特集 2014年7月29日

漁師の敵?「ナルトビエイ」をおいしく食べたい

ナルとはこの魚が日本で初めて確認された五島列島の奈留島のこと。トビエイとは「鳶のようなエイ」という意味。
ナルとはこの魚が日本で初めて確認された五島列島の奈留島のこと。トビエイとは「鳶のようなエイ」という意味。
近年、有明海や瀬戸内海を中心にとある魚による漁業被害が広がっている。その魚はナルトビエイと言う大型のエイで、アサリやカキなどの二枚貝を好んで大量に食べるため、それらの漁場を荒らしてしまうのだという。

ナルトビエイも悪気があってやっているわけではないのだが、彼ら自身はあまりおいしくなく、水産的な価値をほとんど持たないため漁業従事者の方々は大いに手を焼いているらしい。

だがちょっと待った。アサリやカキなんていいモノを食べまくっている魚がマズいなんてことがあるだろうか。ちょっと信じられない。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

前の記事:高温・有毒のオナラを浴びてきた

> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

アサリ漁師の恨み炸裂

よし、なら自分で一匹捕まえて試してみるか。そう思い立った昨年の夏、アサリの食害が顕著だと聞いていた有明海へと釣り竿を持って出かけた。
みんな大好き天然アサリはエイだって大好き。おいしいからしょうがないよね。
みんな大好き天然アサリはエイだって大好き。おいしいからしょうがないよね。
ところで元来ナルトビエイは南方系の魚で、日本沿岸にはさほど多くはなかったという。それが海水温上昇のためか、近年になって西日本で急増しているのだとか。

というわけで漁業関係者にとっては降って湧いた悩みの種となっているであろうエイの食害。まずはその実態を有明海の魚屋さんで聞き込んでみた。
有明海の干潟はアサリやアカガイの好漁場。
有明海の干潟はアサリやアカガイの好漁場。
魚屋さんら曰く、「アサリ根こそぎ食っちゃうからウザい。」「定置網に入ると暴れて大変だからウザい。」「図体デカいくせに臭くてマズくて売り物にならないからウザい。」などと予想通りの答えが返ってきた。

めちゃくちゃ嫌われているな。

エイはただ餌を食べているだけで、漁業被害うんぬんは完全に人間側の都合なのでちょっとかわいそうにも思えてくる。

だが実情はかなり深刻な問題となっているらしく、漁場全体を海水浴場よろしくエイよけのネットで囲うなど大掛かりな対策を取っているのだとか。
餌は殻を少し割ったアサリ。釣具屋さんでは小さめのイカもおすすめされた。
餌は殻を少し割ったアサリ。釣具屋さんでは小さめのイカもおすすめされた。
そうか、そんなに被害が出るほどたくさんいるのか。なら潮通しの良い場所にアサリを放り込んでおけば簡単に釣れるかもしれないな。

と思った矢先、訪ねた水族館で「最近行われた大規模な駆除が功を奏し、今ではウソみたいに少なくなった」という情報を得ることができた。

駆除の最盛期には一日に大型トラック三杯分のナルトビエイが水揚げされることもままあったのだとか。

それが今では漁師さんの網に紛れ込むこともほとんどなく、たまに取れても小さな子供ばかりだという。人間って怒らせたら怖えー。
駆除後の海で釣りをしてみるも…。
駆除後の海で釣りをしてみるも…。
…。ということは個人が釣りという地道な方法で捕獲するのは難しいのでは?

その予感は的中。なんとかアカエイが一匹釣れただけで終わってしまった。
僕を慰めるように釣れてくれたアカエイ。この地方ではエイガンチョーとも。
僕を慰めるように釣れてくれたアカエイ。この地方ではエイガンチョーとも。
ちなみにアカエイは有明海沿岸では「エイガンチョー」と呼ばれ、食用にされる。エイを食べる習慣のある有明海ですらナルトビエイは食べられないのか。そんなに臭くてマズいのか。

もうそのマズさにすらも憧れを抱いてしまう。これは次のシーズンに有明海以外の海域に出向くしかあるまい。

九州在住の僕としては手軽に有明海で捕らえておきたかったのだが…。となると次はやはり瀬戸内海だろうか。

出張帰りに大阪湾で捕獲!

