まずはサインペンから
ボールペンを作ってみます、と宣言した矢先で恐縮だが、最初に作るのはサインペンだ。だってボールペンって超難しそうなんだもん。いきなり作って失敗、「ダメでした~!」おしまい、となるとこの記事はもうグダグダである。ので、先にちょっとした実績を作って保険をかけておくのだ。
パイプをいっぱい買ってきた。
この2本を使おう
ホームセンターにはいっぱいパイプが売っていてすごい。アクリル、よくわかんないナントカ樹脂、ステンレスや銅、木材。あわせて2千円くらいかかった。冒頭でボールペンの値段の安さについて触れたが、今回サインペンと2本作っても1本あたり千円。メイドインジャパン vs メイドイン俺、すでに勝負が付いた。
まずはドリルで丸材に穴を開けた
カッターで削って
のこぎりで切断
ペンの先端部分です
サインペンの構造は簡単だ。インクの入った管にペン先が刺さっていて、ペン先に染みこんだインクで文字が書ける。
と堂々と言ってはみたものの、全く調べてないので違うかもしれない。でもいい。「車輪の再発明」という言葉があるが、ここではサインペンを再発明するくらいの気概で行く。
パイプも適当な長さに切ると、見た目は既にペン
あとは先端の穴に細いペン先を差し込んで、インクを入れれば完成。
なのだが、改めて考えてみると、ペン先の素材って、あれ何なんだろう。今までサインペンは何度も使ってきたが、一度も疑問に思ったことはなかった。インクが水性か油性かとか、そんなことばかりにこだわってきた。俺、サインペンのこと全然わかってなかったんだな。(別にわかってるつもりもなかったのですが)
これは市販のペン。繊維質で、おそらくフェルト?的ななにか??
ホームセンターの素材コーナーを見てもそれっぽいものがなかったので、今回は家にあったこれを使うことにした。
綿棒
繊維質で、ある程度形が整っていて、細長い。
赤ちゃん用のものを使ったので、太さもいい感じである。
ちょうどいい
サインペン、できた
なんか鉛筆っぽい
実際にインクを入れて使ってみよう。
インクも何なのかよくわからなかったので墨汁を使いました。
入った
樹脂パイプに透けるインク、綿のペン先と、これだけサインペン要素が揃っていながらも、なおも全体に鉛筆っぽさが漂ってしまう木製パーツの存在感がすごい。
あ、垂れた
インクが垂れる
ペンを作るに当たって、スムーズな書き味が得られるかどうかだけを心配していた。でも実際手を動かしてみると、違った方向での難しさがあることがわかる。まさかインクが垂れるとは。
察するに、ペンの上端が開放状態なせいではないか。ここを密封すれば、インクが垂れると中の気圧が下がるので、インクが垂れにくくなる。はず。
セロハンテープで手抜き密閉
密封してみると、うーん微妙に、なんとなくではあるがインクが垂れなくなった気がする…。
では試し書き
うおお
普通に書けている!
勘だけで作ったのに、想定以上、ほぼパーフェクトといっていい出来である。
ただ、やっぱり市販品にはかなわないところも。
ペン先が曲がってしまう
綿棒じゃやっぱりヤワだったのだ。しかし何を使えばよかったのか。このサイズ・形状でそんなに硬い繊維質の素材が思い浮かばない。ここはメーカー各社の熾烈な開発争いの成果なのだろうか。
あとから調べてみたところ、サインペンのペン先はアクリル繊維というものだそうだ。ここで「あー、その手があったか!」みたいな素材が登場すると、それに思い至らなかった自分がちょっと悔しいのだが、今回はアクリル繊維。なにそれ?という感じで、むしろ清々しい。
次はいよいよボールペンに取りかかります。
カンニングからはじめます
さて、本題のボールペン。ボールペンの原理は説明するまでもないと思うけど、ペンの先端にボールが入っており、それを転がすことで、ローラーでペンキを塗るように紙にインクを塗りつけていく。
……っていう解釈であってるよね?
