特集 2013年11月18日

液体栄養食で過ごす週末

これが1日分の食事
これが1日分の食事
最近ときどき、プロテインを飲むようになった。「小腹が空いたとき牛乳に溶かして飲むといい」と知人から聞いたからだ。確かになんとなく満足する。

飲みながら袋にある栄養成分表を見て考える。これに他の材料を加えて混ぜれば、1日に必要なカロリーと栄養をバランスよく摂れるのではないか。

液体だけでの食事。未来人のようではないか。実際に試してみよう。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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スポーツは無視してプロテイン

プロテインというと運動で体を鍛えようとする人が飲むものというイメージがあると思う。個人的には、全くそういうつもりはない。
パッケージからしてマッチョ
パッケージからしてマッチョ
子供の頃から体育は苦手だったし、今もスポーツの習慣はない。

それでも買ってみたのは、なんとなくおなかが空いたとき、スナックや菓子パンを食べるよりはよさそうな気がしたからだ。知人から1回分もらって飲んでみたら、味がうまく調整されていて抵抗なく飲めるおいしさだったこともある。
筋肉のことは考えてない
筋肉のことは考えてない
さすがにたんぱく質の割合が高い
さすがにたんぱく質の割合が高い
パッケージの「理想の筋肉のために」というフレーズには目を伏せて、裏面の栄養成分表を見てみる。質量の77%がたんぱく質というのは、一般的な食品にはない割合だ。

食習慣によって違うだろうが、個人的には日々の食事で、脂肪と炭水化物(糖質)は特に気にしなくても十分食べている気がする。その反面、たんぱく質は意図的に食べ物を選ばないと摂れないように思える。
今回の記事で唯一頭を使う場面
今回の記事で唯一頭を使う場面
逆に考えれば、高タンパクのプロテインをベースにして、脂肪と炭水化物を追加すれば、三大栄養素のバランスが取れた液体食ができるのではないか。

プロテインをベースの液体とする牛乳に溶かし、脂質としてオリーブ油、炭水化物として砂糖を追加することにして、栄養バランスを計算してみよう。
僕がふざけてもExcelはいつも真面目
僕がふざけてもExcelはいつも真面目
身長も体重も日々の運動強度もごく平均的な40歳のおっさんである私にとって、1日に必要なエネルギーは2650kcalであるそうだ。(参照)

このカロリーを、一般的な食事のリズムに合わせて1日3回、等分に摂ることにする。

摂取する三大栄養素の熱量比は、ある程度幅をもって考えていいようだが、ここでは「たんぱく質:脂質:炭水化物=15:25:60が理想」という説を採ることにしよう。(参照)
いつもより少し多めのプロテイン
いつもより少し多めのプロテイン
牛乳300mlというのは普通
牛乳300mlというのは普通
計算の結果、ほぼ上記の条件となる1食分の材料比がわかった。まず、プロテインは商品に添付されるスプーンすり切り4杯分である28g。そして、300mlの牛乳。

プロテインのパッケージで一般的な飲み方として紹介されているのは、同量の牛乳にスプーン3杯分。普段はこの組み合わせで飲んでいるが、1杯分プロテインが多いだけなので特に違和感はない。
当たり前だけど油って全部脂質なんだね
当たり前だけど油って全部脂質なんだね
これもおかしくはない量
これもおかしくはない量
脂質として追加するオリーブ油は12g。普通の大きさ(60g)のポテトチップス1袋には約20gの脂質が含まれていることからしても、特段多いわけではない。

気になったのは、炭水化物だ。
かなりずっしり来てます
かなりずっしり来てます
炭水化物として追加する砂糖は110g。計算違いかと思って確認したのだが、どうやら間違いなさそうだ。今回使った砂糖と同じ会社が販売している角砂糖は1粒3.7gとのことなので、換算すると約30個分となる。

それを1回の食事として使う。異常な気がする。
これが1回分のバランス栄養食
これが1回分のバランス栄養食
感覚的な違和感はさておき、これらが「1日に必要なカロリーの3分の1で、三大栄養素のバランスが理想的であるドリンク」の材料となるわけだ。

なお今回はミネラルやビタミンといった重要であろう栄養素は省いているのであくまでも自己責任の企画である。
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眉毛も下がる未来食

材料に心配ムード漂いつつ、液体栄養バランス食は材料を混ぜれば完成。
こう見えてカロリーや栄養バランスはOK
こう見えてカロリーや栄養バランスはOK
ボトルに入れてシェイク。手持ちの物が紫だったのも、なんとなく未来っぽい。

ちなみに実験開始は、とある金曜日の夜。今回は、夕・朝・昼の食事を2回ずつの合計6食、期間で言うと丸2日分の食事を液体栄養食で摂ることとする。気分や体調がどう変化するかに注目したい。
注目点の一つとして体重も確かめておこう。素っ裸になって体重計に乗ると、63.4kg。身長は171cmだから、まあ普通体型ということになるだろう。

