なぜ彼女たちはブラジルへ行かねばならぬのか
はるばるブラジルまで行って日本代表の試合を観戦してきたのは、S子さんとI子さん(※アイコではない)の女性二人組。事前にあれだけ治安の悪さが報道された中での渡伯である。
日本代表チームの成績は置いておいて、とりあえず二人が無事に帰ってきたことをお祝いし、その土産話を披露するための会が、S子さん宅で開かれた。
向かって左がS子さん、右がI子さん。
――それにしても、なんでブラジルまでサッカーを観戦しに行ったんですか?
S子:「え!いくでしょう!普通!ブラジル!」
I子:「私もブラジルでやるって決まった時から、絶対に行きたいって思っていた!」
――もうさんざん聞かれたと思いますけど、治安的に不安じゃなかったですか?
S子:「やっぱり一人だと無理かなーっと思って、同じFC東京ファンのI子さんに、ブラジルいくっしょ?いくっしょ?って誘って。今までもよくFC東京のアウェーの試合を見に、一緒に徳島とか仙台とかいっていたから」
――二人といっても、女性だけですよ?
I子:「ドイツ大会(2006年)は一人旅だったし…」
S子:「私も!その時は住んでいた家を引き払って、トランク一つに荷物を詰めていったの。 前回の南アフリカもいきたかったけれど、南アにワイナリーとか農園を持っている人の友達がいて、一緒にいけばそこに泊めてくれるっていう話があったんだけれど、直前になって『よく考えたらサッカーに興味なかった。なにもサッカーのある物価の高い時期にいかなくてもいいんじゃない?』っていう話になっちゃったから、次のブラジルは絶対に行ってやろうって思ってた。ブラジルなんてこんなことがなければ絶対いかないし!」
ブラジル観戦ツアーの報告会。S子さんが撮ってきたビデオを見ながらの飲み会である。
――でも、お高いんでしょう?
I子:「旅行代理店で頼むと、2試合観戦ツアーで80万円かな。利益度外視の一番安いところでも60万ちょいとか。それも試合のチケットはナシで(ツアーでは試合のチケットを扱えないそうです)。ツアーだとどうしても安全を確保しなければいけないというところで高くなるので、航空券やホテルを個人で手配しました」
S子:「安全の保障は個人の心の中で。それで40万円くらいになったんだけれど、結局途中で飛行機を逃したりして、もう少し掛かっちゃった」
――試合のチケットはどうしたんですか?
I子:「FIFAのオフィシャルサイトで買いました。ワールドカップのチケットってものすごい倍率なので簡単には買えなくて、現地で余っている人を探して買うとか、ダフ屋から買うとかが普通。でも今回は日本戦が2試合取れたから、応募が少なかったのかな」
S子:「グループリーグはカテゴリー3という席で90ドル。発券するまでどこになるのかわからなくて、どっちの国を応援するという選択肢はないから、相手チームのサポーターとごっちゃになって観戦するの」
I子:「各国の協会枠の席もあるので、日本サッカー協会を通して申し込むと、日本人用の席が取れます」
おお、知らないことだらけ。ちなみにサッカーを観戦するには真横からが見やすいそうで、会場全体が見づらいゴール裏の席は、比較的安い場合が多いそうだ。
S子さんの男前すぎる冷蔵庫の野菜室。この日のために冷やしている訳ではなく、これが日常らしい。
試合会場となるレシフェまでの長い道のり
今回の観戦ツアーは、移動を含めて10日間。オリンピックは「都市」ごとの開催だが、ワールドカップは「国」ごとでの開催のため、国土面積が日本の約23倍あるブラジルでは、スタジアム間の移動も飛行機が当たり前となる。
チケットを確保した日本戦は、第一試合がレシフェ、第二試合がナタルという街。この二都市は赤道に近い場所のため、季節が冬となる今の時期でも、気温が30度くらいあるらしい。
ざっくりとした地図を描いてみました。
