状況はこうだ。遠いところに手をのばしたときにメガネがピンチにかかり…
あっ、かかった
この無力感といったらない
どうやったらかかるのか改めてやってみよう。適当に洗濯バサミに顔を当ててみる。即かかった。ピンチハンガーの洗濯バサミが釣り針だとしてメガネを釣られた状態である。
ああ、なんて無力なんだろう。
視力0.02。メガネがずれたことによる何もできなさ。それにメガネをからめとられた相手が洗濯バサミだというこの情けなさ。こんな便利グッズに私はやられたのである。
そういえば故郷の母は元気だろうか。南極の氷がそろそろとけるころだろうか。パンドラの箱をあけたように、さまざまな不安がわいてでる。
ふだんならこの状態で絶望に打ちひしがれるが今日はここからであえる。
この状態で心理測定をするとどういう結果になるだろうか
このまま心理測定をする
さて今日はここからが本題だ。このメガネがずれた状態のまま心理測定をする。
心理測定というと大げさだが「今不安ですか?」などの質問に「全くそうである、ほぼそうである……」と4択で答えていくあれだ。
不安の心理測定にあたってはSTAI日本語版(清水・今栄 1981年作成※1)を使用した。
STAI(状態―特性不安検査)で測るのは不安を感じているかどうかと、不安を起こしやすい人かどうかを測る。状態不安と特性不安という。
またメガネをからめとられたときの情けなさについては劣等感(高坂 2008※2)の心理測定を。これは中学~大学生を対象にした尺度らしいが、大人でもいいだろう。
いいだろうというのは、筆者は専門的に勉強をしたわけではなく心理測定の本から適当にやってるからだ。
※1「心理測定尺度集III」松井豊 編 サイエンス社 2001年 P183~
※2「心理測定尺度集V」吉田富二雄・宮本聡介 編 サイエンス社 2011年 P30~
調査サンプルを増やすために他の人にも体験してもらった
「あー、かかりますね(笑)」だから言ったろう。DPZ編集部の藤原にも実験をたのんだ。
その状態で早く心理測定を
サンプルを増やす
公園にピンチハンガーをもちこみ、普段めがねを使用している知人3人にも体験してもらった。
三人とももれなく「洗濯バサミにメガネ? なったこともないし意味がわからない」との反応だったが、体験してみると、ああこれか~と。
どうやらかかるかどうかはメガネの形状によるようだ。きだて、河合の二名にはむりやりかけてもらった。この時点で一体何をしてるのかわからなくなった。
「ああ、これか~!」とライターのきだてさん。こんなことになったことはないと。
ニフティの営業の河合さん。「この記事が流行ってメガネ会社からすごい案件くるから」とむりに参加してもらった。流行るわけがない。
翌日の通常時の測定と比較をする
彼らには翌日なにもしてない状態で測定をしてもらった。通常時とメガネずれ時の比較をするのだ。
それでは筆者を含めた四人の測定結果をみていこう。
まずは状態不安の心理測定。メガネを洗濯バサミにからめとられているときはやはり不安を感じているのだろうか。
そりゃ平静ではない
後悔もするだろう
メガネをからめとられてる今ごろ、家にどろぼうが入っているのではないか
「犯人はお前だ!」と言われてる感覚に近い
不安であるといえる
メガネがずれたときの平均値…3.175
通常時の平均値…1.838(数値が高いほど不安)
状態不安の心理測定の結果である。4人とも通常時より数値が伸び、大きな不安を感じていた。
なかでも落差が大きかった項目は【4.後悔している】の項だった。4人ともメガネがずれたときには「全くそうである」を選択していた。
たしかに、なんでこんなことになったのだろう。
いや、営業の河合さんは安請け合いを後悔したのだろうし、きだてさんは実験を受けながら「これ4P記事ですよね。1Pとかだったらただじゃおきませんよ」と怒っていた(ずれたメガネで)。
申し訳ない。
しかし申し訳ないと謝っている私もメガネがずり上がっているのである。どいつもこいつもである。
つづいてこの状態不安を引き起こしやすいかどうかの特性不安を測定する。
お父さんお母さんが彼女を見たら泣く
なんて悲しいセリフなんだ
ブルーズが聞こえてくる
メガネのずれあがりというささいなことが人を苦しめる
不安を引き起こしやすくなった
メガネがずれたときの平均値…2.938
通常時の平均値…2.238
以上が特性不安の心理測定の結果である。
4人中3人が通常時より数値が伸びた。メガネがからめとられると概ね不安を引き起こしやすい個人特性になるようだ。
感覚としてはわかる。メガネがずり上がったことも不安だが、もうとにかくパンドラの箱を開けた感じで、色々なことが不安になるのである。
メガネがずれると劣等感を感じるのか?
