富山県氷見市でわらび採りにいく
ゴールデンウィークに富山県氷見市へと旅行した際、半日ほど時間が空いたので、氷見在住の友人の紹介で、地元のおじさんと山菜採りにいくことになった。
そのおじさんの名前は岩瀬さん。山菜採りが趣味というよりも、生まれ育った氷見での地域密着型生活に組み込まれた年中行事の一つという感じのようだ。
山菜採りのメンバーは、私と友人2人に加えて、アメリカからやってきた船大工のダグラスさん。なかなか個性豊かなパーティである。
この時期に収穫できる山菜はワラビらしい。急に決まったツアーということで、軽い感じのお散歩感覚の山菜狩りに出発だ。
岩瀬さん。根っからの氷見っ子。
そして和船も作れる船大工のダグラスさん。
前日はこちらの方にお願いして定置網の船に乗せてもらった。氷見はダンディなおじさんが多くて楽しい。
棚田を眺めながら目的地へ
富山県氷見市は、富山湾に面した漁業の盛んな街。海岸線に立ち並ぶ独特すぎる建物を眺めながら西の方向へと車2台で走り、山へと登っていく道に向かって左折。
しばらくすると、海を臨む高台から見事な棚田が見下ろせた。春なので空気にモヤが掛かっているが、なかなかの絶景である。氷見には魚のイメージしかなかったのだが、富山なのだから米どころでもあるのだと今更ながら知る。
すごくわかりにくいけれど、山の向こうに海が見える。よく晴れた日なら、海の向こうにさらに山が見えるそうだ。
山を走る道はだんだんと細くなり、そろそろこの辺りかなというところで、前を走っていた岩瀬さんの車が、明らかにすぐそこが行き止まりの急な坂道へと突っ込んでいって焦る。
そして何事もなかったように車から降りてきて、「ここから歩きだから!」といった。
どうやら邪魔にならない場所に駐車をしただけらしい。
写真だと分かりにくいけれど結構な坂でした。
岩瀬さんとはこの旅ではじめて知り合ったので、何歳なのか、何をしている人なのかは知らないのだけれど、その歩く姿は元気そのもの。
登山とかトレッキングとかとはちょっと違う、散歩の延長線としての山歩きに慣れている感じで大変渋い。
ワラビ採りなんて岩瀬さんにとってはまさに散歩のようなもので、普段着に軍手をしただけの格好だ。入れ物も竹かごとかではなく紙袋である。ユニクロ行った帰りみたいなカジュアルさだ。
ピンと伸びた背筋でスタスタと進む岩瀬さん。
「ワラビを入れる袋ある?」
そしてうまそうなキノコを見つけて興奮する私。
ものすごくおいしそうなんだけれど、なんのキノコだかさっぱりわからないのでスルー。山菜狩りだけどキノコ図鑑も持ってくればよかった。
立派なワラビを発見!
ワラビが採れるのは、美しい棚田が並ぶエリアの少し上にある、日当たりのいい斜面。「里山の春」という言葉が相応しいロケーションである。お弁当でも持ってくればよかったか。
岩瀬さんに続いて気分よく歩いていると、まだ低い黄緑色の草むらの中に、ニョキッとネコパンチを彷彿とさせる独特の姿を発見。
ワラビだ!しかも太くてうまそう!
ここにゴザを敷いておにぎり食べたい。
絵に描いたような見事なワラビ!
ズームで撮ったら、ずいぶんと男らしい写真になった。虫いるし。
この場所は岩瀬さんのお気に入りのワラビスポットだそうで、太くておいしいワラビが生えてくるだけでなく、散歩ルートとしても最高のようだ。
ワラビをポキポキと折りながら山道を歩いていくのだが、ちょっと開けた場所では必ず海を見下ろす絶景が広がっている。コンデジではなく一眼レフのカメラを持ってくればよかった。
急な斜面を手すり付きの階段でもあるかのようにスルスルと降りていく。
耕作放棄地の棚田はちょっとした廃墟の雰囲気。
写真の100倍くらい実物は綺麗です。
ニョキニョキ。恐竜の人形持ってきて並べればよかったか。
デンプン質の多いクズの根(葛粉の原料)が、そこらじゅうでイノシシによって掘られている。
そういえばワラビの根からとった澱粉でワラビ餅を作るそうだが、これから澱粉とるの大変そうだね。
さらに美しい景色が続く
しばらく山道を歩いて広い道路に出ると、そこには景色の良さをアピールする看板が立っていた。
さっきからさんざん絶景を眺めているのだけれど、ちょっと角度が変わったり見えるものが違うだけで、またシャッターを押したくなる。ワラビも良いが景色も良い。
海の向こうに立山連峰が見えるらしいです。
天気はいいけれど空気がモヤっている。それでも絶景。
収穫時を逃したタラノメの向こうに広がる棚田という、大変に俺好みの景色。
棚田があるところには、その上に水を溜めるための池があるものだそうで、なるほど味わい深い溜池が点在していた。
釣りキチ三平がこんな池で、金魚みたいな羽衣鮒という謎の魚を釣った「幽沼の羽衣鮒」の話を思い出す。
ここにどんな魚がいるのかは知らないけれど、ボーっと釣り糸を垂れてみたいような池。でも釣れるのは羽衣鮒ではなく、ブラックバスとかミドリガメだったりして。
素晴らしい溜池!
