2.95の味とは?
鮫洲2.95、府中2.96、江東3.00。都内の3つの試験場すべてが食べログに掲載されている。しかも都内だけではなく全国の試験場の点数がある。
おそるべし点数社会。そのうちどこの柿の木にも食べログの点数がついてるかもしれない。
その点数はどれも2.95付近(個人的には3がふつうの店、3.2がちょっといい、3.5がすばらしい、くらいの感覚)、たぶん予想通りの"食堂味"なのだろう。
一体その2.95の味とはどんなものなのだろうか。まずは府中に行った。
府中運転免許試験場は最寄り駅からバスで。食堂目当てでないと行かないアクセス。
何にもないぞ府中
府中運転免許試験場は武蔵小金井駅、もしくは調布駅からバスでいく。周囲に免許試験場らしさはあまりなく、100mほどはなれたところに免許の試験対策をやるサクセスという講習所があるくらいだ。
少し歩けば店もあるが、ごはんを食べるなら食堂利用がもっとも便利だ。
免許試験場内は撮影禁止。淡々とした声でさわがしい、お役所独特の音がする
免許試験場の唯一の娯楽、売店
一人できては淡々と事務処理をされる場所である。
人を呼んだり呼ばれたり、落ち着いた無数の声がぶあつい建物に反響して独特の雰囲気がある。
右をむけば事務。左をむけば処理。どこにもおたのしみなどなく、ただ淡々と事務がショリショリされるさまを見るしかない。
そんな事務処理砂漠に咲いた一輪の花が売店だ。
とくに見るところはないが、グッズが所狭しとならぶ売店がおもしろい
やたら反射材が売られている
3つの免許試験場すべてに売店があり、どれも似たようなものを売っている。駅の売店と同じような食品や日用品、くわえて免許試験場ならではのグッズである。
パトカー玩具や警察キティちゃん、ピーポくんのぬいぐるみなどの警視庁グッズ、そしてやたらに種類が多い反射材である。
よく見るとパトカーの玩具に「売れてます」シール。本当にこれが売れているのだろうか。
1500円のパトカーの玩具が「売れています」とは
玩具が売れる気もしてくる
たしかに運転免許試験場には"一生のうちで何回かしかこない場所"という側面もある。
そういう意味では地方の鍾乳洞みたいなものだしお土産があってもいいだろう。
そういう場合"府中運転免許試験場に行ってきました"クッキーだとおかしいのでミニカーがちょうどよいのかもしれない。子供の土産なんかに。
あとは子供をあそばせるような部屋もあったので、子連れで来てせがまれるというのもあるのだろう。
昼をすぎていたので人もまばらな食堂
「ざるらーめん420円」「ふんわり玉子のオムレツカレー680円」「ラー油50円」などなど。ラーメンやカレーより一手多いメニューがある
趣向をこらしたメニュー
カレーライスは550円。オムレツカレーになると680円でハンバーグカレーになると720円。ちょっとこったメニューがあるのだ。たとえばラーメン520円の貼り紙もこんな感じだ。
「笑顔のラーメン 520円」
なんだろう、これは。このすぐにでもNPO法人化しそうな名前にはひかれるが、すでにおすすめセットを頼んでしまっていた。汁なし担々麺とチャーシュー丼580円。なかなか安い。
汁なし担々麺とチャーシュー丼。意外にうまい。通いたい。
2.96にしてはいい店だ
汁なし担々麺をよくかきまぜてから二、三本箸にとってすする。ズズッ。むっ。本格的な感じがする。なんだろうこれは、そうか、魚粉だ。つけ麺でよくでくわす魚の味がするのだ。
ほどほどの辛みも温泉卵にぬったぬたに絡めとられてちょうどよい。つけ麺といえば、麺もそれっぽい。麺自体に存在感があって満足。
チャーシュー丼はなんの印象もないが、総じてうまかったし日替わりのセットにしては今っぽいメニューだ。
府中運転免許試験場は意外にもいい店だった。価格といい味といい2.96点はおかしい。
特に問題のない味がするチャーシュー丼
江東運転免許試験場までには、執拗な近道が存在する。方眼状に道が配置されているため、近くはならないのだが……
アクセス抜群、江東免許試験場
免許試験場めし。まさかうまいとは。府中運転免許試験場に味をしめ、ちょうど免許の更新予定だった知人の付き添いで江東免許試験場にも行ってきた。
東京メトロ東西線の東陽町から歩いて5分程度。都心からのアクセスならここが一番良い。
試験場までには写真屋、またも免許試験の予備校みたいなサクセス(調べたら全国の免許試験場の近くにある)、そして近道と散髪屋があった。
この道から出てくる人は皆、こざっぱりしてるのだろう。
近道をいくと散髪屋が。免許写真の前に、ということか
運転免許試験場は大体おなじ
同じ運転免許試験場なので中はだいたい同じ。唯一の娯楽である売店の品揃えも似たようなものだし、ミニカーをすすめてくるのも同じだ。
そういえば、反射材コーナーには大きく「安全地帯」と書いてあった。漠然と合ってるが、よく考えると意味がわからない。
