電車で行くと遠い
妻の実家は秋田の北東部に位置し、男鹿半島は西側。片道4時間半の長旅となった。道中、なにがあるわけでもなくただ電車に乗っていた。
遠い。今年も家でテレビみてればよかったと、一時間の乗り換え待ちで思った。
日本には数少ないこういう駅、男鹿駅
なまはげ館や温泉街などを巡回するバスが出ている。案内の方もいる
なまはげダイバーが生まれる土壌
トヨタ秋田には"カローラなまはげ"なる特別仕様車まであるらしい秋田のなまはげ度合いの高さ。とにかくインパクトがつよいので商品やサービスに組み合わせるにはなまはげがぴったりなのだろう。
そうした傾向は本場の男鹿半島になるとより顕著だ。
農産物直売所が"なまはげ直売所"になり、駐車場が"なまはげ駐車場"になっていた。
私たちが忘年会の出し物で「今年はとりあえず"お・も・て・な・し"いっとくか」というのと同じノリで、「とりあえずなまはげいっとくか」がここ数十年つづいているのではないか。
ここまでくればなまはげがダイバーとなって水の中にもぐっていてもなんら不思議はない。「とりあえず生(はげ)」が男鹿の合言葉である。
バスの車窓から「なまはげ直売所」を発見
なんでもない駐車場が「なまはげ駐車場」
荒々しいところにあるな
「男鹿はあまり積もってないけど、とにかく風がつよいからあったかくしていきな」と義母にいわれていたが、男鹿半島のさきっちょに建つこの水族館の荒々しいシチュエーションはただごとではない。
波ザッパーンではなく、波ドドドドであり、降りられそうなところはすべて鎖で封鎖されている。
ファミリーがきて「わ~、お父さん、(ファインディング)ニモがいるよ~!」が水族館だと思っていたが、この荒々しさ。水族館に行く人のテンションではない。討ち入りのそれだ。
見てるだけで死にそう。男鹿の海の荒々しさ
シロクマの赤ちゃんがいた良い水族館でした
水族館に入ると、今日は2時からなまはげダイバーもありますと案内があった。もっと秋田の人が大挙しておしよせているのかと思ったが、そこまで混雑もないようだ。
2時まで水族館を一周する。おもしろかった。思わずふつうに楽しんでしまった。
ふつうに楽しんでしまった部分はこの(コモンカスベの裏側おもしれ~)と撮った一枚の無防備さでかえさせてください。
へんな岩があるなと思ったら
男鹿名物の奇岩を模した岩らしい。奇岩展示
「シロクマの赤ちゃんのミルクが大きくなったら茶色になっちゃったんですよ」とバスの中で案内のおっちゃんが言ってたが
じっさいはウッドチップの上でごろごろするから茶色くなってそうだ。父親が別問題とか流行ってるから心配してしまったよ
なまはげにつづき、ハタハタ大充実
シロクマの赤ちゃん(大きくなってたが)もいるしアシカもペンギンもいて通常の展示もおもしろい。そんな中、あきらかに他の水族館と一線を画す部分があった。
しょっつるの原料であるハタハタである。さすが男鹿の水族館、ハタハタ押しまくりである。
秋田にとってのハタハタではなく、ハタハタにとっての秋田。ハタハタ中心の視点である。
ハタハタで泣け!
ハタハタを感じろ!
ブリコも感じろ!
ブリコとはハタハタの卵である。食感がバッツンバッツンでたしかにすごいが、これをさわりたいという発想はなかった
いよいよなまはげダイバー
とにかくここに来れば一生分のハタハタの知識をつめこむことができるだろう。しょっつる作り体験記まであった。それはどちらかというと水族館でなくて魚屋に近いのではないか。
14時もちかづいたころ、そろそろなまはげダイバーがはじまりますとアナウンスがあった。大水槽にもどると人が集まっていた。さすが秋田。やっぱりなまはげが潜るとなるとみんな見に来るのだな。
メインの水槽前に人が集まりはじめた
みんなジンベイザメを待ってるのではない、なまはげを待ってるのだ!
