山陰の小京都、津和野
島根県津和野は山口県との県境にある。
1年前にあった豪雨災害のため山口県と結ぶ路線の一部運休があり観光客が半減してしまっているものの、昔ながらの町並みとゆったりとした時間が楽しめる町である。
JR山口線の完全復旧(8月23日)が待ち遠しい津和野駅
人気のSLやまぐち号ももうすぐ再開
と、少し知ったように書いたが島根県じたい来たのは初めて。
まずは宿の方にお薦めを聞くところからスタートした。ちなみに自転車は宿や駅前で1日500円位で借りられる。
宿の方に聞く所からスタート
お薦めスポット1:千人塚
町の名所を色々と教えてくれたのだが、穴場も行きたいと伝えると「千人塚」という所を教えてくれた。その手前にあるマリア聖堂に行く人は多いが、その先まで行く人はなかなかいないのだそうだ。
猛暑のため途中で自販機の場所も聞く。「この町はあまり無くてねえ」とわざわざ家の人に聞きにいってくれた人もいた。優しい
駅から数分の所で自転車を止め、山の中をあるく
駅から少し移動したところで、早くも山のなかに入った。急こう配ながら手すりがつき整備された坂をのぼる。
乙女峠マリア聖堂。目的地ではないが寄ってみよう
ここは江戸末期に長崎県浦上から捕縛されたキリシタン達が、拷問を受け殉教した場所らしい。噂に聞いていた「小京都」とはまったく違った光景が広がる。
外には三尺牢に閉じ込められたキリシタンと降臨したマリアさま
中ではかわいいおばあちゃんシスターがウチワを仰ぎながら説明してくれる
聖堂に入るとシスターがウチワを差し出しここでのエピソードを話してくれた。私は東京から持参していたウチワがあったがそれを受け取り、一緒にあおいだ。
シスターが指さすステンドグラスは一見きれいだけど、描かれていることは悲惨な拷問。大人しく聞くのみであった。
おかしな電話ボックスを発見
ところで聖堂の前にある電話ボックスがおかしいぞ
受話器が2つあるのだ
思わず両方の受話器を持ち上げて耳に当てる。「ツー…」という電信音が聞こえるが、使い方はサッパリだ。
あとで役場の方に聞いたところ、これは「デュエットフォン」という3者通話ができる珍しい電話ボックスだった。なんでも、恋人や夫婦が同時に受話器をとると絆が深まるといういわれもあるそうだ。
「恋フォン」とも呼ばれる電話。一人で受話器をとった私はどうなるのだろうか
なお、修理が大変なので次に壊れたらもう直さないかもしれないらしい。やってみたい方はお早めに。
山の中をさらに歩く
目的の千人塚まではところどころにキリストにまつわる絵が彫られた碑が置かれていた。キリストも辛そうだが暑さと飛び交う虫に悲鳴をあげる辛い道でもあった。
山道の出口にあった注意書き
聖堂から歩いて15分、目的の千人塚を見つけた。奥には殉教者たちのお墓も並ぶ。ひっそりとたたずむその光景はトトロかもののけ姫が出てきそうなほど神秘的だった。
妖精が出てきそう
中は渋い
しかしその神秘的な景色にたどりつくまでの代償として、体力消耗による空腹と、虫に刺されたあちこちの痒みが凄い。
次は虫刺されを買いがてら薬局の方に食事処を尋ねることに決定した。
薬局で食事どころを聞く
途中で道を聞きながら、薬局をめざし自転車をこいだ。
メインの通りはさすが小京都と言われるだけあり、趣ある町並みが見られる。チェーン店は一つも無く、酒蔵や和菓子屋など個人商店が並ぶ美しい景観を通りぬけた。
いい町並みですなあ
虫さされを買ったついでにお薦めの食事処を聞く
この辺りの郷土料理には「うずめ飯」という、ご飯の中に具が隠されたダシ茶漬けのような料理がある。
内心それが食べてみたいな、と思ったけど、お薦めされたのは喫茶店のオムライスだった。そうか、地元の人は郷土料理などいまさら食べないのだ。
お薦めスポット2:紅葉「くれは」のふわとろオムライス
メイン通りのいい立地にある喫茶店「紅葉(くれは)」
マスターの元気さがケチャップに出てる