日本からレシフェへの直行便はもちろんないので、まずは成田空港から13時間掛けてニューヨークへ行き、4時間トランジット(乗り換え)があって、そこからサンパウロまで9時間。すでに丸一日が経っている。
サンパウロでのトランジットの間に試合のチケットを発券するのだが、各国のサポーターでチケットセンターが大行列になってるという噂があったため、時間内に発券できるかどうかが最大の心配事だったそうだ。
無事に試合のチケットを発券。もしトランジェット中に発券が間に合わなかったらと思うと、他人事ながら胃がキリキリする。
サンパウロからレシフェまでは、国内線で3時間。空港からタクシーでホテルへと向かい、シャワーを浴びたらすぐにスタジアムへ出発という強行スケジュール。試合のキックオフは現地時間の夜10時というデンジャラスタイム。
このレシフェという街は、なかなか奥まった場所だそうで、日本でいえば野津田(FC町田ゼルビアのホーム)と似た印象の場所らしい。ぜんぜんイメージできないけど。
そして予約したホテルがまた寂しい場所にあり、これは二人だと歩けないかなとスタジアムまではタクシーで移動。ちょっと危なそうな場所を通るときは、無理をせずにタクシーが基本のようだ。
ようやくレシフェのスタジアムへと到着。
これが翌朝撮影したホテルからの景色。
運命の日本対コートジボワール戦
ものすごい時間を掛けてやってきた日本代表の初戦だが、結果についてはみなさんご存知の通り、1-2の逆転負けを喫してしまった。
さすがに日本からブラジルまで応援にいく人は少なかったようで、空席がたくさんあったそうです。
本田選手が得点をする少し前、これはチャンスが来そうだなとビデオカメラを構えたら、前の席のかわいこちゃんがスミマセンとトイレに立ったので、この子が行き過ぎたら撮ろうと思ったら、その瞬間にガーンと見事なゴールが決まり、撮り損ねてしまったそうだ。
今思えば、日本代表のサポーターにとって、一番幸せだった時間である。
ゴール直後の観客席。
その映像を見て拍手をする熊。
観客はブラジルっぽい人が多く(カテゴリー4というブラジル人用の安いチケットがあるそうです)、他の国を応援に来たヨーロッパの人もチラホラ。
日本代表にはヨーロッパで活躍している選手も多いので、この試合は会場全体が日本びいきだったのだが、両チームで一番の有名選手であるドログバ選手が投入されると、会場内の空気はコートジボアール寄りに一転。
両チームの選手たちは、そんな空気の変化を敏感に感じたのかもしれない。
青いゴミ袋を膨らませて応援する日本代表サポーター。試合後に会場でゴミ拾いをしたという話がニュースになったが、この応援用ゴミ袋を使ったようだ。
帽子がかわいいコートジボワールのサポーター。
ちなみに私は、この試合を佐渡島沖合に浮かぶ漁船の中で観戦していた。
まさか漁船でワールドカップを見ることになるとは思わなかったぜ。
試合後、雨の振る中を疲れ切った体で30分程歩き回り、駅へと向かうシャトルバスになんとか乗り込んだのだが、1時間爆睡してたどりついたところは、なぜかレシフェの旧市街。
敗戦に雨のダブルパンチ。
結局そこからタクシーの大行列に並び、夜中3時過ぎにようやくホテルへと到着。
S子さんは仮眠をとり、I子さんは日本から持ってきてしまった仕事をこなし、次の目的地へと向かうため、朝5時半にホテルをチェックアウト。
さすが勤勉な日本人、なかなか無茶なスケジュールである。これぞなでしこジャパン。ホテルの滞在時間が全部で3時間くらいだ。
S子さんが作ったブラジルのパン、ポンデケージョ。
イグアスの滝を目指して
日本代表の第二戦は5日後なので、その間にI子さんが前から行きたかったという観光が挟まる。その目的地は、ブラジルとアルゼンチンの国境に位置するイグアスの滝。
昨日の試合結果を水に流すにはちょうど良い観光かもしれない。
