段ボール工場でプロに試作品を見てもらった
山田ダンボールさんの工場。神殿か!というぐらいの荘厳な雰囲気。
先日、古賀さんの
段ボール工場取材に勝手についていったのだが、実はそこにはちょっとした思惑があった。
事前に段ボール文房具を試作していたので、それを段ボールのプロの方々に見てもらい、どんなものかご意見を伺いたかったのだ。
これが段ボール文房具1号や!
ご覧の通り、段ボール製のふせんである。
プロの皆さん、いかがでしょうか。
左から、山田ダンボール株式会社の椎名さん、早坂さん、山上さん。段プロの皆さんだ。
椎名さん「あー、えーと」
山上さん「あ、ふせんなんですか?…面白いですねぇ」
早坂さん「ライターさんというのは考える事が違いますね」
現物を見てもらって10秒ぐらい(体感だと5分前後)の沈黙の後のご意見だ。皆さんから、取材にきた相手を傷つけまい、もてなしたい、という心遣いをひしひしと感じる。
こちらとしても「ちょっとイイものを作ってきましたよ。どうですかこれで一緒に一儲けしませんか」ぐらいのテンションで見せてしまった手前、なかなか引っ込みがつかない。
結果的に微妙な雰囲気で古賀さんの取材の邪魔をした形になってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
段ボールふせんの良いところ
段プロの皆さんには上手く伝えられなかったが、しかし段ボールふせんには優れたところがいくつもある。
まず、作るのが簡単だ。
無地の段ボールをふせんサイズにカット。
段ボールを切って糊を塗って乾かすだけである。乾燥時間を入れても10分あればできてしまう。
実際のところ行程を写真で分けて説明するほどのものでもない。
貼って剥がせる特殊な糊を塗る。
そのまま糊を乾かす。乾燥時間5分ほど。
貼って剥がせる段ボールふせんの完成。
そして、なにより分厚いのが段ボールふせんの最大のメリットだ。
枚数で言えば上の写真で14枚。通常のふせんが100枚で1セットなのに対して、14枚でこの存在感。お得で、圧倒的である。
さらにふせんとしての実用性もこの分厚さによって大幅にアップする。
通常のふせんが厚さ約0.1mm、段ボールふせんは30倍の約3mm。本に挟んでみると、この厚みの差によるメリットは一目瞭然だ。
普通のふせん。どのページに挟んであるのか判りにくい。
段ボールふせん。これなら一発でページが判る。
判りやすいだけでなく、さらに該当ページを開くのも簡単だ。
これ以上ないぐらい、簡単にページが開ける。
ふせんの機能である「書籍・ノート等のページを示す」を極限まで高めた、ある意味究極のふせんと言えるだろう。
段ボールをもらって激アガりする
段ボールふせんのメリットは伝えきれなかったが、それでも熱意は伝わったか、山田ダンボールさんから文房具作りに使う資材を分けていただけることになった。
ダブル!AAフルート!硬い!厚さ10mm!