元気よく挨拶してくれたマスターご自慢のオムライスは飾ることなく素朴で美味しかった。単品のはずが味噌汁と小鉢つきなのも嬉しい。まだ昼なのに疲労がでてきていた私にマスターのパワーを入れられた感じである。
地元の人頼りができる散歩マップ
店内で散歩マップを見つけた。さきほど薬局にむかう途中に声をかけていた人がどこかで見つけるといいよ、と教えてくれていたものだ。
学生主導で作ったという津和野の散歩マップ。これが、すごくいい
それを参考にしてしまったらこの旅の企画の意味が無い。と、あまり興味がわかなかったのだがマスターも勧めてくるので開いてみたら、これがとてもよかった。
地元の人たちが一冊にひとりガイドとなり、思い出と共にディープな散歩コースを簡潔に紹介してる。
たとえばこんな情報が得られる。
小さい神社のさらに奥、誰も行かないようなところに
立ちこぎ専用ブランコだけの広場があるとか
一見ふつうの光景だが
すごい形になちゃってるカーブミラーがあるとか。
瓦ギリギリ! よく作ったなこれ
ただ観光しているだけでは絶対気づかないポイントが載っている。他にも「ある酔っ払いがパンツでスッポンを捕まえた所」というこの辺りの伝説となっている情報もある。地元愛が伝わってくる散歩マップだった。
喫茶店のマスターにも聞いてみる。「コイは見たの?」
お薦めスポット3:鯉と畳敷きのカトリック教会
お店からすぐ、道の端に続く水路を見てみるとでっぷりと太った鯉がたくさん泳いでいた。後で知ったが津和野の鯉は代名詞にもなるほど有名だった。私の肩幅より大きく、たくましそうな鯉に興奮した。
道沿いに太った鯉が引くほどいる
江戸時代に観賞用兼非常食用として飼われたのがはじまりで、今では町のみんなの家族のような存在なのだそうだ。
そんな中にあるカトリック教会。現存する日本最古の大浦天主堂(長崎県)に似せて作られている
鯉が泳ぐような日本らしい景色のなかに、ランドマーク的な存在ともなっている(これもあとで知った)カトリック教会があった。なんとここ、畳敷きなのだ。
椅子のかわりに畳。初めて見た
さきほどのマリア聖堂の話の続きが聞ける
ここでも可愛いおばあちゃんシスターがお話をしてくれた。マリア聖堂で聞いた惨劇のあとから昭和6年にこの教会ができるまでを知ることができる。
最後になぜ畳なのかと聞いたら、当時は珍しいものではなくて、ただそれが残っているだけとのことだった。
畳を前に寝ころびたくなるのを我慢して次の場所へむかった。
お薦めスポット4:森鴎外の生家
次に向かったのは、最初に聞いた宿の方と喫茶店マスターのおすすめ。小説「舞姫」で有名な森鴎外の生家だ。畳の教会から自転車で15分ほどのところにあった。
寄り道しながらむかった(これは津和野伝統舞踊「鷺舞」のオブジェ)
お邪魔します
敷地にはいってみると障子が全て開け放たれている平屋があった。9歳にして15歳相当の学力があったという鴎外の部屋ものぞける。宿泊施設として使えばいいのにと思うほど綺麗な状態で残っていた。
奥に拝観カードの自販機(100円)が置かれていたので買った。渡す人いなかったけど
ダイナミックに開放された家
森鴎外の像
ちなみに、森鴎外がドイツに留学していた縁で、津和野はベルリンと姉妹都市となっている。「ベルリン行き」と書かれたバスを見かけたり町のお店の一角にはドイツのメーカー商品が置かれていたりする。
暑さにやられて図書館に逃げ込んだ
適当に自転車を走らせながら出会った人に声をかけようと思ったがその前に暑さでやられそうに。小さな図書館に逃げ込んだ。
鴎外や画家の安野光雅さんといった津和野出身の人の本が多く並んでいた。ちょっと涼ませてもらいながらカウンターのお姉さんにお薦めを聞く。
穏やかそうなお姉さん
まずお薦めされたのは「三松堂」という和菓子屋さん。季節限定の和菓子をぜひ、とのことだった。行ってみると立派な店構えだった。
お薦めスポット5:「三松堂」の水まんじゅう
昭和26年からつづく三松堂。建物からして期待できる
これが図書館のお姉さんおすすめ、季節限定の水まんじゅう。見目涼やか!
