初対面の人たちとパイプ椅子と
パイプ椅子と共に旅に出るメリットは主に2つある。
・どこでも座れる
・パイプ椅子に座っていると現地の人と同化できる。
持ち物にパイプ椅子を加えるだけで、今までとはひと味違った旅を味わうことが出来るのだ。
と、想定しているが果たしてそれは本当なのか。旅行の機会があったら試してみたい。そう考えていた林さんと僕のもとに釧路旅行の話が舞い込んできた。以前、西川貴教さんをインタビューさせていただいたご縁で、エステーさんからお声がかかったのだ。エステーさんが釧路で展開するクリアフォレスト事業を視察するツアーである。僕と林さんはそのツアーに参加させていただくことになり、そのついでにパイプ椅子の旅を試すことにした。
ツアー初日の朝、林さんがパイプ椅子を2脚持って羽田空港に現れた。
パイプ椅子と共にフライト
林さんが会社の近所で購入したパイプ椅子で、1脚1000円だという。随分安いように思えるが造りはしっかりとしていて、この時点でパイプ椅子が結構かさばることを痛感する。重さもそれなりにあって、きっとじわじわと腕にくることだろう。
パイプ椅子を機内に持ち込むことは出来ないので、手荷物として預けることになった。
機内には持ち込めない
今回の視察ツアーには僕たちの他にも参加者がいた。制作会社や代理店などいくつかの会社から参加されていて、ツアーの総勢は15名ほどであった。
初対面の人たちばかりが集まって旅行に行く。金田一少年だったら確実に殺人事件が起きるシチュエーションである。旅先のホテルで1人ずつ殺されていき、その犯人はツアー参加者の誰かだ。羽田空港で名刺交換をしながら、誰が一番犯人っぽいかな、などと想像していた。
いずれにしても、初対面の人たちに囲まれるというナーバスな状況の中、パイプ椅子を携行しなくてはいけない。中々ハードルの高いミッションである。
たんちょう釧路空港と屈斜路湖
羽田空港から1時間半、僕たちとパイプ椅子を乗せた飛行機はたんちょう釧路空港に到着した。預けたパイプ椅子をピックアップして、僕たちは北の大地に降り立つ。
たんちょう釧路空港でパイプ椅子をピックアップ
ツアーの日程は1泊2日。参加者の中で僕たちの他に荷物を預けている人はいない。パイプ椅子を待っている僕たちを他の参加者たちが待ってくれている。明らかに集団行動のリズムを壊す行為である。
それでも僕たちには「パイプ椅子の旅」というもう一つの軸がある。みんなの迷惑にならないことを心がけつつ、釧路空港でパイプ椅子に座ってみた。
ヒグマをバックに
パイプ椅子に座っただけで、今までにない記念写真になった。
たんちょう釧路空港からツアー一行はマイクロバスで移動する。パスの中にもパイプ椅子は持ち込めないので、トランクに入れさせてもらった。
パイプ椅子はトランクに
ここから約1時間半かけて人工の国有林を目指す。そこに生育しているトドマツの枝葉から抽出される精油に、二酸化窒素を低減する効果があるのだという。エステーさんは、その精油を活用した空気浄化剤ブランドとして「クリアフォレスト」を立ち上げている。トドマツの伐採現場と精油抽出プラントの視察。それが今回のツアーの目的である。
伐採現場に着く前に、屈斜路湖でトイレ休憩を取った。
屈斜路湖といえば謎の生物クッシーで有名だ。また、湖岸を掘るとお湯が湧き出る砂湯も観光客から人気が高いという。
屈斜路湖
クッシーのモニュメント
砂を掘ると温泉が涌く
雄大な屈斜路湖を背景に、再びパイプ椅子に座ってみた。
屈斜路湖にて
ここにクッシーがいたとかいなかったとか
どんどん水際に吸い寄せられていく林さん
パイプ椅子に座ってしばしクッシーに思いを馳せるが、ツアーにはタイムテーブルがある。早くバスに戻らないといけない。
パイプ椅子は再びトランクへ
トドマツの林で
僕たちとパイプ椅子を乗せたバスは、トドマツ林のある国有林の中に入っていった。
国有林に入るには登録が必要で、事前に氏名・年齢・靴のサイズを伝えていた。靴のサイズは林に入るための長靴を貸してもらう為に必要だったのが、僕も林さんも26.5センチでお願いしていた。僕は林さんよりも背が低いのに、足のサイズは同じ大きさで申請している。見栄を張ったと思われたら嫌だな、と事前登録の際に気にしていた。
国有林のトドマツの林へ
最新鋭の伐採車・ハーベスター
この部分がロボットのように動いて
手際よくトドマツを伐採していく
ハーベスターという最新鋭のユンボが、林の中を進みながらトドマツを伐採していく。ショベルの動きがロボットのようで、他の参加者から「トランスフォーマーのようだ」という声があがっていた。僕もその人たちに合わせて、「トランスフォーマーだ!」と言っていたが、本当はトランスフォーマーを1回も観たことがない。
そんなトランスフォーマーのような(とみんなが言う)マシンで伐採されたトドマツの枝葉から「クリアフォレスト」の原料となるトドマツオイルが抽出されるのだ。
