だれもが「あー、あれねー」となる壁新聞
定価が2600円だったにもかかわらず、超格安の一冊100円で売られていたこの本。別冊を含めて全6巻あるらしいが、残念ながら第1巻だけなかった。
ブックオフで各100円でした
内容は「少年写真ニュース」「給食ニュース」「保健ニュース」をそのまま収録したものだ。
心の底から蘇ってくる記憶
当時、失礼ながらあまり熱心に読んだというような覚えはないけれど、見てみると記憶の底から蘇ってくるような「あー、たしかにこれ見たことあるわー」という記事ばかりなのだ。
筋肉の絵がリアルでこわかった
ぼくがいちばん覚えていたのはこの「そうじできたえられる筋肉」という記事だ。
リアルな筋肉のイラストが描かれているのが不気味で、当時小学生だったぼくを震撼させた壁新聞だ。
キーワードは「未来」
少年写真ニュースの記事は、全体的に宇宙開発や新交通技術といった「すてきな未来」を思わせるような記事が多い。
宇宙基地のようだけど、21世紀の学校です。メタボリズムっぽい
超電導で動く船、国産スペースシャトル……まだ実用化はされてない
リニアモーターカー。やっと現実味を帯びてきたとはいえ、まだ先のはなしだ
スペースコロニー」って最近めっきりきかなくなりました……宇宙団地かぁ
アメリカとソ連が共同で宇宙開発というだけで「あのソ連とアメリカが!」と、当時は思った。今で言うと「Appleとgoogleが合併」ぐらいの衝撃はあるのでは?
2050年を予定している月面都市計画。あと37年。
21世紀が12年も経過したいま。いろんなことがあって「未来」という言葉はあまり魅力的ではなくなってしまったような気がする。
しかし、たった30年ほど前まではこんなに「未来」が魅力的でわくわくするような時代があった。
ちょとこわい写真も印象に残っている
最初にぼくが「印象に残っている」といった筋肉の写真のように、やたらと印象に残るちょっとこわい写真もけっこうあった。とくに保健室に貼ってあった「保健ニュース」にこわいものが多かったような気がする。
真っ黒な肺に震え上がる(モザイクの部分が汚れた肺の画像です)
シラミの恐怖に震え上がる(モザイクの部分がシラミの写真です)
覚醒剤でおかしくなったマウス、当時はこわかったけど、今見るとEXILEみたいでおもしろい(モザイクの部分がおかしくなったマウスです)
たしかに、小学生ぐらいの子供には「たばこの煙の害」を言葉で説明するよりも、汚れた肺を見せたほうが一発で「あ、ダメだな」ということが納得できてしまう。
見た目の恐ろしさで子供を教化するのは、なまはげの昔から変わらない。
ところで、この壁新聞いったい何なのか?
「少年写真ニュース」や「保健ニュース」「給食ニュース」といった壁新聞、どこの学校にもたいてい貼ってある。
息子の通う小学校にももちろん掲示してあった
これらの新聞を発行する少年写真新聞社とは、どのような会社なのか?
壁には「小学図書館ニュース」が貼ってあった
気になったので、市ヶ谷の少年写真新聞社へ伺って話を聞いてみることにした。
あわよくば、ぼくの持っていない「写真ニュース年鑑」の第1巻も見せてもらえるかもしれない。
「子供の夢を育む話題」が編集方針
対応していただいた編集部の野本さんは、いきなり目の前に「写真ニュース年鑑」の第1巻を差し出して見せてくれた。早くも目的達成である。
壁新聞だけでなく、子供向けの書籍も制作している
ーー「写真ニュース年鑑」をぐうぜん古本屋で見つけて買ったんですが、内容がなつかしくておもしろくて、おどろきました。この1巻だけ手に入らなかったんです。
「この本はもともと1997年に、創業45年記念に、まとめてみようということでまとめたものがそれなんですが、1巻は主に学校に配って書店には出さなかったんじゃないかな、ちなみに今年で創業60年になります」
ーー「少年写真ニュース」以外にどんなものがあるんですか。
「現在15種類ありますね『給食ニュース』『保健ニュース』の他にも『図書館教育ニュース』や『子ども防犯ニュース』というものもあります」
防犯ニュースはあまり見た記憶がない
ーー少年写真ニュースは宇宙開発とか、未来の科学技術といった内容のものが多いですね
「そうです、子供の夢を育んで行こうというのが編集方針で、それは今も変わってないですよ」
ーー逆に、変わったというところはありますか?
