うちの周りには何かある。持ってる。
別に、今日この日にわざわざ嫌がらせをするために「はやにえ」を選んだわけではない。はやにえの様子が七面鳥の丸焼きに似ているからでもない。先日、群馬の実家に帰省したときのことだ。
以前帰省した折に、夫が実家の近所でモズを見たらしく、次の帰省ではぜひ「はやにえ」を探してみようということになった。
これが件の実家。冬なので荒涼としている。
ところで「はやにえ」を念のため説明すると、モズという鳥は捕まえた昆虫やミミズ、果ては小鳥やネズミなどを鋭利な枝に刺し、冬のえさの蓄えにするとかしないとか。実は何のためにやっているのか、いまいちはっきりとはわかってないらしい。
私は半信半疑であった。はやにえが、そんなに簡単に見つかるとは思わなかったからだ。
以前観た「探偵ナイトスクープ」で、ぜひ一度は はやにえを見てみたいという子供の願いを叶えるため、おおがかりな取材を試みていたくらいだし、だいいち実家にいたころには見たこともなかった。
しかし、実家に帰ってから父に はやにえの話をすると、「庭で見た」と即答であった。なんなんだ。そんな話聞いたことないぞ(こっちからも尋ねなかったからだけど)。これはすごい。庭、ですって。
さっそく庭へ出て、その現場へ案内してもらった。
あった。これはバッタだろうか。
…そうだ、以下、あったからといってドンッといきなり写真を出すわけにはいかないだろう。なぜならそれは「鋭利な枝に刺さった虫やミミズなど」だからだ。オウ、ノー。
よって、ここにはモザイク入りの写真で掲示いたします。クリックで鮮明な写真になりますのでご注意ください。
なんか、木と同化している…(クリックで鮮明な画像になります)
同化というか、石化しているような。(クリックで割と鮮明な画像になります)
おー、これが!は・や・に・え!生まれて初めて見る はやにえ、音に聞くあのウワサの はやにえ。
まるで名人の作になる工芸品でも鑑賞するように、はぁー、ほぅー、と角度を変えながら見入る我々。だからといって仔細に生物学的観察を加えているわけではなく、その感動の源泉はただ一つ、「刺さってる~ぅ!!」という点に過ぎない。刺さってるねーバッタ。
あの はやにえが、こんなに身近なところにあった。となれば、小さい庭なれど、他の木にも可能性はあるに違いない、としばらく探すに、早速見つけた。違う種類のエモノである。
ミミズが高所にさらされちゃって、まぁ…。(クリックで割と鮮明な画像になります)
あらららー。(クリックで割かし鮮明な画像になります)
…と、ここまでがつい先日の話(実はこの他にも1件、すごいのがあったのだが3ページ目にとっておくことにする)。とっさのことで、ケータイのボケ写真で申し訳ない。
妙な感動を胸に、一旦東京に帰ってきたのだけど、どうもやり残したことが群馬にすごくあるような気がする。
やはりもっと、はやにえ物件を探してまとめるべきだ。そしてあの父の、前のめりな姿勢。ここまででは書かなかったけど、すごく自発的に探索していた気配がある。なんだか我々以上に楽しそうであった、それも気になる。ノってくるのではないか。
というわけで、再び赤城山麓。
1週間後の週末、今度は自分だけでまた実家に行ってみた。事前に「はやにえ探しをする」とは伝えてある。
家についてから一息入れると、どうも父が外に出ていった気配がある。着いていくと、果たしてすでに探索は始まっていた。
…。
モズの気持ち モズ目線
ところでここまで肝心の「モズ」が登場していないわけだが、これからも登場しない。野鳥なんて自分にはそうそう撮れるもんじゃないっす。
さて、はやにえ探しである。ここで、父から先週見つかった物件について報告がある。バッタがどこかへ行ってしまったとのことである。
ほれ、ここにあったバッタがいねえんさ。
ややっ。もしかして備蓄分のバッタを回収していったか?それとも他の動物に取られたか、単に風で飛ばされたか(ちなみにここ赤城山麓は、冬は南米パタゴニアかというくらい強風が吹きまくる)。
また、新たな報告があるという。「これなんさ」と指差した先には、稲の穂くず。
稲がこんなところにあるわけない、モズの仕業じゃないか?と父は言うのだが…
モズは肉食性らしいので、たぶん風で飛ばされてきたんだと思います。さあ、次行きましょう。
と思う間に、またも「あった!」との声。
バッタと同じ木に…
あーあーあー。(クリックで鮮明な画像になります)
カエル、もうカッサカサ!
夏には周囲の田んぼで元気よく合唱していた、あのカエルのうちの誰かが、からっ風に揉まれて冬をこんなところで迎えているとは。私はこのカエルの人生行路を思って、妙な気持ちになった。
「あ痛!」父自体が刺さりそうになっていた。
家の木はだいぶ探したのだけれど、これ以降の結果はどうも芳しくない。我々は捜索範囲を広げることにした。といっても半径100mほどである。
そこ隣の家ですよ。
凝視し始めると止まらないんだが、どうにも寒いのも事実である。
なんてったって、赤城山が雪で見えなくなっており、そこから強い風が吹いてくるのだ。
サンダルだったのか!!
