我々は箸食を解放する
みんな、安心してくれ!不当に抑圧されつづけている民衆を救うため、我々デイリーポータルZでは急きょ「箸で食べた方がよくない?協議会」を結成した。
メンバーは筆者 石川を筆頭に、ライター陣から古賀、西村、藤原の計4人。
もちろんゴリ押し的に箸食を勧めていくつもりはない。他人にすすめる前にちゃんと一つ一つ箸で食べてみて、そのメリットとデメリットを明らかにしていこう、というのがこの記事の趣旨である。
箸で食べた方がよさそうなものをそろえました
まず最初に切り込みたいのは、パスタ。塩焼きそばとペペロンチーノ、前者は箸で後者はフォークだが、実際のところ似たようなものではないか。じゃあ箸で食べればよくない?。
というわけで、3種類のパスタを用意した。
フェットチーネ(幅広の麺)
ペンネ。ちょうど箸でつかみやすそうなサイズ
ラザニア。箸でスッと裂いて食べれば食べやすそう
事前の予想としては、ペンネとラザニアは箸に向いていると思う。フェットチーネ(ここにはないけど細いスパゲッティも)はきっと向いてないのではないか。なぜなら、
ラーメンに比べ皿が浅いので麺がブラブラする距離が長い
麺が揺れやすいため汁も跳ねやすい。箸で食べるにはカレーうどん並みの注意が必要になるからだ。
あと、フォークを使って巻きつけた方が、ソースがよく絡む気がする。
実際に食べ比べてみよう。
フェットチーネ
「普通です」(藤原)
ふだんから箸で食べることもあるという藤原さんが完全な平熱で言った。
食べてみると、確かにどっちでもいい。巻く手間は省けるが、すする手間が増える。思ったより汁はねもなく、ソースの絡みもそんなに変わらない気が…。
その他、こんな意見も。
確かにフォークは巻いてみるまでどのくらいに膨らむかわかんない。
巻いてみるまで量がわかんなくて、大きく巻きすぎちゃうときがあるよね。
小さな一口を作ることができる
箸で食べた方がいい度 50%
・一口の量をコントロールしやすい
・汁はね、およびソースの絡みは変わらず
※「箸で食べた方がいい度」は50%以下は箸じゃない方がいい、50%以上は箸で食べた方がいい、という指標です。
写真もぶれるほど高速で持ち上げることができる
適度につかみやすいサイズは日本人の操箸力(箸を操る力)を最大限に引き出してくれる。口の中にポイポイ放り込めて気持ちがいい。ただもともとのフォークがそれほど食べにくいわけではないので、差別化が弱いのが難点か。ほかにこんな意見も。
食べやすい上に楽しいがお母さんにおこられる諸刃の剣
箸で食べた方がいい度 80%
・掴みやすいサイズで食べやすい
・穴に箸を入れると楽しい
ラザニア
スッスッと切って気持ちよく食べたい
これは自信がある。箸って、切るのが得意じゃないだろうか。刺した状態で横滑りさせて切ったり、挟み込んで切ったり。少しずつ切って食べるラザニアなら、断然、箸の方がいいに違いない。
結果:フォークの勝ち
フォークの切断性能をなめていた。なんたって薄いのだ。そして金属(写真はプラだけど)。ほぼナイフである。一方で箸は丸や四角(割り箸)の木の棒。摩擦も多くて切れづらい。
箸のこの器用さ!!
とてもフォークにはできない芸当ではあるが、しかしながらこれで食べやすいわけでもなく、無駄に器用さを誇示するだけの結果である。
箸で食べた方がいい度 35%
・フォークの方が切りやすい
・はがすことは可能だが特にメリット無し
残念ながら、フォークの手からパスタを奪うことはできなかった。フォーク、よく考えられてるのだ。これは相手が悪い。というわけで敵を変えて、次は手で食べる系の食べ物を攻めたい。
フライドポテト
てりやきバーガー
ファーストフード2品。江戸のファーストフードといわれる寿司も、かつては手で食べていたものが今では箸食が市民権を得ている。この調子で洋のファーストフードも取り込んでいきたい。
フライドポテト
「箸、一択!」(西村)
フライドポテトは箸だ。何がいいって手が汚れないのがいい。それ以上の理由が要るだろうか?
