スーパーマーケットミュージアムにて
ことの発端は、とある休日たまたま出かけた「スーパーマーケットミュージアム」なるイベントでのことである。
首都圏を中心に展開するスーパー「サミット」が創業50周年を記念して行ったイベント(※終了しています)
サミットの第1号店が世田谷区野沢にあったことから、この地で「スーパーのしくみ」や「流通」について学べるイベントが行われていたのだ。
スーパーに売ってない商品を探せ! というクイズもあって楽しい。
流通が一目で理解できるコーナー。24時間の時間の流れが分かる仕組み。
スーパーの店内を模したジオラマまで。
お惣菜を作ってる人もいる! 細かい!
子どもが実際に「ピピッ」と擬似レジ体験(機械は本物)できるコーナーが大人気。
ちゃんとレシートまで出てくるという芸の細かさよ!
全体的に子ども向けの内容ではあるのだが、付き添いの大人がつい夢中になってしまうような素晴らしいイベントであった。
そしていきなりチラシがあった
「ほほう」とか「へえ~」と感心しながら会場を見て回っていたのだが、とある一角で私の足が完全に止まった。
あったのだ。いきなり50年(正しくは51年)前のチラシが!
「うわー!」と声が出た。そりゃあ出る。出るともさ。
すっかり興奮してチラシの前に立ち、穴があくほど見入ってしまった。なんという情報量だろうか。今のスーパーのチラシとはだいぶ様子が違うのもまた興味深い。
まだ生まれる前の、東京のスーパーの品揃え、その価格、そしてチラシ自体のデザイン…。
どれをとっても珍しすぎる。面白すぎる。
だいたいハムが220円で、大正えびが17円って、一体どういうことだ。
よく見るとハムは500グラムだし、えびは1尾の値段なのだな。ふむふむ。
こうして見ると、肉に比べて魚介がとても安い。特にサバとくじら! 鯛なんて1尾10円だ。ブリは1切れで45円もするのか。ああ…いくら見ていても飽きない。いつまでも見続けていたい。そして当時の台所事情を想像していたい。
さらに「お待たせしません」や「完全セルフサービスです」という表記に「そうか、スーパーという販売形態自体がまだ珍しい時代だったのだな」とハッとさせられる。
どうです、当時の生活が垣間見えるようじゃないですか…。
東京オリンピックが1964年だから、これはその前年のチラシということになる。
戦後18年しか経ってないというのに、これだけ東京のスーパーには物が豊富にあったのだなぁ。
さらに3年が経過した頃のチラシがこちら。椎名町店の開店記念チラシですね。
一気に写真が増えた。この3年で一体何があったのか…と思わせるような劇的な変わりっぷりである。
文字量が減り、写真と価格がバーンと目に飛び込んでくる視覚に訴えたデザインは、まさに私たちがよく知っているチラシのパターンである。
こちらは1969(昭和44)年の若林店開店記念のチラシ。
2色刷りだが、価格が非常に分かりやすく表示され、安さが強調されている。
それにしても鮭2切れ97円って、今とたいして変わらないじゃないか。ポッキー(もうあったのか!)が88円(通常110円)というのもあまり違和感がない。途端に当時の生活に親近感が湧いてきた。
1971年のチラシ。ついに70年代に突入。ミニスカブームの波はチラシ界にも。
花柄の魔法瓶が「時代」ですよねぇ。そしてティッシュペーパーが79円とお高い。
この頃のティッシュはまだカサが高く、バラ売りだったことが分かる。
そして「ピアスフローラ」なる商品がなんなのか分からない。が、分からないのがまた楽しい。
キユーピーマヨネーズのデザインが今と一緒! つくづくいいデザインです。
それにしても、40年以上前だというのに肉の値段が今とそれほど変わってないのがすごい。ということは、肉は高価だったんだろう。豚肉100グラム93円とか、今のチラシにもありそうだぞ。
それに比べ、筋子が100グラム390円とはなにごとだろう。超高級食材じゃないか。当時は「いくら」的な立ち位置だったのだろうか。
イラストに味がありすぎる。モデルのポージングもいい感じ。
1972(昭和47)年。だんだんデザイン的に今と変わらなくなくなってきたような。
毛ガニ79円の時代に、筋子380円て! あと白砂糖のデザインも今と変わってないな~
1973年。青果は安いが、やはり肉の値段は今とたいして変わらない。そして船。
1977年、また斬新なレイアウト。
開店時間が目立つという奇抜なデザイン。
そして時代は80年代に。紙パック飲料が登場したり、だいぶ今っぽくなってきました。
一気に牛肉が高くなった印象。そしてインスタントコーヒーが598円とは! 高級品!
