通販で買った鶏肉とレバーのパテ。ウェブサイトには店長の味見レポートなどもついていた。しょうゆなどを足せばおいしく食べられる
すでに店長がたべていた
人でもたべられるペットフードをインターネットで検索してとりよせてみた。サイト上には店長の味見レポートもあった。やっぱりみんなたべてみたくなるものなのか。
試食には大伴さんという知り合いのデザイナーさんも参加。犬を飼っているらしく、自分もやってみたいというので呼んだ。
大伴「めんつゆつけたらおいしいですね」
味をつければいけるな
鶏のレバーや肉のペーストは多少保存食品の匂いがあるものの食品としてはそんなに違和感がない。ためしにめんつゆをかけてみると、急においしくなった。
その後も缶詰やレトルトのものはけっこういけた。特に猫缶はうまい。あれはうまいのでよく食うとデイリーポータル編集部の安藤さんは言ってたが、たしかにツナ缶となんら変わりがない。しょうゆでいける。
(ここで登場人物の全員がうまいうまいとペットフードをたべていることに戸惑われている方もいらっしゃるかと思いますが、それも当然だと思いますし、われわれはその、なんていうか、リベラル派なんです。)
鶏とおからのおかず。塩をかけたら居酒屋の突き出しになった。
猫缶はほぼツナ。文句なしにうまい。
干し肉、干し魚はむしろ人よりうまいらしい
ほかにも犬を飼っている人にきいてみるとやはり自分で食べてみたりはするらしい。
なかでもジャーキーや魚の干したものは人用よりもうまいと。噛んでいると肉本来のうまみがじわっと出てくるのでよくたべているらしい。ハタハタの干したのはとくにうまかったと聞く。
たしかに人用のビーフジャーキーは胡椒と塩がつよく、肉本来の味は二の次だ。それにしてもきけばきくほど、みんなペットフードってくってるんだなと実感させられる。
ササミのジャーキー的なもの。素朴な肉のあじわいがかみしめるほどに出てくる。けっこううまい。中の牛皮はかたいので大伴ワンちゃん用に持ち帰り。
ヒルズのペットショップに行ってきた
通販以外にも六本木ヒルズのペットショップならいいものがおいてあるだろうと思い行ってきた。すいません、へんなことききますが人が食べられるのありますか?
「基本的にはどれもたべられます。人よりもワンちゃんのおなかは弱いんですよね。ただ、おいしくはないです。塩分などはないので」
なんと基本的には人がたべても全部大丈夫なのだそうだ。ということは犬のごはんの方が人よりもいいものなのか? だとしたらなぜ私たちはあれをうばいとってたべないか。色々なことが急にわからなくなってきた。とりあえず今度犬に会ったらあいさつしよう。
ヒルズのペットショップはただいま犬用おせちのシーズンでした
これがヒルズのペットショップか
ヒルズのペットショップは店員さんのおもてなし度合いがすごかった。
電話をとって「○○ちゃん、今日来てくれるんですか!? うれしい~! 会いたかったんです~」と店員さんが言ってる。
そんなことを言われてみたいものだ。来世は私もヒルズの犬に……とにかくここにいると人としての尊厳がどんどんなくなってくる。ヒルズのペットショップはおそろしい。
六本木ヒルズで買ったドライフード。大麦などの穀物が原料のようだ。アップルチェダー味。味はケンタッキーのビスケットに近い
こちらはベーコンチーズ味。これはうまい。チーズ菓子のあっさり版で上品な味。なにも言わずにぼりぼりたべていた
問題はドライフード
ヒルズで買ったドライフードは相当うまかった。そのまま素朴なおかしとして通用するほどだ。実はこれドライフードがたべられなかったときの保険に買ってきたのだ。
犬好きの人に話をきくとみんな「ドライフードはくさいんですよ」という。
カリカリのこれぞペットフードなやつだ。人でもたべられる系の店で買ったドライフードを試食してみる。
ドライフード。「人でもたべられる」と検索してインターネット通販で。国産で原料がしっかりわかってるものを用意した。
おっほ~。きたきたきたきた
ペットフードがきたぞ~
どうやら魚の油でくさくしてるらしい
たべてみると悪いものではないなとわかるものの、やっぱりくさい。原材料をみるとアジとビール酵母あたりがくささの原因だろう。
なんでもペットフードには魚の油をくわえるものらしい。ペットのくいつきがよくなるそうだ。しかしこれが動物園的というかとにかく存在感としては荒ぶる大蛇のようなにおいなのだ。
これ、なんとかおいしくたべられないか。においを鎮められないか。
通販したサイト元ではドライフードをお湯でふやかすとペットのくいつきがよくなると書いてあった。ためしにやってみるか。
お湯でふやかすとワンちゃんのくいつきがよくなるらしい
パンドラの箱っ!
パンドラの箱をっ!
においを消せ!