考えてみたらハンバーガーは包み紙に入っていて、手を汚さずに食べられるようになっている。それなのにポテトで手が汚れてたら意味なくない?
フォークでもいいけど安定感がない、途中で落としそう
さらに、フライドポテトの試食中に、箸食を考えるうえですごく重要な発見があった。
ポテトはおやつにする時と食事にする時があるけど、箸だと食事感が出る。
<箸食豆知識>
ふだん箸で食べないものを箸で食べると、居酒屋っぽい。
未成年は知らないかもしれないよね。大人になるとピザもパスタも全部箸で食べるぞって。
箸で食べた方がいい度 100%
・手も汚れずしっかりつかめていいことずくめ
・食事っぽさ、居酒屋っぽさが出る
ちなみに、マクドナルドの店頭で注文の時に「箸つけてもらえますか?」と聞いたのだが、箸はないと言われた。ぜひ常備してほしい。
てりやきバーガー
なんでてりやきを選んだかというと、食べてると具がずれたりソースが垂れたりして、袋の中に残っちゃうだろう。あれを解決したかったのだ。
皿に置いて箸で切って食べてみる
切れなくはないけど……
切れなくはないけど、決して食べやすくはない。どちらかといえばフォークの方が向いてる。ラザニアで明らかになったように、切断はフォークの方が得意なのだ。
ハンバーグ単体は箸でも切りやすいけど、ハンバーガーだと下のパンがクッションになって切りづらい
完全にきれいになったこの皿!
最大の課題であった「具やソースが袋の中に残る問題」は完全に解決したのだ!と思った矢先。
箸を使わなくてもこの通りまっさらに
というわけで、テリヤキバーガーは手で食べればいいと思います。
箸で食べた方がいい度 30%
・切りにくい
・特にメリットなし
手が汚れないとか具がはみ出ないとか言った機能面のほかに、「単に食べやすい」という理由で箸を使ってもいいだろう。
サラダ
コアラのマーチとアポロチョコ
実際のところ、日常のなかで感じる「これ箸で食べた方がよくない?」の大半はこの理由であるように思う。
サラダ
サラダは箸で食べやすいというより、フォークで食べにくいのではないか。レタスが一枚、皿の底に残ってしまうと、薄くてぜんぜんフォークに刺さらない。大根やキャベツの千切りが入っているとフォークの隙間からスカスカと抜け落ちてしまうという問題もある。しかし、箸を使えば…。
「むちゃくちゃ食べやすい!」(古賀)
普段はフォーク派という古賀さんがまず歓喜の声を上げた。
つまめるじゃん?一個一個。
フォーク使ってて刺さんないときはこう両手で、ギューッとやってた。
こうやって、こうやって、こうやって!
「こう両手で、ギューッ」(古賀)
古賀さんが大興奮する中、僕はと言えば「持ってきてはみたものの、そういえばうちでは元々箸で食べてるな…」と考えていた。
居酒屋では普通に箸で食べるしね。
箸で食べることにあんまり新鮮味がないので、記事の素材としてはいまいちだったかもしれない。
その傍らではこの満足げな表情
しかしそれを差し引いても、持ってきてよかった。
僕がサラダを持ってきたことで、同僚がこんなに笑顔になったのだから。
みんながこうやってたのがショック。これなら水菜とかもスイスイ食べれる。
箸で食べた方がいい度 100%
・圧倒的な食べやすさ
・もしかしてすでに常識レベルか
コアラのマーチ
そのものの形の食べやすさのほかに、容器の形による食べやすさもある。このコアラのマーチ、妙に深い箱に入っているのだ。
六角柱。柱だ。
これ、量が半分くらいになった時点で、容器を横倒しにして揺らし、お菓子を入口の方に動かす(しかし箱から落としてしまってはいけない!)という繊細な操作を要求される。
でも、リーチの長い箸なら。
箱を立てたまま
つかめる!