さて、そろそろ夕食の時間としよう。では、ボトルを持って、いただきます。
かつてない経験
かつてない経験
ゴクゴク、ゴク…。うわ……これはすごい味だ。

ココア風味のプロテインはもともと結構おいしいので、ベースの味は違和感なし。オリーブ油も味わいを邪魔する感じはない。ただし、猛烈に甘い。

さすがに砂糖110gは効く。爆発的な甘さがビンビン来る。
飲む前
飲む前
飲んだ後
飲んだ後
味を言葉で語るよりも、饒舌だったのは表情だ。飲む前後の写真を比べて自分でも驚く。

甘さも衝撃的だったが、眉毛の下がり方もショッキング。ちょっとした別人になっている。こんなの演技でできない。いけない薬のビフォーアフターでこういうの見たことある。

飲み終わった自分にやってきたのは、予想外のむなしさ。ただのむなしさではない。強烈にむなしい。
本日の夕食、1分10秒
本日の夕食、1分10秒
飲み始めたタイミングでストップウォッチをスタートさせておいた。それほど急いで飲んだわけではないが、1分10秒で食事は終了。

この事実もむなしさに輪をかける。今日のごはん、これで終わりなのか…。むなしさを超えて、さらには悲しさまでやってくる。ここまで気が滅入るとは本当に意外だった。

それでも栄養が計算されているだけあってか、飲んだ後に空腹感を感じないのはすごい。食べた気はしないのに、腹は満ちている。このギャップを頭が理解できてない。

あいつのパワーでどうにかしてくれ

翌日の朝食も当然、液体栄養食。
写真に変化はないけど日が改まってる
写真に変化はないけど日が改まってる
食事を食べる前はいつも楽しみな気分になるものだが、今回はそうではない。昨夜の眉毛ショックが強烈で、「またあれを飲むのか…」という気分になっている。
妻の適当炒めがうまそう
妻の適当炒めがうまそう
むなしさに耐えている
むなしさに耐えている
一晩経って飲めばまた違った感じ方をするかと思ったが、ガッツーンと来る甘さの衝撃波は衰えることなく私を襲う。何度も書くけど、本当にむなしいのだ。

その横で、妻が適当な感じで何かを炒めて食べ始めた。普段なら特段なんとも思わないようなものが、ものすごくうまそうに見える。

数時間後の昼食もまたこれを飲むのか。できる範囲で工夫したい。
アメリカから来たすげえ奴
アメリカから来たすげえ奴
登場したのはバイタミックスというアメリカ製のブレンダー。2馬力で最大消費電力は900W、毎分37000回転というバカげたパワーだ。定価が約8万円というのもどうかしてる。(その実力はこちらの記事で)

これまでボトルに入れて振って作っていたが、今日のお昼はこれを使って混ぜよう。
意外な理屈であったかくなる中身
意外な理屈であったかくなる中身
気持ちおしゃれに見える
気持ちおしゃれに見える
この機械に電熱機能はないのだが、数分間回すと摩擦熱で中身があたたかくなるというのもバカげてる。事実、3分ほど回すと冷たい牛乳を入れたのにほんのり熱をもっているのがわかる。

以前の記事で牛乳や豆腐をこれにかけたら、ただ混ぜただけなのに味が変わるという現象が起きた。今回はどうだろうか。
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白い粉がうまい

アメリカンブレンダーで12万回ほど混ぜた液体栄養食、実際に飲んでみよう。
眉毛が上がった!
眉毛が上がった!
おお、口当たりがなめらかになってるぞ。ボトルシェイクでも混ざり具合に問題は感じていなかったのだが、比べると明らかに違う。眉毛の移動も昨日とは逆方向だ。

…しかし、悲しいことに味わいそのものは同じ。ビリビリ響くスイートショックに根本的な変化はないのだ。飲んだあとやってくるのは、いつものむなしさだ。

この日は実家に出かける用事があった。新しく買ったパソコンのセッティングを頼まれていたのだ。

作業の途中、母が「おやつにドーナツあるけど、食べる?」と聞いてきた。いや、現在液体栄養食を実践中なのでルール上食べられない。

そもそも甘いものは食べたくない。今の自分が欲しているものは何か。
思いついたのはこれだ
思いついたのはこれだ
それは塩である。

食事に対する気持ちの面での充実感はともかく、先ほど液体栄養食を飲んでいるので空腹感の問題はない。でも、体が何かを求めている。それが塩だ。

液体栄養食はミネラルやビタミンのことは省いて考えたので、塩分が足りていないのだろう。2日間は他のものを食べないルールにしたのだが、体調も心配なので塩だけはありにしよう。
しみ入るうまさ
しみ入るうまさ
箸の先につけてなめてみる。まさに体にしみ込んでいく感じ。

無言で塩をなめ続ける息子を見て、母が心配そうな顔をしている。余計な心配かけてごめん。でも、今の俺には塩が最高にうまいんだ。

さて、パソコンの作業に戻って一通り終わる頃になると、そろそろ夕食時だ。台所からいいにおいがしてきた。
普通ごはんがきらめいて見える
普通ごはんがきらめいて見える
豪華なメニューではないと思うが、今の自分には強烈にうまそうに見える。形があるって素晴らしい。箸でつかめる存在感がまばゆい。
餃子+赤飯という謎の組み合わせ
餃子+赤飯という謎の組み合わせ
またお前か
またお前か
特にめでたいことがあったわけでもないが、母が食べたかったらしく赤飯。そしてそれとは関係なく餃子。脈絡のなさが実家食ならではの魅力。しかし今日は、それに手を伸ばせない。

