特集 2013年7月23日

今やお寺は一人でチンもポンもジャランもする

一人チンポンジャランの無伴僧。その開発の背景にはお寺の今があった
一人チンポンジャランの無伴僧。その開発の背景にはお寺の今があった
チンもポンもジャランも一人でやる。お寺の葬儀の話である。

禅宗の葬儀では鐘と太鼓とシンバルのようなものの演奏がある。これには三人必要なのだが、あるお寺が一人でできるセットを開発したらしい。

[参考]ひとりでチン・ポン・ジャラン - ITmedia News スマート

なんだか大道芸の一人バンドみたいだ。だが一見ひょうきんなこのセットの背景には、変わりつつある葬儀の今があった。
2006年より参加。興味対象がユーモアにあり動画を作ったり明日のアーという舞台を作ったり。

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> 個人サイト Twitter(@ohkitashigeto) 明日のアー

愛知県江南市永正寺、禅宗である臨済宗のお寺
愛知県江南市永正寺、禅宗である臨済宗のお寺

なんなんだチンポンジャラン

愛知県江南市永正寺。着いてみると大きなお寺だった。副住職の中村建岳さんに話をきいた。

――そもそもチンポンジャランってなんですか? お葬式で演奏があるんですか?

「禅宗の葬儀はまだ経験がありませんか? これは簡単に言うと野辺送り、土葬の行列の鳴らし物なんですよね。今は火葬なので鳴らし物だけ残ってるんです。

仏教の宗派で一番多いのが曹洞宗、そしてうちの宗派である臨済宗が六番目です。この二つが禅宗で、チンポンジャランがあります。」

最大宗派でもやってるチンポンジャランは一般的なものらしい。
副住職の中村建岳さん
副住職の中村建岳さん
――そもそもチンポンジャラン、って呼ぶものなんですか?

「正式には鼓(く)はつといいますが、チンポンジャランと呼んでるお坊さんは多いと思います。鉢(チーン)、太鼓(ポン)、引磬(ジャラン)の擬音ですね。この3つを三人で鳴らします」

わざとくだけているのかと思ったらみんなチンポンジャランって呼んでいるらしい。意外だ、禅の世界。
これが無伴僧で価格は8万円。「無伴奏」というクラシック用語があるが、住職がクラシックやオペラが好きらしい。
これが無伴僧で価格は8万円。「無伴奏」というクラシック用語があるが、住職がクラシックやオペラが好きらしい。

細やかな工夫が見られる『無伴僧』

そしてついに一人チンポンジャランである『無伴僧』を見せてもらった。値段は8万円。鉄でできていてしっかりしている。ところどころバネになっていたり独特の形状だ。

――これは誰が作ったんですか?

「住職が設計して近所の鉄工所さんにオーダーしたんです。楽器屋さんがやったわけではないですね。

太鼓はバネでとまってますね。試行錯誤してここはバネがいいだろうということになったと思うんです。

この無伴僧は骨組みだけで、各お寺が持ってるものをはめこめるようになってるんです。ジャランのところもネジになっていてとめるだけです」
鉢をさして太鼓をバネでつるす。鉢や太鼓は各寺のものを使用する
鉢をさして太鼓をバネでつるす。鉢や太鼓は各寺のものを使用する
バチを置くところや組立のためのみぞなど小さな工夫がある
バチを置くところや組立のためのみぞなど小さな工夫がある

お坊さん一人でやってくれないか?

――いつ作られたものなんですか?

「作ったのは平成12年ですね。葬儀自体がかんたんになってきて、十何年前に『お坊さん一人でやってほしい』とか『二人で』とかそういう要望があったんですね。でもうちは一人でやるとなるとチンだけなんです。

最後にどんどん早くなってダダダダダってやる"打ち鳴らし"があるんですがチン一人ではできないんですね。そこをなんとかできないかと住職が考えて設計したんです」

たしかにチンチンチンチン!では狂気のお鉢ソロでしかない。ポンポンポンポン!でもやはり同じことだろう。
水谷住職。このチンとポンを一緒にできるなと思ったのが最初だったそうだ。こうしてチンとポンの一体化に成功した。
水谷住職。このチンとポンを一緒にできるなと思ったのが最初だったそうだ。こうしてチンとポンの一体化に成功した。

チンポンジャランのブルーオーシャン

水谷大定住職にも話をうかがった。

――なんで一人でできると思ったんですか?

