新しい伝統になりつつある
お祭りの正式名は第55回キャンプ座間日米親善盆踊り大会。1950年代からはじまったらしい。50年も前だなんてその辺の新興住宅地の盆踊りよりもずっと歴史がある。
座間出身の人によると横田、横須賀、それぞれの基地にこういうお祭りがあって各自好きな祭りがあるらしい。「ビールとか安くて、いいナンパスポットだった」そうだが、そのチャラさ!
しかしこうしたチャラさは地元の若者にも根付いてる証拠だし、その土地の新しい伝統として定着しつつあるのではないか。
会場は芝生だ。座間キャンプのグラウンドに白いやぐらが立っている
屋台にとにかく肉が多い
お祭りといえば楽しみなのが屋台。この盆踊りではさすが米軍基地なものが売られている。たとえば屋台の肉率の高さ。
かぞえてみたらアメリカ系の屋台が並ぶブロック32店舗中19店で肉が売られていた。日本の屋台ではこんなにタンパク質をとらない。小麦粉にソース塗って焼いたものは一店もなかった。(ソース自体ないか)
バーベキューリブやらポークやらは5店舗くらいあった
むりやり翻訳ソフトに突っ込んだのだろうか「りb」「SてあK」。屋台の販売員はアメリカ人が多い。
1000円の肉が屋台で売られてる
売られていたもので多かったのがバーベキュー系の肉、ポーリッシュソーセージ、ハンバーガー。日本の定番焼き鳥もあったが鳥の丸焼きもあるしなんと七面鳥の足まである。
うわさにはきいていたがやはり食うのか。祭りで七面鳥食うのか、君たち。盆踊りだけどいいのか。
価格は1000円。すべてが屋台の枠をはみ出ている。
ターキーレッグ 1000円。屋台で1000円の肉が売ってることも驚きだが、それが七面鳥だとは。ビールはミラー。日本で見ない銘柄だ。
人生初七面鳥は盆踊りで達成。中は生ハムみたいでうまみがすごい。今年からクリスマスの我が家のフライドチキンを「盆踊りでさえ七面鳥なのに!?」とボイコットします。
甘いものもアメリカン
甘いものも予想通りアメリカンだった。
日本のお祭りではわたあめやかき氷に行列ができていたりするがここの一番人気はちがう。ファンネルケーキ。なんだそれは。
屋台の奥ではドーナツみたいなのをガンガン揚げて粉砂糖をまぶしていく。その量もすごい。三角形のメガネかけたお母さんが泡吹いて倒れそうだ。
ほれぼれするほどアメリカン。なるほど、行列だこれは。
ここまで高純度のアメリカンを目の当たりにするとある種の神々しささえ感じる。手くらい合わせておいたほうがいいかもしれない。ああ、ありがたや…
アメリカの少年たちが作っているのは
ファンネルケーキ500円。ドーナツっぽいものになにかをまぶしてる
この日一番の行列。ファンネルケーキ、どういうタイミングで食べるんだろう。こんな日はファンネルケーキ食べたいとかあるんだろうか。
盆踊りに来てりんごあめとかき氷、ではなくてチーズケーキとフローズンカクテル。うまい。うまいがはたしてこれは盆踊りなのかという違和感はずっとある。
日本側もアメリカンな感じになってる
日本の屋台も出てるのだが、いつもより肉系の店が多かったり、デザートにも生クリームがどっさり盛られたバージョンがあったりする。
米沢牛、肉巻きおにぎり、焼きそば、氷、ハンバーガー…肉率が高い
マリオンクレープから座間キャンプ盆踊り限定はどっさり盛られたデザートクレープ
でもわかる。ぼくも星条旗柄のハンカチを買って七面鳥かぶりついてたのでアメリカナイズされる気持ちは十分わかる。
だってりんごあめじゃなくていちごジャムがべっとりついたチーズケーキが売られているのだ。飲み物だってピニャコラーダだ。生活指導の先生の前で口にしただけで殴られそうなその名前。鼻にリコーダー突っ込んで吹いてるときにそんな音しそうだ。
しまった。完全にアメリカに浮かれていた。それにしてもこのあと本当に炭坑節がかかるのだろうか。会場のアナウンスからはビンゴゲームの案内とトム・ジョーンズ『よくあることさ』がきこえてくるばかり。
射撃のとなりにバスケット。アメリカン
輪投げだって「ニューヨークリング」なんだかわからんがすごそうだ
ファミリーに手厚いのもアメリカン
子供用遊具施設が超充実してるのもアメリカンだ。映画で見るアメリカのお祭りでは遊園地が来たりしてるが、ああいう雰囲気だ。
バカでかいバルーン系の遊具に100円入れたら動くパンダカーのアメリカ版みたいなのとかがたくさんある。
福利厚生部門があってそこがレンタルしてきてますと広報の方がいってたが、こんなでかいの日本の業者持ってるのだろうか。
バルーン系遊具はでかくて中に入れる。城まである。これ級のが5個くらいあって顔の細いパンダカーみたいなのもある。全体的に見たことない感じだ。
服が安く売られていたりなぜ日本で売るんだというスーパーニンジャウェポンがあったり
靴がバーっと並べられて売られているのもアメリカンだ(だんだんアメリカンがなにかわからなくなってきた)
ただし入場が厳重
ここは米軍基地なのである種のいかめしさがつきまとう。
いかめしさとはいっても入場用に身分証を用意しておくのとボディチェックさえ受ければ、あとはイカにパンパンにもち米詰まってる感じを想像しとけばいいだろう。
ごてごてした銃のおもちゃは「基地内で電池入れないでね」と店員さんから注意が