だれだパンドラの箱をあけたのは。
温められたことでにおいが倍加して立ち上がってきた。今となっては「ペットのくいつきがよくなる」=「魚の油のにおいが増す」ことだとすぐわかるが、大失敗だ。
荒ぶる大蛇は湖の龍神さまのようになってしまい……鎮めるためにはとにかくにおいだ。においさえ消えれば。
そこでにおい消しの方法を検索。牛乳のタンパク質が肉や魚のにおいを吸着するらしい。牛乳にドッグフードをつけて下ごしらえをする。
ドライフードを牛乳に……はからずも実家の犬がよくたべてたものが食卓に上がった。
牛乳につけたら犬のごはんそのまんま。だがここからだ
料理上手の人にもきいてみる
料理上手な知人にも助言をもとめてみると、ペットフードが肉魚系(イノシン酸含有)なのでグルタミン酸なチーズやトマトなどと合わせるといい、と。あとは不足してる塩分足すと理論的にはおいしくなるそうだ。
トマトか。におい消しで検索するとトマトも候補にあがるのだ。トマト煮にしてさらににおいを封じ込めよう。
これで龍神さまが鎮まってくれれば……村の平和は今イタリアにゆだねられた。
トマトも同様。におい消し系のハーブも入れてトマトソースを作る
調理に料理上手投入
とにかくおいしくたべたいので、できるかぎりのことはしよう。トマトソース作りにお料理系ライターである妻を投入。
セロリとたまねぎをきざみトマト缶と煮る。そしてにおいが消えると思われるハーブを投入し、くさみ消しの日本酒も入れた(ワインがなかった)。
彼女はかつて熊肉のくささをトマトソースで消したことがあるらしい。しかしこれはどうなるかわからないと。熊の肉を犬のエサが超えるとは。
もう動物ヒエラルキーがなにがなんだかさっぱりわからなくなってきた。
[参考]マタギの里で熊肉を買った
念のため酒も追加してくさみ消し。おいしくするため料理系にやたら強いライターの高瀬克子を投入。
牛乳でくさみが消えたであろうドライフードをトマトソースで煮る
一方こちらでは鶏レバーに味付けをしてペーストを作る
各々がペットフードをおいしくさせようと必至になる。夜はふけていく
アップルチェダー味のドライフードはヨーグルトとメープルシロップでシリアル風に
鶏のペーストはチーズやハーブ、塩と黒胡椒をまぜてクラッカーで
鶏のペースト、ドライフードのトマト煮、シリアル風ドライフード、チーズ味のドライフードはそのままで。ペットフードでパーティーができてしまう
ペットフードでパーティーができた
ドライフードのトマト煮とともに、他にもおいしくしてみようと鶏レバーのペーストに味付けしたり、シリアルっぽいドライフードにヨーグルトをかけてみたり。
気づけば食卓のうえがちょっとしたパーティーのようになった。しかしはたしてこれが豪華なのか貧相なのか、さっぱりわからない。
味はいいかもしれないが、これがペットフードなのだし……砂上の楼閣のようなパーティーメニューができあがった。
シリアル、予想どおりおいしいです。もともおいしいので、悪くなりようがない。
ペーストとクラッカーもうまいです。抵抗感もない。黒胡椒がいい味している。
だが問題のドライフード
ペットフードでパーティーができた
そして問題のドライフードのトマト煮である。ここまでに何手ものにおい消しを投入しているのだ。
・牛乳につける
・トマトで煮る
・玉ねぎ
・セロリ
・セージなどのハーブ類
・日本酒
・そもそもの量を減らす
さあはたして魚の油のにおいは消えているのか。人事を犬餌に尽くして天命を待つ。
食べられる……けど、もとの匂いもまだ残る。匂いは7割減程度。
「いや、これはアンチョビだといわれたらわからないんじゃないか」食べられるようにはなったが、わからなくなってきた
わからなくなってきました
たべられることはたべられる。しかしあのにおいもまだかすかに残る。魚の油のにおいがすることで、あのパンドラの箱のことがよみがえり、抵抗感が出てくる。
しかしトマトソースに魚の油といえばアンチョビがそうじゃないか?
ためしにこれはアンチョビだと思いこんでたべてみるとたしかにおいしい……いや、どうなんだ、これ合ってるのか? においに先入観がない人を呼んでたべてもらおう。
念のためチーズをのせてクラッカーでサンドした
急きょ呼び出されたライターのきだてさん
「いける。おいしいです。イタリアン……っていうのともまたちょっとちがうけど。酒のあてっぽい感じ」 すごい、大成功!
おいしくなった
とつぜん呼び出されて上着も脱がないままに、クラッカー食えというのもそうとう不安だったろうが、試食したライターのきだてさんは「おいしい」と。
やった。ものすごい達成感だ。人は犬のエサをおいしくたべられるのだ。だからなんだというわけではないが、勝った感じだけはすごい。
くさくないですか? ときいても、大丈夫だと。ここらで、ペットフードなんですよと種明かしをする。
「ああ~。なんか、前にやるっていってましたね」
動じない。このきだてさんが食にかんしてやたらに寛容だっただけなおそれもあるが、とにかく「おいしい」はいただいておこう。おいしくペットフードをたべられたのだ。
ところでふつうのちくわを食べてみよう
「こんなにうまいのか!」「安心して食えるって本当にすばらしい!」びっくりしますよ、人のたべものの安心感
対等な関係じゃないか
ペットに人がたべてるようなものをたべさせるのではなく、ペットがたべてるようなものを人がくう。ペットと人が対等な関係になっていいんじゃないかなと思ったが、試食後にふつうのちくわをたべてみたところ、そのうまさに前言撤回したくなった。
味付けがちょうどいい。そしてなにより安心感がちがう。これはたべていいものだよ、という安心感があってはじめてその味わいにひたれるのだ。
森の中からたべてもいい木の実をさがしてた時代にくらべて、今の私たちははるかにおいしいものをたべている。
たべてもいいということはおいしさそのものなのだ。日常から逸脱してはじめて気づく日常もある。
ウェット系のねこのえさでこれもちょっとあやしかった。魚の油が入ってるのはもれなくきびしい。