街のスキマとは
たとえば東京の渋谷でいうと、ぼくは宮益坂を登った向こうはもう渋谷と思えない。そんなふうに、どこまでをその街と思うかは行政による区切りとも違うし、人によってもさまざまだ。
なのでみんなはどう思うかを教えてもらおうと思って「
どこまでこの街?」というサイトを作った。
「どこまでこの街?」。アイデアは当サイトライター大山顕さんの「
どこまで東京?」から。
するといくつか面白いことが分かった。街の範囲が一人一人違うのは予想どおりだったけど、その範囲はその街をよく知らない人ほど狭くなる傾向があった。
たとえばぼくは吉祥寺をよく知らないので、吉祥寺だと思う範囲(黒い線の内側)はみんな(周りの赤色)と比べて狭い。
知らない場所はそもそもその街と思えないからだろう。その街を知ることによって、だんだんとその街の範囲を獲得していくのだ。
そして街と街の間にはスキマがある。
これは東京の山手線のそれぞれの駅について、どこまでをその街(たとえば渋谷)と思うかを赤色で重ねたもの。
駅と駅の間のスキマは、どちらの街とも思えない場所ということだ。
ここは秋葉原と御徒町のスキマ
そういう、どの街ともいえないような場所っていうのはどんなところなんだろう。実際に行ってみたらどう感じるんだろう?
それを味わいたいというのが今回の趣旨であります。
池袋と目白の間のどこともいえない感
池袋にやってきた。
駅前はザ・池袋という風情
ビックカメラに池袋駅。ここを池袋だと思わない人はいないだろう。ではどこまでが池袋だろうか。みんなの思う範囲を重ねて見てみよう。
赤が濃いほどみんなが池袋と思う場所。濃い赤線は人それぞれの輪郭線だ。
眺めているといろいろ面白い。
まず西側には芸術劇場に第1の壁、立教大学に第2の壁があるようだ(輪郭線が濃い)。北側は春日通り、東側ではサンシャインシティが心理的な壁となっているのが見える。
じゃあ、山手線の隣駅、目白との境目はどのあたりだろう?目白の範囲を重ねてみた。
二つは真ん中できれいに分かれていて、途中にスキマがある。ここはどこらへんだろう。行ってみよう。
問題の場所から目白側を見たところ
向こうに見える橋は、目白通りの千登世橋だ。
個人的には、ここは池袋というより目白だと感じる。目白通りは目白だと思うから。
そして近くの歩道橋から反対の池袋側をみたらこうなっていた。
問題の場所から池袋側を見たところ
これは…、微妙だ。向こうに池袋のビル群が見えているので、その点は池袋という気がする。でもなんかこう、「池袋の手前」なんだよね。
でも面白いのは、同じ場所でも見ている方向(何が見えているか)によってどこにいると思うかが変わるってことだ。
ここまで来れば池袋だと感じる。向こうに駅前の煙突も見えるし。
まとめるとこんな感じだろうか。
・どちらとも言えない場所では、向いている方向によって感じ方が違う。
・遠くに何が見えているかが、どこにいると思うかに影響する。
東京ディズニーランドでは、園内から遠景が巧妙に隠されているという話を思い出した。遠くの東京のビルが見えちゃったら、夢の国じゃなくて東京にいる気分になっちゃうからね。
はみだしコラム:どこまで銀座
どこまでがその街と思うかは、ふつうは人によってばらばらだ。でも銀座はすごい。
この四角い範囲をみんな銀座だと思ってる。池袋が丸く広がってるのとは対照的だ。
銀座がこんなに四角い理由は江戸初期までさかのぼる。当時ここは海に突き出た半島で、人があんまり住んでなかった。そこを家康が碁盤の目状に整備したのだ。だから街区が四角い。
みんなが銀座だと思ってる範囲も、当時の半島の先っぽにほぼ一致するのだ。ザ・うんちくって感じだねこれ。
渋谷と原宿の間のどこともいえない感
ここは原宿です
原宿駅は、竹下通りと並んでいかにも原宿のシンボルだ。
ここから渋谷方面へ歩いていって、途中で原宿とも渋谷とも思えなくなる瞬間を探そうと思う。
ラフォーレ原宿のある交差点
まずは明治通りと表参道との交差点。とうぜんここも原宿だ。ラフォーレ原宿もあるし、H&Mもあるしね。でもここからちょっと進んで渋谷側を見ると…。
おや
はやくも微妙な感じになる。
さらに進んで正面のガラス張りのアウディのビルのところまで来ると、こういう景色。
どこだここ
ここはもう分からない。渋谷でも原宿でもないどこかに感じる。でも面白いのは、ここから一本裏道に入ると急に原宿っぽいこと。
裏道に入って原宿側を見たところ。なんか原宿な気がする。