そのとき一本のロープがおりてきてみんなさわぎはじめた。こころなしか魚たちもロープに集まる(エサがもらえるからか)
そしてあらわれたなまはげ
ブクブクブク~(わるいごは)
ゴボゴボゴボ~(いねえが~!!)
ものすごい画になっていた
なんなんだこれは。一体なんでこんなことになっているのだ。
カメやマンボウも泳ぐ大水槽になまはげがゴボゴボあわふきながら降りてきた。テレビで見てたものの、実際に目撃すると脳が大混乱だ。
マンガなどでいきすぎた金持ちを表現するときに水槽に美女を泳がすというのがある。私たちの欲望がついになまはげをもぐらせたのだ。
こうしてなまはげダイバーによる潜水給餌ショーがはじまった。
「なまはげはお正月にあらわれ、怠け者はいないかといって……」とアナウンスが流れる。まるで珍しい魚の紹介である。
海遊館の大水槽でジンベイザメを見たが、男鹿水族館の大水槽はほんとになまはげを見せる気なのだな。
お面などは地元のダイビングショップと協力して作ったそう。ちょっとキャラっぽい顔だち
なまはげ登場の場面、かっこいいも悪いもないと思うが、かっこよかった……
やっぱり男鹿といえばなまはげ
このなまはげダイバーの潜水給餌は年末年始と地元の柴灯まつりの期間におこなわれる。2005年からやってるらしくもう8年、ガッチリ根づいている。
そもそもなぜこのなまはげダイバーをすることになったのだろうか。男鹿水族館の船木さんにきいてみたところ「なまはげは男鹿市の代名詞のようにもなっており、地元にあったイベントを!ということで」とのこと。
やはりここ何十年も"とりあえずなまはげ"が続いているのではないか。
どうしてこうなったか、理屈ではわかった。しかし実際になまはげがエサを求めたカメにまとわりつかれたりしているのを見ると、なんでこんなことになったのかすぐにわからなくなる。
エサをやって魚にとりかこまれるのがまたいい。こんな世界みたことない。
亀にまとわりつかれるなまはげ。何がなんだか
がんばりを感じさせない異常な状況
ふだんのエサやりは週に数回上からまくのと、土日に今日のようなショーをふつうのダイバーがするそうだ。
これをなまはげでやると、重いわ視界は狭いわで全然動けないらしい。そのうえで「なまはげの迫力を出せるよう」がんばっているそうである。
重い、見えない、潜水の技術論の前にはがんばるという精神論がある。しかしそのもうひとつ前になまはげがもぐっているという異常な状況がある。
がんばりを感じるその前に、ただただ圧倒されるばかりである。
マンボウ、奥になまはげ。すごい水族館。
魚影のむこうのなまはげの神々しさ。なまはげが神様であることを実感できるのはここだ!
最後はみんなで手をふってお別れをする。これが秋田の水族館の年末年始である
シャツ出てるよとたまに注意してあげたほうがいい
水族館の方がいっていた「地元にあったイベントを!」がすべてだろう。その思いが、なまはげの直売所を、なまはげの駐車場を作り、そしてなまはげをもぐらせるのだ。カメとマンボウと一緒に。
なまはげの存在はキャッチーだ。
たべものでいうと納豆に近いのかなと思う。納豆好きのタレントが納豆パンうまいですよとか納豆パスタもいいし納豆は何にでも合うんですよとテレビでいっていた。
合うには合うだろう。しかしそれは大体納豆味だ。
なまはげも同じだ。あまりにも個性的であるためいろいろなところに組み合わせられる。そしてあれもなまはげ、これもなまはげ……たまには県外から「シャツ出てますよ」くらいのやさしい感じで「なまはげしすぎですよ」と声をかけてあげるべきなのではないか。
ただ基本的にはどんどんやってもらいたい。なまはげはおもしろいからだ。
往復で9時間くらい移動してたが、雪国の交通機関は中がものすごくあたたかく、ずっと寝てた