特集 2013年10月16日

ああ、素晴らしき鬼瓦よ

これ、良い。
これ、良い。
鬼瓦が好きなのだ。だって鬼だぜ。

屋根に鬼が付いている。もう、意味が分かんない。いや、なんとなく意味はわかるが(魔除け)、あんまりにストレートなんじゃないか。

だって鬼だぜ。

今回は色々撮り溜めた鬼瓦写真をご紹介したいと思います。
あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

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かっこいいホームページに載せた事がある

もう2009年、4年前になるのか。『かっこいいホームページ』という企画に鬼瓦の写真を載せてもらった。コチラ

まずはそこら辺の写真をご覧いただきたい。鬼瓦の良さを判っていただけるに違いない(自信)。
浅草駅の出口にある鬼瓦。この迫力を間近に見られるのは貴重。
浅草駅の出口にある鬼瓦。この迫力を間近に見られるのは貴重。
浅草寺で撮った気がする。立派な鬼瓦である。頭の上に筒が出ているのが良い。
浅草寺で撮った気がする。立派な鬼瓦である。頭の上に筒が出ているのが良い。
右上に写っているのが鬼瓦、真ん中に写っているのは、別の名前である。
右上に写っているのが鬼瓦、真ん中に写っているのは、別の名前である。
鬼ではないけどこれも鬼瓦の一種だ。
鬼ではないけどこれも鬼瓦の一種だ。
見事に鬼。目のちぐはぐさが可愛い。
見事に鬼。目のちぐはぐさが可愛い。
唐獅子の鬼瓦。ちょうど夕陽が当っていい具合に撮れた。
唐獅子の鬼瓦。ちょうど夕陽が当っていい具合に撮れた。
インドネシアのお面みたいな鬼瓦。実は鬼ではないのだが。
インドネシアのお面みたいな鬼瓦。実は鬼ではないのだが。
割と珍しい、民家の屋根に付いていた鬼。
割と珍しい、民家の屋根に付いていた鬼。
2010年のデイリーポータルZエキスポで絵はがきにして売った。売り切れになるほど好評でした。メインは橋の絵はがきだったのに。
2010年のデイリーポータルZエキスポで絵はがきにして売った。売り切れになるほど好評でした。メインは橋の絵はがきだったのに。
どうだろう、格好いいだろう。なにせ鬼だもん。

ここまでの写真を撮っていた頃は、鬼瓦の事をあまり知らずに撮っていた。

でも実は鬼瓦にも種類があって、それにはちゃんと理由がある。ちょっとだけ勉強してきたので、皆さんも鬼瓦に詳しくなっていただきたいと思う。

次のページにつづく。
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屋根の場所ごとに名前が違う

お寺など立派な建物の屋根にはガッチリした鬼瓦が付いているが、実は付いている場所で名前が違う。

下の写真には4つの鬼瓦が写っているだろう。
素晴らしい屋根だ。デスクトップの壁紙にしたい。
素晴らしい屋根だ。デスクトップの壁紙にしたい。
こういう風に分かれているのだ。
『鬼瓦』というのは一番上の1個だけ!
『鬼瓦』というのは一番上の1個だけ!
隅に付いているから隅鬼(すみおに)、屋根の下り坂についているから降り鬼(くだりおに)である。判りやすい。

では、隅鬼のちょっと上にある鬼瓦はなんて名前なのか?すまん、わからない。僕が見た資料にはこういうのは載ってなかったのだ。

袖隅鬼?降り隅鬼?謎である。

また、こういうのもある。
ダブル降り鬼と名付けているが正式にどう言うかは知らない。
ダブル降り鬼と名付けているが正式にどう言うかは知らない。
鬼瓦周りの様式は本当に色々あって、僕の付け焼き刃な知識では却って謎が深まったりしてしまう。

