海沿いの町
コロッケの町は海沿いに
魚のコロッケの町は鳥取県東伯郡琴浦町。ニ駅はなれた由良駅近辺でも、それは東伯の方だけだといってた。呼ばれているのはかなり限定された地域のようだ。
駅から歩いていたらまちがって海に出てしまった。海が近い。よそものには海といえばビーチだが、海には墓があった。そしてさっきから田んぼが芝生だ。植えるのまちがったのだろうか。
なんか遠いところに来た。
なにかが大きくまちがってるなと思ったらこれ芝を植えて全国のゴルフ場に販売してるそうだ。うっかり入らなくてよかった。
大きな国道沿いにかまぼこ店がある。学校帰りに商店街で、みたいなことをイメージしてたが実際は車でお母ちゃんが買ってくるのだろう
鳥取の練り物屋はケーキ屋のように種類も充実している
海沿いの町の練り物文化の深さ
実は魚のコロッケがあるとききまして……と切り出すと「まあそうですか!?」とお店のお母さんからどうしましょう的な声がでる。
ついにきたか、と、ついにそういうのきたか、これがB級グルメか、と机がガタッとする雰囲気があった。実際に机はないけれど。
町内にあるかまぼこ屋4店でコロッケは売られているそうで、歩きなら3店は行けるのでぜひ行ってみてとのこと。
あった。コロッケ1枚100円。ふつうのコロッケと同額くらいか
こういうプラスアルファが出るほどに市民権を得ている
パン粉をつけて揚げるからコロッケ
魚のコロッケは昔からコロッケとして売られているらしい。
なぜコロッケと呼ぶのかきくと「パン粉をつけてコロッケと同じように揚げますので」とのこと。それってフライじゃないのかな。
この辺ではたしかにコロッケといえば魚のコロッケの方らしい。じゃあじゃがいもコロッケはというとそっちもコロッケだという。ふたつをどう区別しているのかときくと、首をかしげるお母さん。
特に区別とかはないようだ。
名物の牛骨ラーメンをまるごと入れてしまう、練り物屋の練り込み力
これがコロッケ。高塚かまぼこ店はかための食感で一味がきいている
コロッケにはない一杯やりたくなる感じ
後ほど買ったコロッケを食べてみた。見た目の色はコロッケと同じかパン粉が少し細かいくらいだ。作りおいたものはサクッというよりハムっとした歯ざわりでこれも本来のコロッケと同じだろう。
ちがうのは噛んだあと。あっ、と思うほどの一杯やりたさ。魚の香りと噛むとしみ出るうまみ。細かい粒は玉ねぎだろうか、野菜の甘みと一味の辛味もある。これはちがう。こんな一杯やりたくなる感じはコロッケにはない。
そういえばコロッケって中身がじゃがいもなのでそれだけで完結しているが、こっちは高タンパクなので、いっちょいったろうかなという気になる。
なんておいしそうなんだと思われた方、一応いっておくが要はさつまあげのフライ版である。
こちら5本580円の高級魚肉ソーセージ発見!
なんと羊の腸に魚のすり身がつまっている。人間の業の深さを感じる
バッツンバッツンの食感で中身は魚肉のうまみとスパイスの匂いが広がる。たしかにこれは高級魚肉ソーセージだ
高級ギョニソもあった
この店では本物のソーセージとおなじ、羊の腸につめた魚肉ソーセージもあった。いわば高級魚肉ソーセージだ。高級マーガリンや御殿場プレミアム・アウトレットのようなよくわからなさがある。
魚もまさか羊の腸に入れられるとは思わなかっただろう。シーシェパードに目をつけられるかもしれない。
こことあと一店くらいしか扱ってないというがたしかに珍しい。食べてみるとあの魚肉ソーセージがシャウエッセン級のばっつんばっつん食感で笑う。
笑ってしまうが中は超本格的魚肉ソーセージでたいへんうまい。めずらしいものたべた。
二店目、あぶい蒲鉾
どこもメニューが充実している
大阪に出た人が恋しくなる味
二店目のあぶい蒲鉾へ。もちろんここでもコロッケといえば魚らしい。
「じゃがいもはじゃがいも(のコロッケ)。昔っからコロッケといえばお魚なんですよね」という。どうやら魚のコロッケが本来でじゃがいもが別物みたいなことらしい。
お店のお母さんによると、琴浦町のコロッケは「ソウルフードといったらあれですけど、大阪に働きにでたお客さんからみんなに食べさせたいから送ってくれと何十枚も頼まれたり」するらしい。
ところが東京に出た人は「あごちくわを頼まれますね」らしい。なぜだ。フォッサマグナがコロッケを忘れさせるのか。
コロッケはその場で揚げてくれる。肉屋とおなじだ
こっちの人はちくわ一本食うらしい
コロッケは注文するとその場で揚げてくれる。お店のお母さんも大阪からこちらに嫁いできたらしく、最初は練り物熱の高さに驚かされたという。
「こっちだとおやつにあごちくわまるまる一本食べますからね」
ありかたがちがう。ちょっとずつわさび醤油でちまちま食うものではない。こっちの人はむいてそのままもりもり食う。
このねりものもりもりの土壌がコロッケのとりちがえを生んだのか。
揚げたてはカリカリでよりコロッケらしい。スナックとしても良い
スナックなんだけど余力がある
せっかくなので外に出たら熱々のまま食べてみた。あげたては外のころもがカリカリでこれはたしかにコロッケだ。
たしかにうまい。うまいのはうまいのだが、何かもてあました感じがある。スナックにしてはパワーをもてあますのだ。
一杯やりたくなったりご飯にのせてみたくなったり、これそのままで食っていいのか、ちょっとなんかしたほうがいいのじゃないかと思ってとりあえずちょっとだけ小躍りというかボックスステップを軽く踏んでみた。
予想していたが、全く解消されなかった。
スーパーではどうなってるのだろう?