現地で会った日本人サポーターたちに「え、女性二人ですか!勇気ありますね!」と言われまくったそうです。女性もいるにはいるけれど、男子入りのグループで来ている人がほとんどだって。
レシフェからイグアスの滝があるフォスドイグアスまでの距離は、同じブラジル国内とはいっても、3000キロくらい離れている。
そのため、早朝にレシフェから国内線でサンパウロへ移動し、さらに飛行機を乗り継がなくてはいけない。ホテルへの到着は夕方となり、国内移動なのに丸一日が移動日だ。
この日は早めに就寝をして、数日振りにベッドでゆっくりと休むことができたそうだ。
国内なのに飛行機を乗り継がなければたどり着けない。帯広から東京で乗り換えて八丈島に行くくらいの難易度だろうか。
しっかりとホテルで休んだ翌日、イグアスの滝がある国立公園へとバスで向かう。
そこにはハナグマという野生動物がいて、食べ物を狙って観光客のカバンを漁るらしい。日光のニホンザル、北海道のキタキツネ、奈良公園のシカみたいなものだろうか。
イグアスの滝=ハナグマという情報が、私の中にしっかりとインプットされた。
写真からも伝わってくる、なんとなく南米っぽい空気感。
上映していたS子さんのビデオに謎の動物が映って、今日一番のどよめきが起きた。
「なんて動物だ!」(バイきんぐの小峠さん風に読もう)
イグアス名物、ハナグマだそうです。かわいいけれど野生動物なので気を付けましょう。
ハナグマだけに、ハナが長いね。
たぶんハナグマをモチーフにしたゆるキャラと。
こちらはブラジルワールドカップのキャラクター、Tatu-Bola(タトゥボーラ)。ハナグマではなくミツオビアルマジロだそうです。
このあたりは蝶の宝庫で、I子さんの肩に止まる場面も。でも虫が大嫌いなので、すごく嫌だったそうだ。
でかいぞ、イグアスの滝
私はイグアスの滝がどんなものか知らなかったのだが、その映像や写真を見て驚いた。なるほど、でかい。
そりゃI子さんがルシフェから飛行機を乗り継いででも来たがった訳である。
スケール感がよくわからないけれど、きっと想像以上にでかいはず。
S子さんが持ってきたFC東京のキャラクター、東京ドロンパ。オバケのQ太郎以外にもドロンパっているのか。。
数日前まで大雨が降ったために、カフェオレ色に濁りまくった茶色い水が、ドカドカと壁の向こうから爆音と共に落ちていた。
なんて、私がこの目で見たみたいに書いてみました。「
イグアスの滝」で画像検索をしてみたら、水の色が全然違った。
滝というより土砂だな。
どうやってあの展望台を作ったんだろう。水しぶきを浴びるというよりも、水の中を漂っているような感じでズブヌレになるらしい。
今調べて知ったのですが、ここは世界一大きな滝だそうです。
どう対応したらいいのかわからない看板。
アルゼンチン側からも滝を見る
ブラジル側からイグアスの滝を堪能した後、ホテルに戻ってもう一泊。そして翌日に対岸から滝を眺めるために、アルゼンチンへとバスで渡る。
国境に位置するイグアスの滝は、ブラジル側とアルゼンチン側で景色が違うため、ぜひ両側から見たかったのだそうだ。一応一日で両側から見ることも可能なのだが、せっかくなのでと二日掛かりで滝を堪能するのである。
アルゼンチンはブラジルと通貨が違うので、入園料などにアルゼンチンペソが必要になる。
これはブラジルのユニフォーム屋さん。
「世界の車窓から」に出てきそうな列車。S子さんは列車内で酒を飲む「飲み鉄」だそうです。
アルゼンチン側のイグアスの滝には、「悪魔の喉笛」と呼ばれる超絶景ポイントがあり、これをお楽しみにとっておいたため、ブラジル側から先に見たそうだが、残念ながら増水の影響で通行止めで、結果として前日の方が楽しめたそうだ。
I子さん、残念!でも二人とも声を揃えて行ってよかったといっているので、楽しいところなのだろう。
アルゼンチン側から見たイグアスの滝。
なんだか合成写真みたいだな。
写真撮影を頼まれるI子さん。
