10歳の誕生日にラミネーターをもらった
「パウチッ子」とは明光商会というメーカーのラミネーターの商品名だ。24年前の当時はテレビコマーシャルも頻繁に流れ、ラミネートより先にパウチッ子という言葉の方が先に広まったように思う。
いまでもラミネート加工をすることを「パウチッ子する」という方も多いのではないか。
9歳の私はコマーシャルでこの商品を知って欲しくて欲しくてたまらなくなってしまったのだ。
これが24年前に買ってもらって最近そういえばと思い出して発掘したパウチッ子。L-100mini。本体デザインは昭和生まれとは思えないスタイリッシュさ
当時はパウチッ子のいろいろなコマーシャルが流されていたようで1本
YouTubeで見つけることができた。写っているのは業務用の機種だろうか。
私が見たのは芸人コンビのピンクの電話の2人が出演しているもので(いや、普通の女性だったのかな、それともハイヒールのお2人だったか)、小型の家庭向けの商品を宣伝するものだった。
駅の改札でラミネート加工された定期を持つ女の子と、同じように彼氏の写真を持った女の子が自慢しあうような内容じゃなかったか。
いまさらですがラミネート加工というのはこういうものですね。フィルムで紙を挟み、両面でビニール加工するもの。ためしにおいしそうな写真を加工してみました
当時の私はこのCMを見て、なんと家庭向けのパウチッ子があるのか! と驚いた。あれが、家でできんのか! と。
何を加工したいというわけでもなかったが、とにかく燃えたし萌えた。
私は「プリントゴッコ」が大好きだったのだが(今でも好きだ)、パウチッ子にもそれと同じような魅力を感じたのだ。
なんだろう用途はニッチなのに妙な万能感があるところだろうか。
購入は平成元年1月19日。保証書のおかげで購入年が確認できた。保証期間終了してても保証書の保管、大事…!
とにかく、絶対、絶対、ぜーーーーーーっったいに欲しい。そう思った。
5人きょうだいの長女として育ち(このころだと下に2人の妹と、母のお腹にちょうど弟がいたころか)、あれが欲しいこれが欲しいということがほとんどなかったらしい私が、何がなんでも絶対、絶対にこれが欲しいと思ったのは後にも先にもこのパウチッ子だけじゃないか。
結局、父方と母方両方の祖父母4名を説得し通常もらったりもらわなかったりしていた誕生日プレゼントを、この年はパウチッコを両家の祖父母間で割り勘する形で買ってもらえることになったのだった。
箱はすでになく、この袋に入って私とともに人生を歩んできた。その間の引越し、6回。雑に扱いまくってきたのによく壊れなかったと思う
パウチっこ? パウチッコ?
さて、ここまでさも自分の記憶のように「パウチッ子」という商品名を語らせてもらっていたが、表記についてはすっかり忘れてしまっていた。
普通に考えたら「パウチっこ」のような気がするし、でなければ「パウチッコ」か。検索すると「パウチっこ」が多いようだ。
どうなんだろう。思い切ってメーカーにじかに聞いてみたのだ。
商品や説明書には「パウチッ子」の記述はなし
するとなんと、正式名称は「パウチッ子」である旨の回答をいただいた(よく見たら、先のYouTubeのCMでもどでかく「パウチッ子」と出ていた)。
「子」か、「子」だったか。
検索に「パウチッ子」と入れても引っかかってくるのは「パウチッコ」や「パウチっこ」だ。これは大スクープである!