明けて翌年2014年の7月。僕はあるテレビ番組のお手伝いで関西へ出向くことになった。

その道中で中国地方へ立ち寄ってナルトビエイを捕まえるというタイトすぎるスケジュールを練っていると、なんと大阪湾にもこの魚が出没し始めているという噂をキャッチした。

大阪湾!それなら運次第では帰り際に捕獲できるのでは。
ハードディスクに眠る膨大な写真データの中で一番大阪っぽい写真がこれだった。
ハードディスクに眠る膨大な写真データの中で一番大阪っぽい写真がこれだった。
全ての仕事を終えて関西空港へ向かう道すがら、お世話になったディレクターさん(無類の魚好き)と一緒に大阪湾を偵察してもらうことにした。

港で竿を出す釣り人や、沿岸の釣り具店などで聞き込みを行うと、確かにここ数年はナルトビエイが頻繁に目撃されているらしい。二色浜などではアサリの食害も発生しているのだとか。

そして、なんとまさに前日ナルトビエイが目撃されたというホットな釣り場情報も入手できた。急いで現場へ向かうと…。
ナルトビエイ!!(※これは捕獲後の写真)
ナルトビエイ!!(※これは捕獲後の写真)
ディレクターさんが水面直下を泳ぐナルトビエイを発見!しかもかなりの大物。まさか本当にいるとは!

急いで釣り竿を用意して、さあ釣るぞ!と思った瞬間我に返る。この辺りは大阪湾でも有数の釣りの名所で、この日は休日だったこともあり岸辺にずらりと釣り人が並んでいるのだ。

もしもこの状況でこんな大きな魚がハリに掛かって暴れたら、半径数メートル以内の魚はびっくりしてしばらく遠くへ逃げてしまうだろう。釣りを楽しんでいる人たちの邪魔になってしまう。

だが、「すみません、あのエイ釣りたいんですけど…。」と周囲に恐る恐るお伺いを立てると、「どうぞどうぞ!」「おう、釣ったれ釣ったれ!」と意外にウェルカムな雰囲気。では遠慮なく。
釣り上げた直後の感想は「かっこいい!大きい!」に尽きた。男二人でも持ち上げるのは大変!
釣り上げた直後の感想は「かっこいい!大きい!」に尽きた。男二人でも持ち上げるのは大変!
僕が釣竿を、ディレクターさんが引き上げ用の鈎つきロープを担当し、二人で協力して捕獲することにした。

そっとエイの進行方向に釣りバリを投げ入れると、次の瞬間に釣り竿へとんでもない重みが乗った!よく見るとハリを咥えたわけではなく、泳ぐ勢いで肩口に引っかかってしまっただけらしい。

まあ、今はもうそんなことどうでもいい。急いでロープで陸へと引っ張り上げる。
文句なしに大物。なのに、周囲の釣り人はみんな笑ってこそいるが誰一人として羨ましそうにはしていない。
文句なしに大物。なのに、周囲の釣り人はみんな笑ってこそいるが誰一人として羨ましそうにはしていない。
大きい!重い!悠に20キロ以上はありそうだ。男二人でようやく引き上げたナルトビエイは、激しく羽ばたくようにヒレを動かし地面を叩いている。

焼けたコンクリートに置いておくのも何なので海水を掛けてやると、ヒレの力で飛沫がかなり遠くまで飛んでくる。すごい迫力だ。
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毒針に注意!

だがダイナミックに動く鰭にばかり気を取られていてはいけない。このエイの尾には毒針が装備されているのだ。しかも二本も。
まず尾の毒針を二本とも折る。ちなみにこの毒針は背ビレが変化したもので、折れてもまた再生する。
まず尾の毒針を二本とも折る。ちなみにこの毒針は背ビレが変化したもので、折れてもまた再生する。
毒針。表面に粘り気のある毒液が分泌される。よく見るとノコギリの刃のような返しが無数についている。刺さったらさぞ悲惨だろうな…。
毒針。表面に粘り気のある毒液が分泌される。よく見るとノコギリの刃のような返しが無数についている。刺さったらさぞ悲惨だろうな…。
毒針を処理していると、いつの間にか周囲にギャラリーが出来ていた。ちょっと拍手もされてしまった。

