特集 2014年1月5日

西部劇の馬を作る

西部劇を作ることになった。馬が要る。
西部劇を作ることになった。馬が要る。
デイリーポータルZの1分動画コーナー・プープーテレビで西部劇を撮ることになった。

今までにも特別企画として時代劇とSFをやってきたのだが、長編は制作が大変なので以降無視していた。

「西部劇なら人が入る馬でいいんじゃない。あれおもしろいからやろうよ」

テレビのかくし芸大会の馬だ。それならやってみるかと思ったらやっぱり大変だった。
1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます(動画インタビュー)

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

かくし芸大会とか演劇とかでつかわれる馬
かくし芸大会とか演劇とかでつかわれる馬

馬の頭はリアルに、体は丈夫に

イメージはある。おみこしの体に着ぐるみの頭がついたものだ。頭と体、2つのものをつくり合体させればいいわけだ。

この2つは求められることもべつだ。体には大人1人が乗る丈夫さ、頭には馬に見えるリアルさ。

と同時に今回の西部劇制作において「負担にならないようにやること」という大きなテーマがあった。

リアルな仕上がりを求めるのはいきなりこのテーマをなしにしそうな気配がある。
図鑑をかりてきてイメージ図をつくる
図鑑をかりてきてイメージ図をつくる

着ぐるみなんてできるのか?

制作に入ったのは12月10日。撮影初日の10日前だ。

まずはじめにやったことは図書館で図鑑をかりてくること。寸法をはかって大体の設計図にかきこむ。人のおみこしが体高となるため、ふつうの馬よりでかいくらいだ。

そして「着ぐるみ 作り方」で検索。スチロールで中身をつくってその上で型紙をとり、布でぬいあわせるらしい。できそうにない。

とりあえず新聞紙まるめて形をつくってみる。
新聞紙をぐしゃぐしゃにあつめる
新聞紙をぐしゃぐしゃにあつめる
大体の形でテープでぐるぐるに巻いて張り子みたいにする
大体の形でテープでぐるぐるに巻いて張り子みたいにする

馬の頭の中身はできた

新聞紙を集めてテープでまくとそれっぽい頭の形はできた、が……でかすぎる。これに紙粘土で張り子にしようかなと思ったがすごい重さになる。

紙でいいか、紙で。裁縫ができないので紙を貼ることにした。どんどんさがるクオリティ。
紙でやろうと思ったが……これはやばいクオリティになりそうだな
紙でやろうと思ったが……これはやばいクオリティになりそうだな

やはり布でやらないといけないか

紙をためしにあててみた。

今まで新聞紙をぐしゃぐしゃにしたりしてずっと『クイズ!ゴミ or NOT』をやっていたようなものだが、ここで大きなヒントが出て正解がゴミにちかづいた。

いや、ちかづいてはダメだ。こうなったら布だ……これ、ほんものの着ぐるみ制作じゃないのか。
フリースの生地を購入。そのままでもわりといい感じだ。
フリースの生地を購入。そのままでもわりといい感じだ。
安全ピンでとめてたが……針いってみるか
安全ピンでとめてたが……針いってみるか

意外と裁縫がいけた

苦手だと思っていた裁縫だが、かんたんなことならできることがわかった。

思い出した。その苦手意識は酔ったいきおいでボタンのぬいつけをしようとして針に糸がとおらず発狂した記憶からきてるのだった。

なぜ酔っておしゃれをしようとしたのかはよく思い出せない。アルコールの薬理作用はふくざつである。
耳はダンボールを芯にして
耳はダンボールを芯にして
かなり重いので中の新聞紙を少なくし、芯に木をいれた
かなり重いので中の新聞紙を少なくし、芯に木をいれた
目にする半球状のものがなかったので丸いゼリーを買ってきて、マジックでぬった
目にする半球状のものがなかったので丸いゼリーを買ってきて、マジックでぬった
BS漫画夜話『弥次喜多inDEEP』の回で「動物の目はだいたい真っ黒」と言ってたのをなぜかおぼえていて真っ黒にしたらリアルに。
BS漫画夜話『弥次喜多inDEEP』の回で「動物の目はだいたい真っ黒」と言ってたのをなぜかおぼえていて真っ黒にしたらリアルに。

撮影2日前になっていた

馬の頭ばかり作っているが長編フィクションはやることが多すぎる。スケジュールをきいて衣装を手配して西部劇とはそもそも何かDVD見たり……気づけば撮影2日前。ここまで話を作ったりクリエイティブな作業はない。

