なぜこんなことになったのか
僕の本業は指圧師だ。大学を卒業した後、いったん普通の会社で働いていた。しかしやっぱりなんか違うなと思って、脱サラして日本指圧専門学校というところで3年間指圧を習った。
わりと高めのモチベーションでこの仕事をしている方だと思う。
ワークショップのスライドショーより
ワークショップ参加者は全員女性だった
手のぬくもりとは
僕は以前「
プレステのコントローラーで指圧できるのか 」という記事を書いた。プレステのコントローラーの突起部分って指の形に似ているし、指圧できるかも、と思ったのだ。
こんなのはただの思いつきである。本気でコントローラーが人間の指に匹敵すると思ったわけじゃない。
しかし、記事の結果は指圧師である僕にとって衝撃的であった。
このワークショップ参加者の中には僕の指圧を受けてくれてた人もチラホラいて、このスライド気まずい
マッサージの工業化だ
詳しくは記事を読んでほしいのだが、プレステのコントローラーでも、指でも、受けている方はわからないのだ。
ということは、指でやるよりもむしろ物を使った方がいい。そう考えるのはつらいのだが、そう考えるのがスジだろう。
というわけで今回のワークショップになる。コントローラーだけではなく、いろんなもので圧してみて気持ちいいものはあるか?という試みだ。
参加者の人には「なにか適当な物」を持ってきてもらった。中にはこんなので身体を圧されたくないな、というものもある。
バラエティ豊かすぎる
しかし試してみるほかにない。たぶん誰もまじめに考えたことがなかったのだ。
前半は普通のマッサージ教室
物で圧す前に、まずは普通の指圧をやってもらう。
みんな素直にアドバイス聞いてくれる
体重をかけやすい場所を見つけるとよりかんたんに
こういうときに妙に指のセンスのいい人がいて「本職の斎藤さんよりぜんぜんうまいわ~」なんてことがあったら嫌だな、と心配していたのだが、今回はそんなことなかった。
むしろ、僕がやると「プロの圧って入ってくる感が全然違う~」などといってもらえた。講師としてはホッとするし、大変テンションが上がる。みんな人生の楽しみ方を心得た人たちばかりだ。
指圧の三原則を物に応用する
練習をしながらみんなに覚えてもらったのは「指圧の三原則」というやつ。
物を使うときも、これを応用すれば、気持ちよくできるはず。それでは本題の「適当な物」で指圧をしてみたい。
みんなちゃんとできるかな…と目を配っていたのだが、意外と馴れた手つきで使いこなす。初めてっぽさがない。ふつうに家でやってたりするんじゃないか。
みんな笑いだす。「感触がおもしろい」という体験
こんなに楽しそうに人にマッサージする人、みたことない
参加者には採点表を配ってある。「指でのマッサージを70点として、それぞれの物が何点か採点してもらう」というルールにした。
参加者は6人なので600点満点だ。420点を超えると「指でマッサージするよりもいい」ということになる。
次のページでは今回持ってきたもののランキングを発表します!
■1位:ゴーヤ(475点)
上位から発表していこう。1位はぶっちぎりでゴーヤである。コメントも興味深い。
「75点。ゴツゴツした範囲が広くてすごくよかった。地肌でやりたい。自然の物なので気持ちいいのかも」(oki-mee)
「指より物の方がいいかも」と思っって始めたけれども、やっぱりそれでも自然の物が気持ちいいようだ。
「65点。柔らかく入ってゆく。こちらの力も入りずらいのでゆっくり圧せる」(えんぷれ)
柔らかい物体を使うことによって、術者の意識が変えられてしまうという事例。
「85点。横でも使える」(井島)
本当に万能だ。あまりに盛り上がっているので僕もやってもらったが、確かに気持ちがいい。
適度な柔らかさと固さ。さらに術者が力まなくなるために絶妙の圧加減になる
2位:豚の貯金箱(390点)
ゴーヤに大きく点数を離されての2位だが、意外に実用的との評価だった。
「70点。数か所同時におされるので、お得感がある」(はちどり)
「45点。背骨のところを一気におせる」(潮崎)
)
四本足で背骨の両側の筋肉を挟んで圧せるのが人気が高かった。
しかし、逆にこんな意見も。
「力が伝わる方向がとっちらかっている感じ」(えんぷれ)
たしかに、この豚の貯金箱の脚は微妙に角度が違う。背中に対して一直線に圧しちゃうと、個々の圧点に対して垂直の圧が加わらなくなる。感覚が正確ですごい。いますぐこの人指圧師を目指した方がいい。
「前足よりも後足の方がいい」という意見もあった。圧に対するこだわり出てきた!