家から100数十メートルくらいのところに植木屋さん所有のちょっとした林があるんだが、そこにも目をつけていた。それは父も同様であるらしく、家からサンダル履きのまま、いつの間にかここをまっすぐ目指して歩いてきてしまった。
悪いことしてるんじゃないからいいだんべ、とずんずん分け入っていく。
…。
…。
…。
どうしたことか、まったく見つからない。見たところ、刺しやすそうな枝がないわけではないんだが。でも一見枯れ枝として要件を満たしていそうでも、枝の先が丸かったり、太すぎたり、枝が密集してい過ぎたりして、彼らのお眼鏡にはかなわなかったんだろうか。
昆虫や小動物を刺す、となると枝は何でもいいわけではないのだろう。それにライバルモズ、ライバル鳥との争いもあるだろうし、捕らえた動く獲物をすぐに刺しておく必要もあるだろう。
…と、学者でもないのにだいぶモズの心情を汲み取ろうとしてしまった。そうやって少しでもモズの気持ちを推し量ろうとしていた。モズだったら、この木はどうか。モズだったら、高さはどこにするか。もす(もし)、モズだったら。
トゲがあればいいというもんでもないらしい。
そこは低いと思われる。
しかたなく、最後の望みである隣家の柿の木畑にお邪魔してみたのだが、これがもう、大当たりだった。
まるでクリスマスツリーの飾りのように
隣家に一言断って…と思ったがどうもお留守のよう。あとでご報告するとして、柿の木畑に分け入ってみた。
実は先週、一足先にここで、すごいのを発見してしまっていたのだ。だいぶ えげつない例なので、心してご覧いただきたい。
うぇ、カエルが頭から。(クリックで鮮明な画像になります)
うーわわわわ…。 (クリックで鮮明な画像になります)
モズよ。かわいい顔してなかなかえげつない刺し方をする。口腔内から貫いて…かと思ってよく見たら、口腔ではなく喉からだったので、少しほっとするが、どちらにしてもえげつなさにはあまり変わりはなかった。まあ、えげつなさなんつったって、人間の基準だけどさ。
こういうのを先に見つけてしまっていたので、この柿の木にはかなり期待をしている。
落ちなかった実が危険な度合いに熟しているので、それにも気をつけよう。
相変わらず熱心な様子。
なんだろう。取材だから、ということを抜きにしても、自分も父も集中力が持続している。枝から枝へと、もう目を離せなくなっているのである。一つ疑って、一つ確かめて、違っていたら我に返るがまた次の枝へと目が移る。
やがて本当に見つかったりするので、無限にそのループが続いてしまうのだ。ほら。
(クリックで鮮明な画像になります)
「プレデターズ」で見たことあるような姿。(クリックで鮮明な画像になります)
それにしても空が青い。
その手前には、カエルのしかばね。 (クリックで鮮明な画像になります)
かわるがわる、5分おきくらいに「あった!」の叫び。声のするほうに飛び出し、実物を拝めばついつい笑いが出てしまうのが不思議だ。刺さってるカエル(ほとんどカエルであった!)の姿を見ると、なぜだかもう笑っちゃうんである。
カエルの死骸を見て吹き出すとは不謹慎な!と思うだろうか。空中の、あらぬところに上げられてしまったカエルには同情の念もなくはないが、わざわざそういうところでカエルの息の根を止めておきながら、忘れてしまったんだか習性だけの話かはわからんが干からびるまで放置して、本人はいったいどこに行ったんだ、しかもそれがたくさん。そういうモズの習性自体に、笑いを禁じえないのかもしれない。
でもこれがネズミだったら笑えないか…カエルのあの格好だからおかしいのかやっぱり。しかも大量だし。よくわからなくなってきた。皆さんもぜひ探してみて、このおかしみがなんなのか、体験していただければ。
そろそろ家に戻ってお茶でも…と引き返すに。
その目線の高さに!なんで気づかなかったんだ!そしてエンドレス。 (クリックで鮮明な画像になります)
もう寒くて限界です!ってところでまた見つかる。エンドレス。 (クリックで鮮明な画像になります)
もう限界、と家に戻りながら庭木を見ればなんとまだあった!エンドレ…(クリックで鮮明な画像になります)
半分くらい食べられたあとかもしれない。 (クリックで鮮明な画像になります)
…というわけで、うちの庭、お隣の畑だけでミミズが2匹、バッタが1匹、カエルが8匹という結果だった。車でも出して近郊を回ろうという計画もあったが、もう満足だ。というより強風であまりに寒いので、もう温かいものでも飲んで引っ込みたいというのが正直なところだ。
温かいものでも、と何度か父を呼んで、言外に「もう今日はいいよ」と伝えようとしたのだが、ずっと熱心に探していた。それに引きずられての成果とも言えるが、実は「トカゲとかの大物を見つけたかったなあ」とのことである。
娘の記事に、ぜひ大物で花を添えたいとの親心か。単に自分が見つけて満足したかったのか。いずれにしてもこちらとしてはありがたく楽しい以外の何物でもないが、いかんせんその贈り物の中身は「モズのはやにえ」であるところの「カエルやトカゲの、木に刺さった死体」なのである。
それにしても40数年生きてきて、こんな近くにあの「モズのはやにえ」があることを知らなかったとは。毎回の帰省の楽しみができた。
そうだ、言い忘れてました。
メリー・クリスモズ!(これを言いたかったのです)