時代によって様式が違う

鬼瓦に種類があるのはなんとなく判っていたが、時代によって様式が違うのだった。

前のページで「インドネシアのお面みたい」と書いた鬼瓦は『吻』という招福神を象った鬼瓦なのだという。角はなく、時代的には奈良時代の様式だそうだ。
奈良時代風である。
奈良時代風である。
一方、ガッチリした鬼の顔をした鬼瓦。コチラは室町時代風なのでした。
顔の両側にあるクルンってした部分は『足元』っていうそうだ。これも室町風の特徴。左右に置かれているのは現代的な鬼瓦である。
顔の両側にあるクルンってした部分は『足元』っていうそうだ。これも室町風の特徴。左右に置かれているのは現代的な鬼瓦である。
でも実は民家の屋根に立派な鬼瓦が付いていることは少ない。多分価格的な問題もあるのだろうが、他にも問題がある。

『隣の家に鬼を向けるのは申し訳無い問題』である。
こういう鬼瓦が付いている家は結構多い。見た目的には鬼ではない。
こういう鬼瓦が付いている家は結構多い。見た目的には鬼ではない。
鬼瓦の位置にあれば、それが鬼の形をしていなくても鬼瓦である。そういう物なのだ。ではなぜ室町時代に鬼だったものが鬼でなくなったのか?
すっかり鬼の面影はない。
すっかり鬼の面影はない。
こういうロジックなのらしい。

招福神を屋根に付けてみた(奈良時代)

魔除けを強化したいので鬼にした(室町時代)。

なんか隣の家に鬼を向けてるのは悪い(七福神などに変化)。

抽象化されて原型を失った(イマココ)。
奈良時代の招福思想に戻ったのか、七福神の鬼瓦を付けている家もある。
奈良時代の招福思想に戻ったのか、七福神の鬼瓦を付けている家もある。
近所との和を大事に考えるというのは世の中が平和である証なのかも知れない。

室町時代は戦国時代前夜、応仁の乱などで世が荒れていた時代である(と、見てきたように書いちゃうがよく知らない)。そんな時代であれば魔除けによって自分を守る事を優先しても不思議ではない。

抽象化の結果鬼ではなくなった鬼瓦だが、なんとなく名残は残っている場合もある。

下の写真は典型的な室町風鬼瓦だ。
実は瓦にもそれぞれ部位ごとに違う名前が付いている。
実は瓦にもそれぞれ部位ごとに違う名前が付いている。
鬼の上に付いているちょんまげみたいな瓦は鳥伏間(とりぶすま)という。おそらく、鳥伏間と鬼の角が合わさって抽象化されると下の写真のような鬼瓦になるのだ。
もう鬼の顔にしか見えないだろう。
もう鬼の顔にしか見えないだろう。
上に出ている戦艦の主砲みたいな筒。これは鳥伏間と角である(多分)。そう思えば見えてくるだろう、鬼の顔が。

現代の鬼瓦界は各時代の様式が混ざり合って混沌としている。もはや施工主の趣味で好きな様式の鬼瓦を付けているようだ。
人魂みたいな形だが、3本突き出ている突起が上の主砲タイプに似ている。
人魂みたいな形だが、3本突き出ている突起が上の主砲タイプに似ている。
かなり退化したが、やはり角の名残は見える。鬼である。
かなり退化したが、やはり角の名残は見える。鬼である。

魔除けより火除けが大事

様々な様式があるのだが、各家々の鬼瓦を観察していると、結構『水』と書かれている鬼瓦があることに気付く。

これ、お察しの通り火除けである。近代以降は『魔』みたいな見えないものよりも『火』の方が圧倒的に恐いのだ。
思い切り書かれた「水」の文字。水と書けば燃えないっていうのは言霊思想が入っているんじゃないかと思う。
思い切り書かれた「水」の文字。水と書けば燃えないっていうのは言霊思想が入っているんじゃないかと思う。
同じ建物だが、よく見ると文字の形が違う。
同じ建物だが、よく見ると文字の形が違う。
古い町で鬼瓦を観察すると、圧倒的に火除けの鬼瓦が多い。単に水と書かれているものもあれば、波の形をデザインした凝った瓦もある。