スカンポで給水をする岩瀬さん
青空の下をたっぷりと歩いて、ちょっと喉が渇いてきたなというところで、岩瀬さんがニョキニョキと高く生えた草の前で立ち止まった。
「これね、スカンポ。飲めるんだよ。ちょっと酸っぱいけど。」
茎をポキっと折って、そこをチューチューと吸う岩瀬さん。スカンポというのがイタドリのことで、えぐみと酸味があるものの食用になるというのは知識として知っていたが、ナチュラルに食べる人を始めて見た。
スカンポことイタドリ。
「うまくはないんだけどさ!」
たぶん岩瀬さんは、今日みたいにワラビ採りにくると、60年以上変わらずにこうやってスカンポをチューチューして、毎回「うまくはないな…」と思うのだろう。
人に歴史あり。なんだかよくわからないけれど感動した。
たしかにうまくはない!
たのしい山菜採りでした
お土産用のワラビが十分収穫できた頃になると、もうワラビよりも岩瀬さんに夢中である。
けもの道の存在を教えてもらったり、イノシシの檻を案内してくれたり、ゼンマイの育った姿を見せてくれたり。
なんだか小学生の頃、夏休みにおじいちゃんの住む長野に行くと、とっておきの蜂の巣のあるところに連れて行ってくれたことを思い出した(蜂の子はご馳走扱い)。
おじいちゃーん。
アスファルトの道沿いに、よく見るとけもの道が!
知り合いが設置したというイノシシの罠をチェックする岩瀬さん。
ワラビと並ぶ山菜の代表格であるゼンマイ。
これがゼンマイの育った状態なんだって!予想外!
開きかけのゼンマイを見ると、確かにあの葉っぱだ!
そしてゼンマイの胞子がなかなか気持ち悪かった。
こちらは食虫植物っぽくてかっこいい草。テンナンショウかな。
ここで一人別行動で棚田などを見て歩いていたダグラスさんが合流。
なぜかその手には、生卵がぶら下がっていた。
「ミナサンハ、サンサイ。ワタシハ、タマゴヲトリマシタ!」
こんな山の中でなぜ生卵。
山鳥の卵でも見つけたのかと思ったら、この辺りで鶏を飼っている方と出会って、もらったのだそうだ。
明らかに観光で来ている初対面の外国人に、産まれたての生卵をどっさりと渡す氷見の人の優しさが好きだ。ちなみに私は定置網漁の見学にいったら、でかい生魚を7匹もらった。
そして棚田が美しい。
だんだんと空気が澄んできた。棚田にもいろいろな表情がありますね。
ということで、ワラビがどっさり獲れました。
ダグラスさんがもらってきた卵がとてもうまかった。
ワラビは家に帰ってから、岩瀬さんおすすめの「めんつゆ+マヨネーズ」でおいしくいただきました。
そしてこの1か月後、今度は山形県へと山菜採りにいってきた。
最上町のケンちゃんと山菜採り
山菜を求めてはるばるやってきたのは、山形県と宮城県の県境にある山形県最上町。見事なまでの山の中だ。
山菜採りに連れて行ってくれるのは、友人の友人のご両親の友人という、要するに他人同然の関係にあるケンちゃんだ。
ケンちゃんは元々仙台の人なのだが、この最上町のワイルドな山に惚れて移住してきたそうで、毎年この時期になると各地から仲間が集まって、ケンちゃんをリーダーとした山菜採りを楽しんでいる。
ケンちゃん。
今回の山菜採りは山に魅せられた男のケンちゃんが案内ということで、そこそこ本気度の高い場所へ行くという事前情報があり、それなりの心づもりと装備をしてきた。といっても私は山登りは一切しないので、磯釣り用の長靴とかだけど。
同行した友人の話だと、昨年連れて行ってもらった人が、「あんなに辛い場所だと思わなかった!」と、帰ってから延々愚痴っていたとか。さて 本日のケンちゃんの本気度や如何に。
写真右が私です。
ケンちゃんの腰のカゴには、クマ避けの鈴がぶら下がっている。「熊がいるんですか」と聞いてみたら、「まあ、いたらいるよ!」というシンプルな回答が返ってきた。
この近くのコンビニで目立つ場所に爆竹が売られていたのだが、「クマ避けに!」と書かれていたのは、どうやらシャレではないようだ。
チリーン。
一応私も100均で買った鈴を持ってきた。そしてカゴが魚釣り用のビク。
巨大ワラビを採りに行くらしい
まずここで最初に狙う山菜は、またもやワラビである。氷見でのワラビ採りから1か月ほど時期がずれているのだが、ここは標高が高いため春の訪れが遅く、ワラビのシーズンが被ったのだ。
自分が桜を追いかけて日本を北上する人みたいだなと思った。山菜を追いかけるのも悪くない旅。
天気に恵まれました。
ここもやっぱり大好きな山菜のタラノメが育ちすぎている!