2位:マニキュアの瓶(390点)
「75点。指と同じ感覚で圧せる」(はちどり)
「80点。普通に良い」(長野)
「70点。指よりマイルド」(潮崎)
同点の2位でマニキュア。評価は高かったが、「あまり面白みがない」
という声もあった。たしかに100均のツボ圧しグッズと形があまり変わらない。
ところで、いましれっと指圧に「面白み」という新たな概念が加わった。色々研究の余地がありそうである。
4位:なめこフィギュア(330点)
スマホで人気のゲーム「なめこ栽培キット 」のキャラのフィギュア。しかし頭の突起がなだらか過ぎて、刺激が弱かったようだ。
「65点。(頭ではなく)手足でおしていると、なめこがマッサージしているみたいでかわいい」(はちどり)
ためしに僕もなめこの手足で圧してみたけれども、小さすぎて全然使い物にならなかった。
「かわいい」というのは持ってきた人本人の感想だったので、これは親心みたいなものなんだと思う。
5位:何かの取っ手(295点)
「30点。カーブにフィットすれば、やりやすい」(えんぷれ)
「50点。取っ手だけあってさすがに持ちやすい」(はちどり)
「40点。物足りない。何かにあたっているなあ、という気はする」(oki-mee)
取っ手の周囲には、なだらかで深い突起がある。僕は見た瞬間イケそうと思ったのだけれども、軒並み低評価だった。形はそのままでもう少し大きかったら、深い圧も期待できたかもしれない。
6位:洗濯バサミ(280点)
今回一番みんなが頭を悩ませていたのが洗濯バサミ。小さいし軽いし持ちずらい。突起はあるのだが、ちょっと鋭すぎた。
「60点。洗濯バサミの良さがたくさんありそうなのに活かすのが難しい」(oki-mee)
悔しさを感じさせるコメント。僕たちが洗濯バサミに対してこんなに向き合ったことはなかったし、これからもたぶんないだろう。
背骨をはさんで圧せないか?と思ったけれどもムリでした
7位(ワースト1位):ルービックキューブ
「30点。不規則な感じが悪くないが音が気になる」(長野)
「35点。ギシギシと音が気になる。良くはない」(潮崎)
ルービックキューブ、力を入れるごとにギシギシときしむ。受ける方は見えないので変な音がしているとすごく恐い。
「難しい」(oki-mee)
それはルービックキューブを解くときの感想なんじゃないか、と思ったが、ツボ圧し器としても難しいということである。
「背中を転がしながらいつの間にか色がそろってたりしたらかっこいいよね」
なんて声も上がっていたが、それだとダブルでむずかしく、挑戦する価値はたぶんない。しかしそうしたい気持ちはわかるな、と思った。
指よりもゴーヤの方がいい
今回のワークショップは、ほとんどゴーヤの独壇場であった。指よりも点数が高かったのだ。気持ちいい、という以外にも「しかも食べておいしいし…」「栄養もすごくある…」
と全人格的に評価され、みんながゴーヤに感動した夏だった。
次の日、参加者の人から「ゴーヤはちゃんと美味しく食べました」というメールをいただいた。確かにおいしそうで、生まれ変わったら指圧師じゃなくてゴーヤでもいいかな、と思う。