本当においしければ市販されているだろう
キミがウナギ以上ねえ…。
ナマズなんて魚は、いるところにはウナギ以上にたくさんいる魚である。田んぼの脇の細い用水路や都市河川にも頻繁に姿を見せる。
こんなにありふれた魚であるのに、その反面、特殊な店を除いては鮮魚店や飲食店で見かけることはほとんどない。ということは、やはりあまりおいしくはないのだと考えるのが道理だろう。
噂が本当なら、このところ食べにくくなってきているウナギの代わりにできるのだが
それをウナギ以上に美味いだと?俺は騙されんからな。
ともかく実践してみよう
まあ疑ってばかりいるのもよろしくない。ひょっとするとひょっとするかもしれないし、ともかくナマズを捕まえに近所の川へ行こう。
夜なら簡単に釣れる。お店で売ってない系魚類の中では割と入手しやすい方。
ナマズは夜行性なので、捕まえるなら夜釣りの方が効率は良い。コツを掴むとかなり簡単に釣れてくれるので、もし蒲焼きがおいしかったら非常に助かる。今後のおかず代が浮くので。
ニョロっと細長いが、やはりウナギに比べるとはるかにボリュームがある。
一匹釣り上げたら、急いで持ち帰って捌いてやる。とりあえず鰻と同様に背開きにするが、ナマズは頭が大きく、ここにも肉がたくさんついているのでつけたまま縦に割ってやる。
また、体表のヌルヌルは臭みの原因になりそうなので包丁でこそぎ落としておく。
おお、美味そう!
以前、当サイトの企画で
ナマズのかまぼこを作ったことがあるので知ってはいたが、身は桃色がかった白身でとても食欲をそそる。鰭の基底部などには鮮やかな黄色に染まった部位もある。脂肪だろうか?
ナマズの蒲焼き
あとはじっくり時間をかけて焼き上げるだけだ。タレの焦げる匂いが香ばしくてお腹が鳴る。いや、だまされるな。これはタレの力であってナマズ自身の手柄ではないぞ。
だが、焼き上がった姿を見ると、これがなかなかおいしそう。超肉厚なウナギの蒲焼きに見えなくもない。ただし開いた頭部のせいで謎の生物感が漂ってしまっているが。
身だけ見ると相当おいしそうだ。
タレで照り輝く身を一切れ持ち上げるとずっしりと重い。
ああ、これ絶対美味いやつだ。間違ってもマズくはないだろう。ナマズと言うといわゆる「珍味」に分類されかねない一品だが、これは何のためらいもなくかぶりつける。
ウナギ=ラーメン、ナマズ=蕎麦
いただきます!
おお、イケるぞ!ウナギより美味いとは言わないが。
…一言で感想を述べるとしたら「美味い」である。
まあそれで終わってしまってはレポートとして成立しないので、もう少し語らせてもらう。
まず、肝心の「本当にウナギより美味いのか」という疑問に関しては「イエスとは言い難い」というのが正直なところである。これは味がウナギよりマズい、劣っているという意味ではない。ウナギとナマズではおいしさのベクトルがやや異なっているのだ。
ざっくり言うと、ウナギは脂が多く、脳に直接ガツンと訴えかけるエネルギッシュな美味さであるのに対し、ナマズはさっぱりとしていてより上品な味わいなのだ。
両者に優劣をつけようとするのは「豚骨ラーメンとざる蕎麦ならどっちが美味い?」といった類の不毛な議論になってしまう。質問するとしたら「どっちが好き?」と聞くべきだろう。
たくさんの人に両者を試食させれば、ウナギよりナマズの方が好きだと言う人も少なからず出てくるはずだ。…ちなみに僕はウナギの方が好きだった。
細かく鋭い歯のせいで多少ゲテモノ感も出てしまっている。
身の質はウナギやアナゴよりずっと引き締まっている。脂の乗りまくった養殖ウナギのように舌の上でとろける食感は無いし、アナゴのようにふわふわしているわけでもない。