「『ぱうちっこ』の正式な表記は『パウチッ子』」
気持ちとしては本記事のタイトルは↑でもいいくらいだ。
本体にはサンプルとしてカラーのパウチフィルムがついてきていた
当時宝物すぎてこれは絶対に使うまいと思っていた
さらにこの「パウチッ子」、おそらく2008年頃までは使われていた商標だとのこと。すっかり見かけなくなって久しいと感じていたが結構最近まで現役だったようだ(商標登録は現在も継続中)。
あわせて、当時私が祖父母たちに買ってもらったL-100miniという機種が標準小売価格28,000円だったということもお教えいただいた。
28,000円! 思った以上に高い。割り勘にしても七五三や小中高の入学の区切りでもない小4の孫に与えるプレゼントの金額としては高額である。
ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん……。
カラーのフィルムのほかにパウチハガキというフィルムつきのハガキもあって、これも当然キープしてあった
ちなみに後継の現行商品(HE-110SF)の標準小売価格は11,000円。メーカーにこだわらなければもっともっと安い商品もあるようだ。10歳の頃の私に走って行って伝えたい。
いい時代が来てるよ! と
パウチッ子、しかし宝のもちぐされ
大変な価格である事実を乗り越えとんでもない情熱で我が家に迎えられたパウチッ子。だが、その後私がどんなふうに活用していたかはいまひとつ思い出せないのだった。
1989年といえば光GENJIの全盛期だ。アイドルの生写真でもラミネートしとけばはなしの収まりもよかったかもしれないがその覚えもない。
何年たっても使われることのなかったパウチはがきは切手欄に懐かしい金額が書いてあった
ラミネート加工という能力を手に入れたいだけで、ではその能力を何に使おうかというところまでは考えていなかったように思う。学生時代にやみくもに取得したふわっとした資格みたいな意味合いでのラミネーターである。
そんななか、間違いなくフル稼働で使った覚えがあるのが12歳から13歳くらいのころだ。
友人の頼みで1枚につき実費(ラミネートフィルム代)で彼女の書いたイラストをラミネート加工しまくっていたのだ。どうやら彼女はそのイラストをしおりとして売っていたらしい。
今思えば同人グッズというやつである。そういえば彼女はお礼にたびたび切手をくれた。しおりは切手を対価として通販していたのかもしれない。
おかげで消耗品のパウチフィルムは何度も買って、残りがまだまだあった
あそぼう、今こそパウチッ子で!
というわけで、パウチッ子で業者のように働いた覚えはあるのだが「遊んだ」という思い出らしい思い出は34歳のいま残っていないのだ。
ときを経て今こそ思いっきり遊んでみたい。
いまさらですが使用法。ボタンを押して3分待つとブーンという音とともに稼動がスタート、そこへフィルムに紙を挟んで差し込みますと
このようにズルーっと加工されたものが出てきます。加工されるとすごく発色がよくなるのがおもしろい
熱でパウチするのでできたてほかほか。分厚い本などにはさんでさますときれいにできるのです
ちなみに“適当な紙”として加工したこちら「ブルーベリーシロップ漬け」のクーポン。ブルベリーのシロップ漬けが買ったことなさすぎてクーポンといわれてもポカンとする。いいものを加工した
さて、ではここからなにを加工していこうか。
パウチッ子が私にとって萌えグッズであるという感情は9歳の頃から全く代わらないのと同様に、では何を加工しようかという目的があいなのもまた当時と同じである。
心にひっかかる紙を加工する
と、ちょっと気になってとっておいた紙があったのを思い出した。アイスの中蓋だ。
カロリーを低く抑えているのが売りのアイスなのだがこの中蓋の絵がちょっとおかしかったので取っておいたのだ。
もともとは健康上の理由でカロリーを抑えなければならない方向けに開発された商品だったらしく、豆腐をベースに作られている
気になるのはこちらの中ぶた
食物繊維…
モチーフに苦戦している感じにぐっときて捨てるに捨てられずとっておいた。こういうものこそラミネート加工し長期保存すべきであろう。
せっかくなので保存していたカラーのフィルムを今こそ使って加工してみた。
あら、かわいい
ラミネート加工ははさむ紙をフィルムのサイズにできるだけピッタリにしたほうがうまくいく。