ウツギの花がきれいでした。
ワラビが採り頃になると咲くというウツギの花を眺めながら進んでいくのだが、だんだんと周囲の草木が大きくなっていく。
最初はひざ下、それが腰くらいまでになり、身長を超えたなと思ったら、完全に木々から見下ろされるようになった。
なんだろう、このガリバートンネルのような山道は。草木が大きくなっているのではなく、自分が小さくなっているのではないかという気がしてきた。
木々で視界が遮られる山道を、ケンちゃんの鈴の音を頼りにどうにかついていく。これが物語の中の世界だったら、この後ケンちゃんに食べられるか、森の長老に難題を吹っかけられる展開だ。
行ったことはないけれど、天国っぽい景色だなと思った。
ちゃんとついてきているか確認するために振り返ってくれるケンちゃん。前世はきっとハンミョウ(道を教えてくれる昆虫)。
なんだかだんだんと草木が大きくなっていく。
このあたりにポツポツと立派なワラビが生えているのだが、ケンちゃんはこれを採ろうとはしない。ケンちゃんが狙うのは、もっと大きなワラビなのだそうだ。
ワラビ採りの世界にも大物狙いというジャンルがあるのか。ワラビって大きくなると、ただのシダ植物になっちゃわないかい。
こんな立派なワラビをスルー。
「ケンちゃーん、ワラビだよー(と、心の中で呼びかける)」
完全に木々に囲まれた。自分たちが小さくなっていないかと、ちょっと本気で不安になった。
ワラビがデカイ!
ガリバートンネルっぽい山道を抜けてたどり着いたのは、松林に囲まれた薄暗い笹の藪。
ワラビといえば日の当たる斜面に生える植物。こんな場所には生えていなそうに思えるのだが、ケンちゃん曰く、こういう場所にこそ大物のワラビが育つのだそうだ。
ここがとっておきの大物ワラビのポイントらしい。
「しまった!先を越されてる!」。
声を上げたケンちゃんの視線を追うと、細めのアスパラみたいな茎がポッキリと折られている。
どうやら巨大ワラビを採るために、こんな場所にも先行者がいたようだ。
え、これワラビなの?
目につく場所のものはあらかた採られてしまった後のようだが、それでも藪の中に巨大なワラビを発見。ジュラ紀か!
