特集 2013年12月16日

エンボスラベルで、木訥

まだ売られていたこの道具
まだ売られていたこの道具
先日、テプラを私物に貼ると妙な違和感が出てくるという記事を書いた(こちら)。書いてみて思い出したのは、子供の頃にもアナログ式で似たような道具があったことだ。

上の写真のものである。ダイヤルを回してハンドルをメリッと握ると、テープに圧力がかかって文字が浮かんでくる道具だ。

この製品、調べてみたらまだ現役で販売されていた。独特の雰囲気を改めて味わってみたい。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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時間を移動させるテープ

テプラを私物のパソコンに貼ると、なんだか切なくなる。「ラベルライターで、違和感」という記事を書いて発見したことだ。
自分の物なのにそんな気がしない
自分の物なのにそんな気がしない
テプラをポチポチ打ちながら思い出したのは、似たような道具が昔もあったこと。こういうやつだ。
文具売場にひっそりあった
文具売場にひっそりあった
昔よりかっこよくなってる
昔よりかっこよくなってる
家電量販店に行ってみたところ、文具売場の目立たないところに並んでいた。「DYMO(ダイモ)」というブランドの製品。そう言えば子供の頃に使っていたのもそういう名前だったような気がする。

少々驚いたのはその価格だ。
結構高いぞ
結構高いぞ
同じ店でこちらは5300円
同じ店でこちらは5300円
4910円の値札がついている。以前の記事で使ったテプラを同じ店で探してみると5300円だった。ほとんど変わらない価格なのだ。

ダイモにはいくつか機種があって、英字しか打てないタイプにはもっと安いものもある。今回購入したのはひらがな・カタカナも打てる機種ということもあり、この価格だった。
かなが打てるタイプ
かなが打てるタイプ
円盤を入れ替えて使う
円盤を入れ替えて使う
当然ながら漢字は無理。テプラなら漢字もバリバリ打てるので、機能としては劣ると言わざるを得ない。

しかし、機能だけではなく「味わい」も考えれば、この道具にしかないものがある。コストパフォーマンスだけで論じられるものでもないのだろう。

ところでこの道具、何と呼べばいいのだろうか。人に説明するとき「グッと握るとテープに白い字が出てくるやつ」などと言っていたが、どうもまどろっこしい。
これが一般呼称ということでいいのだろうか
これが一般呼称ということでいいのだろうか
箱には「エンボッシングラベルメーカー」と英語表記があった。テープに字が盛り上がって浮かぶゆえのエンボス。この記事では「エンボスラベル」と呼ぶことにしよう。
クリック感が気持ちいいダイヤル
クリック感が気持ちいいダイヤル
独特の存在感
独特の存在感
まずは試しに自分の名前を打ち出してみよう。文字を変えるためにハンドルを回すときのコリコリとした感触も懐かしい。

出てきたテープを手にすると、何十年か前に時代をさかのぼったような気持ちになる。こんな小さな物なのに、時間を遡上する力がすごい。
過去と現在が交錯
過去と現在が交錯
デジカメに貼ってみる。最近の情報機器と、アナログなテープ。昭和にこんなデジカメあったっけ?と、妙な気持ちにさせられる。
急に出てきた仕事感
急に出てきた仕事感
続いては、パソコンにテプラを貼って出てきた哀しみが、エンボスラベルだとどうなるか試してみよう。事務事務しているテプラとは違った味わいになると思うのだ。
反り具合もかわいいエンボスラベル
反り具合もかわいいエンボスラベル
濁点は文字戻しダイヤルを活用
濁点は文字戻しダイヤルを活用
漢字は出せないので「じょうほうシステムぶ」となる。エンボスラベルはテープがプラスチック素材なので、反り具合が激しい。ブリッジしている自分をアピールしているようで愛らしいではないか。

打ち出し作業で最も熱いのは、最後の「ぶ」だ。「カタカナで『システム』まで打つ→ひらがな盤に入れ替える→『ふ』を打つ→テープを1文字分戻す→濁点を打つ」という手続きが必要だからだ。

画面で打ち込みを確認して印刷するテプラと異なり、この打ち出しは一発勝負。最後のところでずれたり間違えたりすると、「あーっ!」と取り返しがつかない緊張感がある(何回かやった)。
書いてある内容とテープの雰囲気が矛盾してる
書いてある内容とテープの雰囲気が矛盾してる
パソコンに貼って出てきたのは、ふざけているのか本気なのか判別しづらい雰囲気。「この会社の情報システム、大丈夫なのかな…」と思わせる佇まいがある。
テプラ版の購入年度
テプラ版の購入年度
エンボスラベルだとこの趣き
エンボスラベルだとこの趣き
こちらは購入年度表示。テプラには減価償却を意識させる冷たさがあるが、エンボスラベルはどこまで本気なのかわからない。特に「ねんどこうにゅう」部分がどうしてもかわいくなってしまう。