ぷるぷるでモチモチでとろとろだ
店内には休憩できるスペースがあり、そこでいただくことができた。清涼感のある水まんじゅう。ぷるぷるとした葛もちの中に入ったスッキリとした甘さの餡が透けて美しい。
日持ちしないため近隣の人しか買えないそうだ。そういうことを聞くと遠くから来た甲斐があって嬉しくなる。
穴場を聞いてみる。だいぶ悩ませてしまった
会計のあと、なんとお土産をいただいた! 彼女と友達になりたい
向かいながら、図書館のお姉さんに教えてもらっていたもう一つのお薦めも見に行った。そこは島根県でもっとも多く見られるコンビニ「ポプラ」である。
お薦めスポット6:緑色のポプラ
ふつうのポプラは赤い看板だが、景観を損なわないようにここの看板は緑色になっている。しかも屋根は石州(せきしゅう)瓦というこの地方独特の粘土瓦だ。
このあたりで唯一のコンビニでもある
お次は和菓子屋のお姉さんが教えてくれた「つわっキー」という猿のオブジェだ。駅前ちかくのお蕎麦やさんで、津和野名物の栗を扱ったアイスやぜんざいなども出すお店の前にある。
お薦めスポット7:チェーンソーで作られたつわっキー
つわッキーねえ・・・と眺めていたらお店の方が「これは一本の木でつくられているの」と教えてくれた
しかもチェーンソーでけずって作られているのだとか。それを知ると細かさに驚く
隣町の山口県阿東にいる世界的にも有名なチェーンソーアーティストに作られたものらしい。知らずに見たらひょうきんな顔に笑って終わる所だがエピソードを聞くととても貴重なものを見れた気がする。ありがたい。
お薦めスポット8:津和野高校のなまこ壁
今日着ている服がなじむ
和菓子やのお姉さんお薦めもう一つは、津和野高校の周りをぐるりと囲んでいるなまこ塀のある光景だった。なかなかの広さをもつ校舎を取り囲む塀は趣があり、確かに心に残る風景である。
お薦めスポット9:津和野城跡からの景色
高校の前に山に登る道がある。そこからは、何人かの人がお薦めしてくれた津和野城跡までいくことができる。
自転車を押して山を登った(途中、舞台があったので鷺舞)
中腹からは一人乗り用リフトで
急な坂を登ったり鷺舞をしていたら体力を消耗してしまった。歩いても登れるが、中腹から乗れるリフトの存在がありがたい。青々とした木々の間をゆっくりと5分程登った。
これは気持ちいい!
でもリフトおりてまた20分ほど登り。登り方が老人になってきた
リフトをおりると、木の杖がたくさん置かれていて私のように体力が無い人は自由に使えた。
老人のままなんとか頂上へ。すごい景色だ。マチュピチュってこういう感じじゃないっけ
お城らしいところは石垣くらいしか残っていない。だだっ広い所から景色を楽しむのみである。しかし緑かがやく田んぼと、赤い石州瓦のコントラストが疲れをふきとばすほど美しかった。
和菓子屋でもらった最中がいっそううまく感じる
さだ先輩のお薦めの場所でもある
ここは歌手であり私の通った中学の大先輩でもあるさだまさしさんが、ツアーで津和野に訪れたときに必ずやって来る所とも聞いていた。それに「案山子」という感動的な曲は津和野をイメージして作られているそうだ。
さだ先輩のお気に入りで私も気に入った場所。もううちの中学の修学旅行先にしたらいいと思った。
いったんおりてきたが、次に目指すのはまた山のなか
すれ違うと向こうから挨拶してくれる子供たち
お薦めスポット11:体力作りにも使われる「太皷谷稲成神社」
お次も何人かにお薦めされた場所だ。ここは稲荷神社だが願望成就の意味をこめて日本で唯一「稲成」という漢字表記になっているところだ。
遠くからでも気になる鳥居たち
日本五大稲荷のひとつらしい。しめ縄が出雲大社のように太かった
図書館のお姉さんの話によると、先ほどのお城跡とこの稲成神社は、この辺の学生が部活で走りこみ鍛えるスポットなのだそうだ。
わたしが登り下りしている間にも階段を走りこむ学生にすれ違った。みんなむこうから挨拶してきて爽やかである。
ここからの眺めもよし
さて、そろそろこの旅も終わりの時間がやってきた。最後は道端にいた女子中学生に聞いてみる。
飲み物にストローを2本さして仲良く歩いていた2人
悩んだ挙句お薦めしてくれたのは、その飲んでいたドリンク。目の前のお店で買ったそうだ
お薦めスポット12:「たべるを+糀」のスムージー
こちらはなんと、この日にオープンしたてのお店だった。津和野の名物を使った新しいお菓子やドリンクを買えるお店だ。
津和野の名物、まめ茶を使ったフラペチーノ
彼女たちが飲んでいたものをオーダーしてみる。まめ茶と甘糀を混ぜてフローズン状にしたもので、一日外にいたためほてっていた体を一気に冷やしてくれた。
味はきなこと豆乳をまぜたような、スッキリとした優しい味。暑い夏に毎日飲んでも飽きないような味だった。
新しいたまり場になりそうなお店だった
こんな感じで、津和野の旅は終了した。小京都のような町並みだけでなく、大自然やキリシタンの歴史、むこうから挨拶をしてきてくれる人々が印象的な、おだやかな町だった。
なんといっても津和野のマチュピチュ
地元の人頼りの旅も10回目。振り返ってみると、町を見渡せる場所を教わるのが多いということに気づく。そしてそれはどれも素晴らしく、彼らが地元を思い出す時にうかべる故郷の景色でもあるのかと思うと心にしみる。今回でいえば津和野城跡だ。さだ先輩が歌いだす気持ちも分かる。
実際会話した人に薦められた眺望は、調べてただ行くのとはまったく違った見方になる。旅をしたら、地元の人たちの思い出の景色を聞いて行くのが私のお薦めだ。