石巻市の寄磯港にやってきました
獲れたてのホヤを求めてやってきたのは、宮城県石巻市にある寄磯という港。
2008年にホヤの養殖場を見学させていただき、獲れたてホヤホヤのホヤを浮かれながら食べた思い出の地である(
こちらの記事参照)。
2008年の寄磯港。
震災の翌年、2012年の夏に私が来たときは、港に並んでいた船や小屋がすべてなくなっていて、堤防は地盤沈下で満潮時に浸かってしまう状態で、ホヤ養殖場があった名残りは、一つも残っていなかった。
もしかしたら、あの時にお世話になった漁師のサイトウさんに偶然会えたりしないかなとも思ったが、いった時間が悪かったのか、人の気配すらなかった。
2012年の寄磯港。
ホヤは成長がとても遅く、出荷まで最低3年も掛かってしまう。
すべてが津波で流されてしまった寄磯のホヤ養殖場だが、震災後すぐに復活に向けて動き出しており、ゼロの状態から育て始めたホヤが、ようやく今年になって出荷できる大きさになったのだ。
そして6月1日、この寄磯の港で復興感謝祭がおこなわれることになったのである。多少なりとも縁のある寄磯のホヤが復活したのだ。そりゃ少しくらい遠くても(家から440キロくらい)、現地に行ってお祝いの一言でもいわせていただきたというものだ。
まあそれは建前半分で、とにかくあの新鮮なホヤが、また食べたいのである。
2014年の寄磯港!
久しぶりにやってきた寄磯の港は、臨時駐車場ができるくらいまでは盛り返しており、そして復興祭にはたくさんの人が訪れていた。
ものすごくアクセスの悪い場所にもかかわらず、寄磯のホヤを目当てに多くの人が集まっていることに驚きつつも、「やっぱり夏はホヤだよな」という、ホヤ好き同士の連帯感のようなものを感じてしまう。
もちろんホヤは苦手だからと、ホタテ目当ての人もいるかもしれないが(同行した山形の友人がそうだったりする)。
人がいっぱいいる!
とりあえずホヤを食べよう
会場についてまず目指したのは、当然ホヤとホタテの試食である。でもその前に、その隣で無料配布していたムール貝のゴロゴロ入った浜汁をゲット。
ムール貝というとヨーロッパあたりの貝というイメージだが、外来種として日本にもしっかり定着しており、寄磯ではホタテの養殖棚などに勝手に生えてくるそうだ。和名はムラサキイガイ。
一口すすってみると、これが絶品の汁だった。やっぱり寄磯まで来てよかった。貝のダシってうまいよね。
身もダシもうまいのです。
さあさあさあ、浜汁で喉を潤したところで、お待ちかねのホヤである。天気は今年一番とも思える絶好のホヤ日和!
ホヤの味は鮮度によって大きく変わるので、本当においしいホヤは水揚げしてすぐでないと味わえないのだが、試食用に用意されたホヤは、誰がどう見ても文句なしに新鮮。今日の朝、そこの海で獲れたばかりのものなのだろう。
何度でもいわせてもらうが、これぞ獲れたてホヤホヤのホヤなのだ。
ようやくホヤが食べられる!
なにもつけずに食べてもうまい!ホヤ味としか言えない味!
新鮮なホヤというのは、他のどんな食べ物にも似ていない、鮮烈な磯の風味をたっぷりと楽しませてくれる。
口に入れた瞬間は、ちょっとした苦みと爽やかな磯臭さがあるのだが(注:褒めています)、食後に口の中に甘さが広がる不思議な味で、これがクセになるのだ。
磯臭くはあっても生臭さはまったくのゼロ。寄磯の海を凝縮したような味なのである。
これだこれこれ、これが本当のホヤの味だ。ホヤが苦手という人は、収穫してから数日経った「ホヤではない何か」を食べたのだとしか思えない。
それでもどうしてもホヤが苦手だという人はいる(一緒に来た友人は絶対に食べようとしない)。そんなときは、無理矢理食べさせてももったいないだけだから、好きな人がおいしく食べるといいと思う。
友人がどうしても食べないので、私が酢醤油でいただいた!