そういえばトドマツの林からは柑橘系のいい香りがしている。
トドマツ林にて
空気の浄化作用を感じながら
林の中に同化していく林さん
パイプ椅子と僕たちが釧路の地に徐々に馴染んでいくのが分かる。
プラント視察とパイプ椅子
国有林での伐採現場視察を終えた一行は、トドマツオイルを抽出するプラントへと移動する。
その前に、ロッジでお昼ご飯をいただくことになった。
お花畑とパイプ椅子とおじさんと
涅槃
お昼ご飯が出来るまでの間、ロッジの裏側に奇麗なお花畑が広がっていたのでパイプ椅子に腰掛けた。こうしてパイプ椅子に座っていると、そこだけ時間が止まっているかのような感覚に包まれる。このまま現実社会に戻れなくなるのでは? ちょっとした不安に包まれかける、ロッジから「ご飯が出来ましたよ」と声がかかりすぐに日常に引き戻された。
そうだった。僕たちはツアーの最中である。
食事を終えてバスに乗り込み、一行はトドマツオイルの抽出プラントへ向かう。
クリアフォレスト抽出プラント
森の力で空気をかえよう
先ほど見学した伐採現場からこのプラントにトドマツの枝葉が持ち込まれる。
ここで枝葉を粉砕して抽出機によってトドマツオイルを抽出するらしい。
クリアフォレスト事業を解説してくれた金子さん(日本かおり研究所)
倉庫に堆積された枝葉
トドマツの粉砕作業
1日に1400kgの粉砕物が使用される
樹木精油・樹木精水抽出機
樹木精油の採取
プラントにあった注意書き。チェーンソーの項目が多い。
このような工程を経て抽出されたトドマツオイルが、エステーさんの「クリアフォレスト」へと商品化されているのだ。空気浄化剤というジャンルは他社の参入がなく、パイオニアとしての苦労が絶えないのだと現場のスタッフがおっしゃっていた。
一方、僕たちのパイプ椅子は。
恋問海岸にて
太平洋を眺めるけど
霧で視界が悪く
ある者は自分の半生を振り返り
ある者は国に残した家族を想い
そして誰もいなくなった
恋問海岸でツーショット写真を撮ると、その2人の恋が成就する。という伝説を上の写真を撮った後に聞かされた。
こうしてツアー初日は終わり、僕たちは釧路市内のホテルで一泊した。
ホテルの部屋では荷物置きとして活躍するパイプ椅子
和商市場とパイプ椅子
ツアー2日目は自由行動だったので朝一番で和商市場へ行くことにした。
今から11年前、当サイトで「
勝手丼」という企画を実行したことがある。釧路和商市場の勝手丼を食べてみたいけど、釧路に行く予算がないから都内でやってみよう。という企画だ。勝手丼とは、白いご飯を持って市場内を巡り好きな具材を選んでいく、というバイキングスタイルの丼物である。
あれから11年、ようやく念願の釧路にやって来たのだ。和商市場に行かないという選択肢はない。
念願の和商市場で
本場の勝手丼
好きな具材を選び放題
エステーさんの視察ツアーは終了したが、僕たちのパイプ椅子の旅はまだまだ続行中だ。もちろん和商市場にもパイプ椅子を持ち込んでいる。
が、しかし!
和商市場内を見渡して僕たちは愕然とした。
市場内はパイプ椅子だらけ
市場のイーティングスペースがパイプ椅子だらけなのだ。パイプ椅子だらけというより、パイプ椅子しかない。ここで持参したパイプ椅子に座ったところで、何のインパクトもない。
どうする? 持参したパイプ椅子を使うか?
持参したパイプ椅子に着席
せっかく持ってきたパイプ椅子である。和商市場のパイプ椅子は使わずに、持参したパイプ椅子に座った。
僕の勝手丼
マイ・パイプ椅子に座って勝手丼を食す
和商市場からの帰り。お土産の蟹とパイプ椅子で両手がふさがった
蟹とパイプ椅子で両手がふさがった状態で和商市場を後にした。
気がかりだったのは僕たちが和商市場からパイプ椅子を持ち出したと思われていないか、ということだった。パイプを椅子を持ち出すことにメリットがないからそんな風には思われないだろう。僕と林さんでお互いにお互いを納得させた。
パイプ椅子と僕たちの旅
パイプ椅子携行で参加した釧路ツアー。果たしてパイプ椅子は今後の旅行の必需品となり得るのか?
ホテルのエレベーターでパイプ椅子
ホテルのロビーでパイプ椅子
有名な定食屋「泉屋」で女子バレー部員を迎える格好で
泉屋のスパカツ
たんちょう釧路空港ロビーにて
霧にけむるたんちょう釧路空港の
展望デッキにて
どうしていいか分からずに取ったポーズ
パイプ椅子と旅に出る。確かに、どこでも座れるという便利さはあった。しかし、その一方で荷物としてかさばるという大きな欠点もあった。ただそれは「便利さ」という観点からだけの評価である。
実際に旅先でパイプ椅子に座ってみると、これまでにない感覚を味わうことが出来る。現地に馴染む、それ以上の次元に達したような。もしかしたらそれは「困った人」というジャンルにカテゴライズされるのかもしれないけど。