自分用の弁当として取り出したのはあの紫ボトル。自分で決めたこととは言え、悲しみが止まらない。
両親「今回の企画は人に迷惑がかからなくていいね」
両親「今回の企画は人に迷惑がかからなくていいね」
両親に企画について話すと、「へえ、まあがんばって」とライト感覚の励まし。そして普通に食べ始める。

「頑張れ!」とか「最後までやり通せ!」とか言われたところでなんかむかつく気がするので、このくらいの感じでスルーされた方が気が楽だ。

それにしても、普通のごはんが本当にうまそう。こんにゃくとフキの煮物、豚汁、はんぺんサラダ。
視覚情報の効果はゼロ
視覚情報の効果はゼロ
それらを前にして液体栄養食を飲む。「うなぎの写真を見ながら白いごはんを食べると、うな重を食べてる気になる」という話を聞いたことがあるが、そんな理屈は液体栄養食には通じなかった。爆発的な甘さが、心の中から何もかもを押しやる。

そして飲み終わった後のむなしさウェイブは加速。これ、まだあと2回飲むのか…と思いながら自宅に帰る。
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生きてる素晴らしさ再認識

パン屋にいる私は、試食のカゴからパンをひとかけ取って口に入れた。モグモグモグ…ああ、うまい。……いや、ダメだろ、液体食生活を実践中なのだ。そう思い直して、飲み込む前にあわててペッペッ!と吐きだした。

…という夢で目が覚めた日曜の朝。体がマンガみたいな反応をしていて驚く。そこまで追い詰められている自覚はなかったのだが。
手作りの朝食
手作りの朝食
写真じゃ伝わらないけど昼食
写真じゃ伝わらないけど昼食
淡々と朝食、そして最後の昼食を作って飲む。それぞれ飲み終わったあと、昨日までと少し違う自分がいることに気がついた。

あんまりむなしくないのだ。「もうすぐこの食生活も終わる」というゴール感があるからかとも思ったが、あの強烈な味わいはそんなことには影響されないと思う。
ファイナル液体食はドラマチックに逆光で
ファイナル液体食はドラマチックに逆光で
単に慣れたのだと思う。人間の適応力はすごい。

でも慣れたからと言って、この食生活を続けるのは、なんとなく怖い。人間にとって大事な何かが失われていくような気がするのだ。
意外なことに体重はほぼ変化なし
意外なことに体重はほぼ変化なし
昼食後しばらく経って体重を計ると、48時間前とほとんど変わっていない。感覚的には減っているような気がしていたので予想外。必要カロリーは満たしているからだろうか。

2日間という短い間で条件は限定的だが、液体栄養食を実践してわかったことや感じたことをまとめてみよう。

・食事の満足感はかなり低い。
・作るのも飲むのも、かなりの短時間で済む。
・空腹感はない。
・体重や体調は変化なし。
・恐ろしいことにだんだん慣れた。

あとは、歯みがきが楽になることにも気がついた。ササッとブラッシングするだけで、あまり歯が汚れている気がしない。

これで予定していた期間は終わった。夕食は好きなものが食べられる。何がいいだろう。
ひとつのことをやり遂げた男
ひとつのことをやり遂げた男
じっくり気持ちと向き合って、やってきたのはときどき来る沖縄料理の店。ハンバーグやカレーといったメイン一発系ではなく、野菜や肉などいろいろな材料を使った家庭料理的なものを望んでいることがわかったのだ。
こういう感じのを食べたかった
こういう感じのを食べたかった
沖縄風のみそ汁は具だくさん
沖縄風のみそ汁は具だくさん
注文したのは、麩ちゃんぷる・ポーク玉子・みそ汁。どれもいわゆるごちそうではないだろう。しかし私はごちそうを遠慮したわけではなく、こういう普通の料理がどうしても食べたかったのだ。

吟味に吟味を重ねたこの選択。では、いただきます。
実体がある!
実体がある!
ひとくち目の感動の瞬間
ひとくち目の感動の瞬間
そこにあるのは「食べごたえ」。普段は意識したこともない、当たり前の喜びを再発見だ。

口に入れて、噛んで、飲みこんで、胃に落ちていく過程のひとつひとつに充実感がある。このタイミングで言うのはあほらしい気もするが「生きているって素晴らしい」と、こんなに素直に感じたのは久しぶりだった。

みそ汁に入ってるポークがうれしい
みそ汁に入ってるポークがうれしい

夕食は普段よりおなかいっぱいになるのが早い気がした。いつもの10倍くらいの満足感で店を出る。

帰宅して鏡を見ると、眉毛の高さも普通に戻っていて安心。再び平穏な食生活に戻ろう。

余談だが、日曜の夕食前にトイレへ入ったところ、固形物の方がちゃんと出てきたのが意外。人体の神秘をいろいろ考えさせられた。
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