上のように紙が小さいと空気が入ってしまいがちなのだ。
なので、空気が入ってしまった余白の部分を丸く切り取ってストラップ(といってもとりあえず紐)をつけてかばんにつけてみた
なんだろうこれは。
丸い形が一瞬「おなかに赤ちゃんがいます」のあの目印のように見えてよく見れば「食物繊維」である。
いい具合でわけの分からないものができたぞ。
そこいらの紙をもう少し加工してみよう。
「シベリア」の文字が金の箔押しでかっこいいこちらのラベルはどうだ
ライター小堺さんに「お札はどうでしょう?」とアイディアをいただいたがそれは犯罪っぽいので駄菓子のおまけを
今度はバッジにしてみた。シベリアの箔押しの感じがラミネートすることで引き立った
「これ持って出展したいな~」と思ってもいないうちからデザフェスにノーをつきつけられるような品物が次々できていってスカッとする。
これは子どもの遊び感出てきたぞ。どんどんいこう。
思い出をラミネートする
ラミネート加工するとぺらぺら頼りない紙が一気に保存される気満々といった風情を出してくる。
日常で発生するぺらぺらの紙といえばレシートだ。熱を加えて加工すると感熱紙は真っ黒になってしまうのだが、コピーしてからなら加工できる。
自分にしては思い切った買い物をしたときや、旅行中のレシートをラミネート加工したらうっかり良い思い出や記念になるのではないか。
この夏の思い出、秋川渓谷でのキャンプで出たレシートはどうだ
マス釣りのときの食堂のレシートは50%縮小してミニチュア感を出しつつカラーフィルムも使ってバッジに
いよいよ何がなにやらな感じになってきた
乗り物酔いしやすい子ども達に酔い止めを買ったドラッグストア、バイゴーのレシートはジャストしおりサイズ
しおりがなくてやむなくレシートを本にはさむことがあるが、これなら堂々とレシートでもしおりである。
ちなみにバイゴーという変った店名は創業者の出身地、青梅市の吉野梅郷から取っているそうです。埼玉県民としておなじみのドラッグストアではあるものの、語源は知らなかった。
ゴミを良いものに
鉛筆の削り屑を加工すべきという声もいただいた(
美しい削り屑が出ると大切に保管しているライターきだてさんより)。
ここまでラミネート加工してきたものはどれもほぼゴミだ。削り屑といったザ・ゴミこそ良いものになるかもしれない。
あ、これはなんかいいぞ
芯の屑もあえて一緒に
なんだなんだ、これはもしかしてうっかりアートでいけるのではないか。
何気なくゴミをラミネート加工してみました、というあやふやな動機は忘れ今からでも何かこのアートに意味を内包させてニューヨークへ送ろう。
寄生虫がうまれた
畳み掛けてライターべつやくさんからは、長くつながった消しゴムのカスを保存するのはどうかというアイディアもいただいた。
あのたまにできるとりわけ長い消しカスか。とっておきたいと思ったこと、ある! これもアートになっちゃう可能性あるぞ。
一生懸命長いのを作った
せっかくなのでここでもまたカラーフィルムを使ってみよう
これは…
!
なんだろうこの圧倒的な目黒寄生虫館(※)っぽさは。
「長い消しかすをラミネート加工すると寄生虫館のおみやげっぽくなる」
「『ぱうちっこ』の正式な表記は『パウチッ子』」とあわせてこの2つの情報を本記事を通し広く発信したい。
※目黒寄生虫館は世界で唯一らしい寄生虫の博物館。ある一時代はサブカルカップルのデートスポットとしてもてはやされた。
ちなみにこれ、熱で消しカスがちょっと溶けているように見えた。まねは(なかなかする人もいないと思うのですが)しないほうがよさそうですな、とひげをなぜながら終わろうと思います。
あのときパウチッ子を買ってくれた1人である祖母とぼんやりする私と妹の良い写真があったのでパウチはがきで加工した。これで祖母にお礼の言葉を送ろう
本気で墓まで持っていく
鉛筆の削り屑や消しゴムのカスといった「ああ、子どもの頃によくいたずらでパウチッ子したなあ」と思い出しそうな物を今になって加工できて感慨だ。
引越しを繰り返しながら20年弱常にしまいこんでいて使っていなかった我がパウチッ子。
今後なにかに使うかどうかは置いておくとしても、こうなったら間違いなく死ぬまで持ち続けるはずだ。あらためてよろしくな。
実は説明書をちゃんと読んだのは初めてだたかもしれない(すごくシンプルな説明書なのに!)