入り口の写真はセキュリティ上撮れない
たとえばこのお祭りは自由に写真を撮っていいのだが、入り口だけはセキュリティの問題でダメ。
ということで、盆踊りに来た浴衣姿の男が屈強な男たちにボディチェックされてる様は可笑しかったが写真に撮れず。
そういえば案内してくれた広報の方が別れの際に「あとはご自由に、もし憲兵につかまったりしたらお電話ください」となかなかないシチュエーションを提示していたのが印象的だった。
ふざけて憲兵につかまるのは、い、イヤだなあ…
水道代わりに使っていたのは補給タンクついた車。基地っぽさ全開の盆踊り会場だ。
テントが飛ばないようにくくりつけられた箱には謎の鉄器だし
やぐら近くの来賓席も、帽子を空中に投げそうな雰囲気がある
ステージのコピーバンドもアメリカン
お祭にはステージがあって豪華だ。このお祭り、最後には花火も上がるし自治体の盆踊りにくらべてとにかくお金がかかっている。
地方のお祭りに行くとアマチュアコピーバンドの演奏があるがケタ違いにうまい。バンド名は「サムライ オブ ロック」と、一見して日本ではない感じがただよう。
出てくるバンドがやたら上手い。バンド名が「サムライ オブ ロック」と日本人がつけなさそうなネーミングだ
中学生くらいの女の子たちが知ってる曲だったのか同じ動きで踊りはじめた。その四角いお面といい、私達がもっていないものがここにある。
と思ったらヘリがいきなり飛び立った。ヘリってこんなにカジュアルに飛ぶものなのか。原付で買い出しにいく感じだったぞ。
夜になるといよいよ盆踊り
ステージが終わると盆踊りがはじまりますとアナウンスが。いよいよだ。今日はたのもしい助っ人がいる。全国各地の盆踊り会場に駆けつけている盆踊りファンの小野さんだ。
盆踊りにハマったという雑誌『恋と童貞』の小野さん。翌日には青森のねぷたに駆けつけていた
小野さんは『恋と童貞』という雑誌も作っているが「アメリカには童貞がいるのかって、それは本当に謎なんですよね…」と、どうでもいいアメリカとの距離感を吐露してくれていた。
だが小野さんの盆踊りにかける熱意は本物だ。芝生の会場なんてないし、あんな白い立派なやぐらもそうそうない、と盆踊りファンならではの見方も教えてくれる。
「ワン、エン、トゥー、エン…」とアメリカチームの練習。20チームがかわるがわるやぐらで踊る。
炭坑節、ドンパン節、相模原音頭…いつもの盆踊りの曲がはじまった。グラウンドの芝生と強烈な照明は他にあんまりない感じだ
踊りに参加する米軍関係者の数が多い。みんな浴衣姿だ。
ボンダンスはじまる
盆踊りがはじまった。炭坑節、ドンパン節、東京音頭、相模原音頭…かかるのはいたって普通の盆踊りの曲だ。
日米20チームが1曲ずつやぐらの上で踊ることになっているらしくそういうのはちょっと珍しいらしい。
何より珍しいのが一曲終わるとどこからともなく「YEAH!」という声があがるところだ。これは盆踊りではなくボンダンスなのだ。
すごい人数が踊っている
アメリカの人、みんな踊ってる。お昼のダンス自然発生を目の当たりにしたあとでは、そりゃ踊るわなと思う。
アメリカの人、一生懸命踊ってる
盆踊りは1時間半くらいつづいた。アメリカ側の参加が多く、かったるそうな素振りを見せずにみんなちゃんと踊っていた。
軍関係者の娘さんなのか、十代も後半の黒人の女の子がガム噛みながら炭坑節を踊っていたのが印象的だった。
まず踊りのうまそうなおばちゃんの隣についてコピーするという教えてくれた盆踊りの楽しみ方どおりのことをしてた小野さん。わからない人がかたまると模範がなくてカオスになるそうだ。
盆踊りがおわり、ずっと踊りつづけていた小野さんにどうだったかきいてみると「思ったより普通でした。地面が芝生なのは踊りやすいです」とのこと。
外から見てたらイエーイエーきこえてきてて、そんなに普通でもなかったですよ。
盆踊りの一方、DJブースではレイブ化していて大盛り上がり。日本人率は盆踊りよりむしろこちらが高い。ファミリー層が多く、クラブで踊る人が今やママやパパなのかと
このあと花火が上がるため、地元の人でぎっしり。55年もつづいてるとみんな楽しみ方を知ってるのだろう
うわさにたがわぬアメリカンな盆踊り
この前スーパーで買ってきたパスタDoのボロネーゼを家族で食った。イタリアの人もこういううまいスパゲティを食べてるのだろうかと思うと同時に(これ外国の人が見たらなんだ日本人ふだんはボロネーゼとか食ってんのかとがっかりするだろうな…)とも思った。
そんながっかりの対極だ。
七面鳥、お祝いのときに食う食うとはきいていたけど、ちゃんと食ってくれるか。それも盆踊りで食ってくれるのか、君たち。踊りも自然発生してくれるか、そのキレのある動きで盆踊りまでやってくれるか。
盆踊り大会に米軍基地らしさはあるのかなと思っていたら想像以上にアメリカンだった。
日本で盆踊り大会はじめて55年。日米まざったあたらしい文化が生まれつつある。文化がまざるときってどんより混ざるのかと思っていたら、どちらの色もきわだった感じだった。
ああ、アメリカンさがまぶしい。もう日焼けするほどにアメリカンだ。米軍基地盆踊り、風呂あがりにマキロン塗るほどアメリカンにあてられた夜だった。