まず米を炊こう
なぜロールシャッハ検査に汗のしみが使えるのだろうか。その前にホッカホカのお米が炊きあがるのを見てみよう。
対して、夏の土鍋炊飯がこちらだ
汗がダバダバ
夏にガーガー強火でごはんを炊いて、わっしわし白飯かきこんでいると気づけば汗びっしょり。汗かきの夏の昼食だ。
ただ人より多く水をとって、多く水を出してるだけなのに汗かきはどうしてこうも印象が悪いのだろう。
地球の水の循環サイクルにより多く貢献しているのは私達汗かきじゃないか。いや、汗かきでなく「よく体から水出る族の人々」とでも呼んでほしい。
汗をかいた「よく体から水出る族の人々」の胸にはある模様が浮かび上がる。
汗びっしょりになると
なにかが浮かび上がった。蝶に見えないだろうか。
この模様、何に見える?
私が汗をかくときまって胸に浮かび上がるのはこの形。たまには宝の地図でも浮かんでこないものだろうか。
この形、蝶のようにも見える。ロマンチストなあなたなら、これは二人がキスしているところだと言うだろう。どちらも美しい答えだ。汗じみであるのに。
そしてそれこそがロールシャッハ検査にほかならない。
これがロールシャッハ検査に使われるカード。インクのしみでできてるそうだ。汗でもべつにいいだろう
ロールシャッハ検査とは?
ロールシャッハ検査とは被験者にインクのしみで描かれたカードが何に見えるか答えてもらい、その受け答えから被験者の性格を分析する検査である。
そもそもが紙についたインクのしみなのだ。これがTシャツについた汗のしみでもかまわないだろう。
汗じみを取り込み、画像ソフトで模様としてはっきりさせる
色をつけてカードっぽくする。Tシャツの汗じみっぽさを残すためにここで止めておいた
こうして本来のカード10枚に汗じみ1枚を足してロールシャッハ検査を行う
汗のカードができた
写真を取り込んで加工し、汗じみでオリジナルのロールシャッハカードができた。さあこれでロールシャッハ検査をやってみよう。
被験者はデイリーポータルZ編集部の古賀さん。汗じみのことは何も知らされていない。
「これが何に見えますか?」
「悪魔っぽいなにかだね……こうもり!」ノリノリで何に見えるか考えてくれる古賀さん。こちらに分析するスキルはないのに…
「これはギターだね」 被験者のちょっと後ろから見せるらしい。情報はすべてWikipediaから。
「何に見えますか?」 「人ですかね、横向きに二人、双子の女の子」
「これは何に見えますか?」 「花火! あとは怖い人の顔かな。これが目で、鼻で…」
「じゃあこれなんですが…」
「なんだこれ? 何か……ガンとか?」 今までとちがって「なんだこれ」が出た
「古賀さん、この絵は好きですか?」 「いや~…好きとか嫌いとかあるんですかね」
「じつはこれ汗じみなんですよ」 「やっぱり!(他と)全然ちがうよ!」
古賀さんの汗じみロールシャッハ検査分析
ロールシャッハ検査はこのあとその場で性格の分析が行われる。そこでは何に見えたかだけでなくどう受け答えしたかも重要なようだ。
しかしもちろんそのようなスキルはないので大ざっぱに分析する。
古賀さんは汗じみに関して(それ以前の部分は壮大な前フリなので全部無視する)明らかに不審がっていた。あとから汗じみであることをバラすと「他と全然ちがうよ!」と怒りだした。
そのあと分析が行われないとなると「ほんっとに、なんなの! もう、なんなの!」とまた怒りだした。
なので怒りっぽい性格といえるだろう。
(汗じみロールシャッハ検査 分析者:大北栄人 被験者:編集部古賀 2014.8.29)
つづいてデイリーポータルZ編集部安藤 「セミ……いいのかな、コウモリかな。性格わかるやつですよね、ドキドキするなあ」
「じゃあこれはなんですか?」 「縄文式土器かな。ここは火をたいてるんですよ、全体でいうとキャンプ」
「つづいてこれなんですけど……」
「宇宙人、とらえられた宇宙人を拡大したもの。大きく拡大したところ、グレイの。もしくは火星の表面、砂嵐、砂漠」 全部ちがう、それTシャツの汗じみだ
