特集 2013年6月20日

書き出し小説大賞・第23回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


前の記事:書き出し小説大賞・第22回秀作発表

> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表、第二十三回目である。

前回告知した書き出し小説初のイベント「DPZ 第一回書き出し大賞授賞式」が、今月30日にお台場カルチャーカルチャーで開催される。審査員には私、天久聖一と林雄司氏、そしてしまおまほさんとデイリーライター大北栄人氏の参加が新たに決まった。また当日はまさかのゲストも客席から参加してくれるらしい。チケットは絶賛発売中。この文学史に残る事件に是非お立ち会い願いたい。

それでは今回も、厳選された書き出しと、その後に続くであろう豊穣な物語をお楽しみいただきたい。

書き出し自由部門

友人達と下校中、散髪したての兄とすれ違った。
TOKUNAGA
なんとも言えない感情。
見回りの足音に、せーのでプールに潜った。夜の学校は秘密の匂いがする。
夏猫
夏休みの小さな冒険。
希星(きらら)婆ちゃんが亡くなった夜、未来留(みらくる)爺ちゃんの眼にはうっすら涙がひかっていた。
TOKUNAGA
キラキラネームの行く末。
ゴルフのスコアが急激に上がっていくのと反対に、父はタロットへの興味を失っていった。
nomayonnaise
タロット続けて欲しかった…。
「熱伝導率に気をつけろ!」と叫んでいたらしいが、そのときはほとんど聞き取れなかった。
紀野珍
たしかに聞き取りにくい。
その行商人は藤色に染まった妖しいお茶を呑み終わるとワカサギ釣りから帰って来た孫を結核だと決めつけた。
義ん母
ただただ嫌な読後感。
村人からの依頼を断り続ける、勇者の心情を知っていますか。
右フックおじさん
断る方が辛い。
立てば空爆、座れば母艦、歩く姿はゆりかもめ。そう称される彼女が、立ち上がった。
不璽王
周辺に避難警報が。
朝日が登る。ナイフで壁に5本目の線を引いた。姉の焼いたクロワッサンは、まだ無くならない。
蒼牙
後半の意外性が謎を深める。
扇風機が首を振るたび、ざるそばの海苔が飛んでゆく。
xissa
箸袋も飛ぶ。
晴明は延々と続く朱色の鳥居をくぐり抜けた所で、蟻に襲われた。
g-udon
安倍晴明奇譚。
暑いだけで仕事した気になりますね。
トミ子
なにもしなかった後のビールが美味い。

常連TOKUNAGA氏と夏猫氏の作品はさすがの出来。紀野珍氏の作品、「熱伝導率」が伝わりづらいという皮肉。義ん母氏の作品、いつものシュールさに加え今回はなんとも味わいの悪い読後感。しかしここまで念入りだと逆に妙な味わいがでる。 右フックおじさん氏の作品は語りかけスタイルが効いている。蒼牙氏の作品、意外性のある後半をつくることで、読者に前半との関わりを妄想させる。大胆かつ繊細なセンス。xissa氏は毎回短い作品に切れ味がある。g-udon氏の作品、主人公は陰陽道で有名は安倍晴明であろう。雰囲気が出ている。トミ子氏の作品、たしかに…なる。今回もバランスよくさまざまなジャンルの秀作が集まった。

