特集 2014年7月30日

モンブランの山頂でモンブランを食べてる場合じゃなかった

ヨーロッパアルプスの最高峰です。標高4,810mあります。
ヨーロッパアルプスの最高峰です。標高4,810mあります。
日本の最高峰は富士山で、標高3776mだ。ヨーロッパアルプスの最高峰はモンブランで、標高4810mある。富士山より1000mちょい高い。

一方で、モンブランという栗のケーキがあるだろう。もちろん由来は山のモンブランである。

モンブランに登る事になったので、どうせなら山頂でモンブランを食べてみようと思い立ち、ザックに忍ばせ山頂にアタックした。
あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

前の記事:マヨアートってのをやってみた

> 個人サイト keiziweb DIY GPS 速攻乗換案内

こういう写真が撮れました

テレビじゃないのでもったいつけず結果の写真を載せちゃう。ここが標高4,810m、モンブランの山頂である。
ここがモンブランの山頂。右手に持ってるのがケーキのモンブラン。3.6ユーロ(およそ500円)でした。
ここがモンブランの山頂。右手に持ってるのがケーキのモンブラン。3.6ユーロ(およそ500円)でした。
今まで登った最高峰はもちろん富士山で、それより1000mも高い。気圧も当然低いので空気が薄く、ちょっと歩くだけで息切れするし頭も痛い。

気温は標高0mの地点より28℃低い計算だ。山頂は風が強く、体感温度は-15℃くらいだったと思われる。とにかく寒かった。

ここに至るまでの顛末を説明します。

練習で槍ヶ岳と富士山

実際にモンブランに登る事になったのは半年以上前、2013年の終わりである。去年モンブランに登った山仲間に「今年もヨーロッパに行くから一緒にどう?」と誘われた。

半分憧れ、半分夢みたいな話だったのだが、いつの間にか具体化して気がついたらジュネーヴまでの往復航空券(往復で10万円弱)をネットで買っていた。もう後戻りは出来ない。買ったその瞬間からほぼ満額のキャンセル料が掛かるのだ(もちろん自腹だ)。

春には高度順応と体力作りのために残雪の槍ヶ岳に登ったりもした。
上高地から槍沢を経て山頂へ。槍沢ロッジと槍ヶ岳山荘に泊まった2泊3日のコース。雪はまだまだ残っていた。
上高地から槍沢を経て山頂へ。槍沢ロッジと槍ヶ岳山荘に泊まった2泊3日のコース。雪はまだまだ残っていた。
実は槍ヶ岳に登ったのはこれが初めてである。
実は槍ヶ岳に登ったのはこれが初めてである。
標高4,810mを目指すとなると、富士山も練習の場である。5合目から4時間で山頂まで登り、しばらくとどまって高度順応をする。

早めのペースで富士山に登ると、高山病で酩酊出来る。なんだかフラフラして気持ちよかった。脱法登山なのでおすすめはしない。
まだ鳥居が雪に埋まっていた。初めて雪がある富士山に登った。
まだ鳥居が雪に埋まっていた。初めて雪がある富士山に登った。
この日は天気が崩れて雪が舞っていた。富士山には何度か登っているが、剣が峰まで登ったのは初めて。
この日は天気が崩れて雪が舞っていた。富士山には何度か登っているが、剣が峰まで登ったのは初めて。
他にもアイゼンのトレーニングをしたり、クライミング、ロープワークなんかも練習した。

※アイゼン…登山靴に着ける金属製のスパイク。するどく尖った爪が10本から12本付いていて、雪や氷に刺すことで滑るのを防ぐ。

ついでに言えば、テントを担いで鳳凰三山(南アルプスの山)に登ったりもした。一応これもトレーニングである。
南アルプスは行程がなかなか長いので疲れます。砂浜みたいですが標高は2700mくらい。
南アルプスは行程がなかなか長いので疲れます。砂浜みたいですが標高は2700mくらい。

実は10年ぶりの海外なのだ

トレーニングをしつつ、パスポートを取ったり準備をした。海外に行くのなんて10年ぶりである。パスポートの期限はとっくに切れていた。

時は流れて2014年7月11日。

成田発、トルコのイスタンブールで乗換えてスイスのジュネーヴへ。機内食が3回、よく判らない時間に出てきて、なにがなんだか判らなくなった。7/11の23時に成田を出て、日本時間で12日の17:30(現地は10:30)に着いた。19時間くらい掛かった計算になる。まー、遠い。
これは2回目の食事。朝ごはんって事になるのか。自分がなにごはんを食べてるのかよく判らなくなった。
これは2回目の食事。朝ごはんって事になるのか。自分がなにごはんを食べてるのかよく判らなくなった。

え、あそこに登るの?