単純に大きな魚を釣ったからそれを面白がっているのだと思ったが、どうも様子がおかしい。

「よう釣ってくれた!」「もっと釣って持って帰ってくれ!」などと言っている人もいる。なるほど、ナルトビエイはここでもやはり嫌われ者としてのキャラクターが定着してしまっているらしい。

ただ、嫌われている主な理由が二枚貝を食害するからと言う漁業面に関するものではなかった。「アジとかスズキを釣っててこいつが引っかかると大暴れして大変だから」というのだ。そりゃあそうだろうな。

また、「なんとか釣れても毒針がおっかないし、食べても臭くておいしくない。」とか「一度持って帰って食べようとしたらオシッコのにおいがして大変だった」という食味に関する否定的意見も聞かれた。

オシッコですか…。
しかしでかいなー。もしマズかったら食べきるのも大変だ。
しかしでかいなー。もしマズかったら食べきるのも大変だ。
ナルトビエイがマズいと言われる原因となっているこの「オシッコ臭」はエイやサメといった軟骨魚類特有のアンモニア臭のことだろう。大抵どんなエイもサメも、ごく新鮮な内はこの手の臭みもたいして気にならないものだ。しかし、死後全身にアンモニアが回る速度にかなりの差がある。

たとえば有明海でも売られていたアカエイは比較的食用とされる機会が多いエイだが、わりとアンモニアが回りにくいことで知られている。アンモニアの回りが遅いということは、忙しい漁船上ではなく水揚げ後に魚河岸で解体しても味が落ちにくく、市場に出回りやすいのだと考えられる。

そしてこれまで仕入れた情報から判断するに、このナルトビエイはかなりの速度で臭いが回るものと思われる。となると導き出される結論は「釣ったその場で大急ぎで捌けばおいしく頂けるはず」である。

エイ解体するんで飛行機キャンセルしてください

そんなわけで大至急ナルトビエイを活け締めし、解体することとなったのだが、一つ大きな問題が浮上した。この時点で搭乗予定便の出発時刻までもう一時間余りしかなくなっていたのだ。

ここで同行のディレクターさんから「もう今すぐ向かわないと間に合いませんよ!飛行機、明日の便に振り替えますね!」という発言が飛び出した。えぇ~…。「もうエイなんか諦めて急ぎましょう!」とかじゃないんだ…。

ともかく彼が気を利かせてくれたおかげで、エイを解体しつつも身体の各部位を観察する心の余裕が生まれた。外見でまず気になったのが尾の長さである。僕の身長と大差ないほど長いのだ。
尻尾が長い!
尻尾が長い!
メジャーを当ててみると、なんと鼻先から尾の先端まで260センチもあった。だが恐ろしいことに、これでも先端が少しちぎれていた。無傷ならどれだけ長かったのか。
2m60cmの魚釣ったよ!って言ったらみんなびっくりするだろうな。でも絶対ずるいって言われるだろうな。
2m60cmの魚釣ったよ!って言ったらみんなびっくりするだろうな。でも絶対ずるいって言われるだろうな。
そして次にボディーの分厚さと特徴的な顔立ちに目が行く。

エイと言えば海底に張り付くためにペラペラに薄い体つきをしているイメージだが、このナルトビエイは遊泳に特化しており、筋肉質で肉厚な身体つきをしている。

重たいのも納得だ。眼も真横についており、ちょっとブサイクだけどちょっとかわいい、なんだかクセになる魅力的な顔をしている。

頭部のシルエットがなんとなくイルカっぽいのも泳ぎを極めたがゆえなのだろうか。
ユーモラスな顔立ち。ちなみにロープを通している穴はエラではなく噴水孔という器官で、反対側へ通じている。
ユーモラスな顔立ち。ちなみにロープを通している穴はエラではなく噴水孔という器官で、反対側へ通じている。
顔と言えば、この魚の顔は一粒で二度おもしろい。エイ全般に言えることだが、裏返すとまた違った表情を見せるのだ。
裏返すと…。
裏返すと…。
背面とはうって変わって、ナルトビエイのお腹は真っ白である。顔の部分も同じく白く、口と鼻の穴が空いているのだが…。
笑顔?泣き顔?
笑顔?泣き顔?
笑っているのか泣いているのかわからないが、やはり人の顔に見える。