さて、ここまで黒いテープで打ち出してきたが、交換して他の色にすることもできる。
「誰か壊したな」と思わせるテプラ
「誰か壊したな」と思わせるテプラ
「しょうがないなあ」と思わせるエンボス
「しょうがないなあ」と思わせるエンボス
「左Ctrl不良」は警告の意味を込めて赤テープにしてみた。エンボスラベルは素材の性質上、白い文字しか打てないので、黄色テープだと視認性に劣るのだ。

テプラがとがった雰囲気でキー不良を伝えてくるのに対して、エンボスラベルは味わいで言ってる中身をやわらげてくる。撥音や拗音用の小文字は打てないため、最後の部分は「フリヨウ」。

「フリヨウ……ああ、不良ね」と、読み手が解釈するステップを踏むことになる。それも「もう、しょうがないなあ」と思わせることにつながっている気がする。
冷たく禁じてくるテプラ
冷たく禁じてくるテプラ
妙な訴求力があるエンボスラベル
妙な訴求力があるエンボスラベル
「持ち出し厳禁」も同様の雰囲気だ。テプラは持ち出しがばれたら関係部署からばっちりと怒られるイメージ。

対してエンボスラベルは、3歳くらいの子供が両手で「×」と作っているような雰囲気。「まいったなあ、そう言われちゃうとなあ…」と、守らなくちゃという気持ちがほんわか湧いてくる。
かわいさも繰り出せるテプラ
かわいさも繰り出せるテプラ
ここまでは事務的な内容のテープだったが、先の記事ではメッセージ性のあるものについても検証した。上の写真のテープは「元気印の同期女子がいつの間にか貼ってくれてた」という設定のテプラだ。

エンボスラベルの場合、木訥とした雰囲気はよいものの、この手のアレンジは苦手そう。ここまでの例を見ると、女子力出せない感じは否めない。
かわいい色もあるエンボスラベル
かわいい色もあるエンボスラベル
謎のテクスチャー
謎のテクスチャー
しかしエンボスラベルには、そういう要望に応えるテープもある。ここまでの地味な赤や黒ではなく、鮮やかなピンクのテープだ。

しかしよく見ると、なぜだか足跡模様。かわいいピンクで女子力アップ、謎の足跡で女子力ダウン。結局はイーブンになってるような気もしてくる。
せつなさ爆発
せつなさ爆発
貼ってさらに加速
貼ってさらに加速
これは厳しいだろうな、と思いつつ「ガンバレ」と打ち出してみる。なんだろう、これは。

「ピンク+足跡+ガンバレ」という3つの要素がパラレルに迫りつつ同じテープの中に存在していて、解釈をあきらめたくなる。頑張ろうという気持ちは出てきそうにない。

エンボスラベルについては、担当編集の古賀さんから「一部のできる女子の間では、おしゃれグッズとしてリバイバル人気あるらしいですよ」と聞いた。個人的には初耳だ。

それって結構難しくないだろうか。ピンクの「ガンバレ」を見てると、できるのかできないのか全く見当がつかない。
姉御肌の先輩女子が貼ったという想定
姉御肌の先輩女子が貼ったという想定
エンボスラベルだと明るい雰囲気の呪い
エンボスラベルだと明るい雰囲気の呪い
「ねるな」はエンボスラベルの方に怖さがにじむ。テプラにはある絵柄追加機能がないため、文字のメッセージそのものだけが無機質に迫ってくるのだ。

ピンク地で言われると逆に恐ろしい。足跡は寝たら踏みつけられることを暗示しているようにも見えてくる。
せめてもの抵抗
せめてもの抵抗
なんとか和らげたいと思い「ねちゃだめだゾ」とアレンジしてみた。少しはかわいさが出てきただろうか。

先に書いたように、「だゾ」部分に必要な手順の煩雑さを想像するのもいい。打ち手がちまちまと円盤を換えたりテープを戻したりしてるところを思うと、胸に浮かぶ情緒もあるだろう。
仕事に集中しづらいパソコンのできあがり
仕事に集中しづらいパソコンのできあがり
この原稿はファミレスで書いているのだが、さきほどパソコンを取り出して改めて思い出した。まだエンボスラベルを貼ったままだ。

これはちょっと恥ずかしい。書く作業に集中できない。隣のテーブルの子供もこっち見てる気がする。画面を見ているつもりでも、視界にちらつく「じょうほうシステムぶ」や「ねるな」がウザかわいくって気になってしまう。
「iPhone'78」くらいか
「iPhone'78」くらいか
小さいくせにエンボスラベルが雰囲気をもっていく力は非常に強く、例えばiPhoneに貼ってもご覧の通り。急に古めかしいムードを漂わせるのがすごい。

はがす時に迫る緊張感
はがす時に迫る緊張感

似たような道具なのに、テプラとは違った雰囲気を漂わせるエンボスラベル。どんなものに貼っても、一気に時間を逆行させる。

はがすとき慎重になるのもエンボスラベルの特徴。下手をすると爪にテープの角が入り込んでズギャッとなるからだ。
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