いやー、鬼瓦って本当に面白い。
足元にデザインされた波が良い感じだ。
足元にデザインされた波が良い感じだ。
本来、水と書かれている場所は家紋がはまる場所でもある。

そこで、家紋をはめつつ、全体のデザインとしては波を表している鬼瓦もある。火除けへの意思と、家を顕示する気持ちとの折衷案である。
立派な火除け鬼瓦である。
立派な火除け鬼瓦である。
これは室町風の鬼と、水が抽象化された足元との組み合わせであり、時代的なキメラ感が素晴らしい一品だ。
これは室町風の鬼と、水が抽象化された足元との組み合わせであり、時代的なキメラ感が素晴らしい一品だ。
『水型』の鬼瓦と、降り鬼に亀を配置した屋根もあった。亀はもちろん長寿と水の象徴であろう。
小さなお寺の門である。鬼瓦には「水」の文字。
小さなお寺の門である。鬼瓦には「水」の文字。
隅鬼には亀が付いている。甲羅の下に毛が生えている。これは苔であり、亀は万年のアレを意味する。
隅鬼には亀が付いている。甲羅の下に毛が生えている。これは苔であり、亀は万年のアレを意味する。
これは反対側の亀。形が違う。
これは反対側の亀。形が違う。
1ページ目に載せた唐獅子の隅鬼もそうだが、動物が隅鬼の位置にあることは多く、その場合は対になっている事が多い。これは阿吽を表している。

亀の他にも動物の瓦があったので写真を撮ってきました。

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対の隅鬼

亀の次は龍である。これは鳳凰と対になっておりかなり縁起が良さそうだ。
隅鬼と降り鬼が並んだパターン。細かいとこまでよく出来ている。
隅鬼と降り鬼が並んだパターン。細かいとこまでよく出来ている。
龍の反対側には鳳凰である。
龍の反対側には鳳凰である。
もしや龍と鳳凰の反対側は虎と亀かと思ったら、同じ龍と鳳凰が付いていた。

動物だけでなく人(またはなにかの神様)が鬼瓦になっている事もある。
鬼瓦の位置に付いているなにかの男性。正体は不明。
鬼瓦の位置に付いているなにかの男性。正体は不明。
棟の反対側に廻ってみると、女性が鬼瓦になっていた。鬼瓦自体が対になっているパターンもあるのだ。
天女?菩薩?観音?さっぱりわからない。
天女?菩薩?観音?さっぱりわからない。
他には、対にはなっていないけど動物の瓦人形が付いている場合もある。そうそう、瓦の材料と製法で出来ている人形を『瓦人形』というのだ。
キツネである。多分お稲荷さんであり、神社の塀についていた。
キツネである。多分お稲荷さんであり、神社の塀についていた。
もはや意味がわからないが、多分兎。塀の上にあった。
もはや意味がわからないが、多分兎。塀の上にあった。
ここまでくると唐獅子は珍しく感じない。
ここまでくると唐獅子は珍しく感じない。
更に、よくわからない鬼瓦もあったりする。瓦の世界は奥が深い。
中国っぽい鬼瓦(?)。もはや鬼瓦ではないんじゃないか。
中国っぽい鬼瓦(?)。もはや鬼瓦ではないんじゃないか。
鬼瓦とは別に、屋根の上に立つ瓦人形。鍾馗様かなぁ。
鬼瓦とは別に、屋根の上に立つ瓦人形。鍾馗様かなぁ。
これなんか屋根に付いていないし。多分これも鍾馗様。
これなんか屋根に付いていないし。多分これも鍾馗様。
次、最後のページでは正統派に格好良い鬼瓦を紹介します。
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鬼瓦は寺で撮れ