そして口の中には厳めしい歯が覗く。
サメのように鋭くはないが、絶対噛まれたくない歯。奥に見える牙のような突起は口内のひだで、触ると柔らかい。
サメのように鋭くはないが、絶対噛まれたくない歯。奥に見える牙のような突起は口内のひだで、触ると柔らかい。
上下の顎に生えている、というか敷き詰められている歯は板状で分厚い。これなら二枚貝を軽々噛み砕いてしまうのも納得だ。
洗濯板みたい。
洗濯板みたい。
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少女に呆れられつつ解体

見れば見るほど面白い魚だが、こうしてもいられない。解体を進めていかなければ。きっと体内にも面白い発見があるに違いないのだし。
〆たらまず体表の茶色いヌメリをこそぎ落とし、
〆たらまず体表の茶色いヌメリをこそぎ落とし、
肉を切り取っていく。この分厚いヒレの筋肉!
肉を切り取っていく。この分厚いヒレの筋肉!
胴体の厚みから予想した通り、かなりの量の肉が採れる。特に胸ビレの付け根の筋肉量がすごい。こんなにマッチョなエイは初めて見たぞ。

ボリューミーなのは肉だけでない。珍味であるエイ肝もたっぷりつまっている。
肝だけで1.7キロもある。
肝だけで1.7キロもある。
これだけあればエイ肝の煮つけが食べ放題だ。

と、ここで頭上から奇妙な視線を感じた。
やっべ!見られた!
やっべ!見られた!
まだ幼い少女に解体シーンを見られた!大変うしろめたい!

エイの血で濡れた地面は凄惨な事件の現場のようだ。彼女の顔も若干ひきつっている。これは無垢な少女に大変なトラウマを植え付けてしまったのでは…!
怯えている…と思ったら呆れられてた。
怯えている…と思ったら呆れられてた。
と思ったら全然平気っぽい。お父さんが釣り好きなので魚の解体現場見慣れているらしい。今日もタコを釣りに来たのだとか。

怯えるどころか作業中の僕に「エイとかそんなに頑張って捌く価値あるか?」「他の魚やタコの方がおいしいはずだ。」「もしマズかったらどうやって食べきるつもりだ?」などと素晴らしく的確なツッコミを淡々と入れてくる。

釣り人の娘ってすごい。大阪の娘ってすごい。

刺身でも臭くない!!

解体を終えたらしっかりと現場を清掃し、ナルトビエイの身と肝をクーラーボックスに詰める。あとはヤマト運輸の営業所に持ち込み、冷凍便で自宅へ送れば一段落だ。

ちなみに確保した身と肝の重量は16キロに達した。これに洗い流した血液やゴミとして処分したその他の内臓、アラなどがかなり出たので、やはりどう見積もってもあのエイの体重は20キロ以上あったのだろう。

こういうのはサイズの問題ではないのかもしれないが、やはり大きな命は重く感じる。全力でおいしくいただこう。
胸ビレの断面。真ん中を横切っているのが軟骨。
胸ビレの断面。真ん中を横切っているのが軟骨。
まずは胸ビレとその付け根の肉を料理していく。ヒレの真ん中には薄く広く骨が走っているので、これに沿って肉を下ろしてやると調理しやすいだろう。

ちなみに、軟骨魚類であるエイはその名の通り顎と歯以外の骨格がすべて軟骨である。よって普通の包丁でもザクザク切り分けることができる。
うおっ、ちょっとトロみたいじゃない?
うおっ、ちょっとトロみたいじゃない?
肉の断面を見ると白く細かいサシの入ったトロのように見える部分もあるし、ブリの赤みを強くしたような部分もある。

これはうまそうだ!まずはぜひ刺身で試したい!
ナルトビエイの刺身。こちらはブリっぽい部位。
ナルトビエイの刺身。こちらはブリっぽい部位。
筋肉の繊維の走り方が普通の魚とは大きく違うので戸惑ったが、それでもなんとか刺身を切り出すことができた。