話はてきとうでいいや、と思っていたものの、実際に脚本がない状態で二日前までくると発狂しそうになる。

曲を一切知らないのにLUNA SEAのボーカルとしてステージにあがる悪い夢をかつて見たが(夢の中ですごくおこられた)、現実はそんな感じだ。

しかし撮影場所がないことには撮れないので今日は場所探し。西部劇なので東京西部の八王子などで。
二日前。撮影場所をさがしにきた
二日前。撮影場所をさがしにきた
口はフェルトをボンドでとめて。首はボール紙をガムテープで丸め、上から布をかぶせる。あと一日。脚本はない。
口はフェルトをボンドでとめて。首はボール紙をガムテープで丸め、上から布をかぶせる。あと一日。脚本はない。

撮影前日、台本作りはあきらめる

台本をつくるのは時間的にあきらめ、話の流れをメモにしておく。

撮影は2日あり初日は主演の安藤さんと「だれか撮影用のマイクもってくれないか」の募集に手を挙げてくれた歌手のひよせさんの二人が参加。

二人しかいないのでみこしタイプの馬はどのみちむりだ。

頭だけでのぞむことにして、馬になってくれる人をさがす話にしよう。それに明日は雨だというので橋の下で話をしてるだけにしよう。

ずるずる話がかんたんになっていく。妥協こそがクリエイティビティだと思い込んで撮影にのぞむ。
撮影前日に皮ひもを買ってきて手綱づくり。これを縫うのが大変だった…
撮影前日に皮ひもを買ってきて手綱づくり。これを縫うのが大変だった…
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そして撮影初日。雨。車で移動するという発想がないため電車で移動。すわった人と馬の頭の形がテトリスのようにぴったりだ。
そして撮影初日。雨。車で移動するという発想がないため電車で移動。すわった人と馬の頭の形がテトリスのようにぴったりだ。

撮影開始

朝9時くらいに駅に集合し、全体の担当編集者的ポジションの安藤さんと馬の頭をはこぶ。

電車の中で馬の頭がおそろしくでかい。しかし座った人に頭をそわせてみるとテトリスのようにぴったりとハマる。小さな奇跡だ。
「うわ~、これすごいな~!」 これしかがんばってないのでものすごくうれしい
「うわ~、これすごいな~!」 これしかがんばってないのでものすごくうれしい
撮影2日のうち1日がほとんどこういう撮影
撮影2日のうち1日がほとんどこういう撮影

八王子の川原、あまりにもさむい

当日、東京では雹も降ったところもあるそうだ。川原での撮影は風をさえぎるものがなく寒い。これ思い出に残るタイプのつらいやつだ。

近くに店もなく、昼ごはんはコンビニでお湯がよく入りそうなでかいカップ麺を買う。帰ったら安藤さんが柱の陰に風こないスポットを見つけていてウエスタンの格好のままじっとしていた。

ウエスタンってこんな感じなのか。
雨が降りあまりにも寒く昼食は広い川原のこの一点から動けない
雨が降りあまりにも寒く昼食は広い川原のこの一点から動けない
撮影場所でじいさんがハトにパンをまき、ハトを自在にあやつりはじめた。撮影中断。
撮影場所でじいさんがハトにパンをまき、ハトを自在にあやつりはじめた。撮影中断。
セリフは現場で。馬の頭を持った男に話かけられたらどうするかを話し合った結果、こわいからにげるだろうというストーリーに。
セリフは現場で。馬の頭を持った男に話かけられたらどうするかを話し合った結果、こわいからにげるだろうというストーリーに。

