特集 2013年6月30日

書き出し小説大賞・第24回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表、第二十四回目である。

奇しくも本日は夕刻より、お台場カルチャーカルチャーにおいて「DPZ 第一回書き出し小説大賞授賞式」が開催される。昨年暮れから集まった1万7千通(!)を超える応募作の中から、栄えある最優秀を射止めるのはどのような作品か? 選考を務める私自身、非常に楽しみである。式の模様は後日あらためて報告したい。
それでは今回も物語の扉をこじ開ける、書き出し作家たちの秀作をご紹介しよう。

書き出し自由部門

財布を拾った私の前に、天使と悪魔と落とし主が現れた。
TOKUNAGA
落とし主早い。
プラネタリウムの偽物の夜で僕は本物の夢を見る。
トミ子
ただの昼寝を美文でまとめた。
同窓会で再会した彼女はもうすっかり東京の人で、じゃっぱ汁を飲むとみせかけ、床にぶちまけた。
Yves Saint Lauにゃん
「みせかけ」のフェイントがいい。
野良猫が背中を伸ばし大きな欠伸を一つした。そろそろ「猫洗い」が暗躍する季節だ。
夏猫
妙にこざっぱりした野良猫を見掛けたらそれは「猫洗い」の仕業。
あれがただの唐草模様ではない事に、僕はすぐにでも気付くべきだった。
天網恢々疎にして上沼恵美子
模様に含まれたサブリミナルメッセージとは?!
魂の質量は存在する。それは屁の半分だ。バイトに行きたくない。
g-udon
「バイトに行きたくなさ」が強く伝わる。
眠っている私を見下ろしている私を見上げている私がいる。
おかめちゃん
幽体離脱一人称。
野菜の形をしたマグネットは磁力が弱くなったようで、ずるずると冷蔵庫の表面を下りていった。ざまあみろ、ピーマン。
ニシカタ
こんなところにも生存競争が。
「あ、透明人間だ」と大人3人、子供5人に指をさされた。
生おにぎり
大人が3人入ってるのがいい。
アスファルトからめらめらと立ち上る凶暴な熱気が、予備校を飛び出した夏服の少女たちの細い足首を掴み、彼女らの野性を蘇らせた。夏だ。
サニーサイド3号
そんな彼女らに襲われたい。
ビルの間を疾風のように武田騎馬隊は駆け抜けて行った。それから、玉子焼きが焼けた。
れのん
「それから」の後が意外と難しい。
雨あがりのみみずを咥え、すずめはどこか誇らしそうだ。
xissa
どこか俳句的な情景。
町が赤に染まる。隣をランドセルが駆け抜ける。ドヴォルザークが鳴り響く。夕暮れ時の、匂いがする。
新品の畳
ドヴォルザークが効いている。
略しても略しても140文字を超えてしまうあだ名をつけてやりましたよ。俺が。
義ん母
略された本名の方もスゴイ。

今回は簡潔で力強い作品が多かった。常連TOKUNAGA氏のシチュエーション、トミ子氏の作品はこのまま夢を追うと豊かな物語が待っていそうだが、この時点ではただの昼寝。そういう両面のとらえ方ができるにも面白い。g-udon氏の作品、単にバイトに行きたくない心情ではなく、その心情を煎じ詰めたシュールな観念を冒頭に持って来るテクニックが秀逸。おかめちゃん氏の作品は短い文章で自意識の迷宮を描写した。れのん氏の作品、「それから」の後はなにを持って来ても成立しそうだが、実はそのさじ加減が難しい。この落差が正解だろう。新品の畳氏、ドヴォルザークを挿入することで日常が一気に劇的となった。 書き出し小説の作法はいまやずいぶん多様化しているが、基本はどれだけ削ぎ落とし、洗練させるかだと思う。そういう意味でも今回はお手本と呼ぶべき作品が集まったように思う。