見た目はとてもおいしそうだし、この時点ではアンモニア臭なども一切感じない。ワサビと醤油をつけ、何のためらいもなく口に運ぶ。
おお、予想とちょっと違うが悪くない!
おお、予想とちょっと違うが悪くない!
一口目を食べた印象は「脂っ気の少ないブリ」と言った感じであった。特にザクザクした食感がブリに近いと感じた。ブリっぽい身肉の見た目にも多少惑わされているかもしれないが。

釣ったその場で解体したのが功を奏したか、臭みはほとんど気にならない。味も拍子抜けするほどクセが無い。なんだよ。おいしいぞ。

だが、噛みしめるごとに違和感が…。
マズくて吐き出してるわけじゃないよ。
マズくて吐き出してるわけじゃないよ。
部位によってその量はまちまちだが、口の中に噛み切れない筋がたくさん残るのだ。一口ごとにこれを吐き出すか無理やり飲み込まないといけないので、なかなかスマートには食べられない。

脂のノリは実際乏しかったので、あの「サシ」に見えた白い無数のラインはこのうっとうしい筋だったのかもしれない。刺身は味が良いだけにこの一点が少々残念だ。惜しい!
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煮つけは無難。だが飽きる。

続いてはアカエイやガンギエイ(カスベ)では定番となっている煮つけに挑戦だ。
ナルトビエイの煮つけ
ナルトビエイの煮つけ
エイを食べたことのない人は何じゃこりゃと言ってしまいそうな見た目だ。だが見た目に反して味は淡白すぎるほど淡白。少し濃い目のつゆで煮た方がおかずには向きそうだ。

肉はややもちっとした食感で食べごたえがある。皮はプルプルとしていて、いかにもコラーゲンの塊ですといった印象。

正直にジャッジすると「まあまあ」といった程度の味だろう。食感が特徴的でヘビーな割に、味には主張が無いのですぐに飽きてしまうのだ。一度にたくさんは食べられないかもしれない。

ちなみに、ここで比較のために解凍したばかりのものと、生の状態でしばらく常温放置したものとで煮つけを作り分けてみた。

結果、やはり放置したものでは若干だがアンモニア臭さが生じてしまった。この臭いはショウガでもごまかしにくい気がするので、やはり対策は新鮮な身を使うことに尽きるのだろう。

不思議な食感のフライ

煮つけがいまいちだったのは脂のノリが悪かったせいもあるだろう。ならば油脂分を足せばいい。揚げてやるのだ。フライにするのだ。
ナルトビエイフライ。そのまま揚げると皮が縮んで反り返ってしまうので、格子状に切れ目を入れるか、いっそ剥いてしまうと良い。
ナルトビエイフライ。そのまま揚げると皮が縮んで反り返ってしまうので、格子状に切れ目を入れるか、いっそ剥いてしまうと良い。
パン粉をまぶして揚げてしまえば、ごくありふれた白身フライになるだろう…。そんな風に予想していたのだが見事に裏切られた。キツネ色に揚がってなお、なかなか特徴的である。

白身魚より繊維質だが身に水分が多く弾力がある。かと言ってマグロのカツのように強い歯ごたえは無い。初めて食べるタイプのフィッシュフライだ。

そして味はなかなか美味だがやや淡白。醤油や塩ではなく、タルタルソースをガッツリつけて食べたい。
フライの断面。真ん中は生焼けなわけではなく、血合いのような赤身の層が走っているだけ。普通の魚ではありえない表情をちょいちょい見せつけてくる。
フライの断面。真ん中は生焼けなわけではなく、血合いのような赤身の層が走っているだけ。普通の魚ではありえない表情をちょいちょい見せつけてくる。
同じく揚げ物では、から揚げもおいしかった。

かなり水分が多いので、揚げ物にする場合はキッチンペーパーに包み冷蔵庫で寝かすなど、かなりしっかりと水気を切った方が良いようだ。そのまま揚げると少しジューシーすぎると感じた。
ナルトビエイのから揚げ
ナルトビエイのから揚げ

ナルトビエイの頬肉は獣肉そっくり

から揚げと言えば、ぜひその材料に使いたい部位があるのだ。それはあの厳つい歯を支える顎周りに付いた肉、普通の魚で言えば頬肉にあたるであろう部分だ。

解体中に気づいたのだが、ここの肉が妙に張りがあるうえに赤みが強い。鳥かウサギの肉のようで、から揚げによく合いそうなのだ。
さすが二枚貝食ってるやつは顎周りもマッチョだねぇ!!
さすが二枚貝食ってるやつは顎周りもマッチョだねぇ!!
やはり、硬いものを食べているだけあって顎周りの筋肉が発達しているのだな。これを無駄にする手は無い。