半分を撮り終え、こんどは馬の体作り

次の撮影日まであと4日。馬の体作りに入る。おみこしのようなものを作るのだが……よく考えたら上に60kgだ。

人が乗るものを作るのはどちらかというと家具制作に近いのではないか。強度と構造を考えては頭が痛くなる。

馬作りだと思っていたが、実態は家具(体)と着ぐるみ(頭)を作っていたのだ。
組み立て予想図。「人が乗らないでください」と注意書きされていたすのこの天板が撮影時にバッキバキに割れる。
組み立て予想図。「人が乗らないでください」と注意書きされていたすのこの天板が撮影時にバッキバキに割れる。
馬の頭をドッキングさせないといけない。ボルトとナットで解決。撮影時にはここもこわれる。
馬の頭をドッキングさせないといけない。ボルトとナットで解決。撮影時にはここもこわれる。
胴体にプラ製ダンボールをかぶせて丸みをもたせる。乗り手の持ち手を作ったり、おみこし部分に肩パッドを作ったり。
胴体にプラ製ダンボールをかぶせて丸みをもたせる。乗り手の持ち手を作ったり、おみこし部分に肩パッドを作ったり。
撮影前日の朝、転がってるミラーボールに日があたり異常な光景に。この数日作業で家のリビングは機能しなくなり、1LDKのわが家が1U(馬)DKとなっていた。家で作るにはでかすぎるぞ、馬。
撮影前日の朝、転がってるミラーボールに日があたり異常な光景に。この数日作業で家のリビングは機能しなくなり、1LDKのわが家が1U(馬)DKとなっていた。家で作るにはでかすぎるぞ、馬。

馬作りのクリスマスイブ

撮影前日はクリスマス・イブ。サンタの準備をする家人を放っておいて馬作り。体の布とひづめ風の靴を作る。相変わらず台本がないので胃が痛い。

台本などなくメモと即興で撮るみたいな芸術色の濃い映画の話をたまにきくが、そういうことをやっていいのは図太い人限定なのだとわかる。

ちなみに心配だ心配だと言いつつも毎日よく寝てはいた。台本作ればよかったのだなと今は思う。
撮影二日目、デイリーポータルZライターの西村(左)さんと地主(右)が馬役となって出る。
撮影二日目、デイリーポータルZライターの西村(左)さんと地主(右)が馬役となって出る。
撮影当日にテストしてみたらやっぱり壊れ、修理もままならずガムテープでなんとかすることになった。なんとかできるガムテープもすごい。
撮影当日にテストしてみたらやっぱり壊れ、修理もままならずガムテープでなんとかすることになった。なんとかできるガムテープもすごい。

撮影2日目

撮影の2日目がやってきた。馬役の西村さんと地主くんがわが家に来てくれて下に馬を運び出して電車移動。ここまででかいのになぜ電車を使ってるのかは私たちにもわからない。

撮影場所につき、軽く馬をテストしてみたらいきなり座面と首がこわれる。ガムテープでだましだましやることにする。

そして二人だとあまりにも重いので長距離は動かせないことと、上の人はめちゃめちゃ怖いことがわかる。つまり乗れないのだ。

テストは前日までにやってこそのテストだと痛感する。しかし台本がないのが功を奏し、(ここぞというときにしか)馬に人を乗せないことに変更して撮影に入る。
この日は暖かく、晴れているので表情にも余裕がある
この日は暖かく、晴れているので表情にも余裕がある
プラ板とファー地を巻いた靴も作った。さあこの状態で馬を持ってみよう
プラ板とファー地を巻いた靴も作った。さあこの状態で馬を持ってみよう
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はじめて歩いてみた瞬間がこれ。馬がでかい。おかしくて笑ってしまう

馬、作ってよかったな……

晴れて暖かいので撮影も順調に進み、ようやく馬の場面。馬を組み立て、タイツに着替えてテスト。

上の動画は馬としてはじめて歩いた瞬間を撮ったものだが、カメラがもう笑ってしまっている。

だめだ。笑いが止まらない。後ろ足と前足が足なみをそろえて歩いてるのがもうおかしくてしょうがない。足かけ2週間かかったが、本当に作ってよかった。

借りてきた西部劇のDVDに馬が逃げ出す場面があったのでそれをやってみたらすごい破壊力だった。
いかん、笑いがとまらない
いかん、笑いがとまらない
もう何してもおかしくてしょうがない
もう何してもおかしくてしょうがない
立川までそのまま電車移動することにした。でかいものを撮るというのはやっぱり大変だ。
立川までそのまま電車移動することにした。でかいものを撮るというのはやっぱり大変だ。

クリスマスに馬がなじむ

場所を立川駅前に移動して、ぶらぶら歩きながら撮る。クリスマスで祝祭性が高まる街に馬のでかさがなじむ。

「すごいね~お馬さんだね~」
「写真撮っていいですか?」

小さなお子さんを連れたお母さんから声がかかる。今までデイリーポータルの撮影でこんなことがなかった。

その後も馬だ馬だと声がかかり、Twitterで"立川 馬"で検索すると「立川にwwwwwwめっちゃでかい馬の着ぐるみ?仮装?wwww歩いててwwwww爆笑したwwwww」との投稿を発見した。