ジュネーヴに飛行機が近づく頃、下界は雲に覆われていた。航路的にはモンブランの近くを通るのだが、山頂は雲に覆われて見えなそうだなぁと思っていた。

が、雲の上に山が見えたのだ。え、なにあれ、と思ったらモンブランだった。
このピークだけピョコンと雲の上に出ていた。
このピークだけピョコンと雲の上に出ていた。
え、アレですか?と去年登ったMさんに聞くとそうだという。は?あんなに高いんですか?と。飛行機の高さじゃないですか、と。ちょう雪積もってるじゃないですか!と。

なんでも、僕らが来る前の1週間はずっと天気が悪く、山の上はずっと雪が降っていたそうだ。7月なのに。

モンブランの名前の通り、真っ白な山である(モン=山、ブラン=白)。山頂に積もった雪の厚さは40mだそうだ。マジか。
予定通りなら3日後に山頂に立つとか、実感がなさ過ぎた。
予定通りなら3日後に山頂に立つとか、実感がなさ過ぎた。

ようやくシャモニーに到着

ジュネーヴから貸切タクシーで1時間半ほど。着いたのはフランスのシャモニー・モンブランという街である。途中で国境を越えていたらしい。

名前の通り、モンブランに登る人は大体シャモニーに滞在する。着いたそこは、紛れもないヨーロッパのリゾート地だった。
ステレオタイプなヨーロッパ風建築。
ステレオタイプなヨーロッパ風建築。
着いた日は雨が降ったりして不安定な天気だった。が、濡れた地面に明かりが反射して却って美しかったりもした。

『ご馳走とは普段食べてない物である理論』からすると、僕にとって海外で見る物は全てが美しく、物珍しいご馳走だ。映画の世界に入ったみたいだった。
見る物全てが新鮮。
見る物全てが新鮮。
ディズニーシーみたいだなぁ、とか思ってた。
ディズニーシーみたいだなぁ、とか思ってた。
ちょうどリードクライミングのワールドカップ第2戦が開かれてたので観戦。男子の金メダルは安間佐千選手。
ちょうどリードクライミングのワールドカップ第2戦が開かれてたので観戦。男子の金メダルは安間佐千選手。
シャモニー1日目のお仕事は、食材の買い出し、山岳保険の加入、マルチパスの購入など。マルチパスというのを買うとシャモニー近郊の鉄道、バス、ロープウェイが乗り放題になる。6日間で118ユーロ(16500円くらい)もするが、ロープウェイに2回も乗れば元が取れてしまう(つまりロープウェイが超高い)のでマルチパスは必須である。
駅の窓口でマルチパスを買います。
駅の窓口でマルチパスを買います。
こういうカード。絵が可愛い。裏には日付とか謎のコードとか書かれてます。ICチップが入っていてSuicaの様に使えます。
こういうカード。絵が可愛い。裏には日付とか謎のコードとか書かれてます。ICチップが入っていてSuicaの様に使えます。
次のページではモンブランを探しながら食材を買います。