キャットストリートと呼ばれている道。服飾系のお店が原宿から連なる連続性を感じるからかもしれない。
ただしここから渋谷側を見るとこうだ。
渋谷のセルリアンタワーが見えてる
正面に渋谷のランドマークとなるビルが見えてるので、急に渋谷な気がする。正確には渋谷の手前の感じ。
さっきも感じたとおり、遠くに何が見えてるかで、どこにいると思うかが結構変わるなと思う。
じゃあ、みんなの思う原宿と渋谷の範囲はどんなだろうか。
渋谷の勢力範囲が広くて、原宿側にかなり食い込んでるのがみえる。この境界部分にズームしてみよう。
さっきぼくが最後に立ってたのはこの地図の真ん中部分だ。赤と青がまじって紫になってる。
つまりここは、さっきの池袋ー目白とは違って、渋谷とも原宿とも感じる人がいるという場所だ。どことも言えないというより、どっちとも決められないというところなのかもしれない。
はみだしコラム:どこまで渋谷
渋谷の限界はそれ自体かなり面白い。自分でもどこまでを渋谷と感じるかをちょっとだけ思い浮かべながら見てみてください
まず北の限界。多くの人はNHKとSHIBUYA-AXまでを渋谷だと思っている。代々木体育館は原宿だ。
西側は東急百貨店本店に壁がある。そこから先は松濤ということだろう。
南の限界は桜丘まで。これは、地図中央を左右に走る濃いラインが川跡の窪地になっていて、その南側が地形的にも代官「山」を見上げる形になっていることが大きいと思う。
上と同じ範囲の地形。
東京地形地図をGoogle Earthで表示したものをキャプチャ。
真ん中を左右に走る窪地の線が、上の地図の真ん中を左右に走る線とよく一致するでしょう。
そして東側の限界は宮益坂上まで。許せても青山学院大学まで。ぼくも本当にそう思う。
御徒町の存在感とは
上野駅からアメ横を歩いていると、上野の気分のままいつの間にか御徒町駅に着くことが以前から気になっていた。
NHK「あまちゃん」の舞台にもなった、上野アメ横。
ずーっと「上野アメ横」の気分で歩いていると、
突然、御徒町駅についてしまう
御徒町に入ったなと思う暇もなく、いつのまにか御徒町なのだ。同様のことは秋葉原から御徒町方面に歩くときにも言えると思う。
アニメ、ゲームの看板で秋葉原駅周辺は秋葉原と分かりやすいが、
途中からだんだん分からなくなる
気がついたときにはすでに上野だ。御徒町はどこだったのか?
「ここは御徒町だなー」と感じる場所がないのだ。
みんなはどう思うんだろう。「どこまでこの街?」から、上野ー御徒町ー秋葉原の範囲を重ねて見てみよう。
ぱっと見て、大きな上野と秋葉原にはさまれて、御徒町の勢力がそもそも小さいのが分かる。
まずは御徒町と秋葉原の関係を見てみよう。
秋葉原は末広町駅、蔵前橋通りまでと思う人が多い。
そしてすぐ北の御徒町との間には空白がある。上の写真で「だんだん分からなくなる」と書いたマクドナルドのあたりだ。
ここはほんとに「どの街ともいえないなー」と思う。近くに末広町駅はあるんだけど、末広町っていう町の広がりがあるというより、駅だけがあると感じる。
こんどは御徒町と上野の間だ。
アメ横は真ん中を上下に走る線路沿い。上野が画面下の御徒町駅ぎりぎりまで攻めて来ているのが分かる。途中からは紫色になっていて、上野とも御徒町とも感じる人がいるようだ。
じゃあ、御徒町っていったいどこだろう?ぼくの思う御徒町は、ここだ。
どーんと紫色
紫色の多慶屋は、御徒町にあるディスカウントショップの老舗。このビルを首都高の下から見たときに、ああ御徒町…!と感じるのだ。
で、真相を知ってる人はさっきからやきもきしてるかもしれない。つまり、御徒町っていうのはもともと山手線の外側の町なのだ。
昭和初期の地図より。青線が御徒町。
そのあたりは今では東上野といった町名になってしまい、御徒町の名前は駅だけに残っている。だから秋葉原から中央通りを北上して御徒町を感じないのも、ある意味まあ当たり前なのだ。
偉そうに言うことでもないけど。
どの街とも思えない場所はある
この3つはもう、街のスキマの法則ということにしてしまおうと思う。
1. どちらとも言えない場所では、向いている方向によって感じ方が違う。
2. 遠くに何が見えているかが、どこにいると思うかに影響する。
3. そもそも知らない場所は、どの街とも思えない。
「
どこまでこの街?」では、あなたの街の投稿を待ってます。
お散歩の講師をします
江戸時代の海岸線に沿って地形を見ながらする散歩の講師をします。