いただいたのは、段ボールの中の波形を2重にしたダブル(重包装)の段ボールである。重ねてあるのは厚さ5mmのAフルートと呼ばれるものなので、AAフルートと表記する。
これは硬い。ものすごく頑丈だ。強度のイメージで言うと、厚さ半分のベニヤ板ぐらい。指先で折り曲げようとしても簡単に折れるものではない。
このダブルの段ボールは海外引越の荷物箱や重量物の梱包に使われるものが多く、日常生活の中ではあまり見かけることはない。それだけに、こうやって手にしているだけでもテンションがグングン上がる。
できればこの板のままずっと触っていたいぐらいなのだが、いただいた以上はきちんと工作に使わないと申し訳がない。
段ボールで鉛筆を作る
段ボールの厚みを利用した文房具ということで、次に考えたのは鉛筆である。
鉛筆というのは、ざっくり言えば木の板で黒鉛の芯を挟んだものだ。薄い段ボールでは軸の厚みも強度も足りないが、このAAフルートならばその辺りもクリアできるのではないか。
切断は、カッターで3回ぐらい切る。一度刃が入ればなんとかなる。
幅20mmに切り出した10mm厚の段ボールの板を重ねることで、20mm角の段ボール角材ができる。
この間に黒鉛の芯を挟み込めば鉛筆ができるんじゃないかな。できそうな気がする。というか段ボールの角材というだけでまたテンション上がってるので、失敗しても別に構わない気もする。
4重連のAAAAフルート。この重なった波形だけで2時間ぐらい見ていられる。
次に、角材の間に黒鉛の芯を挟み込むため、ハンドルーターでスジ彫りを入れる。
芯が入る部分の段ボールを削り中。
今回の記事、ハンドルーターの稼働率が異常に高い。
紙工作に電動工具を使うのも大人げない話ではあるが、実際問題、今回の行程のうち手作業でなんとかなったのは、段ボールを棒状に切り出すカットの部分だけだった。ヤバい。段ボール、マジ硬い。
スジ彫りに芯をセット。
スジ彫りした溝に、芯ホルダー(シャープペンの親玉のようなもの)用の2mm芯を入れて、あとは接着である。
山田ダンボールさんの工場にお邪魔した時に、段ボールの接着には水溶きした木工用ボンドを使っていると聞いていたので、それに習って接着してみた。
ボンドは水で溶くことで筆で均一に広げて塗る事ができるのだ。
ボンドは薄く広げて、できるだけムラ無く塗る。
あとは押さえて乾燥待ち。
水で薄めた分だけ乾燥が遅れるので、とりあえず一晩放置しておいた。
接合部もカッチリ固まって、完全な棒。段棒。
段ボール鉛筆の削り方
これで完成…としたいところだが、鉛筆なので書ける状態にまでは持っていかねばならない。
先端を削って鉛筆っぽく芯を出していく行程にかかろう。
こんな感じで削ろう、という下書き。
ハンドルーターに丸ノコを付けて削り出す。
実はこの直前、同じように接着して作っておいた試し用の段ボール棒をカッターで削ってみた。
これがまた硬い上に、切り損なうと紙の繊維がボロボロになって刃に絡む。とてもじゃないが手では削れないのだ。
仕方ないのでここでも電動工具の登場となったのだが、それでもなかなかに大変だった。特にボンドで接着した部分はカチカチに硬化しており、食い込む角度によっては丸ノコの刃が止まることすらあったのだ。
おそるべし、接着した段ボール。
電動ノコでもボロボロのカット。作業が大変だった、ということだけは伝えたい。
ともあれ、しばらく削っているうちに、段ボール鉛筆を削る時の刃の入れ方や、丸ノコのベストな回転数なども体得できた。
デイリーポータルZのライターになって一年。他に使い道が一切無さそうな技術を、また手に入れてしまった事になる。
削り屑、というか破片。砕けた芯も混じってる。
あと、上の写真で見る限りさほど削り屑が出てないように見えるが、実は大半は粉塵となって飛び散ってしまった。
しかも作業用マスクを付けるのをうっかり忘れていたため、段ボール粉を吸い込みまくり。しばらくは呼吸をするだけで段ボール工場の匂いが満喫できた。
段ボール鉛筆、完成
「わー、完成したー」と素直に喜びにくいビジュアル。
改めて写真を見ると「これで完成」と言って良いのか、かなりフワフワした気分になる。
というか、根本的に段ボールを鉛筆にするトライ自体が間違っていたような気もするので、フワフワもやむなしだ。