野菜がでかい

宿泊先は貸しアパートで、食事は自炊なので食材をたっぷり買った。近所にスーパーUというスーパーマーケットがあったのだ。
こんな部屋に1週間滞在した。2フロアで寝室は4つ。バストイレも4つ。10人は軽く泊まれる。頭割りすると1日3500円くらい。
こんな部屋に1週間滞在した。2フロアで寝室は4つ。バストイレも4つ。10人は軽く泊まれる。頭割りすると1日3500円くらい。
SUPER Uには何度も買い物に行った。
SUPER Uには何度も買い物に行った。
売ってる野菜が日本と違い、やたら大きくて驚いた。どれも日本の3倍くらい大きい。巨人の国に紛れ込んだ気分である(実際みんな身長高いんだけど)。もしくは、なにかの突然変異っぽく見える。
キュウリである。でかすぎて1週間経っても冷蔵庫に残っていた。
キュウリである。でかすぎて1週間経っても冷蔵庫に残っていた。
マッシュルーム(シャンピニオン)もやたらとでかい。ステーキでも生でもOK。なんで日本のはあんなに小さいのか?
マッシュルーム(シャンピニオン)もやたらとでかい。ステーキでも生でもOK。なんで日本のはあんなに小さいのか?
トマトも見た事無い形、大きさである。
トマトも見た事無い形、大きさである。
野菜もすごいが肉やハム、チーズも塊で売られていた。外国のスーパーって楽しいです。
剥き身のLapin。兎である。生々しい。兎は鶏肉に近い扱いだった。
剥き身のLapin。兎である。生々しい。兎は鶏肉に近い扱いだった。
スーパー以外でもチーズの塊、ワイン、ハムなどをガンガン買った。7人分の食材で冷蔵庫はパンパンである。
ビールが多すぎる件。
ビールが多すぎる件。
仲間はプロだったり趣味の料理好きだったり、料理を作れる人が多かったので、毎日美味しい料理を食べられた。外食すると高いので(普通にランチして2000円くらい)自炊ばかりしていた。
なんとコシヒカリが売られていた。タイ米も買って食べたが安くて美味かった。自炊すれば食費はかなり浮く(外食はかなり高い)。
なんとコシヒカリが売られていた。タイ米も買って食べたが安くて美味かった。自炊すれば食費はかなり浮く(外食はかなり高い)。
流石本場というべきか、バターやチーズなどの乳製品、サラミやハムなどの肉製品、パン屋さんで売ってるバゲットやクロワッサンが絶品だった。しかも安い。

チーズなんか日本の半額以下だったと思う。これを日本でも食べられるのなら是非TPPに参加して自由化していただきたいと思った。
朝食は大体いつもこんな感じ。牛乳も美味い。日本となにが違うのか。飼料?
朝食は大体いつもこんな感じ。牛乳も美味い。日本となにが違うのか。飼料?

モンブランはあっさり買えた

して、ケーキのモンブランである。買い物しながら探していたのだが、街のパン屋さんであっさり買えた。

元々のモンブランはパリの『アンジェリーナ』というカフェが発祥だという。それを日本に紹介したのが、自由が丘の『モンブラン』初代店主である迫田千万億氏だ。

氏がシャモニーを旅した際にモンブラン(ケーキ)を知り、日本人向けにアレンジしたのが今日本で広く流通しているモンブランである。

では本場のモンブランはどんななのか?
色々と美味しそうなケーキが並んでました。
色々と美味しそうなケーキが並んでました。
流石、お菓子の本場フランスだなーなんて思いながらケーキのショーケースを見ていたら、端っこの方に「Mont Blanc」って書かれている値札を見つけた。しかし見慣れたモンブランは見あたらない。
外国人が書くアルファベットはマジで読めない。
外国人が書くアルファベットはマジで読めない。
見慣れない姿だけど、栗が載ってるし『モンブランを2個下さい』って言ったら、その茶色いのを箱に詰めてくれた。どうやらこれがこの店のモンブランなのだ。
箱は紐で縛ってくれた。酔っぱらいが持つ寿司折りみたいである。
箱は紐で縛ってくれた。酔っぱらいが持つ寿司折りみたいである。
アパートに戻って皿の上に置いてじっくり観察。全体に茶色く、クリームは細いうねうねではなくベタッと塗られている。

山頂部分にマロングラッセ、なぜかココアパウダーが振られていた。
僕が知ってるモンブランとはだいぶ違う。
僕が知ってるモンブランとはだいぶ違う。
ナイフで切って食べてみる。

上から下までほぼマロンクリーム。滑らかでバターの風味が強い。甘味も強く、濃い目のブラックコーヒが良く合う味だ。中にはマロングラッセが入っており、甘さに拍車が掛かる。コーヒーが進む味である。