蒸しホヤもうまかった
無料で試食できるのは、なんと生のホヤだけではなかった。殻つきのまま蒸された「蒸しボヤ」も用意されていたのである。
蒸しボヤは、ソフトビニール製の怪獣の一部みたいな謎の見た目だった。
円谷プロが喜びそうなヴィジュアル。「ご当地ゆる怪獣ホヤドン」とか出ないかな。
ゴツゴツとした皮の中には、綺麗なオレンジ色の身が詰まっていた。生のホヤを熟した柿に例えるならば、これは干し柿といったところだろうか。あるいはフレッシュなマンゴーとドライマンゴーの関係。
旨味がギュッと凝縮され、歯ごたえが加わっている。そしてやっぱり食べた後に口の中が甘い。この甘さがいい。
この後に車の運転さえなければ、口の中に広がっている旨味と甘味を宮城の地酒で追いかけたいところである。
見た目から味が想像できないと思うけれど、この味を例える言葉を私は知りません。
その姿から、よく「海のパイナップル」と言われるホヤだが、個人的には「海のマンゴー」とか、「海のドリアン」の方が近いような気がする。ドリアンは食べたことがないけれど。
ホタテも抜群にうまかった
そして試食はまだあった。今度はホヤと並んで寄磯の主力商品として養殖されている、ホタテの刺身である。
ホタテなら食べる機会は結構あるので、いくら新鮮だといってもそれほど感動はないだろうなと思ったのだが、これが想像を軽く超える味だった。明らかに我が人生で一番のホタテ。ホタテ・ナンバー・ワン。
甘みも旨みも歯ごたえも最高。この海で育った新鮮なホタテはこんなにもうまいのか。ホヤにしか目がいっていなかったが、ここにきて嬉しい伏兵の登場である。
ホタテの刺身が無料試食できるってどういうことだ。
そしてこのバカ旨いホタテは、活きたまま殻ごと焼かれて販売されていた。そのお値段、復興感謝価格の50円。ゼロが一つ足りなくないか。
この寄磯で旨いものをたくさん食べて、できるだけお金を落とす気できたのだが、寄磯養殖部会は小銭しか落とさせてくれないようだ。
値段を直した形跡があるけれど、いくらだったんだろ。
身の張り具合が普通ではないのが素人目でもわかる。
行列に並んで購入した1つ50円の焼きホタテは、貝柱がとても太く、繊維がしっかりとしていて、ヒモも卵巣もうまかった。
「ホタテをなめるなよ」と歌った安岡力也の気持ちが、今ならなんとなくわかる気がする。殻に残った汁はなめたけど。
この大きさが伝わるだろうか。立派!
人より大きいといわれる私の顔と比べてもこの大きさだ。
イベントスタッフの方に話を伺ったところ、そもそもこのお祭りは、ボランティアスタッフや協力してくれた企業に対して、感謝の気持ちを込めて、水揚げしたものを食べていただこうという企画だったのだが、どうせやるなら寄磯のホヤやホタテの美味しさを、もっと広く、そして多くの人に知ってもらおうと、このようにオープンな形で試食・販売することにしたそうだ。
今までに、そしてこれからも、たくさんのサポートがあるからこそ、私もこうしてうまいホヤやホタテが食べられるのだ。ありがとう、サポートしてくれた人と企業。
こちらは寄磯のマルキ遠藤商店と武蔵野美術大学がコラボして作った新ブランド「よりいっそうおいしく YORIISO」の海藻。ダジャレだ。
デザインを担当した学生が応援に来ていたので話を聞いたら、大学は違えども習った先生が私と一緒だった。長澤先生、お元気ですか?今もツメエリですか?
試飲したらおいしかったで、全種類購入。この年齢になると海藻のやさしい味に目覚める。
そして三陸の海藻といえばワカメである。袋に詰め放題で500円!
ジュースとかもコンビニより安い値段で売っていた。なんだか申し訳ない。
漁師のサイトウさんと再会できた!
復興感謝祭をたっぷりと堪能したところで、お土産用のホヤとホタテを買って帰ろうと売店に寄ったら、はるばるここまで来たもう一つの目的を叶えることができた。
ホヤが好きで集まっている人ばかりなので、売店も大忙し。
そして復興感謝価格が安すぎる。20個ください。
パンパンに膨れた獲れたてのホヤ!
