ブームが去った後の方が楽しい
ブーム時の食べるラー油はすごかった。スーパーでは人集めの目玉商品となり、ある人は自作を試み、オークションサイトでは数倍の値段で販売されていた。
時は私に食べるラー油をもたらした(桃屋のホームページで薦められていた食べるラー油玉子ご飯)。
それがどうだろうか、今では全く同じ品を気軽に手に入れられる。量など気にせずに好きなだけ使える。今はその時よりも進化したラー油達があるにも関わらず、だ。
食べるラー油達の系統樹
2009年桃屋のラー油によって芽吹いた食べるラー油達は、成長し、分化し、あるいは息絶えながらも現在も脈々と息づいている。その流れを追うだけでも川の源泉から河口までの景色の変遷を見るような楽しみがある。
食べるラー油の移り変わりを思いながら今のラー油達を食べてみよう。
着火期(2009/8/17~)
それ以前からも具材豊富なラー油はあったが、ブームの最も大きな、そして全ての要因はこれだろう。2009年8月17日発売の桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」。
言わずと知れた食べるラー油界の旗手
食べるラー油というコンセプトや味ももちろんだが、みんな名前に心を動かされた。少し辛いって言っているにも関わらず、何故か、どっちだよ!って言いたくなるネーミング。
旨味と塩分が油によって滑らかに脳まで届き、少しの辛さと心地よい食感の刺激を伴って強く叩く。衝撃とはこれか。
しかもそれが美味いという。瞬く間に大人気となった。
狂騒期(2010~)
桃屋のラー油の後、ググッと幹が太くなっている、ここが狂騒期だ。
人気となった「辛そうで辛くない少し辛いラー油」が日本中を騒がせる。なんてったって、手に入らないのだ。人気となって1年以上は手に入りづらかった。それだけ無けりゃ、逆に欲しくてしょうがない。
そこで他社も追随した。桃屋としのぎを削っていくS&Bのおかずラー油も発売されるが、そちらもあっという間に品薄に。ここからが狂騒の本番だ。
調味料の会社はもちろん漬物屋や干物屋などまでラー油を売り出す。これは祭りであり、狂乱、現象であった。上記の記事では自作も試みられており、まさに2010年のラー油騒ぎを象徴している。
ちなみに上の写真の5つのラー油の内、現在(2013/10時点)も販売が確認できたのは一つだけである。どれだけ“騒ぎ”であったかが分かるだろう。
多様化期(2011~)
2010年は猫も杓子もラー油を出し、世界の土壌が広がり幹が太くなった。そこからの展開は枝葉を伸ばす、多様化だ。
何回でも貼ってやるぞ。
2011年は商品の数がダントツに多い。そして、ラー油だけではなく食べる焼肉のタレや食べる醤油といったラー油だけではない、食べる調味料という一ジャンルを築いたといえるだろう。
フットワークのS&Bと動かぬ桃屋
2011年といえばS&Bに注目せざるを得ない。上記系統樹の2011年商品の右側はすべてS&B食品だ。
ラー油から油を減らした。ラーだけが残った。
左が桃屋のラー油、右がS&Bのラー。
おかずラー油の供給が安定してくると、S&Bは動く。オリーブオイルを使ってイタリアンラー油を作り、具材をニンニクから大根おろしやネギ塩、ゴマなどに変えて即座に新商品を投入。
油が抜かれたラーは軽やかさを身につけながらも密度を増し、旨味、香りのブラックホールと化しており、いくらでもご飯を吸いこんでいく(俺が)。
そして風向きが悪いと見るや、数か月もしないうちに製造を止め、辛さを増したものや油を減らしたもの、ワサビやカレーといった商品を再度投入してくる。
食べ終わった後のラー油の残り方が全然違う。桃屋のラー油。
こっちがS&Bのラー。
これどう?あっ、違う?じゃあ、こっちは?という位の感覚で気軽に新商品を投入して判断していく。大企業らしからぬ軽やかなフットワークでヒットを生み出していく。
それに対して桃屋は動かない。ラー油の種類が増えようと、バリエーションが増えようと桃屋は動かない。
淘汰の2012年
色々と種類が増えていったラー油達にも冬が来る。どんどんとラー油を取り扱う所が減っていく。ラー油をやめてどうしていたのかと調べると大体は塩麹を売っていた。そういうものなんだな。
現在も残るラインナップの「おかずわさび」と「おかずしょうが」。あと黒コショウと唐辛子もあるらしいが、近所のスーパーでは未見。
2011年に大量の商品を発売したS&Bも商品数を絞り、好評だった物のバリエーションを出すといった手堅さを見せてきた。
おかずわさびは、サクサクしていてワサビの爽やかな香りで油の重さを感じずコクだけが活きていて美味い。おかず生姜も普通のふりかけと比べ食べがいがある。S&Bは要点を食感だと捉えたようだ。
果たしてこの冬は春を迎える前の冬なのか、それとも熱を失ってしまった星の寿命なのか。ラー油好きが心を砕く中、桃屋が動いた。
そっちなのか、桃屋
辛そうで辛くない少し辛いラー油で大ヒットを飛ばし空前のブームの中、沈黙を守り続けた桃屋の次の一手に注目が集まる。
きざんだだけで来るのか、桃屋!?