これが想像以上の大きさだった。幼少時に初めてアメリカンサイズ(500cc)の缶コーラを見たような衝撃である。
ワラビが大きいのではなく、やっぱり私たちが小さくなったのではないだろうかという疑惑もあるが。どうやら笹の藪を追い越して太陽を浴びようと、ワラビが一生懸命に茎を伸ばした結果のようだ。ライバルの存在は時にワラビを大きくする。
なんだこの孫の手みたいなワラビは。
でかいねー。
ケンちゃんはワラビなんて採ろうと思えばいくらでも採れるだろうから、一本釣りでマグロを狙う漁師のように、大きさにこだわるワラビ採りスタイルなのだろう。
それにしてもびっくりした。
ワラビがでかすぎてビクだとこぼれそうになるので、そっとケンちゃんのカゴに入れさせてもらった。
川を上っての山菜採り
巨大ワラビのポイントを抜けると、今度は川沿いに登って行きながら、そこに生えている様々な山菜を収穫していく。
これがなかなか本気モードのルートだったのだが、その分山菜の量や種類も素晴らしかった。
ということで、その模様をダイジェストでどうぞ。
山登りに続いては川登り。長靴を履いてこいと言われていたのはこのためか。
いきなり現れた天然のワサビ。学生時代に友人の関根君となんの手がかりもなく山に分け入ってワサビを探したことがあるので、ここで出会えて感慨無量。
ワサビの茎を齧ると目がシャキッとして疲れが取れる。確かにワサビだ。
名前を忘れたけれど、これも食べられる山菜。そんな山菜がそこらじゅうに生えていて、ケンちゃんに食べ方を聞くと90%くらいの確率で「若いやつを天麩羅にするとうまい」という答えが返ってくる。
ここはまだ歩きやすい道。本気で歩きにくいところは写真を撮っていられない。
先を急ぎつつも、たまにチラっと振り返るハンミョウなケンちゃん。せっかちだけどやさしい。
なにかを発見して、急な崖を登っていくケンちゃん。
持ち帰ったのはウドらしいウド!天麩羅にするとうまいそうです。
これはシドケとも呼ばれるモミジガサ。若い葉を天麩羅にするとうまいそうです。
休憩場所は大木の下。せっかく教えてもらった木や山菜の名前をほとんど忘れている自分の頭が憎い。
どうがんばっても手が届かない崖に生えている山菜が採りたいケンちゃん。
落ちたら骨の一本くらいは確実に折れそうな崖を登りはじめた。
この辺の岩はモロそうなので、絶対私は無理。
崖の上から投げられたのは、ウルイ(オオバキボウシ)という山菜で、こういう場所でしか大きくならないらしい。これは天麩羅ではなく根元の白い部分を生で食べるそうだ。
このニンジンの葉っぱみたいなのは、ヤマニンジンと呼ばれるシャク。
「ニンジンの匂いがするよ」と言われて嗅いでみると、確かにニンジンだ!もちろん若い葉を天麩羅にするとうまいそうです。
大きく育ったワサビを発見!
蕎麦屋でこういうワサビがついてくる店あるよね。
葉っぱをコップにした水の飲み方を教えてくれた。
水を飲んだすぐ上流で、カモシカと思われる骨を発見してしまう。うへえ。
ケンちゃんにとってはいつもの半分、我々にとってはいっぱいいっぱいという速さで約1時間ほど川を登ったところが、今回の目的地である。
ここでケンちゃんが見せたかったのは、珍しい山菜ではなく、谷底に残る雪の塊だった。ケンちゃんったら、実はロマンチック!
どうにかたどり着いた先にあった雪の塊。このあたりだけ空気がひんやりとしていて気持ちがいい。
尻尾の切れたカナヘビ。
疲れ切った体で進む帰り道は、さらに天国っぽく感じる。
立派なキノコを発見するも、「それはうまいけどすぐ虫がつくんだよ」と言われて、傘をひっくり返して納得。
山菜、おいしかったです
そんなこんなで正味3時間ほどの山菜採りだったのだが、とても密度の濃い3時間で、教えてもらったことや体験したことを脳味噌が消化しきれていない感じ。
その後、ケンちゃんグループの宴会に混ぜていただき、採れたばかりの山菜をいただいたのだが、どれも血液がサラサラになりそうな、旬を感じさせてくれる味だった。
巨大ワラビや名前を覚えていない山菜たちもおいしかったが、特に生で食べたウルイと、ケンちゃんが用意してくれていた葉ワサビの醤油漬けが最高。
やはり山菜採りは、自分一人で山に行くのではなく、ベテランの人に連れて行ってもらうのが楽しい。
ケンちゃんとその仲間たち。人口密度が濃いぞ。
味噌マヨで食べる生のウルイがうまいのよ。
おもしろいおじさん達よ永遠に
この記事で私がなにがいいたいのかというと、山菜採りはおもしろいという話ではなく、知識や経験が豊富なおじさんはおもしろいということである。
もちろん、 おじいさんでも、おばあさんでも、おばさんでもいいんだけど、オリジナルの奥行きがある人はみんなおもしろい。
僕はどんなおじさんになるんだろうと思ったけれど、もう十分におじさんだった。ははは。
今度は岩瀬さんに氷見のおもしろい建物を案内してもらって、ケンちゃんに幻の月山筍採り(今回時期がちょっとずれていけなかった)に連れて行ってもらうんだ。
「グルメコミックコンベンション」でラーメンと製麺機の本を売ります
7月6日に池袋のサンシャインでおこなわれる「
グルメコミックコンベンション」という飲食関連の同人誌即売会で、自主制作した製麺機の本を売ります。「標本製麺(料02)」というブースです。
さらに調理と販売ができるイベントということで、会場で製麺したラーメンの販売もきっとやります。ぜひどうぞ。