でかい動物のインパクトはすごい。カウボーイも十分変なのに「カウボーイだ」とは一言もきかなかった。
クリスマスの立川にて。「お馬さんだね」「干支だからじゃない?」と祝祭性のたかまっている街でおどろくほどの歓迎ムード。デイリーの撮影でここまでのはない。
クリスマスの立川にて。「お馬さんだね」「干支だからじゃない?」と祝祭性のたかまっている街でおどろくほどの歓迎ムード。デイリーの撮影でここまでのはない。
ちょっとそのへんに置いてもたのしげな感じになる
ちょっとそのへんに置いてもたのしげな感じになる

撮影終了、編集作業に

暗くなって撮影が終了し全員疲労が困憊のなかまたも電車乗って帰る。家に帰るとデザイナーの大伴さんからタイトルができたとの報が。あまりにもちゃんとしてて笑う。

以降、編集作業に入る。音楽がないので知り合いのバンドに頼んだり。歌手のひよせさんにも歌わせたり、仕込みiPhoneの森さんが出てたり。

ものすごくチープな作品なのだが、ちゃんとした人がそこそこ関わってる。
タイトルがとどく。安藤さん一人での撮影が多いため、必然的に独り言が多い人設定になった。
タイトルがとどく。安藤さん一人での撮影が多いため、必然的に独り言が多い人設定になった。
かつてデイリーで犬のエサを食わせたりしたデザイナーの大伴さんがタイトルデザインやりますよと。すいません、ドッグフードごちそうします! 大伴亮介さんのサイト(グラフィックベイカリー)
かつてデイリーで犬のエサを食わせたりしたデザイナーの大伴さんがタイトルデザインやりますよと。すいません、ドッグフードごちそうします! 大伴亮介さんのサイト(グラフィックベイカリー)
曲がなくて、ライブハウスでプープーテレビを流したときに出演してた左右の曲を使わせてもらった。この人たちはリハが終わるとすぐ客席で寝ころがっててただものではなかった。 左右(左右のHP)
曲がなくて、ライブハウスでプープーテレビを流したときに出演してた左右の曲を使わせてもらった。この人たちはリハが終わるとすぐ客席で寝ころがっててただものではなかった。 左右(左右のHP)
ひよせさんは赤い羽根共同募金のTVCMを歌ってたりする歌手の人。ギター持ってこさせてその場で適当に作った歌を歌わせる。(ひよせのHP)
ひよせさんは赤い羽根共同募金のTVCMを歌ってたりする歌手の人。ギター持ってこさせてその場で適当に作った歌を歌わせる。(ひよせのHP
仕込みiPhoneで有名な森さんも参加。海外からもインタビューされる世界の森と世界の地主の二人が出演しててはからずもそこだけ世界的な作品になった。(森翔太のHP)
仕込みiPhoneで有名な森さんも参加。海外からもインタビューされる世界の森と世界の地主の二人が出演しててはからずもそこだけ世界的な作品になった。(森翔太のHP
ついに完成

予告編が完成

せっかく作るんだからネット公開だけじゃなくて自主映画の賞にも出そうという話をしていて、だけど調べたらそういう賞の応募は未公開作に限るそうなのだ。

なのでおいしいところをぎゅっとつめた予告編だけ公開します。
予告編ができた。このまま期待だけさせて幻の映画になるのがいいな……
大伴さんからポスターのイメージがとどいてまた笑った。出演者が5人のため全員出てるしそのうえ馬まで出ている。ちなみに真ん中の人がもってるのはちくわぶに味噌をぬったもの。
大伴さんからポスターのイメージがとどいてまた笑った。出演者が5人のため全員出てるしそのうえ馬まで出ている。ちなみに真ん中の人がもってるのはちくわぶに味噌をぬったもの。

馬がほしい団体がいたら編集部まで連絡を

ああ大変だった。「らくにやろう」がテーマだったのに結局大変になってしまうのだ。それもわかってるから例年休んでいたのだった。

馬は今も家にある。干支が家にころがっている状態である。

解体するのも面倒なので使いたい劇団などがあれば引き取ってもらいたい。そして老人ホームの慰問などで活躍してもらいたい。

(応募はデイリーポータルZ編集部まで。個人は後日談になりにくそうなので団体優先で。応募がないなと判断したら即解体に入ります)
達成感きわまって記念写真を撮る
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