というわけでさっそく包丁で肉を切り取っていくと、ちょっと衝撃的な展開が待っていた。
これ本当に魚肉ですか…?
これ本当に魚肉ですか…?
真っ赤な肉が採れたが、この赤さはマグロやカツオのそれとは違う。これは陸上動物の肉だ。

「似てるな」とは思っていたものの、いざ切り出してみると見た目はもうほぼ獣の肉である。

見た目だけでなく触感もかなりしっかりしていて、獣肉としか思えない。

試しに刺身で食べてみると、僕の脳は「マグロっぽい味の鹿肉の刺身だね」というわけのわからない結論を出してきた。でもそうとしか表現できない。なんだこの魚は。そしてこの肉は加熱したらどうなるんだ。
ナルトビエイの頬肉のから揚げ
ナルトビエイの頬肉のから揚げ
揚げてみると見た目はなかなか悪くない。まあ衣が付いてるんだから当たり前だけど。レモンを絞って熱いうちに頬張るとまたも意外な事態に。
うわー、こうなるのか!
うわー、こうなるのか!
あんなにしっかりした肉がすごく柔らかくなってる!生の状態では気付かなかったが、意外と水分が多い。肉汁があふれ出す。

もっとガシガシと固く仕上がると思っていたのだが、他の部位に負けず劣らずの柔らかさである。

ただ、繊維が一際粗く、圧力釜で炊いた肉のように口の中でほろほろと崩れる。獣肉にしてはやや身が脆すぎる。かと言って普通の魚肉でもない。強いて言えばやはりマグロのカツに近いだろうか。

この頬肉から揚げは今回作ったメニューの中でも特に気に入った一品だった。正直に言うと味の良さはもちろんだが、意外な発見で驚きを提供してくれたという部分も高ポイントだったりしたのだが。
肉はホロホロ崩れる。やはり揚げる前に水気は良く切った方がおいしく仕上がる。
肉はホロホロ崩れる。やはり揚げる前に水気は良く切った方がおいしく仕上がる。

肝の煮つけは…

さて、最後に肝の煮つけを作って締めにしようか。ということで何の気なしにアカエイの肝と同じように調理してみたところ、悲惨なことになった。
崩さないようそーっとゆっくり煮てやると…
崩さないようそーっとゆっくり煮てやると…
はーい、グッチャグチャのドロドロです。
はーい、グッチャグチャのドロドロです。
煮ていると火が通った部分から凄まじい勢いで溶けていき、中心部に火が通る頃には全体がほぼ泥状になってしまっていた。

おかしい、アカエイの肝も煮崩れしやすいがここまでひどいことにはならなかったのに。この後も二回トライしてみたが、いずれも成功とは言い難い結果に終わった。

ナルトビエイの肝自体がそもそも煮つけに向かないのか、それとも冷凍保存など調理に至るまでの過程に問題があったのかは分からない。もったいないことをした。

一応味見はしておいたが、レバーペーストとカニミソを混ぜて濃縮したような味だった。旨味の塊のようなものだが、そのまま食べるにはいささか強烈過ぎた。

肝の食べ方に関しては更なる研究、試行錯誤が必要になってきそうだ。

商品化に向けた研究も盛ん

臭い、マズい、役に立たないと言われているナルトビエイだが、捕獲後に迅速な処理をできれば結構おいしく食べられることが証明できた。

だが、この魚をおいしく食べたいと思っているのは僕だけではない。むしろもっと真剣に研究している方々がいる。駆除したエイを有効利用するため、各地の企業や研究機関が日夜商品開発に情熱を注いでいるそうだ。

特に有明海で商品化されているナルトビエイシュウマイなどが有名だという。なるほど、捕獲してすぐ解体するのは非現実的だが、消臭の工夫をしやすい練り物からなら活路が開けるかもしれない。近いうちにこのシュウマイも食べに行こうと思う。
ヒレの軟骨は干してエイヒレを作成中。
ヒレの軟骨は干してエイヒレを作成中。
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