土台は薄いスポンジケーキで、多分なにかお酒の味がした(様な気がする)。
バター風味の栗クリームが特徴的。
バター風味の栗クリームが特徴的。
ついでに買ったフルーツタルトがやばかった。フルーツは全体に酸っぱめ、それが甘い土台と合っていた。フランボワーズとコケモモ、キウイ、桃など惜しげもないフルーツぶりである。味的にはモンブランよりこっち派です。
フランスはお菓子とチーズがやたら美味いのだ。そりゃパンがなければケーキ食えって言うわ。
フランスはお菓子とチーズがやたら美味いのだ。そりゃパンがなければケーキ食えって言うわ。
モンブランの1個は味見で食べて、もう1個を厳重に梱包した。ザックに入れても潰れないようにプチプチやボール紙で緩衝材を作り、タッパに格納した。本番ではこれをザックに忍ばせて登るのだ。
まぁ、これで多分潰れずに持っていけるでしょう。
まぁ、これで多分潰れずに持っていけるでしょう。
問題は、僕が本当にモンブランに登れるのか、という事である。余計な企画を持ち込んで登れなかったとしたら色々マズイ。ちなみに、モンブランの登頂率は20%だそうだ(低い!)。
モンブランを研究してた科学者と水晶職人のコンビ。吹き出しを付けるなら「旦那様!あれが山頂でげす!」って感じだろうか。ちなみに初登頂した医者(パッカール)の銅像は別にある(理由はコチラ)。
モンブランを研究してた科学者と水晶職人のコンビ。吹き出しを付けるなら「旦那様!あれが山頂でげす!」って感じだろうか。ちなみに初登頂した医者(パッカール)の銅像は別にある(理由はコチラ)。

まだトレーニングメニューが残ってた

シャモニー2日目。この日は高度順応とアイゼントレーニングをすると聞いていた。シャモニーの現地ガイド(フランス人)1名に対して僕らクライアントが2名のパーティーで氷河を下り、そしてコスミック稜というルートを登るのだという。ふーん。

マルチパスを使いロープウェイで一気に標高3,800mへ。すでに富士山より高く、完全に冬山の世界だった。が、ロープウェイで行けるので観光地でもある。フル装備の登山者と観光客が入り乱れる不思議な空間だ。
ここがミディ。けっこう寒い。この日は曇っていて視界が悪い。
ここがミディ。けっこう寒い。この日は曇っていて視界が悪い。
晴れてるとこんな感じ。要塞みたいで格好いい。
晴れてるとこんな感じ。要塞みたいで格好いい。
氷のトンネルで準備。ヘルメット、ハーネス、アイゼンを装備してピッケルも持てと言われた。ガイドと僕らはロープで結ばれた。一蓮托生である。

※ハーネス…通常は腰に着ける安全ベルト。危険な場所を登る場合、これにロープを結んでお互いを確保する。

※ピッケル…英語だとアックス。シャフトと呼ばれる棒にヘッドという尖った金属が付いた斧状の道具。杖として使ったり、急な斜面では刃を雪や氷に刺してよじ登るのに使う。

ガイドから「君が先頭を歩け」と言われ、あからさまに立ち入り禁止なゲートを越えていく。

マジか・・・って思ったさ。
氷のトンネルで準備。
氷のトンネルで準備。
目の前にはアルプスの山々。そしてほっそい踏み跡を下る。両側は切れ落ちてて、滑ったら止まらないだろうなーって感じ。ガイドとロープで繋がっていても冷や汗ものである。
ここを歩けと言う。
ここを歩けと言う。
しかし序の口、氷河を下りきると「今日登るのはこのルートだよ」って、なんだか岩々しいルートの取り付き地点に連れて行かれた。確かに事前に「コスミック稜」と聞いてはいたが、岩と雪の、いわゆるミックスルートとは気付いてなかった(調べてませんでした。てへ。)。

※ミックスルート…岩と雪が混ざったルート。混ざっていると岩部分をアイゼンで行動しなきゃならず、非常に歩きにくい。
赤い線の場所を歩いてきた。要所要所は確保されながら登るので安全性は担保されている。
赤い線の場所を歩いてきた。要所要所は確保されながら登るので安全性は担保されている。
本当に恐かった場所は写真に残ってません(余裕が無かった)。富士山より高い高度でクライミングというのは初体験である。息切れはすごいし、恐いし緊張する。練習でこれか。

そして最後にはツルツルでほぼ垂直な岩壁が残っていた。ここが一番難しい場所(核心)である。
アイゼンの前爪2本が乗るような小さな凹みがあるので、そこに乗り込んで登ります。
アイゼンの前爪2本が乗るような小さな凹みがあるので、そこに乗り込んで登ります。
なんとか登った。落ちても上からロープで確保されてるので死ぬことはない。でも、怪我くらいはするかも知れないので気は抜けない。