「基本的にはあまり変わってないんですが……例えば、薬物の危険性を啓発するためのものだと、昔はシンナーやたばこを取り上げることが多かったんですが、最近は脱法ハーブや脱法ドラッグなどを取り上げることがありますね」
脱法ハーブなんて言葉、昔は無かった
ーーこの「少年写真ニュース」はどれぐらいのペースで発行されてるんですか。
「旬刊です。ひと月に3回、10日に1回のペースです」
ーーけっこう高頻度ですね、個人的に定期購読することは可能ですか?
「残念ながら基本的に個人では購読できません。ちなみに……定価は年間16200円です」
もし、A3サイズぐらいの大きさのものが年3600円ぐらいで毎月3枚づつ送られてくるならば、個人的に購読したい気もする。子供のいる家庭では1年間まとめれば、時事問題のちょうどいい教材になるのではないか?
速報性よりも写真のインパクト
ーーしかし、昔の紙面をみてるとおもしろい写真が多いですね。たとえば工場の写真などはまだ「工場萌え」なんて言葉が無かった頃からこんなに積極的に取り上げてますね。
「当時は高度成長期ということもあったんですが、やはり写真がいいと記事になりますね」
モノクロ写真だけどかっこいい
「京葉工業地帯」を特集するという了見が素晴らしい
ーーやはり、写真重視なんですね
「そうですね、逆に言えば、子供の目を引く面白い写真があればニュースになります。いくら面白いニュースでも、いい写真がないとボツにすることもあります」
ーー厳しいですね
「いちど、遺跡の取材に行って写真を撮って帰ってきて見返すと、茶色い土ばっかり写ってて、さすがにこれはダメだとボツにしたことありますし、失敗したら切り替えを早くしないと、時間がもったいないですからね」
ーー確かに遺跡などは取り上げるタイミングが難しいですね
「遺跡のネタは、発掘がすすんで出土したものの復元が終わったとか、三内丸山遺跡みたいに当時の建物を再建した時のほうがニュースにしやすいですね」
遺跡ネタは出土品が面白い形であればニュースになる。大深山遺跡の人面香炉形土器は「風の谷のナウシカ」でなんかこんなのをみた記憶が……
文章は200文字で
ーー写真の内容をこれだけの文字数でまとめるの大変そうですね
「文章は200文字前後と決まってます。」
ーー200文字ですか!
「ですから、起承転結でいうと起承結ぐらいでおさめるように書いてます、転の重要な部分は写真で説明する感じですね」
ーー今まで反響の大きかった記事などはありますか?
「学校向けで反響がつかみづらいのですが……昔、映画のゴジラをとりあげたニュースは、反響が大きかったときいています。意外な“反響”では「スーパーで売ってる魚を解剖してみよう」というものに、「かわいそう」という意見が来たことがありました」
ーー調理するときに内臓かきだしたりしますけど
「たしかにそうなんですが、写真がちょっとリアルだったんでしょうねえ」
ーーただ、たしかに子供心にちょっとドキッとする写真もたまにありました
「意図的にというわけでもないんですが、危険性などを正確に伝えようとすると、やはりああいう写真を使わざるを得ないこともありますね」
面白いインパクトのある写真に、200文字ほどの説明をそえて全国に配布する。やってることはTwitterに近いものがあると思う。
ひとつだけ違うのは「RT」や「いいね!」みたいに反響がダイレクトに伝わらないということだろうか。
昭和の雰囲気が伝わってくる
ここで改めて昔の写真ニュース年鑑を振り返ってみたい。
本四連絡橋がまだ研究段階だったころの記事
瀬戸大橋のルート案が3つあるのが興味深い
青函トンネル工事中の記事。「59年に完成予定」と元号表記なのがいい。残念ながら青函トンネルが完成したのは63年だった
東京湾横断道路計画。今でいうところのアクアラインってやつだ。
(計画中)のカッコ書きに虚しさが……
本四連絡橋、青函トンネル、アクアライン。いずれも巨大な橋やトンネルの計画だけれど、アクアラインの記事をよく読んでみると、横須賀と富津を橋でつなぐ予定だった東京湾口
道路のこともかいてあった。
東京湾口横断道路は現在、計画は棚上げされたまま凍結状態である。
いろいろな事情で予定が変わったことを考えると、なんだかちょっと切ない気分になってくる。
乗り物だいすき
子供の好きなものとしてまっさきに思い浮かぶものは乗り物だろう。特に男の子はなぜか乗り物が好きだ。少年写真ニュースにも、とにかく乗り物の記事が多い。
21世紀の自動車は「形も流線型になり」「自動車は人間にかわって、機械が運転することになるでしょう」だそうだ
残念ながら21世紀になってまもなく、コンコルドは全機引退してしまった
「みんなに人気がある」というブルートレイン。これも21世紀の現在、風前の灯。逆に囲みで「電化で姿を消した」と書かれている蒸気機関車の方が、日本各地に残っているのが皮肉だ
翼が輪っかってどういうこと?