いやいや、この深さですよ。箱の。箸なら底まで届く。
みんなこのメリットについては理解してくれたようで、「ほっほー」とか「へー」とか言ってくれるのだが、どれだけ話を引き延ばしても一向に「これはいい」とか「使いやすい」とかの賛同コメントが出てこない。
理解はするけど同意はしかねる、といった感じ。でも執筆者特権として、ここは独断で高評価にさせていただく。
箸で食べた方がいい度 80%
・深い箱の底にあるのがそのままつかめる
・手に粉が付かないというメリットも
アポロチョコ
箱が深いという点ではコアラのマーチと同じだが、お菓子自体の形状は箸ではつかみにくい。
ちょっとつまみにくくないですか?斜めになってるから
いやいや、フォークとスプーンと箸の三択だったら、ベストですよ、箸。
それは箸じゃなくてアポロ側に改善をお願いしたいですね。
フォークではもっとつかみにくい
いやそう言ってられるのもいまのうちですよ。夏場はやばい。これからが勝負。
中立の立場からの検証企画のはずが、なんかだんだん僕が箸をゴリ押しする企画になってきてないだろうか。でもほんとに箸いいんだって。(と更にゴリ押し)
箸で食べた方がいい度 70%
・深い箱の底にあるのがそのままつかめる
・溶けてても手に付かない
・ただしつかみにくい形状
我々は便利とか不便とか食べやすいとか食べにくいとか、すぐ物質的な価値観に引っ張られてしまう。もっとメンタルな部分で、箸ならではのエクスペリエンスというものを求めていってもいいのではないか。そこで登場するのがこの2つだ。
塩おにぎり
バナナ
とりたてて箸の方が食べやすいというものではない。ただ、箸を使うことで、各食材の、今までと違った側面に出会えるのだ。
塩おにぎり
食卓が白い
箸で崩すと一気にごはん化
おにぎりは箸で食べると一気にごはん化する。それは変化ではあるが、想定内の変化だ。ここまでは。
本番はここから。このごはんを口に運ぶと…。
しょっぱくておいしい!
ごはん化したおにぎり、ごはんだと思って口に運ぶと…しょっぱいのだ!塩おにぎりがしょっぱいのは当たり前の理屈だが、一度ごはん化することで前世の記憶は失われ、舌が普通のごはんを想定してしまうのだ。そして口に入れると、塩味。
「まさかぁ」と思うだろうが、これだけは一度試してみてほしい。ほんとにおいしいから!
ご飯だと思って食べたらしょっぱくておいしかった人の表情をご覧ください(1)
ご飯だと思って食べたらしょっぱくておいしかった人の表情をご覧ください(2)
おにぎりじゃない普通のごはんで、塩味がついてるご飯ないじゃん?
箸で食べた方がいい度 90%
・崩した瞬間にごはん化、口に入れるとしょっぱさに驚く
・毎回じゃなくていいけど一度は試してほしい
バナナ
持ちやすくしかも天然のカバー付、単体でも一切手を汚さずに食べられる。人間に食べられるためにデザインされたのではと思いたくなるほどの機能的な食べ物。しかしあえて道具を使うことで、あらたな体験に出会えるのではないか。
「全部むかずに、こういう感じで…」(石川)
「こう置いて、あとは」(石川)
「箸で切って食べる」(石川)
複数人でひとつのバナナを分け合うときはいいですよ、これ。
そんな機会は、たぶんない。
でもいつもと違う食べ方のバナナは、知らない南国のフルーツを食べているようで、新鮮であった。
箸で食べた方がいい度 60%
・パーティー食べ。複数人ならお薦め
・毎回じゃなくていいけど試してみると面白い
ところでそのあと打ち合わせのためにライターの北村さんがやってきたのだが
「バナナのその食べ方よくしますよ」といって慣れた手つきでスルスルスルと
テーブルに置くことすらせず片手にバナナ持ったまま食べてました。器用!