80年代に入ると、魚介も肉(特に牛肉)も一気に値上がりした感がある。この頃は日本経済に勢いがあったんでしょうな。
ちなみに1981年といえば「ガリガリ君」が50円で発売された年だそうだ。
…うむ。もう全体的に違和感がなくなってきた。このチラシは知ってるやつだ。
かと思えば、ブリをどどーんと前面に出したデザイン。すごい。5000本てのもすごい。
1993(平成5)年ともなると完全に「チラシってこういうのだったよね」な雰囲気に。
そして2011(平成21)年。これはもう「現在」といっていい品揃え&価格帯。
50年分を駆け足で一気に見ていただいたが、いかがだったろう。私は、連れていった子どもそっちのけで見入ってしまうほど興奮してしまった。昔のチラシってこんなに面白いのか!
それにしても、この興奮のやり場がない。一体どこへ持っていけばいいのか…と思案した結果、思い切ってサミット本社へ取材を申し込むことにした。
もっとたくさんチラシを見たい! こんな機会、二度とないに違いないぞ!
じっくり見せてもらうことに
唐突な取材の依頼にも関わらず「ミュージアムでの展示が終わり、チラシを一度回収してから改めて」とのご返答をいただき、イベント終了後、西永福にあるサミット本社さんにお邪魔することになった。
チラシの入った大きなバインダーをいくつもご用意いただきました。ありがとうございます!
対応して下さった広報の植川さんが「もうこの頃のことを知る人間が社内にいなくなってしまって当時の詳しい話が出来ないのですが…」と恐縮していたが、50年の歳月とは、つまりそういうことなのだろう。
23才で入社した方はとっくに70才を過ぎている。それほどまでに古いチラシたちを、これでもかと見せていただけるとは…。なんて贅沢な話でしょうか。
膨大なチラシを前に「えーと、これは…」と詳しい情報を教えて下さった植川さん。た。ありがとうございます!
見ても見ても飽きない
実際にチラシを前にして出て来る言葉は「へえ~!」とか「うわあ!」とか「すごいデザインですねぇ!」とか「安い!」とか「高い!」とかばかりだった。
およそ取材者にあるまじき語彙の少なさである。ファンか。お前はただのチラシファンか。
本当に「うわあ~」しか言葉が出ない。さん。た。ありがとうございます!
ここで、最古のチラシである例の文字だらけだった「1963年モノ」を見せていただいた。
会場に展示してあったアレである。
紙質が今のチラシと違って画用紙っぽい。それだけで急にチラシっぽくなくなる。
そしてこのチラシの裏は白であった。今となっては貴重なスペース!
植川さんによると「展示用の一番最初のチラシはあまり保管状態が良くなくて…OBから借りました」とのことであった。
つまり当時はチラシを資料として保存しておくという概念がなかったのだろう。チラシを作成している会社でさえそうなのだ。いわんや一般家庭においておや。
しかし会社としても全てのチラシを取っておくわけにいかず、現在保管してあるものは主に「開店記念のチラシ」とのことであった。
新聞広告までありました
さらに1号店を出店した時の新聞(毎日新聞)も見せていただいた。日付は昭和38年11月29日とある。
なんだろう、と見てみると…
なんと2分の1スペースでの新聞広告!