翼が輪っかになってる飛行機はいま見てもショッキングな形だ。ダイソンの扇風機みたいなしくみなのだろうか?(たぶん違う)
この形のヘンテコさといったらない。もう、この写真だけで勝ったも同然のような気がする。
いまだに実現されてない計画も
壮大すぎたり、素っ頓狂だったりして、いまだに実現されてない計画の記事もけっこうある。
海中を走る列車は豊後水道を横断する予定だったようです
高さ2100メートルのシャトル発射台を南太平洋に建設する計画
海中に電車を走らせたり、高さ2100メートルのシャトル発射台を作ったりとか、実に景気がいい。
世界一のっぽのビル、ブルジュ・ハリファの高さが約830メートルらしいので、実現するにはまだまだ先の話のような気もする。
それ、いま実用化されてる
先ほどは、実用化されなかった研究を取り上げたが、逆に、それ今実用化されてるよ! というものもある。
浮上式のリニアモーターカーのHSST。愛知県にあるリニモで実用化されている
針がなくても音がでる! 魔法のようだ
「針のいらないレコード」とは、おそらくCDのことだ。これが1977年の記事で、最初にCDが発売されたのは1982年。しくみが発明されて実用化まで5年かかっていることがわかる。
いまや音楽はデータ配信が主流になってしまって、針だけではなく円盤さえなくなってしまった。
「実用化」とはちょっと違うかもしれないけれど、昭和61年、1986年の記事でこんなものが登場している。
まさか将来「レアメタル」というキーワードがこんなに重要になるとは
「レアメタル」だ。この記事から25年後、まさか各国がこの資源をめぐって熾烈な獲得競争をしているとは誰が予想しただろうか?
着実な進歩が見られるものも
「少年写真ニュース」が定期的に取り上げるもので、着実な進歩が見られるものもある。ロボットの技術がそれだ。
ロボットというより、おもちゃをそのままでかくしただけのような「巨人ロボット」
衝撃の機能「頭をぐるぐるまわしてごあいさつ」
1965年に誕生したロボット「五郎君」は人と同じ速さで歩いたり、おじぎや握手、ウィンクなどの機能を備えている。
衝撃なのが「頭をぐるぐるまわしてごあいさつ」の部分。エクソシストだ。
ほかのロボットとの間隔を自動で調整したり楽譜を見てピアノを弾くロボットロボットが登場
それから20年、ロボットはここまで進化した。
1985年のつくば博で、自ら歌ったり踊ったりするロボットが登場する。自らの頭部を高速回転させてあいさつするような奇をてらったロボットはここには居ない。
この後、二足歩行するロボットが登場するけれど、それはつくば博から約20年後、平成時代まで待たなければならない。
珍獣もけっこうすき
乗り物や宇宙開発の記事ばかりではなく、動物の話題もけっこう掲載されている。
なぜかフォントがホラー
名称にそこはかとない違和感が。オオパンダ?
パンダの記事は、カンカンとランランが来日した1972年の記事だ。表記がジャイアントパンダではなく、オオパンダとなっていて、なぜそうなのかがわからない。当時はオオパンダという呼び方も一般的にあったのだろうか?
「未来」っていい
今やすっかり「未来」を想像することが少なくなってしまったような気がする。しかし、こうやって過去に考えられた「未来」をみていると、たしかに叶わなかった未来もいくつかあるけれど、着実に一歩づつ前へすすんできたんだということがわかる。
ひとは「未来」を想像しないと前へすすめないものなのだ。
今後は「つくばみらい市」の名前がダサいとかいってバカにするのはやめようと思います。
先日、最高齢でのエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎氏が若いころエベレストをスキーで滑降したというニュースもあった