登り切ると最後はミディの展望台に出る。そこに登るはしごが金属製なんだけどバインバインたわむのだ。強度・・・。

いつ折れ曲がるか判らず、この日一番恐かった。はしごくらい丈夫なものにして下さい。
コスミック稜で一番恐いのがこのはしごだ。
コスミック稜で一番恐いのがこのはしごだ。
高度順応は多分バッチリ。アイゼンで岩場を上り下りする練習も出来た。

はて?モンブランにそんなに岩場ってあるの?と思いつつ、3ページ目でようやくアタックします。

いよいよモンブラン

ところで、文章だけだといまいち行程が判らないだろう(伝える自信もない)。という事で地図を用意した。

スタートはニ・デーグル駅(2,372m)。ここまではロープウェイと登山電車で行ける。そこから岩と雪の斜面を登ってグーテ小屋(3,800m)へ。標高差は1,400mほど。そこで一泊して次の日の2時半に出発して山頂(4,810m)を目指す行程となる。多分、もっともポピュラーなノーマルルートだ(なお、イモトさんが登ったルートとは違います)。

※ノーマルルート…一般的な登山者が登るメジャーなルート。人気があるので踏み跡があり歩きやすい。
http://www.swisstopo.admin.ch/より。赤い線がルート。ニ・デーグル駅から先が登山道になる。モンブランの南はイタリア、北はフランス。ナイフリッジの部分は国境を歩く。
http://www.swisstopo.admin.ch/より。赤い線がルート。ニ・デーグル駅から先が登山道になる。モンブランの南はイタリア、北はフランス。ナイフリッジの部分は国境を歩く。
朝、アパートまでガイドが迎えに来てくれた。車でロープウェイの駅まで移動、マルチパスでロープウェイに乗って登山電車へ。登山電車は運休したのかなんだかよく判らないが駅で2時間待った。
頭の中では『世界の車窓から』の音楽が鳴る。
頭の中では『世界の車窓から』の音楽が鳴る。
2時間待って、ようやく来た登山電車に乗り込んだ。
登山電車は結構な斜度を登るので、線路の間に歯車がある。
登山電車は結構な斜度を登るので、線路の間に歯車がある。
ものすごい斜めに停まるモンブラン鉄道。100周年だそうです。
ものすごい斜めに停まるモンブラン鉄道。100周年だそうです。
ここからモンブラン登山が始まる。最初は普通の登山道をテクテクと歩いて行く。
まだ雪はない。
まだ雪はない。
徐々に険しくなったり、雪が出てきたりする。
この辺、たしかちょっと高度感があった。
この辺、たしかちょっと高度感があった。

雪山になってきました

岩山から雪山へ。標高が上がると雪が増えてくる。でもまだ斜面は緩やかでアイゼンは必要無い。
緩やかな雪の斜面を登る。
緩やかな雪の斜面を登る。
ガスっていて視界が悪い。感じとしては4月の北アルプスっぽい。
ガスっていて視界が悪い。感じとしては4月の北アルプスっぽい。

アイゼン装着、クーロアールを登る

テートルースという小屋(の近く)に到着した。ここでアイゼン、ヘルメット、ハーネスを付ける。ここから先は落石と雪崩がよくあり、ついでに言えばクレバスも出てくる危険地帯だ。

※クレバス…氷河や斜面に出来た雪の割れ目。深さは数十メートル以上。見えてるのは恐くないが雪で覆われたヒドゥンクレバスというのがあり、たまに人が落ちて死んでいる。実は下山中、仲間の片足が穴にハマって「足の下が空間だった」と言っていた。
ガイドはみんな準備が早い。休憩も最小限。スピードが大事なのだ。
ガイドはみんな準備が早い。休憩も最小限。スピードが大事なのだ。
前述の通り視界が悪くルートの先が見えなかったのだが、下山の時に撮った写真だとこんな感じになる。クーロアールという岩と雪の斜面である。よく落石や雪崩で人が死んでいるらしい。マジか。

これが結構な岩登りだった。斜度は45°くらいあっただろうか。クライミング的には難しくはないんだけど、こけたら終わりだなとは思った。
雪の斜面がノイジーなのは雪崩の跡です。雪崩の跡を越えて、その先は岩の斜面を登ります。
雪の斜面がノイジーなのは雪崩の跡です。雪崩の跡を越えて、その先は岩の斜面を登ります。
傾斜が急な斜面は、正面と上だけ見てればあまり恐くない。だが、下を見るとなかなかの高度感に震える。なんとなく下を見たら遙か下に氷河があり、『しわ』の様なクレバスが見えた。あのしわ1本1本が、人が落ちたら死ぬようなスケールなのだ。
氷河を見下ろす。ダイナミック!
氷河を見下ろす。ダイナミック!
目のズーム機能をオンにすると、さっきアイゼンを付けた辺りにあるテント村が見えた。ごま粒の様な点がテントである。テントがこういう角度と距離感で見えるような斜面を今登っているのだ。ヤバイ。