「なるほどなるほど、ところでこれTシャツの汗じみっぽくないですか?」 「Tシャツの汗じみっぽくないです」 いや、Tシャツの汗じみです
安藤さんの汗じみロールシャッハ検査分析
安藤さんはとらえられた宇宙人に見えたようだ。怖がりの安藤さんに「こどものころ宇宙人が怖かったですか?」 とたずねると「今も怖いです」とのこと。
彼は宇宙人が怖いらしい。 Tシャツの汗じみでも意外と色々なことがわかるものだ。
また、そのあと分析が行われないことを知ると「だめです、やってください。性格を分析してください」と食い下がった。強い意志だ。
だがこの先に分析があったとしても素人の分析では何の役にも立たないだろう。後先のことを考えずに突っ走るタイプだ。これがシマウマの群れならライオンに食われるのは彼だろう。
Tシャツの汗じみでついにライオンに食われるものまで現れた。
(汗じみロールシャッハ検査 分析者:大北栄人 被験者:編集部安藤 2014.8.29)
怒られ中。ロールシャッハ検査のあと分析が行われないとなると、人はものすごくがっかりすることがわかった。
つづいて安藤に呼ばれてニフティ営業部橋本さんが。 「ポケモンに出てくるイーブイに見えます、わかります?」
「これは……きれいですね。虫かな?」 橋本さんのことはよく知らないので熱心に答えてもらって恐縮する。ウソの検査なのに……
「落ち込んでるペンギン。ここが頭でガクーってなってる」 このあと汗じみが待ってると思うと冷や汗がとまらない
「じゃあ次これ(汗じみ)なんですが」 「これは……コンクリートですかね」 惜しい、橋本さん。汗ですそれ。おれの。
大きな意味でのセクハラにあたるのではないか
これが汗じみだとも知らずに何に見えるか真剣に考える橋本。
若い女に自分の身体的特徴を見せて反応をうかがっているのだ。夜道で電柱の陰にひそむロングコートの男とどうちがうというのだろう。
今夜おれは月に向かって吠える。何かわからないが、そういう覚悟がある。
「男の子の背中側に見えます。かっこいい男の子」 「橋本さん、それ汗っぽくないですか?」 「汗? でもやっぱりかっこいい男の子の、背中側から…」 なんかわからないけど照れる。自分の汗をかっこいい男の子と間違われると猛烈に照れる。
(それ汗じみだよ)(うん汗じみだよね) 後輩を見守る先輩たち
「橋本さん、汗じみですわこれ」 大きな苦笑い出ました
橋本さんの汗じみロールシャッハ検査分析
最初は「コンクリート」 とこれだけ他とちがって表面の質感でとらえていた橋本さん。 汗じみがバレたか。しかしそのあと「かっこいい男の子の背中」と何かに見えてきたようだ。
もちろん正解は私の汗だ。自分の汗をかっこいい男の子に間違われる……一体何回人生送ったらこういう状況があるのだろう。現代の奇跡といえるだろう。
まさかと思って、汗っぽくないかと訊いても「かっこいい男の子の背中」という。これは確実だ。人生にモテ期はくるものだというがまさか汗にくるとは。
橋本さんの性格は置いておこう。汗が今モテている。
(汗じみロールシャッハ検査 分析者:大北栄人 被験者:ニフティ営業橋本 2014.8.29)
オラは汗じみ太郎
汗かきであることがイヤだし、汗かいてるなと指摘されるのはもっとイヤだ。どうにもできない身体的特徴だからだ。
若いころはコンプレックスに感じていた自分の短所も、大人になると長所であることにきづいたりする。汗かきも今日少しばかり人々の役に立って、折り合いが少しだけついた気がする。
自分の恥ずかしい部分もいつか役に立つときが来るのだ。そういう童話ってあるだろう。たとえばこんな感じだ。
ーーー
「いつかお前のその汗のしみが役に立つときが来るじゃろう……」
汗じみ太郎はおじいさんにそんなことをいわれたのを思い出して池にむかって叫びました。
「龍神よー! おらの胸のしみがなんに見えるだー?」
池の主である龍神がオオオオンと一鳴きすると雷鳴がとどろきました。
「龍神は怒っているだ、みんな、雨がふるぞ。このあとに待ちに待った雨がふるぞ!」
こうして日照りで苦しんでいた村を汗じみ太郎が救ったのでした。
ーーー「汗じみ太郎」より