うまく撮れていなくてやり直しとなり、ちょっとショボンとするI子さん。
「誰も泳がないよ!」と、突っ込むべき看板。
明らかにコントロールを失っているように見えた濁流の中を観光船。ワイルドですね。
これは確かに見てみたいかも。
実際にいかないとスケール感がわかんないだろうなー。
そして飛行機に乗り遅れる
アルゼンチン側からの滝を眺めた後は、ホテルに戻って荷物をピックアップして、空港から第二戦のおこなわれるナタルへと移動する予定だったのだが、ここで大きなトラブルが発生。
そう、飛行機に乗り遅れたのだ。
原因はいくつかあり、まず公園内に地図や標識がほとんどなく、 道を聞いたら間違ったルートを教えられるしで、出発が遅れてしまったこと。
アルゼンチンなので、どうにか見つけた地図や標識もスペイン語。
そしてバスの到着が遅れたり、来るはずのバスが来なかったり、道路が混んでいたり、少しずつ到着の時間が遅くなっていくという、ストレスのたまりまくる展開に。
バスの時間はあまり信用できないみたいです。
S子:「バスで国境を超える際、普通は入国管理所で降りた人を待たないで、次のバスに乗ってもらうんだけれど、アルゼンチンの兄ちゃん2人が、『俺たち速攻帰ってくるからちょっと待っていてくれ!』ってバスを待たせて。そのバスの運転手ものんびりした人で、降りた人に『よし、待っててやるからいってこいよ!』って。あの10分がなければ間に合った!で、結局戻ってくる前にバスが発車したの!だったら最初から行ってよ!」
I子:「さらに途中で乗ってきたおっちゃんが、席にもつかないで、運転中も運ちゃんに超話して掛けて。運転手も一回バスを止めて、そのおじさんと話し込んじゃう。もう『えー!』ですよ!」
スケジュールがタイトなときのバス移動は、いろいろと難しいみたい。(写真はメトロ)。
そんなこんなで行きの倍くらい時間が掛かってしまい、残念ながら飛行機も遅れることなく出発となったため(しょっちゅう遅れるらしいのだが)、タッチの差で乗り遅れてしまった。
私だったらパニックになる展開である。
さようなら、乗るはずだった飛行機。
結局レシフェ経由でナタルへと向かう
イグアスからナタルへの飛行機はなかなかチケットがとれないらしく、次は二日後じゃないとダメだと言われ、大慌てでさっき飛び出したばかりのホテルへスゴスゴと撤退。ちなみにイグアスからナタルはバスだと60時間掛かるらしい。
フロントで「飛行機に間に合わなかったでござる」と伝え、昨日と同じ部屋のカギを受け取って、「かたじけない」と一日延泊となった。
※この口調はそのまま文字にしました。
S子:「このホテルには世話になったボーイさんがいて、チップを渡したかったんだけれど小銭がなかったりで渡せなかったの。で、またそのボーイさんが担当になって部屋に案内してくれて、ニヤっとしながら「ウェルカム・トゥー・イグアス」っていうから、こっちも「アゲイン!」ってチップを渡したわ!」
そんなこんなで絶望の淵に立たされつつも、いろいろとルートを調べた結果、レシフェに行く飛行機ならチケットが明日取れるようなので、サンパウロ経由でレシフェまでいって、そこからナタルまでバスで行ける…だろうと、翌日ふたたび空港へ。
無事にレシフェの空港へとたどり着き、そこからメトロで長距離バスセンターへ移動。バスのチケットを1時間ほど並んで買い、17時のバスに乗車。ヤンエグなガブリエル君に大変お世話になるなどした後、22時にようやくホテルへと到着。
ナタルのスタジアムへと向かう
ナタルはレシフェに比べると、なかなかリゾート地のようで、リゾート気分のホテルに泊まり、リゾートなエリアを抜けて、日本代表の第二試合が行われるスタジアムへ。
運命のキックオフは19時だ。
素敵なホテルですね。
おお、ブラジルっぽい景色。
この街が一番ワールドカップで浮かれていたそうです。
炭水化物とビール!