立派な家の抽象鬼瓦も良いが、正統派な室町風鬼瓦を楽しみたければやはり寺だ。鬼度が違う。

下の写真は京都の平等院鳳凰堂。
シンメトリーな外観が格好良い鳳凰堂。
シンメトリーな外観が格好良い鳳凰堂。
庭園や高床式の構造も素晴らしいのだが、注目すべきは屋根である。
鳳凰萌えー。鬼瓦萌えー。
鳳凰萌えー。鬼瓦萌えー。
拡大。額が張り出した鬼が格好良い!上に反った鳥伏間も格好良い。
拡大。額が張り出した鬼が格好良い!上に反った鳥伏間も格好良い。
鬼も鳳凰も良いが、降り鬼として付いている謎のクリーチャーも良い味である。
いい顔してるなー。吹き出し付けたくなる。
いい顔してるなー。吹き出し付けたくなる。
鳳凰堂の鬼瓦も良いが、他の建物の鬼瓦もいちいち素晴らしかった。葉っぱの間から見える鬼瓦の素敵さと言ったら!
良い!
良い!
紅葉と鬼瓦の組み合わせ。鉄板過ぎる。
紅葉と鬼瓦の組み合わせ。鉄板過ぎる。
滋賀の石山寺にも鬼瓦を見に行った。紫式部がここに籠もった後、源氏物語を書き始めたと言い伝えられている。

平安時代には皇族や貴族が石山詣をしたという、やんごとない感じのお寺である。さぞかし良い鬼瓦があることだろう。
もう、門からして立派。
もう、門からして立派。
いきなりの鬼トリオ。見事な室町風鬼瓦である。
いきなりの鬼トリオ。見事な室町風鬼瓦である。
鬼集会である。
鬼集会である。
鼻血でそうです。
鼻血でそうです。
ああ、この侘びた感じがたまらん。
ああ、この侘びた感じがたまらん。
こんなとこに付いた鬼瓦初めて見たよ!
こんなとこに付いた鬼瓦初めて見たよ!
素晴らしかった。もう、本当に素晴らしい鬼瓦だらけだった。紫式部もいたけど、僕にとっては鬼瓦の寺である。
石山寺の紫式部さん。
石山寺の紫式部さん。

おまけの鬼瓦

この記事もそろそろ終わりであるが、もうちょっと写真が余っているので書き散らかしたい。
多分、京都のお寺で撮った写真。日本の仏教は極楽を地上に再現したがるが(だから葬式の祭壇も極楽っぽく飾り付ける)、その思想が瓦にも表れている。
多分、京都のお寺で撮った写真。日本の仏教は極楽を地上に再現したがるが(だから葬式の祭壇も極楽っぽく飾り付ける)、その思想が瓦にも表れている。
花がデザインされている可愛い瓦である。このゴテゴテ感は極楽以外ではなかなか出てこない。
花がデザインされている可愛い瓦である。このゴテゴテ感は極楽以外ではなかなか出てこない。
一瞬意味がわからなかった、鳥居に瓦。なんだろう、これ。
一瞬意味がわからなかった、鳥居に瓦。なんだろう、これ。
足元が無く、顔の周りは奈良時代風なのに顔は室町風の立派な鬼というハイブリッド鬼瓦。こういうのもあるのか。
足元が無く、顔の周りは奈良時代風なのに顔は室町風の立派な鬼というハイブリッド鬼瓦。こういうのもあるのか。
お菓子で有名な『たねや』の鬼瓦には「たねや」って書かれてる。
お菓子で有名な『たねや』の鬼瓦には「たねや」って書かれてる。

上を向いて歩こう

先日、たまたま行った近江八幡にあった『瓦ミュージアム』で瓦の勉強をしたのでその知識を記事にしてみた次第です。4月に一度行って、9月にまた行った。良い博物館だった。また行きたい。むしろ近所に住みたい。
トタン?で出来た鬼瓦。味がありますねー。
トタン?で出来た鬼瓦。味がありますねー。

瓦自体も色々あって、寒い地方では凍らないように出来てたり、素材や焼き方によって色が違ったりする。本当に面白い。

瓦の写真を撮るためだけに海外旅行したい。ああ、瓦、良い。
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