本来の用途が全く謎だが(まさか手作りボールペン用ではないだろう)、スチール球があったので買ってきた
こちらも全く下調べ無しで制作開始……といいたいところだけど、さすがに難しそうだったので検索してみた。手作り用のレシピはなかったけど、工場でどうやって作られているかの説明があった。
ボールペンのペン先の作り方。このあと、図の右側にインクの入ったパイプをつけると、ボールペンの芯(?)の部分が完成
先端をグニャッと曲げる工程があることを考えると、材質は金属じゃないとダメだ。しかし硬い金属となると、(2)の変な形の穴を開ける加工ができそうにない。考えた末、工程をちょっと変えることに。
パイプを材料に、くびれを作る方式
これならニッパーで軽く挟めばくびれが作れるはずだ。
銅のパイプとスチールのボールを用意したが
ボールが大きくてパイプに入らず、いきなり頓挫
パイプをグリグリやって押し広げたら入ったが、こんどはボールがパイプの径にがっちり挟まり、転がらない
ボールペンのボールは、中で自由に転がれないといけないのだが……。
ちょっと写真じゃわかりにくいのでたとえ話で説明すると、このフェンスのすきまを通ると近道のはずなんだけど日頃の不摂生のせいで太りすぎて抜けられない、仕方がないからフェンスの方を曲げて無理矢理入ったところ、こんどはおなかが挟まって抜けなくなった、というような状況である。
たとえ話でますますわからなくなった方は「にっちもさっちもいかない状況である」というニュアンスだけ汲んでください。
やっぱり再発明する
ヘタに大量生産の工程を真似ようとするからよくないのだろう。俺は俺のやり方で行く!ということで代案を考えました。
赤線のところで区切って別の部品にする
まずは赤線の右側。樹脂の棒を切って
まず穴を空けた上で
リューターで削ってすり鉢状に、
ボールの受け皿となります。
横から見るとこんな感じ
図でいうと赤い部分ができました
なんか話が急にミクロになり、チマチマした写真ばかりで恐縮です。
でもきっと現実の生産現場では、マイクロメートルレベルのもっともっと微細な調整が行われていると思うのだ。
それに比べたら、ボールペン制作というジャンルの中では、この記事は大航海時代レベルのスケールのでかい話をしていると思って欲しい。
ちなみにいま進捗度でいうとバルトロメウ・ディアスが喜望峰に到達したあたりです。
さて左側のパーツは丸材を使って削り出します
なぜなら他の素材で2回失敗したから
こちらも穴を空けて
ボールが中で転がる、しかし滑り落ちはしない、という絶妙な形状に(いま中にボールはいってます)
関係ないけど、毎回腰痛になるのでいいかげん作業現場に机を導入した方がいい
なんだかんだでできたのがこちらです。
いきなり図の形が変わったけど、赤いところが木の部分
この話題引っ張ることもないと思うけどあえて続けると、ここまでの進捗を大航海時代でいうと、ついにコロンブスがアメリカ大陸を発見したあたりだ。ワー!
でもこれ、この原稿書いてて知ったんですけど、新大陸発見って大航海時代のだいぶ初期の方なんですね。まだまだ船乗りたちの時代は続く。オレたちの戦いはまだ始まったばかりである。
あとはこれをボンドでパイプに止めて
角張っていて書きにくそうなので、リューターで丸めていきます
削るときに中でボールが自由に回るあたり、完成度が高い
手作りボールペン、完成です!
インド航路が完成!これによりポルトガルはインドとの香辛料の直接取引が可能となり、首都リスボンは一大貿易都市として絶頂期を迎える。
僕のリスボン(手作りボールペン)にも、さっそく香辛料(インク)を入れてみよう。
素人の作ったペンはインクが垂れるのが運命
インクがすごい垂れる!!!!
サインペンの時と同じだ。
ふだん僕らがペンを使うとき、「インクがよく出るかどうか」ばかり気にしてしまう。手作りペンもそうだと思っていた。
でもほんとうは、それって、ワンランク上の問題なのだ。「インクが出ない問題」は、「インクが漏れる問題」をクリアした者だけが、悩むことができる問題なのである。
池
インクも再発明する
ペンにはあれほど凝ったのに、インクには相変わらず墨汁をつかっている。問題はそこではないか。ボールペンのインクってもっとドロドロと粘りけのあるものだった気がするのだ。
ただボールペンのインクが単体で売っているところなど見たことない。考えた末の、これであった。
片栗粉です
煮詰めてとろみをつける
着色
そしてできたのがこちら
ほどよいとろみの付いたデロデロができた。本物の、あの糸引く感じとはちょっと質感が違うが、こちらとしては流出が抑えられればそれでいいのだ。
ペンに充填してみる。
垂れてない!ギリギリ表面張力でなんとか持ってる感じだけど、一応垂れてない!!
照明を反射するインクのみずみずしさ
インク、盛りっ盛りである。裏写り必至のこのボリューム感。シズル感といってもいい。結構太いパイプになみなみ入れたインクが、みるみるなくなっていく。
見ようによっては絵手紙っぽいのではないか
もともとペン先が太いというのもあるが、インクの量が多いと筆文字っぽくなるのだ。(発見)
このボールペン、ペン自体の見た目もいかにも手作りといった感じだが、書き文字にまでこんな味がでてしまった。
味のある字で適当なフレーズを書くコーナー
あとは適当なフレーズをいくつか書いて、この記事もまとめかな。そう思った矢先の出来事であった。
あれ、線の感じが……
さっきのインクジャブジャブモードから一変、なんかソリッドな線が書けるようになってきたぞ。
この、ボールがゴリゴリとインクをこすりつけていく感じ。かすれてはいるけど、使用感としてはこっちが断然ボールペンっぽい。何が起きたんだかわからないが、僕のボールペンが、覚醒した。
と思ったら「ボ」の濁点あたりからジャブジャブモードに戻った。どうも片栗粉のダマが詰まっていただけっぽい……。
できなくはない
そういうわけで自作ボールペン、作ってみればなんとかできなくはないとわかった。ただ、完成までに半日かかったうえ、ごらんのクオリティである。市販品はどう考えても安すぎると思う。
やっぱすごいよな、大量生産って。