本場のシュラスコ!
「あ、I子さんだ!」と、ビデオを見ながら全員が指を刺す。
これはS子さんが用意したブラジル風コロッケ。泪型で具が入っている。
リゾートっぽいですね。
S子:「若いおねえちゃんがたくさんいるとおもったら、おじさんばっかりだった!」
「あれってババヘラ?ババヘラアイスじゃない?」と、この会に来ていた秋田出身の人がつぶやいた。
このビーチでサッカーボールを蹴っている彼が、16年後のイスタンブールワールドカップで大活躍をするとは(妄想)。
日本対ギリシャ戦
そんなこんなでリゾート気分を味わいつつ、現地で知り合った日本人サポーターたちと一緒に、有料ヒッチハイク的な手法でスタジアムへ。
そして結果は、ご存じの通りスコアレスドローという不完全燃焼な試合に。
ナタルの方がレシフェより日本人が多かったそうです。
オリンピックでもワールドカップでも、日本代表を応援する人たちには独特のコスプレ観がありますね。
チョンマゲで日本人サポーターに手を振る、ブラジルのサポーターだそうです。バカ殿風。
ナタルのスタジアムがかっこいい。
キノコみたいな売店もかっこいい。
でも事前の報道でもあった通り、工事が終わっていない場所が結構あったそうだ。
周辺道路もこんな感じ。スタジアム内は試合ができるくらいには完成していたそうです。
この試合では、開始早々ギリシャに退場者が出て、そこからギリシャがドロー狙いで来たため、日本チームに対して「もっといけ!もっといけ!」っていう感じではありつつ、それ以上にスタジアムではの守りに入っていたギリシャに対してブーイングが飛んでいたそうだ。
でもギリシャはこの引き分けを経て、決勝リーグへと進出できたので、ギリシャの作戦勝ちなんでしょうね。
サッカーのスタジアムって広いんですね(子供みたいな感想ですみません)。
21時ごろに試合はドローで終了し、旅の目的であった日本代表の観戦はこれにておしまい。
スタジアムから帰りの手段が全くアナウンスされておらず、みんなが思い思いの方向へ歩いて行くという、サバイバル能力を試される帰路だったそうだ。
S子さんとI子さんは、3キロ先のショッピングセンターまで歩いて、たまたま来たローカルバスで無事生還。
タトゥーシール屋と一緒にナタルのファンフェス会場へ
以下、ワールドカップとはほとんど関係のない話が続くので、時間がある人だけお付き合いください。
日本代表戦を見終えた翌日は、昼間を別行動にして、パブリックビューイングをおこなっているファンフェスタという場所で待ち合わせ。
女二人旅でも危ないと思うのに、ここにきて別行動というのがすごい。そして案の定、よくぞ無事に日本まで帰ってきたなというエピソードが追加されることとなる。
S子:「私がファンフェスタの会場へ行くバスに乗り間違えて、着いたらスラムでした、あらどうでしょうみたいになって、そこにインチキタトゥー師(タトゥーシール屋さんのことらしい)の兄ちゃんが、ファンフェスだったら歩いていけるよっていうからついて行ったの。そしたらまず海岸まで出て、『ほらあそこ!』ってすごく遠くを指さされたの!」
「ほらあそこ!」と、岬の先っぽを指刺されたらしい。
S子:「あそこ遠いよね!遠いよね!まじで!あそこ点だよ!っていったら、『Distancia!(距離とか道程という意味らしい)』だって。ディスタンチアじゃねえよ!」
これがそのインチキタトゥー師。付いていく方もどうかと思うよ。