大雑把に言って500mの高度差である。の、登っちゃったなぁ・・・。
登って来ちゃったなー。
登って来ちゃったなー。
なるほど、過剰に思えたコスミック稜のアイゼントレーニングはここの為に必要だったのだ。っていうかあれ以上にキツイ。落石を避けるために急いで危険地帯を抜けるのらしく、かなりのハイペースで登っていく。

途中、太ももを攣ったりしたが、駅からおよそ5時間ほどでグーテ小屋に到着した。
これ、山小屋です。
これ、山小屋です。
グーテ小屋は去年新しく建て替えられて大きくなった。外観は宇宙船のようで、崖にへばりつくように建っている。高所恐怖症の人はここに泊まる事自体が恐怖かも知れない。

中は大変に綺麗である。標高は富士山より高く物価も高い。コーラが330mlなら5ユーロ(700円)、500mlなら7ユーロ(1000円)、水1.5リットルが5ユーロ(700円)だった。
食堂。広くて清潔、なぜか暑い。
食堂。広くて清潔、なぜか暑い。

部屋は快適

部屋は2段ベッドが並んでいて個人のスペースが保たれている。日本の山小屋だと狭い部屋に押し込まれて肩幅しか寝るスペースが無い、なんて事もザラにある。が、ここはそもそも予約がないと部屋に泊まれない。すし詰めになる心配がないのは良い(玄関で寝ている人もいたが、無予約で来た人らしい)。
結構快適、暑いくらいのベッドルーム。
結構快適、暑いくらいのベッドルーム。
食事はチーズから始まり、スープ、肉、豆、デザートとコース料理っぽくサーブされる。
チーズと豆のポタージュ。ワイン飲みたい気もするが、標高が高いとこで酒を飲むと高山病のリスクが高くなるのでやめておいた(ガイドは飲んでたが)。
チーズと豆のポタージュ。ワイン飲みたい気もするが、標高が高いとこで酒を飲むと高山病のリスクが高くなるのでやめておいた(ガイドは飲んでたが)。
鶏肉と、なんか豆を煮たやつ。タンパク質多め、糖質少なめのメニューだ。米かパンが欲しかった。
鶏肉と、なんか豆を煮たやつ。タンパク質多め、糖質少なめのメニューだ。米かパンが欲しかった。
ガトーショコラ。お菓子は絶品です。
ガトーショコラ。お菓子は絶品です。
食後は次の日の装備を準備してとっとと寝る。要らない荷物は小屋に置いていける。極限まで減らしたが、一眼レフのデジカメとモンブランは置いていけないので地味に重い。

起床は午前1時、出発は2時だそうだ。早く寝たいが、明るくてなかなか眠れない。だって、21時なのに夕焼けなんだよ、ヨーロッパって。
夕日に染まるAiguille de Bionnassay(ビオナセ針峰)方面。
夕日に染まるAiguille de Bionnassay(ビオナセ針峰)方面。
2,3時間ウトウトしただろうか。1時なんてあっという間で、起床、朝食、出発の時間になった。いよいよ山頂にアタックするのだ。

さぁ出発だ

また、ガイドの行動がいちいち素早い。速攻で朝食(パンとコーヒー)を食べたと思ったら、もう外で準備をしていた。僕らも日本では行動が早い方だと思っていたのだけど、ヨーロッパのガイドはレベルが違った(そりゃそうか)。