とにかく風通しが異常。
ただ、夏場は掌の汗を段ボールが吸ってくれる上、さらに軸が穴だらけなので風通しが驚くほど良い。常にサラサラ快適なところは段ボール鉛筆の大きなメリットと言えよう。
書き味は普通。
あと、段ボール鉛筆を縮めて「段ぴつ」と書くと断筆宣言っぽいというのに今気がついた。
筆記具の次はノートで
筆記具を作ったんだから、やはりノートもやっておくべきだろう。
山田ダンボールさんからは、AAフルートの他にBフルート(3mm)の薄いものもいただいている。プランとしては、AAを表紙と裏表紙に、薄いBを中の用紙にすればノートっぽくなりそうだ。
表紙にリング穴を開ける。
ノートには、用紙を糸で綴じる「糸綴じ」、ホッチキスで綴じる「中綴じ」、糊で綴じる「無線綴じ」などのタイプがあるが、どれも分厚い段ボールをノートにするには向いてない。(というか本来、段ボールは綴じない)
そこでもう一つ、金属やプラの輪で綴じた「リングノート」でやってみることに決めた。
市販のリングノートによくあるのは「ダブルリング」という針金を複雑に編んだ形式だが、手作業でそれを編むのも手間なので、今回はただ針金をコイル状に巻いてノートに通す「スパイラルノート」にしよう。
ルーターのドリルでは径が小さいので、さらに大きなドリルでドリドリと。
ノートが薄ければ綴じるリング径もリングを通す穴も小さくて済むのだが、今回はだいたいの試算でノートが厚さ約40mm、リングは80φぐらい必要になると出ている。この計算が間違っていたとしても、リング穴が大きければ多少の誤差は吸収できる。可能な限り大きな穴を空けておいた方が良さそうだ。
あとはリングも自作である。
どう考えても段ボールでリングは無理なので、ここは素直に針金を導入することに。
80φの円筒に針金を巻き付けて…と考えていたのだが、そんなに都合良いサイズの筒が手近になかったので、ほどほど近い太さの缶に巻き付けてから、少しずつ手で広げてやることにした。
この時点から、試算とか全く関係のない適当な作業領域に突入する。
殺虫剤のスプレー缶が我が家で一番理想に近かった。
少しずつファジーに調整しながらリングを穴に。
ノートっぽいといえば、あんな感じだろう。
段ボールノートのベーシックスタイル
Dambusリングノート(A5サイズ)完成。
作っている最中にもしみじみ感じていたのだが、なんというか、やはりリングがおかしなことになっている。
厚さはこれぐらい。
ノートが分厚くなると、きちんと綴じるためには、リングはどうしてもこれぐらいの直径になってしまうのだ。
ノート自体のサイズが大きければ(例えば畳ぐらい)リング径も目立たないのだろうが、今回は単純に個人的な好みでA5に決めてしまった。仕方ない。
似たような名前のノートもあるが、あくまでも偶然の一致です。
よく似たリングノートもあるが、これも偶然の一致。
厚さとリング径比較。
よく似たリングノートは厚さ約6mm。対してDambusノートは7倍の42mm。リング径も10φに対して80φと、迫力では圧勝と言ってもいいだろう。
実用面でも優れた段ボールノート
見た目の迫力だけではなく、実用性でもDambusノートは優れているのだ。
秘密は、中の用紙にある。
表紙を開くと、中はBフルート(3mm)厚のノート用紙が。
AAフルートの表紙と比べると薄いが、それでもこのボリューム。
表紙に比べると中の用紙は薄いが、それでも普通のノートに比べると格段に分厚い。
この分厚さこそが、Dambusノートのポイントである。
授業中、手元にマーカーしか筆記具が無くても大丈夫。
このとおり、油性マーカーで書き取りができるのだ。
しかも、どれだけ太いマーカーで書いても裏写りゼロ。これなら、うっかり引越の最中に授業に出る事になっても安心して勉強ができるというもの。どうかこのノートで勉学に励んでいただきたい。
段ボール、触れば触るほど良い材料である。
ふせんにしてもノートにしても、とにかく便利だ。鉛筆は向いてないかもしれないが。
この頑丈さを活かして、象が踏んでも壊れない段ボール筆箱などもいずれ作ってみたい。
山田ダンボールさんの工場にあった、本気で怖い注意マーク。