水谷「一人でチンポンジャランを鳴らせないかと考えてたときに、タイコのバチでチンをやれば叩けると思ったんです。

チンをタイコの上にもたせてジャランは別にいて、最初は二人でやってたんですね。そのうち台を作れば全部でできるなと思ったんです」

推測であるが(……これむりをすれば一人でも叩けるな)と誰もが思ってたことなんじゃないだろうか。

いやそれとも給食の時間に(……パンとおかずと牛乳をミキサーにかけて飲んだら一応三角食べになるな)と考えるようなとっぴなことなんだろうか。

ともかく実際にやったイノベーターがここにいて、ここにある変わった器具がイノベーションなのだ。
全部太鼓のバチでできるなと考えた住職。悠久の時を経て、今チンポンジャランに合理化の波がきた
全部太鼓のバチでできるなと考えた住職。悠久の時を経て、今チンポンジャランに合理化の波がきた
これが打ち鳴らし。バンド演奏の最後にドラムめったうちにする感じにも似てる
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たたかせてもらった

筆者もたたかせてもらった。お寺のものにさわること自体おっかなびっくりだが、それにもまして打撃のいそがしさ。ポコスコポコスコあっちやこっちをたたかなければならない。

これにお経も加わるのだ。簡単そうに見えて、けっこうあたふたするものだと思われる。

あれこれ削って安くするのはどこの業界でもやってるが、どこも大変なんだろうなと、もぐらたたきのように手を動かしながら思った。
もぐらたたきのようないそがしさがある
もぐらたたきのようないそがしさがある

業界からは批判もある

――見た目におもしろいですけど、批判はないんですか?

「お坊さんの世界は保守的ですからないわけではないですね。

でも一般の檀家さんからはないです。私がFacebookに書きましたらこの辺では永正寺のチンポンジャランは有名だよと書き込んでくれたりね」

――Facebookやってるんですか!

「Facebookはわたし個人でですが。ホームページもありますしブログをやったりメルマガを送ったり。チンポンジャランはYouTubeにも上がってますね」

この無伴僧、YouTubeにあるのか。見てみたら小粋なBGMが流れていた。情報革命がチンポンジャランにも来ていた。
サックスの調べを背景に一人チンポンジャランが

葬儀改革をしている

――ほんとに色々やってますね

「今うちではお葬式の改革をしてるんですよ。その一環なんですよね。

基本的には、檀信徒さん一軒一軒が幸せにならないとお寺は存続できないと考えていまして。企業ならその一瞬だけ売上を上げればいいですが、お寺は50年100年のお付き合いですから。

だから葬儀でものすごいお金を払って生活が困窮されてしまっては困るんですよ。

お金をつかわれるなら新しい生活をはじめてもらう助けになるように、改革をしてるようなことですね。たとえばこのビールの祭壇もそうですね。」

そういって見せてもらったのは花の代わりにビールがつまれた祭壇だった。いいのかこれは。
お花がキリンの一番搾りになっている祭壇。酒である。
お花がキリンの一番搾りになっている祭壇。酒である。

ビール祭壇

――すごいですね。こういうのだれが考案するんですか?