当時はまだサミットではなく「野沢スーパーストア」という店名だったそう。
植川さんから「このとき、1日店長が八千草薫さんだったんですよ」と教えていただき思わず「すごい!」と声が出た。なんて豪華なんだ!
「1日警察署長」とか「1日駅長」は聞いたことがあるが、当時は1日店長もあったのだ。スーパーって、それだけ“スーパー”な存在だったんだなあ。
広告をよく見ると「一般消費者だけ有効です」という表記がある。つまり「プロ(業者)は買いにきちゃダメ」ってことだろうか。
それほどまでに安かったんでしょうねぇ。
さらに開店を知らせるリーフレットも見せていただいた。
スーパーの指南書が必要だった時代
このリーフレットにはスーパーの仕組みのような、説明のような、基本的なことが丁寧に書いてある。
そうか…。スーパー以前は対面販売が主流だったのだな。おお、「パックされた肉の値段の見方」なんて欄もあるぞ。
今ではすっかり当たり前だが、当時は「新しい販売方法」だったのだ。
昭和45(1970)年のチラシ。実際に手にすると感慨もひとしお。
化粧品を入れるボックスの鏡に、隣の洗剤が写り込んでいるのが細かい!
イチゴが原価! 時価ってことでしょうか。そして、ずわいがに138円。
カニ、激安
昔はカニが安かったんだなぁ。確かに私が子どもの頃は、今よりカニを気軽に食べていた記憶がある。
ああ、カニを食べる時だけ過去にタイムスリップしたい。安いカニを求めて過去をさまよう時空ハンターっていいよな…。いい…。
はっ。
「カニが安かった」という情報ひとつで妄想を暴走させる力が昔のチラシにはある。確実にある。
創業10周年チラシ。ってことは1973年ですね。瓶カルピスに頬ずり!
それにしても人物が写り込むだけで、一気に時代感が出る。本人にそのつもりがなくても、人ってのは膨大な情報量を抱えているものなのですね。
というわけで、モデルさんの化粧やヘアスタイルで、だいたいの年代が当てられるようになった。
ちなみに当時、筆者5才。カルピスを飲みまくってた頃です。確かに頬ずりしたかったです。
肉の価格は現在(2014年)っぽいのに、筋子の値段にまたもや驚愕。グラム630円て!
筋子が特別扱いされている
昔のチラシを見て一番に思ったことは「肉の値段ってのは、あんまり変わってないんだなぁ」だったのだが、あらためて読み込んでみると筋子の高級さに驚く。
筋子、さほどありがたがらず、よく食べていた記憶があるが…。それは私が秋田出身だからだろうか。
あんまり筋子筋子いってたら、さらに古いこんなチラシを発見。
「直輸入」ってことは、これでも他に比べると安いということなのだろう。そもそも筋子ひとつにこれだけのスペースを割いていること自体が驚きだ。筋子の当時の価値って、これほどだったのか。
ちなみに、この頃のチラシには「いくら」が見当たらなかった。粒をバラバラにする技術がまだそれほど確立されてなかったのだろうか。
衣料品にも時代が出る
つい肉や魚、青果といった食料品にばかり目が行きがちだが、衣料もじっくり見ると面白い。
ランジェリー大会。スリップって今もあるんでしょうか。
当時のテレビドラマなんかで、刑事がアパートの部屋を訪ねて「すみません、隣の○○さんのことなんですが…」と聞き込みをすると、よくスリップ一枚の女の人が出てきたもんですよね。
寝巻! うちの母親は未だにコレで寝ています。
かと思えば水着も。このへんのチラシは60年代後半。
うんうん、昔はレジ袋じゃなくて紙の袋だった! そして女性は茶髪だった!
お嬢ちゃん、パンツみえてる!(ワカメちゃんっぽい!)