続いては規定部門、今回のモチーフは「サル」であった。サルと作家の知恵比べ、その結果をご覧いただこう。

規定部門 モチーフ「サル」

初めての混浴に足を踏み入れた。サルがいた。
三食豆子
シンプルで隙のない書き出し。
列の最後尾にいた父が真っ先に襲われた。日光での話だ。
紀野珍
最後尾だけが理由ではないかもしれない。
バブルスは息子の毛繕いをしパスタを茹でトマトベースのソースで和えて食べた。その後ストレッチと水泳で汗を流し息子の毛繕いをし読みかけのトーマス・マンを手に取る。いつもと変わらないサル山の一日だ。
g-udon
ハルキスト猿。
Uターンできない細い山道に突っ込んで、サルにばらばら石を投げつけられている。
xissa
人生の暗喩にも感じられる。
サルサルゴリラサルヒトという席順。
blanca
ゴリラで黒板が見えない。
「こげん古か旅館も情緒があって良かろうが」チンパンジーの浴衣の前が大きくはだけた。
TOKUNAGA
こんなチンパンジーになりたい。
このバーボンに入っている丸氷、あきらかにさっきそこにいたチンパンジーが素手でこねくり回して作ったやつではないのか?
トニヲ
氷がサル臭い。
目を覚ましたとき僕は病院のベットにいた。助かったのか。腕についている輸血チューブの先を目で辿ると、優しい笑顔のチンパンジーの腕に繋がっていた。
トニヲ
命の恩猿。
袖カバーをしてるとゴリラになったようで強くなった気がしないかね?失恋で悲しんでいる私を不器用な部長が励ましてくれた。
トニヲ
感謝のドラミング。
東の空に見えるひときわ明るい3つの星と、それらを囲む橙色の7つの星。夜空に線を描いてみて。見えるでしょう?そう、それがゴリラ座。
おかめちゃん
いま思いついた星座。
メガネザルにめがねをかけたら死んだ。
おかめちゃん
衝撃の結末!
秒針の音がやけに大きく聞こえる。檻の向こうの猿がそれに合わせて正確に舌を打っている。
小夜子
じりじりとした閉塞感。
意外と回されるのも悪くないな。竹馬に乗りながら彼は思った。
哲ロマ
回され視点。
人ひとりしか通れない幅の険しい崖道でイヌ、サル、キジを引き連れた私は、向こうから、サル、ブタ、河童を引き連れた男が歩いてくるのが見え、どうすれば良いのか……頭を抱える。
欠伸
パロディ合わせ技で一本。
榎本教授は、被検体が木から落ちるのを30年見守っている。
(たま)
ことざわ実証実験。
森の哲人は糞を片手にひっそりと佇んでいる。
TOKUNAGA
その佇まいこそが真理。
流れるような手つきで毛束をつまみ、素早く右に左にひねる。斬新で軽やかなリズムが形となって現れる。サロンの経営は安定しているようだ。融資に問題はないだろう。おれはバナナを掲げてオーナーを呼んだ。
とりり
サルでもできるサロン経営。
酔っ払った父が、サルを拾って帰って来た。
ちかぞお
これで何匹目だろう。

サル。動物としては賢く、しかし人間に比べればバカ、そのあたりの微妙なポジションを考慮した作品に秀作が多かったように思う。三食豆子氏の作品、不自然な要素なくこの切れ味は百点の出来。欠伸氏の作品、今回は昔話のパロディが多かったが合わせ技で一歩抜き出た。(たま)氏のことわざネタも理系のシンプルさで勝利した。哲ロマ氏の作品、猿回しも猿視点で語ると妙な味わいが出る。とりり氏の作品はなぜサルがサロン経営?という理由にまったく触れない点が逆に面白かった。今回はトニヲ氏が規定部門だけで三本採用という珍快挙を達成した。とくにバーボンの氷ネタはせっかくのハードボイルド気分を一気に台無しにする破壊力を持っている。ゴリラ、チンパンジーなど種別をしぼった作品に、まんまと笑わせられた回だった。


それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
匂い
今回は五感の中でももっとも表現が難しい「匂い」をモチーフに選んでみた。直接的な語彙が少ないものの、比喩や状況、心情描写などによってさまざまな表現があるのではないだろうか。また案外ストレートな一文から秀作が生まれる予感もある。嗅覚は五感の中でもとくに記憶に直結する。そのあたりもヒントになるかもしれない。難しいモチーフだが果敢にチャレンジして欲しい。 締め切りは7月8日。発表は7月10日を予定している。下の投稿フォームで自由部門、規定部門いづれかを選択して応募いただきたい。力作、待ってます!
最終選考通過者

ぐるぐるドア/penteru/ささいな/よしおう/菅原 aka $.U.Z.Y./ぽこあぽこ/歴史の立会人/921/kj/NoeLapin/unnnunn/救援/ツチフマズ/とりり/靖丸/ウウタルレロ/
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