「これも住職ですね、アイデア満載なんですよ。終わったら飲めますし、故人がビール好きだとその方を偲ばれることになりますしね。これはみなさん喜ばれますね。

これね、デザイン的には一番搾りがぴったりなんです。エビスビールだとお祝いみたいになってしまいますし。スーパードライだと銀色で真っ暗になってしまいますから。

一番搾りが一番きれいでお祝いにもならずまっ暗くにもならず、収まりがいいんです」

おおおお、どこで使おうこのノウハウ。ビールをお葬式に飾るなら一番搾りがいいらしい。
業界のタブーに切り込んで香典返しは即日金券
業界のタブーに切り込んで香典返しは即日金券

香典返しは即日金券!

「こちらも同様ですね。香典返しに商品券をその場でお返しする形です。

香典返しというのは大変なんですよ。一度リスト化して送り直すのはものすごく手間がかかります。そして物もむずかしい。お茶や砂糖は要らないなんて方も多いです。

だから今や香典はそもそもうけとらないというケースが多くなってるんですよね」
仏様がいる本堂であるが……
仏様がいる本堂であるが……
「葬儀費用って互助組織でね、結婚もそうですがみんなで助けあってやってたんですね。それを断っちゃうと全部ご当家もち、葬儀も小型化します。お坊さん呼ばなくていいとかね。

そして一軒がもらわないとなると『うちももらえないわ』となって連鎖していく。今までの形がなくなってくるんですよ。

そもそもなんでこうなったかを考えると、香典返しがめんどくさいからなんですよね。なら商品券をその場で、そういう風にやってるんですよね」

インターネット上でよく見るのは、葬儀費用って高すぎる、なんだあのアンタッチャブルな業界、そんな話であるがお寺側も考えてないわけではないようだ。
なにやら似つかわしくない機器がある
なにやら似つかわしくない機器がある

すごい本堂あります

今までの仕組みが時代に合わなくなっている。お寺もそれがわかっている。そこで形をかえてつづけていこうというのがこのお寺の考え方のようだ。

「たとえばお寺を作り替えるので一軒何十万と寄付をつのりますけど年に一回もいかない、そんなお寺が多い。

これはみなさんの施設、みなさんの組織、みなさんのものですからそれをどう活用できるか。一軒一軒の楽しさ、そういうことの積み重ねがお寺なわけですから」

その後「これを見てください」と見せてもらったプロジェクターには4Kと書いてあった。まさか。もうこんな製品あったのか。
4K? まさか画面幅のピクセル数の話ですか
4K? まさか画面幅のピクセル数の話ですか

4Kプロジェクター設置の本堂

「これがですね。ソニーの4Kプロジェクターなんですよ。少しご覧になります? まあ話の種に。ここに150インチのスクリーンがあって……」

副住職がスイッチを押すと、お寺の本堂には大きなスクリーンが降りてきた。なんと。
スイッチオンでスクリーンが出てきた
スイッチオンでスクリーンが出てきた
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本堂は5.1サラウンド

戸をしめきると、本堂は真っ暗になった。お寺の行事で昼でも真っ暗にする必要があるのだろう。

「音響も5.1サラウンドなんです。かなりの音響ですし、ハイビジョンの4倍ですからね、4Kは。ほぼ映画館並みですね。シネコンを超えるかもしれない。

ここでは地域の方が映画やワールドカップを見たりできますね」

映画『ニュー・シネマ・パラダイス』では村に娯楽を提供するため教会が映画館を運営する。ほぼあれの世界だ。

「4Kのソフトはまだ出てないんですけど、ただブルーレイでもきれいですね。ほんとに、しわも見えるくらい。お寺にいるのを忘れてしまいます。WOWOWで撮った映画見ます?」
「イスもいいものをそろえてるんですよ」そもそも本堂にイスってあったっけ?
「イスもいいものをそろえてるんですよ」そもそも本堂にイスってあったっけ?

お寺でラブシーンが

そう言って流してくれたのは映画『タイタニック』。大迫力。これが4Kか。お寺にいることを忘れる。

かと思いきやすぐにラブシーンがやってきて「これはお寺にふさわしくないので」と飛ばされる。やっぱりお寺だここは。

そういえば映画『ニュー・シネマ・パラダイス』でも神父さんがキスシーンをカットしていたのだった。まさかここで主人公の気分をあじわうことになるとは。
タイタニックのラブシーンが飛ばされる!
タイタニックのラブシーンが飛ばされる!