やはり人が出て来るとチラシは俄然おもしろくなる。
こういうファッションの女の人、昔のアルバムによく出て来るし、親戚のお姉ちゃんがこんな肩ひも付きのスカートを履いていたものだ。
…懐かしさのあまり、思わず我が家のアルバムに思いを馳せる始末。
フルーツにも時代が出る
人物以外にも、当時の様子がよく反映されているものがあった。
意外なことに、なんと果物だ。
いまの感覚でいえば、なんとなく地味なラインナップ…
1970(昭和45)年頃のメロンといえば、もっぱらプリンスメロンであった。私もさんざん食べた。あれだけ世話になっておいて、現在の我が家でプリンスメロンは完全に「瓜」扱いである。
時代の流れというのは本当に残酷ですよね。
1972(昭和47)年。お父さんの髪型がイカす。しかもパジャマ姿でパイプときた。
またも果物コーナーにあるメロンはプリンスだ。
そして、グレープフルーツに注目してほしい。なにか白い物がかかっているが…。
そうそう! この頃は半分に切って、砂糖をかけて食べるのが定番だった!
あまりに懐かしすぎて身悶えしてしまった。
植川さんいわく「グレープフルーツが出始めの頃は、砂糖をかけなきゃ酸っぱくて食べられなかったですよねぇ」と。ですよねぇ。そしてギザギザスプーンが付き物でしたよねぇ。
過去のチラシとのコラボも
いろいろと見ているうち、こんなのも出てきた。
創業15周年記念の売り出しなのだが、創業時のチラシの内容を活用した作りになっている。
1978(昭和53)年、創業15周年記念。なんというチラシの有効活用。
驚いたことに、この15年間で国民所得は7倍強のアップだそうですよ、奥さん。
「当時の価格で売ります」という売り文句がすごい。
それにしても国民所得7倍って…。とんでもない時代であったのだなあ。
そして一緒になってチラシを見ていた植川さんが「うわ、懐かしい人がいる…」と声をもらしたのがこちら。
チェッカーコンテスト入賞記念セール。顔写真がずらり。髪型が80年代!
取材に同行してくれたデイリー編集部の古賀さんと私も「チェッカーコンテストってありましたよねぇ!」と、思わず一緒に盛り上がってしまった。
植川さんによれば「当時はPOSじゃなかったんで、値段の他に商品の分類を打ち込む必要もあったんです」とのことで、レジには早さ・接客に加えて正確さまで求められていたのであった。完全に技能職だ。
確かにスーパーのレジって、ほれぼれするほどのワザの持ち主がいたもんです。
…と、今度は同行の古賀さんが「うわ、これ見て下さいよ!」と声を出す。
電卓がまさかの6,980円! 確かにこれは興奮しますな…。
そうか、電卓が高価な時代でもあったのか。
「お買い物のお供に! 計算がおもいのまま」とキャッチコピーが書いてあるが、まさかのACアダプター付きである。
きりがありません
本当にきりがない。見れば見るほど当時の生活に根付いた情報がボロボロと出てくる。楽しくってしょうがない。
興奮したまま、あっという間に1時間以上が経過していた。まさかスーパーのチラシがこんなに面白いとは…。
生活に密着した商品が掲載されているだけに、チラシには当時の暮らしぶりがこれでもかと映し出されていた。これだけで「生活文化学科」あたりの卒論が書けるんじゃないかと思うほどの情報量である。
ちなみにサミットさんは映画「スーパーの女」の撮影にも協力したのだそうで、まったくもって私はこの日いったい何度「へえ~!」と言ったのだろう。
こんな貴重なチラシたちを惜しげもなく見せていただいたサミットさんには、ただただ感謝あるのみである。本当にありがとうございました!
再びスーパーマーケットミュージアムが開催された時には、是非とも見に行くことをオススメします!
電話カバー、あったあった! 当時はドアノブカバーってのもありましたよね!(本当にきりがない…)