S子:「もう日差しがすごくて、ナタルは赤道が近いから暑くて、ずっと歩いて、彼にオハヨウとかコンニチワとか教えながら、ずっと歩いて、水難事故の現場とかを通って、ずっと歩いて、ずっと歩いて。途中で写真やビデオを撮ろうとすると、それは危ないからやめろって止められて。でもスマフォでちょこちょこっと撮ったんだけど。もう大変な紫外線を浴びて、ずっと歩いて、ずっと歩いて、ずっと歩いて、ずっと歩いて、最低8キロは歩いて、もう本当に死ぬかと思った!紫外線強すぎで!」
この場にいた全員が、そこで死ぬとしたら絶対に別の原因だと突っ込みを入れた。
S子:「紫外線、まじ死ぬって!」
写真を撮るのは危ないからダメだと言われた道路の写真。
これは別の場所だけど、まあこんな感じの場所だったらしい。
そんな場所で、誰かに撮ってもらった映像まであるってどういうことだ。
ユリ姉さんの武勇伝
その頃、I子さんはというと、ユリ姉さんという人と知り合いになっていた。
I子:「ファンフェスタでパブリックビューイングを見ようとしたら、すごくスタジアムから遠い場所で、そこにバスでたまたま一緒になったのがユリ姉さん。ユリ姉さんは今回のブラジルワールドカップよりももっと危ない大会にも一人で行っているような人。女性なんて一人もいないような南米の大会の決勝を見ようと会場にいって、ダフ屋からインチキチケットを買わされたりした後、どうしても見たかったから怪しい事務所でマフィアのボスみたいな人と直談判をして、手持ちのお金全部に当時めずらしかったデジカメを付けて、自撮りのやり方を教えて、すごいプレミアムチケットをほぼ定価で買ったんだって。」
ええと、ユリ姉さんって何者なんですか?これを見ていたらメールください。
「そして試合の後にホテルまで帰ろうとしたら、通りが明らかにやばい。女性が一人で安全に帰るのは絶対無理。まさに北斗の拳の世界。女性なんか一人もいない。そのときにユリ姉さんは、荒くれ者の中でも一番強そうで一番悪そうなやつを見つけて、そこにツカツカっていって、『こんにちは、わたし日本から来たユリっていうの。ここから私が一人でホテルまで帰るのは危ないじゃない?私が思うに、あなたがこの中で一番強いでしょ?だからあなたにエスコートしてもらうのが一番安全だと思うんだけれど、どうかしら?』って!」
どうかしらって、どうもこうもないでしょう。それで無事にホテルまでエスコートしてもらって、『ありがとう、あなた本当に素敵だったわ!チュ!』で、気持ちよく帰したそうだ。すごいぞ、ユリ姉さん。
そんな危機回避能力と交渉力に優れたユリ姉さんが、ナタルのファンフェスへ行く際に、最寄りのバス停から会場までの僅か300メートルくらいの距離を、ここは女性が歩いたらやばいと察知し、近いけれどわざわざタクシーを使ったのだそうだ。
そんな危ないところを、延々とインチキタトゥー師と一緒に歩いてきたS子さんの無事を祝って、さあ乾杯でもしましょうか。
ようやく到着したナタルのファンフェスタ会場。
場所が街のはずれすぎて、他の会場は満員が当たり前なのに、ここはガラガラだったそうです。
とても楽しかったそうです
二人にブラジルまで行ってよかったのかと聞いてみたら、「もちろんですよ!」と即答された。不安視された治安の面に関しては、ちょっとしたヨーロッパの田舎町にいるくらいの感じとこのこと。
飛行機に乗り遅れたのも、楽しい思い出だと笑う二人。まあ確かに「今思えば」というやつなのだろう。とにもかくにも御無事で何より。
手に乗せて弾いてさくらんぼを食べる遊びが、この日だけ流行った。