ホタテももちろん買って帰る。こちらも13枚1000円と安すぎる。
ホタテを買おうと並んだ先にいたのが、会いたかったサイトウさんだったのだ。
サイトウさんとは、2008年にホヤ養殖場を見学した際に、案内をしてくれた漁師さんである。住所も電話番号もフルネームも知らず、知っていたとしても、どう連絡していいものやらわからなかったサイトウさんである。
もうちょっと涙腺がゆるかったら確実に泣いていたと思う。きつい涙腺が憎い
養殖棚も小屋も全部流されてしまったそうだが、とりあえず元気なようで本当によかった。
私とは一回しか会ったことはないのだが、サイトウさんもこちらのことを覚えてくれていて、小屋ももうすぐ再建されて本格稼働できそうだと、嬉しそうに教えてくれた。
あ、この記事を書きながら、ようやくここにきて涙がちょっと出てきた。
ちょっとだけ高いところに再建中の漁師小屋。
ホヤ養殖場の復興はこれからが本番
この感謝祭に参加して一番印象的だったのは、この日の寄磯の漁師さん達がみんな楽しそうだったこと。
お祭りだからというだけではなく、あの震災を乗り越えて、ようやくホヤを出荷できる喜びが、その笑顔から溢れ出ていた。
部外者の私には、乗り越えた大変さはわからないけれど、それでもこの場に来れてよかったと思う。
港前にてホヤの水揚げの実演ショー。
そうそうそう、こんな感じでホヤって育つんだよね。
寄磯は若い漁師さんもたくさんいるみたいです。
水揚げされたばかりの大量のホヤ。来年になれば4年物のさらにでかいやつが食べられるはず。
ホヤの食べ方を教える漁師さん。水管のマイナス側から切るんですよね!
このマンゴーゼリーみたいなプリプリ感!茶色い紐状のものはウンコ!
せっかくなのでと2度目の試食。1回目よりも量が多いぞ。
この瑞々しさ、伝わりますかね。
今年出荷できるホヤは、まだまだ震災前には及ばない量でしかないが、3年間供給がストップしていたことで、需要量も減ってしまっているらしい。主な輸出先だった韓国も、いろいろと難しいところがあるようだ。
今後、ホヤ養殖場が完全復活しても、ホヤを食べる消費者の数が復活してこなければ、せっかくのホヤがもったいない。
ホヤの存在を忘れている人は、この夏に一度でもいいからホヤを食べてみてほしいと思う。できる限り新鮮でうまいやつを。
復興祭に花を添えるご当地アイドル。
息子が打つ太鼓に合わせて獅子舞を踊るおとうさん。
ついつい踊りだしてしまうおばあちゃん。
帰りは以前にホヤ祭りで訪れた女川港に寄って、「おかせい」で海鮮丼をいただく。うまい。
そして移転したマリンパル女川にて、二代目となる「ほやチンコ」と記念撮影。個人的には女川復興のシンボル。
ここで食べた3個500円の焼きガキが、また身がでかくてうまかった。
家で食べてもおいしかったです
寄磯の港で食べたホヤやホタテもおいしかったが、買って持ち帰ったものも、まだまだ十分に新鮮で、やっぱりおいしかった。
普段はあまり使うことのない食材だけに、料理方法を考えるのがたまらなく楽しい。
買ってきた寄磯の幸で、勝手に名物料理を考えてみようのコーナーごっこ。
ホヤ、ホタテ、ワカメを乗せた「寄磯海鮮冷麺」なんてどうだろう。塩蔵ワカメの戻し汁とホタテのヒモでダシをとってみました。
こちらはたっぷりの粉唐辛子、おろしにんにく、醤油、ゴマ油で和えた「ホヤのキムチ」。
関東ではホヤを食べられる店は少ないが、オイスターバーやカキ小屋ならたくさんあるので、できれば夏の間は、新鮮なホヤやホタテを出してくれないものだろうかと思ってしまう。
カキが好きな人なら、ホヤの味も受け入れてもらえると思うのだが。
あるいはホヤ専門店「HOYA BAR」を、どーんと銀座にでも作ってもらいたい。
グーはホヤをイメージしました。サイトウさんの連絡先を聞くの忘れた―!