真を撮りに行く
ちなみ今回のコラボ企画でこれ以外に候補に上がっていたのは、チーズスティックの売りである「濃厚」をテーマにして濃厚な食べ物ばかりを食べ歩く、という企画である。まともだ。なぜまともじゃいけなかったのか。
とはいえ何を言ってもいまさらである。きれいな電車の写真が撮れたらそこに光も見えるだろう。
山手線はずっとぐるぐる走っているんだからいつでも撮れるよね、くらいに考えていたのだけれど、これが意外とたいへんだった。
きっと常々電車の写真を撮り慣れている人には思い当たる場所とかノウハウもあるのだろうけど、必要にかられて、くらいのにわか鉄道ファンにはいささかハードルが高い。
あてもなく駅の周りを歩いていると、どうも電車の写真を狙っているらしき一団を見つけた。みんないいカメラを持ちながらしきりに時計を眺めている。これはきっと僕が求めていた電車撮影のノウハウを持つ人たちであろう。便乗させてもらえばかなりいい写真が撮れるに違いない。
待つこと2分。
集団の中でも最も貫禄のある男性が線路に一歩近づき、腰を落としてカメラを構えた。
(来るのか!)
現場に緊張が走る。近くにいた若者たちもおっさんに続く。まねして僕も続く。
どこか山手線の車両がきれいに撮影できるポイントはないものか。
「品川 山手線 撮影」で検索するといっぱつで情報が出てきた。すばらしい。最寄りの山手線撮影ポイントは、なんと品川駅の京浜東北線発着ホームとのこと。まさに灯台下暗しである。
写真を撮るためなのである(たぶん本当は別に目的があるんだと思います)。
一番端から向かいのホームに入ってくる山手線を待つ。
さて素材はそろった。いよいよプロジェクションマッピングに挑戦だ。
DAY4:撮ってきた電車を紙粘土に投影する
ここからいよいよというかようやくプロジェクションマッピングっぽくなってくるぞ。
まずは撮影してきた電車の写真を必要な部分だけ切り抜く。
電車の形に切り抜いた画像をチーズスティック代わりの紙粘土に投影する。
紙粘土を工作で使うと急に夏休みの宿題感が出るが、しかたがない、これも人生である。
投影には電車用と背景用で2台のプロジェクターを用意した。
いよいよスイッチオンや!
どうだ!紙粘土は電車になったのか。
残念ながらならなかった。
そんなに簡単なものではないとわかっていたが、当たり前のように失敗するとそれなりにへこむ。
どうやら電車の縦横比がチーズステック(を想定した紙粘土)の縦横比と合っておらず、結果、はみ出た部分が側面に回りこんで像がゆがんでしまうのだ。
本来ならば写す対象のサイズをちゃんと測って、それにあった画像を生成する必要があるのだろう。しかし今測ることができるのは紙粘土である。こいつにきっちり合わせたところで、チーズスティックに合うかどうかわからないだろう。ガラスの靴はシンデレラにしか合わないのだ。
模型を写すことにした
こうなったらなるべく像が歪まないよう、正面から撮影した写真を投影に使いたいものである。
しかし本物の車両だと真横から撮影することが難しいため、どうしても歪みが出てしまう。そこで模型を正面から撮影して、その画像を使うことにした。
周囲のいらない部分を黒く塗りつぶしてみると完成度があがった。
これは実写よりもリアルに見える。
同じ方法で撮影した京急も投影してみた。
唯一不安なのは、これがチーズスティックではなく紙粘土だということだろうか。そこ一番大切、という気もするがいま僕ができることはここまでである。あとはおとなしくチーズスティックが届くのを待つしかない。
この日、届いたチーズスティックを開けたら中からたくあんみたいな円柱が出てきて線路に乗せても乗せても転がり落ちる、という夢を2回見た。
DAY5:満を持してチーズスティックが届く
次の日、会社から帰るとクール便が届いていた。
実は前日にも不在連絡票が入っていたのでチーズスティックかと夜中に郵便局まで取りに行ったのだが、ヤフオクで買った古本だった。松本清張5冊セットである。
今日のはどうか。間違いないだろうか。
この時点で原稿の締め切り3日前なわけだが、ようやく初対面を果たすことに成功した。
ようこそ、はじめまして!チーズスティック。本当ならばいろんな人と喜びを分かち合いたいところだが、今はそんな時間も精神的余裕もない。一本取り出して確認する。
チーズスティックを初めて見た感想は「意外と平たいな」だった。
想像で作った紙粘土に比べて少し高さが低いように思う。スティックというよりも厚いプレートといった印象である。
不安要素を上げ始めたらきりがないが、チーズスティックを線路に置いてみてそれらすべてが杞憂であることがわかった。
最初からチーズスティックを知っていたらこの企画は提案していなかったかもしれない。そのくらい遠くまできた。
しかしである。
イノベーションの敵は常に常識である。チーズスティックを知らなかったからこそ、僕は常識にとらわれることなく「じゃあそれ電車にします」なんて森永に提案することができたのだ(森永は物を知っていてゴーサインを出したわけだが)。
可能性という言葉を信じてみようではないか。新しい風は常に僕らの上を吹いている。
前だけ向いてスイッチオンである。
これまで紙粘土を相手に積み上げてきたノウハウは確実に生きていると信じたい。僕の目にはもはやこれは品川駅に停まった電車にしか見えないのだから(涙でぼやけているからかもしれないが)。
同情はいらないから思い出してほしい
以上、プロジェクションマッピングでアイスを電車にしようと努力した5日間の記録でした。
アイスは食べる物
結果はともかく、撮影の後食べたチーズスティックは確かに濃厚で美味しかったので、みんなも見つけたら買うといいと思うよ。