ハイエースの事故処理車をおすすめしてくる売店
「コサージュのような反射キーホルダー」……背伸びしてきたな
メニューは簡素、価格も
4階にある食堂のおすすめはカツカレー780円。貼り紙には"勝つ"カレーとある。免許試験に必要なのか、そのモチベーション。だが限定15食のため売り切れ。残念。
ここは府中とちがってこったメニューがない。ラーメン、カレー、定食はとんかつ定食……とんこつラーメンはちょっと珍しいが、全体的に海の家っぽい簡素なメニューである。
前回と似たようなセットがいいなと思い、つけ麺セットを選んだ。
つけ麺とミニカレーで870円。ラーメン屋と比べたらほんのすこしお得か。ここの食べログ点数は他の試験場よりもほんの少し高い3.0点。はたして味がいいのだろうか。
つけ麺セット870円。全く問題のないこの味こそ、免許試験場めしといえるのではないか
なるほど、予想通りの味だ
つけ麺は魚だしのきいた醤油味のつけ汁で麺もちゃんとつけ麺っぽい。つけ麺はつけ麺だし、カレーもカレーだ。
枠組みを出ることのない味。ここがうまい、あそこがまずいとはいくらでもいえるが、なんともいえない「特に問題ございません」の味。
でもそうか、これが公の味というものかもしれない。
冒険することもなく、とにかく問題なく処理をすすめるお役所の味。免許試験場に響くあの話し声のようだ。これが運転免許試験場めしか。
そしてこれが食べログ3.0点の理由なのだろう。こういう薄ぼんやりしたものを電車に乗って食べに行くのは、ざっくりした物言いであるが、ゆかいだ。
壁にかかっているのは相田みつをの詩や歴代交通安全ポスター
運転免許試験場本部、鮫洲へ
ここまできたら3つめも制覇したい。
お仲間が近々鮫洲に行かなければならないというのでムリに付き添わせてもらい、運転免許試験場の本部がある鮫洲へ。
駅から歩くと、他の二つの試験場にはなかった行政書士事務所が4つくらいある。昔は申請がめんどうだったのでこうした代書業務も役立ったらしいが、なぜここにだけ残っているのだろう。
何してるのかわからない人がたくさんいる。そういういかがわしさが免許の街の風情を作っている。
鮫洲はほかとちがって行政書士事務所がたくさんある
ラブリー
鮫洲も全く問題がない
試験場自体は大体同じなので食堂へ。
ここはつけ麺がなく、特にこったメニューもない。とはいってもアジフライ定食580円、冷やし野菜そば450円。それなりに問題なく充実している。
さんざんまよったあげく、突如雷に打たれたような天啓を得た。これだ。
「まよったらこれ!一押しメニュー 醤油らーめんミニカレーセット 650円」
煮干しダシのラーメンがウリなのだそうだ。乾物押し。まあ好きだけど、地味ではある。
ラーメンとミニカレー。650円。なんの問題もございません
鮫洲も全く問題がない
じまんの煮干しダシのラーメンはなるほど、煮干しダシだ。。そしてまたでた、カレーはカレー。ここでも江東と同じ結果が出た。
そう、味にかんしては"まったく問題ございません"だ。
しかしここでまったく問題のない味が二回つづくことにより、問題ないなりに比較ができるようになった。特にカレー。鮫洲の方が江東よりも少し甘いのだ。
DPZ編集部の古賀がたのんだきつねそばも甘かった
甘口の方は鮫洲へ
いっしょに食べていたデイリーポータルZ編集部古賀のそばももらったがこれも少し甘かった。
甘口が好きなおじいちゃん、おばあちゃんは免許の更新に鮫洲にくるのがいいだろう。
試験場までのアクセスや試験場でできる内容でなくて、ダシの味で試験場を決めるのもいいかもしれない。(いいかもしれないとか言ってる人は大体本心ではないけれど)
甘い辛いの差はあれど、ここも全く問題のない味をしているのでどうか安心して運転免許試験場めしをご賞味いただきたい。
一押ししてるものがふつうだ
ふつうを食べに行くということ
食べログ2.95。今となればその点数は運転免許試験場を正確に表現しているのではないか。なんの問題もなく、必要十分の味がしそうな点数だ。
ただし府中だけは点数に反して、力が入っていてちゃんとおいしい。日常の感覚としてはすばらしいことだが、免許試験場めしとしては少し物足りない。
免許試験場めし。その味は「そういえばあそこでめし食ったな」以上のことばが出てこない味なのだから。
うらしま太郎が亀にのると、気がついたときには竜宮城についている。亀にのっている時間それこそが免許試験場めしを食っている時間ではないか。
(今食べているこのカレーは、明日には忘れていることだろう……)
そうしたもののあはれを意識すると、そのカレーの味はかけがえのないものに変わり、うっすら目に涙さえ浮かんでくるだろう。この味を覚えておきたい。そう思いつつも明日には忘れているのだ。
運転免許試験場めし、それは公的機関ならではの問題なさと非情さをもちあわせた味だった。
鮫洲のソフトアイスはあんまり頼みなれてない巻き方で出てきた