ラー油が衝撃を与え、周りがラー油を加工し、または色々な調味料をサクサクにしている世界に対して、桃屋はきざんだ。
新製品かどうか確認が出来なかったが、桃屋は桃屋クローバーZを擁して大々的にきざんだにんにくとしょうがで打って出た。
きざんでるね。うん、きざんでる。
素材。ラー油でもサクサクでもなくそっちに来たか。枝や葉を伸ばすのに対し、根を深く張る様な桃屋の一手。後発ながら系統樹でも一番下に位置してみた。
きざみにんにくはニンニクより出でてニンニクよりニンニクらしい。
にんにくは「香りが出るまで炒めます」ってやつの最上級に仕上がっていて、にんにく以上のにんにくの香り。精力を具現化したような味で内側からうおお…と声が漏れてしまう。
こっちを見据えているとしか思えない。これはしょうが。
美味い、美味いのだが違和感を覚える。食べるラー油達はご飯という限られたパイを奪い合ってしのぎを削って来たのである。にもかかわらず、これらから感じるのは調味料、薬味感。
狙っているのはご飯ではなくおかずの位置。新天地のおかず界に乗り出さなければならないのか、もうご飯界はいっぱいなのか。ある種の諦めが辺りを包む。
回帰の2013年
様々な商品が淘汰され、桃屋もご飯を離れ、ラー油界としては非常に厳しい年であった2012年を超えて迎える2013年。
やっぱりこっちだったわ!!!って一撃。(バター味のフライドにんにくもある)
まず動いたのが桃屋。ご飯を離れたかに思われた桃屋。次の一手は「とうがらし味のフライドにんにく」!!ご飯直撃狙い、やっぱり桃屋はご飯を諦めてはいなかった。ごはん、美味いもんな!
ご飯サイコー!!サクサクサイコー!!!
これによりきざみしょうが、にんにくは食べる調味料(桃屋ホームページではその分類)の裾野を広げるための事であったと分かる。
S&Bの油少な目と似た方向性から、ラー油達が進んで来た道は間違っていなかった事も知る。
定番品を体験してもらおうという方向性!
S&Bの2013年の動きはなんと、お試しサイズ。ブームにはなったが、まだ食べた事が無い人もいる。食べて頂ければこの商品でご飯は掴める。というS&Bの強い意志を感じる。今現在の商品の実力を確信した動きである。
色々あった、色んな商品も出した、だがもう一度初心に帰って定番品を食べてみてください。という一回りした感がある。
更なる方向からの可能性
商品が厳選され成熟し食べるラー油、調味料界は一回周って落ち着いた感がある。ここからは地道な展開かな。と思っていたら新たな方向性が生まれていた。
チキンライス風!?ねぎ塩豚そぼろ!?
まぐろとわさび茎の醤油麹煮、肉麻婆、高菜鶏そぼろ、塩鮭の塩麹煮。どう見ても料理名だがこれらすべて、のっけるふりかけと呼ばれるシリーズだ。
ミートソースではないか、これは(実際そのような味がした)。
食べるラー油→食べる調味料→食べる素材と来て「食べる料理」とでも呼べそうな物たちが姿を現していた。
ねぎ塩豚そぼろ食べたい!ってなった(少し物足りなさを感じる)。
何だこの、ボスを倒して平和な時に現れる新たな敵っぽい雰囲気は。成熟しつつも、食べる○○界からまだまだ目が離せない…。
という事で食べました、食べるラー油達。やっぱり美味い。当時は勢いを楽しんでいた面が強かったが、ブームを起こすものはやっぱりそれ自体に力がある様に思えた。
踊らされていようが、ブームに乗るのは面白いし、乗ってみると後から思い返すのも、終わった後に楽しむのも味わい深い。まだまだ終わってないぜ!感があるラー油達は今後も注視していきたいです。