水をたっぷり飲んで寝たが、若干頭が重い。わずかに高度障害である。行動に支障が出るほどではなかったので、ガイドには「サヴァ(元気)」と答えておいた。
この緑のウェアを着てるのが僕らのガイド。彼に命を託す。ちなみにガイド料は1人800ユーロでした。
この緑のウェアを着てるのが僕らのガイド。彼に命を託す。ちなみにガイド料は1人800ユーロでした。
2時。ヘルメット、ハーネス、防寒具、ヘッドランプを装備して出発。天気は問題無し。雲一つ無い絶好の登山日和である。風も比較的穏やかだった。
泊まっていた人がみんな出発していく。出来るだけ早く登って早く降りる戦略である。まずはドーム・デュ・グーテを目指す。
泊まっていた人がみんな出発していく。出来るだけ早く登って早く降りる戦略である。まずはドーム・デュ・グーテを目指す。
天気は問題無いが、問題は空気の薄さだ。平地の6割未満、半分ちょいしか空気がない。ちょっと登れば息が切れ、吸っても吐いても空気を吸ってる感じがしない。写真を撮るために呼吸が乱れると、しばらく息切れが治まらない。
東の空が明るくなってきました。
東の空が明るくなってきました。

寒くて恐い

安定した天気とは言え、稜線に出ると当然のように風が吹いている。体感温度は風速1mにつき1℃下がる。気温が0℃で風速10mなら体感温度は-10℃である。実際の風速がどのくらいかは判らないが、とにかく寒かった。
こうして見ると大したことなく見えて悔しい。
こうして見ると大したことなく見えて悔しい。
スケールがデカイのだが、空気が澄んでいるのでいまいち距離感が出ない。下の写真は、前に見える黒い小さい点が人間で、そのサイズと比べて巨大な雪庇(というかセラック(雪の塊)?)と、刃物のようなナイフリッジである。

※雪庇… 雪のひさしで、普通は稜線の風下に出来る。酷い場合は10m以上に育ち、気付いたら空中を歩いてたなんて事もある。踏み抜いたら当然落ちる。

ナイフリッジの部分、幅は50cmほどで、その細い道を踏み外せば1,000m以上の奈落である(一応、落ちる前にガイドが止めてくれる事になっているが)。
こういう感じ、日本の山の一般ルートではなかなか無い。
こういう感じ、日本の山の一般ルートではなかなか無い。

多分凍傷になりかけてた

風が出てきて、手の指先が強烈に冷えた。手袋の選択をミスって、薄めの手袋2枚重ねにしたが保温性が足らなかったのだ。

最初、冷えて痛かった右手中指の感覚が無くなった。他の指で確認すると硬い。揉んでも血流が回復しない。このまま放置したら凍傷になってしまうだろう。
ヨーロッパアルプスのご来光です。
ヨーロッパアルプスのご来光です。
指を失うのは困るので、手袋から指を抜き、手袋の手の平部分で手をグーに握って指先を温めた。ちょっと不便だが背に腹は替えられない。

20分くらいで痛みが戻ってきた。指先は強烈に痛いけど、痛いってことは生きてるって事だ。
張り気味のロープが風で流れ、そして凍っている。
張り気味のロープが風で流れ、そして凍っている。
またしても本当に恐かった部分の写真はあまり残っていない。カメラなんか構えて写真を撮っている余裕が無かった。

強いて言えば、この写真だろうか。細い道の両側は結構な角度の凍った斜面で、遙か彼方の地面は遠すぎて見えない。
ナイフリッジを歩く人々。みんな頭がどうかしてる。
ナイフリッジを歩く人々。みんな頭がどうかしてる。
イラストで描くとこんな具合である。写真より斜度がある様に描いたが、これが僕の目に見えていた角度なのだ。
マジで恐かった。
マジで恐かった。
5時44分。高度障害、凍傷なりかけ、恐怖のナイフリッジを乗り越え、ついに山頂が見えてきた。登頂した人が溜まっているあたり、あそこがモンブランの山頂である。
ついに登頂率20%を乗り越えて、山頂に着く。
ついに登頂率20%を乗り越えて、山頂に着く。
ここまで先導してくれたガイドが「先に行け」と先を譲ってくれた。

誘ってくれたMさんや一緒に登った仲間、ガイド、山、行かせてくれた妻への感謝で涙が流れ出した。

モンブランは『技術的には難しくない、問題は天気だ』と評される山だ。天気が良ければ登頂率はグッと上がる。それでも、ここまでの苦労を思うと涙を堪えることが出来なかった。