コロッケ各種、といえばじゃがいもだった
ねりものコーナーにあったのはお魚コロッケ。さきほど「コロッケ」として売られていたあぶい蒲鉾がよそいきになって置いてある。
米子のイベントでお客さんにきいた
厚さで見分ける
米子で開かれた米子映画事変でブースを出していたので、やってくるお客さんにコロッケの話をきいていた。
ただ一人琴浦の人だけがたしかに魚のコロッケがあるといっていた。
母親がコロッケ買ってきたよ~っていってたらどっちだと思うんですか? ときいてみたところ「うすかったら魚、厚かったらじゃがいもだと思う」との答え。
どちらも表面はパン粉をあげたものだから、その厚みで見分けるしかないのか。
大丈夫なのかそれで、と思う。たとえばこういうとき大丈夫なのか……と反証をあげたくなるがあまり見つからない。
「おばあちゃんが遺言にコロッケが食べたいと残したらどっちをお供えするのか?」
こういうときも「え、どっちの?」ときくだろうし、言い残すくらい好きなら周囲もどちらかわかるだろう。
三店目、北中かまぼこ店。どこ行ってもメニューは充実してるな
コロッケ。これだけ買っていく人がいるということなのだろう
四代115年つづいているそうだ
115年前からコロッケは魚
「昔はこの辺は交通の要所で、砂糖もあって魚もとれて、じゃあ練り物でもやってみようと。そういうことではじめたらしいんです」
三店目の北中かまぼこ店は長くやっているお店のようだ。
「四代で115年くらい続いてるんですけど、そのときからコロッケっていってたと思います」
どうしてコロッケと呼んだのかはわからないそうだが、コロッケはコロッケ。最初からここでは魚のコロッケなのだという。関西出身の私がすり身の天ぷらに疑問をもたないのと同じだ。
「じゃがいものコロッケもコロッケといいますね。どちらがどうとかはなく……」
ふんわり甘い。スナックとしては最もたべやすい味だった
「どうしてもかたくなってしまいますんでね」北中かまぼこ店のコロッケはあご(トビウオ)が入ってないらしい。
実際食べてみると、一番ふんわりとして甘かった。他のコロッケの酒の飲みたさはトビウオの力強い旨味によるところも大きかったのかも。おやつとして食べるならこれが一番コロッケにも近い。
ところでこの辺には「ストップマーク」というのがある。歩行者用「とびだし注意!」マークなのだが、これが町中いたるところにある
縁石にも「右みて左みて」と書いてあったが、この通りは全縁石にこれがあった
交通安全意識と練り物力の高さ
鳥取県にはストップマークというものがあり、町中いたるところで飛び出し注意をしている。そしてそんな交通安全の意識のたかさをより喚起すべく、警察では交通安全標語をさだめている。
あ、明るい服装と反射材
ご、ご近所みんなで交通安全
ち、近くでも危険がいっぱい
く、車の運転はゆとりをもって
わ、渡るときにはしっかり確認
そう、「あごちくわ」である。しまった。交通安全の力も高かったが、練り物力の高さはそれを超えてきた。練り込んでくるぞ、やつらは。すきあらばどんどん練り込んでくる。
なにかといえば「ああ、練りもののね」と。コロッケも「練りものでしょ?」とはじまったにちがいない。
2つのコロッケがあってもいいようだ
じゃがいものコロッケと魚のコロッケ、一体どう区別しているのだろうか。そんなことは問題ではなかった。天ぷらにも二種類あるし、端も箸も橋も同じ音だがべつに困らない。
しかしなぜあんなに「どうするの?」「お魚をコロッケと呼んであなたたちはどうするの?」「どうしたいの?」「本当はなにがしたいの?」と心配したのだろう。
それがまたコロッケなんて庶民的なものだから余計に。私たちのあのコロッケをそんな一杯やりたくなるものに!と。
だが大丈夫だった。そういう文化があるらしいときいたら、大体のものはそれで大丈夫なのだ。115年も前からコロッケだったのだから、不都合なんてないに決まっているだろう。よその文化は大体、大丈夫。
いやちょっと待てよ。干し首とかはだめだな。