意外と脂はあまり感じられず、さっぱりとした口当たりではあるが肉自体の旨味は強く、噛むほどに楽しめる。
そして特筆すべきは分厚い皮である。ゼラチン質の皮はグニグニ、ブチッとした面白い歯触りで香りも高く、とてもおいしい。皮の香りは独特だが、どこかウナギに通じるものがある。この料理のキモは皮にあるのかもしれない。
天ぷらも作ろう
蒲焼きを通じてナマズはなかなかおいしい食材であることが分かった。せっかくなのでもう一品ほど作ってみよう。ナマズ料理では蒲焼きと並んでポピュラーなメニューである天ぷらだ。
天ぷら用にもう一匹確保。見ての通りナマズはとてもかわいいのだが、同時にとてもおいしくもあるのでここは容赦しない。
今回は三枚おろし
皮を剥いたものも試す
天ぷらを作るにあたって、ナマズは三枚におろす。ナマズは体表がぬるぬると滑る上に、その特殊な体型ゆえまな板の上で安定しない。今回は気合と勢いで押し通したが、今後はどうにか固定する工夫が必要かもしれない。
また、あの独特の食感を持つ皮は天ぷらに合うかどうか判断しかねたため、皮を剥いだものと皮つきのものの両方を用意した。
ナマズの天ぷら
皮つきも皮無しもそれぞれおいしい!
皮つきの天ぷらは熱でとろけた皮がモチモチとしていて、とても個性的なおいしさである。
皮無しの方はナマズらしさこそ失われたものの、アナゴのようなクセの無い素直なおいしさで食べやすい。両者を交互に食べればなかなか飽きが来ないだろう。
実際、僕も一匹分はすぐにぺろりと平らげた。
これは蒲焼き以上に美味いかもしれない。これからはナマズが釣れたら天ぷらにしよう。いや、天ぷらを食べたくなったらナマズを釣ろう。
あら煮も作る
ところで、天ぷら用のナマズは三枚におろしたので頭と中骨が残ってしまった。いわゆるアラである。
特に頭にはたっぷりと肉がついているので捨ててしまうのは惜しい。あら煮を作ってみよう。
頭や中骨も無駄にはしない。
これが海の魚なら臭み消しにショウガでも使うのだが、今回は川のナマズ。ちょっと工夫してみようかということで粒山椒を適当に投入して煮込んでみる。
シ、シーサーみたいなのがいる…。
煮込み終えるころに落し蓋を持ち上げると、そこにはナマズではなくシーサーか獅子のような怪物が。
頭の皮がめくれて骨格が露出してえらい見た目になっている。だがきっと味は良いことだろう。
う、美味いけど山椒入れすぎた!口がスースーする!
うん、確かにナマズの身は煮ても美味い。ただ、今回はちょっと粒山椒を入れすぎた。口の中が少しスースーする。
頬肉をはじめ頭に詰まっている身肉はもちろんのこと、頭骨を覆っている皮や、その下にあるトロッとした組織もおいしく食べられる。大人げなくしゃぶって食べたい料理だ。中骨についた黄色い身も脂と旨味が強いので見逃せない。
山椒の量にさえ気を付ければさらにおいしくなるはず。野趣に富むタイプのつまみを好む酒飲みにはたまらないのではなかろうか。
ウナギはウナギ。ナマズはナマズ。
ウナギはウナギ。ナマズはナマズ。確かにナマズの蒲焼きはおいしかった。だが、ウナギの上位互換的なものかと問われれば答えはNOである。どちらもそれぞれ個性的なおいしさを持っており、互いに代役を務め合えるものではなさそうだ。
ちなみに、文中でナマズの蒲焼きをウナギより上品と書いたが、高級割烹で出されるような高尚なものかと言えばそうでもないだろう。やはり気取らず大胆にかぶりつきたい大衆的な川魚料理であった。
そしてナマズの天ぷらは材料調達も調理も簡単で、なおかつおいしかった。近いうちに再び食卓へと上ることだろう。
そういえば以前にチャネルキャットフィッシュという外来ナマズの蒲焼きも作ったことがあるけど、あんまりパッとしなかったなあ…。