おかげで若干呼吸困難になった。死ぬかと思った。
ここがヨーロッパアルプスの最高地点、モンブランの山頂です。
ここがヨーロッパアルプスの最高地点、モンブランの山頂です。
西を見ると影モンブラン。
西を見ると影モンブラン。
振り返ると、今までの山では見た事ない高度感。空を歩いているようだ。
振り返ると、今までの山では見た事ない高度感。空を歩いているようだ。
で、本題のモンブランだ。
で、モンブランですよ。
で、モンブランですよ。
ここまで苦労して持って来たモンブランをザックから取り出して、急いで撮影するのだ。
ラップに包んでプチプチで梱包、ボール紙で固定して持って来た。これは下山後の写真だけど。
ラップに包んでプチプチで梱包、ボール紙で固定して持って来た。これは下山後の写真だけど。
と、いう様な苦労の末に撮ったのがこの写真である。命がけで登ってきたあと、こんなふざけた写真撮ってていいのかなーと疑問に思わなくもなかった。

なお、モンブランはガチガチに凍ってました。当たり前か。
このダジャレを撮るためにここまで来たのだ。
このダジャレを撮るためにここまで来たのだ。
山頂には5分といられない。登ってる間は自分の発熱があるんだけど、止まった途端に冷えるのだ。体は冷え、回復してきた指先も冷えてくる。

写真をざっと撮り、景色を目に焼き付けたらさっさと下山に移る。出来るだけ早い時間にクーロアールを通過しないとならないからだ(午後は落石と雪崩が起りやすいため)。
下山は下山でまた恐いんだよ!
下山は下山でまた恐いんだよ!
下山はサクサクである。高度が下がると空気が濃くなる。一歩一歩楽になっていく感覚だ。
ミニチュアみたいに見える他の山も標高2000mくらいある。
ミニチュアみたいに見える他の山も標高2000mくらいある。
降りながら振り返る。ここを登ったんだなぁ。
降りながら振り返る。ここを登ったんだなぁ。
アイゼントレーニングで行ったコスミックルート(コスミック稜)が見えた。あと、この2日後に登ったミディの南壁も見えた。小さいな!高さ200mあるんですけど。
アイゼントレーニングで行ったコスミックルート(コスミック稜)が見えた。あと、この2日後に登ったミディの南壁も見えた。小さいな!高さ200mあるんですけど。
避難小屋とヘリコプターとセラック。もう、すべてのスケールがでかい。
避難小屋とヘリコプターとセラック。もう、すべてのスケールがでかい。
下りはクライアントが先行、ガイドが後ろに付きます。こけそうなクライアントをガイドが止めるため。
下りはクライアントが先行、ガイドが後ろに付きます。こけそうなクライアントをガイドが止めるため。
が、長い。1日半掛けて登った標高差を一気に下るのだ。4800メートルから2400メートルへ、2400mの標高差を6時間ほどで下った。
ビルのようなスケールのセラック。すべてがが大きすぎて恐い。
ビルのようなスケールのセラック。すべてが大きすぎて恐い。
砂丘みたいですが雪原です。多分ドーム・デュ・グーテのちょっと下。
砂丘みたいですが雪原です。多分ドーム・デュ・グーテのちょっと下。
標高差と距離が堪えて、前日に攣った足が痛み出したり、両膝に痛みが出てきたり、体力は限界だし足はダルイし、全体的にギリギリでニ・デーグル駅に着いた。無事に下山できてホッと一息。よかった、死ななくて。
無事降りてきたので、山頂で食べられなかったモンブランを食べます。下山後のスイーツは最高です。
無事降りてきたので、山頂で食べられなかったモンブランを食べます。下山後のスイーツは最高です。
なお、後日仲間が他のスイーツ屋さんで別のモンブランを見つけてきました。これは日本のモンブランに似た形です。色は全然違って茶色いけど。
これも美味しかった。フランスに行ったらパンよりケーキを食べるべきです。
これも美味しかった。フランスに行ったらパンよりケーキを食べるべきです。
モンブランの山頂でモンブランを食べている場合じゃなかった、ホントにその通り。あー、でも楽しかった!

山は良いよにゃ

山登りを始めて9年、日本の山もろくに登ってないのにうっかりモンブランに登れてしまいました。穂高も剣岳も登ったことないんですが。

今回は主に天気が良く、運が良かったんだと思います。体力的にはギリギリでした。今後も、謙虚に山に登らせていただこうかと思います。とか、しおらしい事を書いておく。

拙作のGPSアプリ、DIY GPSのテストもしてきました。モンブランの山頂でもちゃんと使えました。ログも綺麗に記録できました。

DIY GPS公式サイト
http://diygps.net/
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