婚活もやっているお寺

この本堂は多目的ホールになって人形劇やコンサート、婚活パーティーまでやっているそうだ。えっ、婚活もですか?

「婚活も一回のパーティーが黒字になるかどうかじゃないんですね。企業じゃないので。

お寺は檀信徒さんに結婚してもらわないと困るんですよね。子孫累々とつづいていただかないと仏様をまもっていただけるかたがいなくなるんですよね。」

なるほどこれはごもっとも。ブライダル業界と同じくらいお寺も結婚してもらわないと困るのである。
永正寺のHPより 「良縁 寺カフェ・ネクスト</A>」 なんと婚活である
永正寺のHPより 「良縁 寺カフェ・ネクスト」 なんと婚活である

故人のための施設ではない

――ふつうのお寺より、もっとパブリックなイメージですね

「もちろん葬儀の改革もやってるんですけど、お寺のイメージを変えたいと思ってまして。

葬儀や法要だけじゃなくて、本来は宗教ですから。生きている私たちのための宗教であることも大切だろうと。

今やろうとしていることが仏前結婚式ですとかメンタルヘルスのこととか色々考えてますね」

――はあ、メンタルヘルスですか

「もともとお釈迦様がはじめた究極のメンタルヘルスの方法が仏教ともいえるんですよ」

話は脱線するが、き、聞きたい……
行事のたびに出してこどもたちがおぼえてくれるように、とソフトクリーム機を導入。バニラと抹茶がある。たしかに地蔵盆にもらえるお菓子などいまだにおぼえている。
行事のたびに出してこどもたちがおぼえてくれるように、とソフトクリーム機を導入。バニラと抹茶がある。たしかに地蔵盆にもらえるお菓子などいまだにおぼえている。

お釈迦様はうつ病だった

「2500年前のブッダ、お釈迦様がお医者さんにかかったら100%うつ病と診断されたと思いますよ。それを6年の修行で自力で克服して悟りをひらいたということなんですよね。

坐禅なんかのイメージがあると思いますが、あれも心を鍛えるメソッドなんですよ」

このあとメンタルヘルスとして見る仏教を解説していただきおもしろかったのだが割愛です、すいません!(副住職のブログさがして見てみてください)
ありがたや~(急に冷たいものたべてこのあと腹をこわした)
ありがたや~(急に冷たいものたべてこのあと腹をこわした)
取材協力

江南 永正寺

愛知県江南市高屋町中屋舗46
0587-56-2584
http://t-eishoji.com/

お寺もかわりつつある

おもしろグッズに思えた一人チンポンジャランだが、背景にはしっかりした信念があった。

婚活で結婚相手をお寺にもとめたり、4Kプロジェクターなどの娯楽をお寺でたのしんだり、やってることは最新なのに、お寺としては昔のお寺のありかたに近くなっているのもおもしろかった。

ネットで買えばいいしね、メールで回せば早いしね、と今やあれもこれもなくなりつつある。

そして数百年つづく互助組織までもくずれつつある。いやいや、今その仕組み自体をかんたんにすててしまっていいのか、ちょっとずつ変えてつづけたほうがいいんじゃないかと生まれたのが一人チンポンであり、こりゃもっといけるなと生まれたのが一人チンポンジャランである。

なんだかおもしろい器具だなと笑ってはいけない。

チンポンジャンチンポンジャン、とせわしなく動くお坊さんの手の動きを見ただろうか。あれは急速に変わりつつある現代社会をあらわしているのである。

そう思って見るとふたたびユーモラスが息を吹き返してくるのでふしぎなものである。
取材中にお菓子とお抹茶をいただきました。お寺取材のよさ!
取材中にお菓子とお抹茶をいただきました。お寺取材のよさ!
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