箸置きまで内蔵されている
ここでひとつ問題提起。下の写真の4品、どこまで箸で食べるべきだろうか?
左からカラムーチョ、ポテトチップス、アーモンドフィッシュ、ミックスナッツ。手が汚れる順。
うちは手で食べちゃうけど、たしかに箸で食べた方が、手も周りも汚れない。
辛い粉がついてて手がすごく汚れる
ポテトチップスも「箸のほうがいい」が多数派(写真は途中参加のライターきだてさん)
それ以外は手も大して汚れないし別に手でいいと思っていたのだが、思わぬ方向から箸の利点が見つかった。
ナッツ箸はいいかも。食べ過ぎない。手にザラザラザラーって出して一気にバクッて食べちゃうのを防ぐ。
居酒屋は箸って話につながってきますけど、長時間かけて食べるのには箸は向いてる。
小粒なやつはね、箸むいてますよ。手にざらざらあけないで済むのはダイエット的にも有効。
きだてさんは最近、大幅な減量に成功しました。
そう、箸は「チビチビ食べられる」という利点があるのだ。
<箸食豆知識>
箸は手よりもチビチビたべられる。酒のつまみにもダイエットにも良い
前述のとおり居酒屋では何でも箸で食べてしまうが、実は箸の特性にうまくマッチしているのである。
ただ、機能面では箸が断然おすすめであっても、ほかに考慮すべき点もがあるようだ。
(ポテトチップスを箸で食べることについて)
でも風情はないよね。
家で食べるのはいいけど、パーティーでやられるとちょっと興ざめ。
手づかみより上品な食べ方のはずなのに「風情がない」になるんですね
さいごに、デザートとしてシュークリームを用意した。
左は大きめのシュークリーム、右は蓋が開いてクリームが見えてるタイプ(緑色は抹茶クリーム)
シュークリームはいまいち食べ方の正解がわからない。フォークでは食べにくそうだし、かじりつくのはお行儀面はおいといたとしても、うまくやらないとクリームがはみ出てきてしまったりする。ここは箸の出番ではないか。
押し切るとクリームが飛び出すので、こう、二本の箸で開き裂く感じで…
横に裂けば、下方法に力がかからないからつぶれないですよ。
あとクリーム出ちゃっても拭えるよね。箸でつかんだ皮で。
もうクリームは最初から出すぐらいの気持ちでいい。出す前提で。
クリームがはみ出た場合のフォロー方法が確立されてるのはすごく安心感があるではないか。余計なことに気を回さなくていい分、味に集中できる。
さらに、スナック菓子で明らかになった「チビチビ食べられる」はシュークリームでも有効だ。
あらかじめ一口サイズに切れるから、かぶりつくときと一口の量が全然違う。
いつもより一口が小さい!
こんなに小さい一口でシュークリーム食べたの初めてかも。
シュークリームってなんか一気に食べちゃってお腹いっぱいにならないんですけど、これだったらお腹いっぱいになる気がする
箸で食べた方がいい度 85%
・切る時は横に裂き開くと潰れない
・クリームは出す前提で
・シュークリームをじっくり楽しめる
食器解放宣言
今回の「箸で食べた方がよくない?協議会」の協議結果は以上だ。最後に、協議会中、最も印象的だった会話を引用しておしまいにしよう。
(西村)洋食でも箸で食べた方がいいものいっぱいありますよ
(石川)ですね。逆に和食でも茶わん蒸しはスプーンってことになってますよね
(古賀)なってる!
(西村)食べ物の状態によって適切な食器があると思いますよ。
和食だから箸、洋食だからフォークやスプーンじゃなくて、食べ物の柔らかさによって決めなきゃいけない
(古賀)解放しないとね。解放宣言
まずはみんな、フライドポテトやサラダを箸で食べることから始めよう!そんなのいつも箸で食べてるよ、という上級者は、塩おにぎりやバナナに挑戦だ。