それでは今回の規定部門、モチーフは「アイドル」であった。巷のアイドルブームとは一線を画す、独特のアイドル観、アイドル像をご覧いただこう。

規定部門 モチーフ「アイドル」

あの娘が一日署長になるという記事は、僕に自首を決意させた。
TOKUNAGA
時効前日に。
ファンの持って来た石を、彼女はパンに変えた。まさに神対応。
ファームかずと
水はワインに。
永年の功績を認められ文化勲章を頂く事となったのを期に、グループからの卒業を決意した。
伊東和彦
秋元先生の墓前に報告。
アイドルが覆い被さって来る夢で目が覚めた。天井が崩れていた。
よしおう
アイドルの下敷きに。
倒産寸前で、もう何も売るものが無い我が社。今日の株主総会で、取締役五人をアイドルグループとして売り出す事が決まった。
イワモト
匙投げた感がすごい。
彼女は微笑む、ファンはすべて彼女の手の平の上だ。握りつぶせば、大量殺人だ。
極楽天山
握りつぶした手を洗う。
男たちの知らない彼女の痣をピクセル単位で消しながら、心の中でざまあみろと呟いている。
とめ
グラビア裏話。
トップアイドルになった夢を始発待ちのホームで見ていた。
小夜子
回送電車で引退の夢を。
アリの巣からやってきたという設定は無理があると、前から思っていた。
かりを
働き者キャラにも疲れた。
「おじさま」の今日の美声を引き当てた私は溌剌と挙手をした。コールセンターは羨望と嫉妬のチラ見で満たされた。
suzukishika
どんな職場にもアイドルはいる。
小さい頃、夜明け前にお兄ちゃんと裏山にカブト虫を採りに行ったら、大きな木の下で軍服を着たお爺ちゃんが首を吊って死んでたんですよ。というスタジオトークは、オンエアでは全てカットになってました。
菅原 aka $.U.Z.Y.
小堺さんの反応も露骨に薄かった。
いきなり売れ過ぎたので、水泳大会のワイプで歌うという彼女の夢は潰えた。
g-udon
世代が分かるあるある書き出し。
泥に落ちないように、回転する丸太の上でキャーキャー言っているアイドルもいれば、泥の中でじっとそいつが落ちてくるのを待っているアイドルもいる。
井上だいすけ
目は退化しアゴが発達。
解散後、二人それぞれは別の道を歩んだ。彼女は女優、私は亀の散歩師に。
おかめちゃん
断然、散歩師の方が気になる。
アイドル先進国と持て囃されて幾年月。国民のすべてがアイドルを自称するようになったこの国で今最もホットな話題は佐藤三郎(53歳)さんの一般人っぷりだった。
scalar
誰もが振り向く平凡ぶり。
「オーディションに勝手に応募する友達」というのが、彼女にとっての「僕のポジション」らしい。
はるかな
今日も大量の応募用紙を押しつけられた。
輝くステージに立つ彼女を迎えるのは無数の光で彩られた客席だった。その輝きはサイリウムなどではなく、飢えた獣の眼光なのだが。
まが
ガルルル…
コンサートの定番となっている、ステージ上からファンにあたりめを投げる「餌やり」が始まり、最前列の酔客を中心に今日一番の盛り上がりをみせた。
鴻惠瑞
口でキャッチしたい!
パプアニューギニア公演は、あわや村の守り神として拘束されそうになるほどの大成功を収めた。
パンナム航空
まさに偶像崇拝。

まずは予想通りキワモノ系アイドルに笑える作品が集まった。イワモト氏の取締役ユニット、かりを氏のアリの巣設定、菅原 aka $.U.Z.Y.氏の空気読めないぶり、井上だいすけ氏のアイドルは、もはや全然アイドルではない。
scalar氏の作品はアイドルのお題を逆手にとって鮮やかな一本を取った。伊東和彦氏の作品も刹那的なアイドル界という常識を逆手にとり、趣深い笑いを取った。
suzukishika氏の作品にはアイドルの原点を感じる。手掛かりが声だけというコールセンター設定も効いている。極楽天山氏、とめ氏のシニカルな視点、はるかな氏の離れた目線もいい。鴻惠瑞氏の作品は個人的に体験してみたい。
昔に比べいまのアイドルは驚くほど多様で、また敷居も低い。それゆえ今後も、さまざまは物語が生まれることだろう。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
サル
人類にもっとも近い動物、サルが今回のモチーフである。サルの種類はなんでもよい、一般的なニホンザルから、チンパンジー、ゴリラ、オラウータンといった類人猿、もっと珍しい種類のサルを取り上げてもよい。さまざまな設定と視点、比喩を使ってサルを織り込んでもらいたい。人類の親戚サルをモチーフとすることで、逆に人間的な作品が生まれるかもしれない。が、むろんそんなテーマなどなくて構わない。いつも通り自由な発想で取り組んでいただきたい。

締め切りは6月28日正午、発表は6月30日を予定している。自由部門、規定部門を選択し、以下の投稿フォームで応募されたし!力作待ってます!
最終選考通過者

ちゃけろう/あーもと/旅人3号/ウチボリ/ほりあき/概念覆す/宇佐美/ミャー美/おめが/ぐぬぬぬぬ/トニヲ/市橋カイジ/大倉野のりゆき/Panjandrum@ミ/おどげっつぁん/yumi(仮)/狸寝入り/哲ロマ/靖丸/本介さん/ブサイクにモザイク/
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