特集 2014年1月6日

「世界一の朝食」を食べに行く

世界一。
世界一。
「世界一の朝食」と称されるメニューを出すお店がある。

セレブ御用達というそのお店に、庶民代表として行ってきました。
1975年愛知県生まれ。行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter

正月、5時半に家を出る

「世界一」と称される朝食が食べられるbillsというお店が鎌倉にある。なんでもシドニー発のレストランで、海外セレブも御用達なのだとか。

それはぜひ食べてみたい。

僕だって正月どこにもいかずにずっと家にいたくらいセレブなので、その資格はあるだろう。
暗いうちに出発。時差ボケしてる感がすごい。
暗いうちに出発。時差ボケしてる感がすごい。
billsは人気店なので週末ともなると長蛇の列ができると聞く。ではいっちょ開店前から並んで一番乗りで世界一の朝食を、と思って調べたら開店7時だった。早い。セレブってそんな早起きなのか。

意地だけで5時半に起きて出発、6時半に現地に着いた。
まだ夜明け前。2階のぼんやりとした明かりが世界一のお店。
まだ夜明け前。2階のぼんやりとした明かりが世界一のお店。
学生時代に住んでいた街に「世界で二番目にうまい」という張り紙をした定食屋があって、そこはたしかにうまかったんだけど、では一番はどこなのかと尋ねたら「それはな、兄ちゃんの実家やで。」と答えられたことがある。

その点billsは躊躇なく一番と言われているのがいいと思う。実家の朝食は食パンと牛乳だったのでそれが一番と言われるとモチベーションが保てない。
それでも一番乗りじゃなかった。
それでも一番乗りじゃなかった。

並ぶ

開店30分前には着いたのだけれど、すでに二組が並んでいた。日の出前の薄闇の中である。何時から来てるんだ。聞くともなく聞いていると、どうやらいろんなお店のパンケーキを食べ歩いている学生さんのグループらしかった。最近の学生は定食屋を巡らないのか。
人は増え、開店前にはすでに長蛇の列が。角を曲がった先まで続いていた。
人は増え、開店前にはすでに長蛇の列が。角を曲がった先まで続いていた。
ところで僕はこの取材を正月3日に行っている。

これはいろいろと考えた末の戦略なのだ。1日と2日は初日の出、初詣のついでに、というお客が多いだろう。4日5日になると週末ということで人が増える。そこで隙間の3日を狙うのが知的セレブである。30分前で3番目ということはこの読みも少なからず当たっていたのではないか。

階段を照らす照明で手を温めながら待つこと30分(ほんと寒かったっす)、ついにお店のドアが開き、控えめなトーンの「いらっしゃいませ」と共に職人然としたウエイターさんが席まで案内してくれた。
「ご案内いたします。」ってめったに言われたことのない言葉だ。
「ご案内いたします。」ってめったに言われたことのない言葉だ。
bills鎌倉七里ヶ浜店は階段を挟んで左右に客席があるのだけれど、僕が通されたのは左側だった。セレブとレフトがかかっている、と取材メモには書いてあったが頭おかしい。たぶん席数の関係で振っているだけだろう。
案内された世界一の店内。
案内された世界一の店内。
案内されたのは海が見える一等席。席に着くなり連れて来た子どもが「押しボタンがないね!」と言った。店員を呼ぶボタンのことである。ほんどだな!ないな!
この落ち着いた店内で落ち着かないのは僕だけだろうか。
この落ち着いた店内で落ち着かないのは僕だけだろうか。
席と席の間がゆったりとしているため、仕切りはなくても個室感がある。だから多少自由なトーンで話をしても大丈夫なのだけれど、雰囲気に押されてどうしても小声になってしまう。食事を前にすでに世界一につぶされそうだ。

トイレから帰った妻がぼそっと「トイレもやばかったよ」と言っていたのも印象的だった。
運ばれてきた水を撮っちゃうくらいに緊張していました。
運ばれてきた水を撮っちゃうくらいに緊張していました。

飲み物に気をつけろ

世界一の朝食を食べることだけを目的にやってきたのだけれど、オーダーをとりにきたウエイターさんから「お飲み物はいかがいたしましょう。」と聞かれて思考がストップした。そうか、飲み物か。

メニューから、とっさに見たことのある名前「エスプレッソマキアート」を見つけてそれを注文した。スタバのキャラメルマキアートみたいなやつが出てくるんだろう、価格的にグランデだ。セレブだから知ってる。

が、しばらくすると
これが出てきた(※飲む前の状態です)。
これが出てきた(※飲む前の状態です)。
おっとここで驚いてはいけないぜ。この少なさ。カップの小ささ、飲んでみた時の苦さ、全部お見通しの上で注文していますから(していない)。

冷静さを背中で演じて一気に飲み干す。
苦げえ。
苦げえ。
これ、世界一の朝食っていって猿の脳みそとか出てくるパターンじゃないだろうか。正月3日に5時半から家族を起こして来ているのでそれはまずい。

ウエイターさんに導かれるままに注文し(でしたらこちらのセットがいろいろ楽しめるかと思います。ではそれで)、生きた心地のしないまま待った。

「これがおれのハッピーセットだ(取材メモより)」

それから5分。

運ばれてきた料理を見て、僕は心から安心した。
だって普通にうまそうなんだもの。
だって普通にうまそうなんだもの。
これがbillsの世界一の朝食である。ベースは1200円のスクランブルエッグだ(導かれるままにトッピングしたので結局いくらになったのかは不明)。
うわー。
うわー。
あとで調べたら「フルオージーブレックファースト」というセットメニューだった。フル、はもちろんフルスイングのフルである。

このスクランブルエッグがなにしろふわふわだった。

ほんのりとした塩加減に、いつものくせでケチャップを注文してしまいそうになるが、添えられたカリカリのベーコンやキノコ(これもまたうまい具合の塩加減なのだ)と一緒に食べると完璧なバランスであることに気付く。さすがフルスイング。

続いて運ばれてきたのがこちらも定番メニューのリコッタパンケーキ(1400円)。
うわー。
うわー。
真っ白な器を持ち上げてみると、ずっしりとした重量を感じた。別の器で出てくるはちみつをたっぷりとかけると、それをふわふわの生地が上品な速度で吸い込んでくれる。
うわー、うわー。
うわー、うわー。
口に入れるとしっかりとうまいエキスを吸い込んだ生地がなくなりながらも別れ際にメッセージを送りこんでくる。バター、はちみつ、パンケーキ、バター、はちみつ、パンケーキ、バター、はちみつ、うおああー。夢中で食べた。

これは一種の文明開化である。ファミレスのぬるま湯につかりきったうちの子どもも無言で食べていた。ここではへたな言葉を発してはいけない、と察したのだろう。5歳児すら黙らす朝食、それがbillsである。

テーブルの上を興奮の嵐が過ぎ去ったころ、海の方から明るくなってきた。
セレブの一日はこうして始まるのか。
セレブの一日はこうして始まるのか。
今日もいい一日になりそうである。

ちょっとした人生の転換点です

今年も去年と同じように楽しく過ごせたらいいや、くらいに思っていた年明けだが、「世界一の朝食」を食べて、どうせならもうちょっと枠を広げてみてもいいかな、と思い直した。明らかに分不相応な場所に自分を置くことで新しい世界が開けることもあるのだ。行ってよかったです。
一日分の興奮を味わったのにまだ8時前っていうのがすごい。
一日分の興奮を味わったのにまだ8時前っていうのがすごい。
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