つづいて心理測定は「劣等感」に移る。メガネがずれたときの情けなさがあらわれるのだろうか。
メガネが洗濯バサミにかかった異性を苦手とする人は多いだろう
異性との付き合いの劣等感が増した
劣等感の心理測定は数ジャンルに分かれている。まず異性との付き合いの苦手さ。
メガネがずれたときの平均値…3.75
通常時の平均値…2.25
まあモテないだろう。数少ないメガネ男子・女子好きさえも敵に回すのだ。
メガネずり上がり男子好きが一体どこにいるというのだろう?
どう考えても頭がいいとはいえない
学歴の劣等感もメガネがずれることで増す
つづいて学業成績の悪さの劣等感について。
メガネがずれたときの平均値…2.625
通常時の平均値…2.042
メガネをからめとられると偏差値が体感で35ほど下がる。身震いするほど偏差値が下がるのである。
運動神経が鈍いレベルの話ではない
運動能力も確実に下がった気がする
つづいて運動能力の低さの劣等感について。
メガネがずれたときの平均値…2.956
通常時の平均値…2.042
ここが公園でよかった。中国の密林の洗濯バサミにメガネがからまったなら、虎に襲われて死んでいたことだろう。
友達がいないことへの劣等感も全体的に増した
この人たちには友達がいなさそうだ
つづいて友達づくりの下手さの劣等感について。
メガネがずれたときの平均値…3.625
通常時の平均値…2.792
ここでは女性の河合さんの値が大きく変化した。そういえばかわいい女の子は友人もかわいい。女性はルックスで階層を作りやすい。メガネがずれたら最下層だ。
私もこれが実験でなかったら河合さんと絶交していたことだろう。
メガネのずれはそんなところにまで影響を及ぼす
家が悪いからメガネがずれた
家庭水準の低さの劣等感について。
メガネがずれたときの平均値…2.083
通常時の平均値…1.667
メガネのずれた藤原が親の学歴に劣等感を感じはじめた。蛙の子はメガネのずれた蛙である。
そこまで自己を卑下しなくとも…
メガネがずれると性格も悪くなる
つづいて性格の悪さの劣等感について。
メガネがずれたときの平均値…4.214
通常時の平均値…3.143
ネクタイの歪みは性格の歪みというのは眉唾ものだが、メガネの歪みはデータが実証した。
メガネも体の一部ととらえると確実に魅力はない
身体にも自信がなくなる
身体的魅力のなさの劣等感について。
メガネがずれたときの平均値…3.938
通常時の平均値…2.563
いくら肉体改造しようがこんなメガネを洗濯物に釣られた人に魅力があるわけない。行くべきはライザップではない。ゾフだ。
リーダーシップという言葉の正反対の状態である
統率力もなくなる
つづいて統率力の劣等感について。
メガネがずれたときの平均値…4
通常時の平均値…2.55
メガネのずれた社長がいるだろうか。メガネを洗濯バサミに釣られた監督がいるだろうか。
メガネのずれた殿様の国では三日に一回くらいの割合で一揆が起こってることだろう。
メガネがずれると不安と劣等感を感じる
劣等感の全体平均は
メガネずれ時……3.380
通常時……2.386
となった。メガネのずれ上がりが人に劣等感を感じさせるのである。
心理測定の結果は概ね当初の予想通りのものであった。人はメガネがずれ上がると不安を感じて自信をなくす。
人が顔にかけているものはただ遠くがよく見えるガラスなんかではない。それ以上の、もっと大切な何かだ。
私はもうあれをメガネと呼ばない。これからは「尊厳」と呼ぶことにした。